第48話 Fractured Worlds

 大罪人呼ばわりという恐ろしくもやっとする事があったが、深く考えても現段階では詮無き話なので、一旦ホームワールドへ帰って休息する事にした。


 て、言うか学校に行かないと!!!


 帰ってママにハグハグされ、小町ちゃんの手作り晩御飯タイムで癒やされ、ママと小町ちゃんと小花ちゃんに土産話をした。



 話の流れで大罪人扱いされた話もしたが、私が世界を滅ぼすって話は幸いにも、皆全く信じなかった。

 寧ろ、あの人がその情報を別の次元から持ってきたという事は、もうその事実に辿り着かない事もある訳だし気をつけて行く。


「それは…もう世界の分岐が始まってるだろうな」

「あれ?パパおかえり!」

『おかえりなさーい』

「全員でハモると照れるからっ!」


 席に座ると、小町ちゃんが素早くコーヒーを出して御飯を食べるか聞いている。


「世界の分岐…バタフライ・エフェクト…」

「終末の結果が一つあるとして、その女性は終末を回避する為に、どうやったかは知らないが月花の今の世界に月花を討ちに来た…だが、その事実自体が新たな可能性を運んで来てくれた。その事実を追求するだけで回避の可能性も充分生み出される。あとは不安定要素だが、観測者効果も味方してくれるかも」


「観測者効果?」


「量子力学でシュレーディンガーの猫とか二重スリット実験とか分かるかな?簡単なところだとドップラー効果にも観測者が登場する例だね。観測者が観測する事によって、結果が変わってしまう現象…俺も見てみないと分からないけど、この世界に対する観測者が存在していれば全く違う事実に向く」

「ににっ」

 コロちゃんがパパの頭に乗る!


「パパ、量子力学は流石にムズい…でも何となく全体像は理解は出来た…神懸り過ぎて何も出来ないけど」


「全てはカオス理論の渦中だが、大事な事は識る事だ。識る事で可能性は生まれる」





 御飯を食べた後、事情をほんのり察したのかパパが表に出て行ったので、そっと後を追った。


「パパ…」

「式部、その様子なら見に行ったんだな?どうだった?」


「六年後、私達が二十歳の時に…その女性が言った様に、月花がファンタジー世界を一刀両断し崩壊した。それ以前に天変地異で全てがボロボロだった…」


 詳細をパパに話すと、少し考えこんでいた。


「月花が何かを話していたが、雷や風の為聞こえなかった…式部は振り向かず、世界の終焉を止める様子もなかった」


「うん…」

「んー…そこで式部は帰った。だが、その後二人はどうなった?」


「その後…?気分が悪くなって意識を反らしてたにゃ…普通なら数字の星海に漂うのかな?」


「恐らくはそうなる…だが、そこまで確認していないなら、何か続きがあるのかも知れない」


「あの終焉の先……!」


「そうだ、全てはまだ終わっていないのかも知れない。式部、月花を頼む」

「何で式部を呼び捨てしてるのかなー?」


「うぉぉ月花吃驚びっくりした!いや、月花を呼び捨てしてる癖で式部ちゃんもたまに呼び捨てしちゃうんだよ!」


「式部は私のだから口説かない様にね?」

「口説かない口説かない!!」

「月花は月花パパに対する認識を一度改めた方がいいにゃ♪」


「あ!パパ!凄いレアスキルあるんだけど試しに避けてみてくれない?」

「愛娘の顔に激しい悪意が感じられるんだが、危なくないだろうな?」

「大丈夫!大丈夫!ルクレツィアさーん!」


 ルクレツィアを呼んだら全員外に出て来たので早速やってもらう!


南瓜造りの角灯ジャック・オー・ランタン!」

 パパが身構えると、ジャック・オー・ランタンさんが煙の中から登場する!

 ランタンさんが颯爽とパパに歩いて近づき、目の前で突然倒れて動かなくなる。


 ………


「えーと、大丈夫なのかこの人?」

 屈んだ瞬間、ランランさんが頭を勢い良く起こし、後頭部でパパの顔面を痛打する!

「いっっった!!!カボチャっった!!」


 消えるジャック・オー・ランタン、勝ち誇るルクレツィア、指差して笑う我々!


「いっててて…何、今のスキル…芸人さんを召喚してるの?」

「分からないけど、毎回攻撃が違うみたい!」

「世の中変なスキルがあるんだなぁ…」

「パパが攻撃をまともに貰ったの久々に見た!」

 ママが一番吃驚していた!




 翌朝、のんびりと学生生活を満喫しに行くべく、式部と小花ちゃんと待ち合わせて中学校へ向かう。


「小花ちゃん最近はラブレターの数はどう?」

「ピッタリ止まったわよ?」


「え!なんで!?」

「……式部、最近うちの学校の不良四天王を説教したのかしら?それが覿面てきめんに効いていて『式部さんの舎弟』を名乗って、私を姉さんと慕ってくれているわ」

「式部があざとさを見せると絶っっっ対何かあるよね?」

「おっかしーにゃー…そんなつもりは…」


「変な虫がつかない様にって帰りは家付近まで送ってくれるし…悪い気はしないけど、人が近寄って来なくなったわ」

「おおう…なんかごめんにゃ…」


「いいのよ、それはそれで状況を楽しんでるし、悪い子達じゃないから」


「悪い事したら?」


「先日SAW2を見てたら新しいスキルを手に入れたの…後は察してくれるわよね…?」

っわ!!!』




っわ!!!』

「あんたら、人の顔見た瞬間にハモる言葉ちゃうで?」


「いやー登校して来たら庵ちゃん先生をいじらないと一日が始まらない気がしてー!」

「おどれは一回、髪の毛薄くなるまで旋毛つむじまり回したるから、職員室出といでっ!」

 旋毛つむじが薄くなるのは避けたいので素直に謝った!

 懲りずにまたやるけどねっ!




 授業だ。


 ママに授業中パンや御菓子を食べるのは駄目って怒られたので、食べてないけど式部は上手く寝ている!


「そこの飴玉舐めてる鹿鳴ろくめい、次の英文読んでみ?」


「Love like a shadow flies when substance love pursues;ガリッ Pursuing that that flies, and flying what pursues…ガリッ」


「今、飴玉二回噛んだやろ?!少し長文やったけど今の処の訳は『恋は真に影法師、いくら追っても逃げて行く、こちらが逃げれば追い、こちらが追えば逃げて行く』という…恋を己の影に例え、恋愛の駆け引きを表現してるんや…先生的には自分の魅力で相手を魅了する位に己を磨きや?って皆に言いたいわ。もし恋愛で分からん事がある女子がおったら、の先生がこっそり相談に乗ったるからな!」


『えっ!?』


鹿鳴ろくめい駒鳥鵙こまどりは放課後職員室に来ーやっ!」

 えっ、て言っただけなのに…




 放課後、庵ちゃんにめっちゃ小声で怒られて職員室を後にする。


「そんなに恋愛経験少ないのバレたくないのかなぁ…」

「まぁ、庵ちゃんは巫覡ふげきの仕事で忙しい青春だったからにゃ…教員試験に合格しただけでも凄いと思うにゃ♪」



 下駄箱に差し掛かった時、どこかで見た四人組が並んでいた。


「式部さん!お疲れ様です!」

『お疲れ様ですっ!』


「えっ、皆…もぉー待ってないで早く帰らなきゃ駄目だよ?」


「え、いや…でもいつ何時他所なんどきよその学校の奴らが荒らしに来るとも限らないのでお帰りになるまでは…」


「いいからー!君達がちゃんと見張っててくれるなら…私も安心なんだよ?お姉ちゃんも心強いって言ってたし…だから、自分の時間も大切にしてね?♡」


『は…はいっ!式部さん!』

 梃子てこでも動かない四人組に見送られながら学校を後にする…



「じーっ…」

「月花ちゃん、なあに?♪」


「そういうあざとさは何処で学ぶの?」

「今読んでるちょっとエロめの漫画だにゃ♪」

「ちょ!今度貸してよー!!////」

「六花ちゃんに見つからない様にね♪」

「ママに見つかったら絶対隠される…」




 帰り道、夕暮れと古都の情景が眼前に照らし出される。


 この美しい世界を、人の営みを、街の中でも根強く生きる動物たちを美しいと思う心を、いつか喪失し全てを斬り滅ぼしてしまうのだろうか?


 何も失いたくない。


 このまま皆の幸福がずっと続けばいいのに…



「月花?」

 式部が手を握ってきた。


「余計な事を考えなーいっ♪」


「…エロめの漫画、いつ貸してくれるかなーって考えてただけだよ」


「漫画でそんな険しい顔にならないにゃ♪」


 式部がいるだけで、気持ちに余裕が出来る…私は人に恵まれていて幸せだ…




「おかえりー月花!」

「月花おかえりー!」


 ママは天井に通したトレーニング用の鉄パイプで逆さになっている。

 ルクレツィアは弓の手入れをしていた。

「ルクレツィア、弦の部分で手を切らないようにね?」

「うんうん、大丈夫!この弦をもっと有効活用出来ないかなって考えていたのー」


「もう冒険者というより仕事人だよね」

「主水さんかっこいいよねー!ギャップがいいのよ!」

「分かるー!仕事を終えて家に帰って、嫁姑に頭上がらないのが可愛いよねー!まぁ、私はーパパが一番なんだけどー!♡」


「六花ちゃん、もう一万回位聞いたよ」

「じゃ、二万回目指そーかぁ♡」

「月花、六花ちゃんは私じゃ無くてもこんな感じ?」

「うんうん、それでデフォルトの生き物だよ?」

「愛娘に生き物枠にカテゴライズされた!」


「あれ?パパは?また旅立った?」

「渡り鳥みたいに言わなーい!実家に買い出しを届けに行ってるよ?」


「パパはマメだなぁ…」

「そりゃ、小学生の時から結婚するまでほぼ毎日ずっと美人巫女さんの私に逢いに来てくれたしねー♡」


「それはあれだ、ママが先に老けるって話に繋が…」

「らなーい!ママ美人のままでしょー!?」


「そういえば、加齢の兆候もないよね?何でだろう?」

「パパやお姉ちゃん、美姫さんもそうだし、多分神様の神殿に招かれたメンバーは何かしらの影響で老化が止まってるのかも?」

「お得スポットだねー神殿って」

「位置情報で遊ぶスマホアプリのポータルやスポットみたいに言わなーい」




 そんな有り触れた日常を送り、数日が経った頃ある日≪社≫やしろから緊急依頼の通達が来た。


 ≪社≫の提携企業である某アメリカの大手会社からの依頼。

 この時点で嫌な胸騒ぎを覚えたのだが、的中してしまった。



 その会社に所属する冒険者・仲間グレースが、依頼でアナザーバースにダイヴして消息を絶ったというのだ。

 正直血の気が引いた。


 彼女は決して弱くない。

 我々と違って彼女はソロであの世界を渡り歩いているのだ。

 そのグレースがそんな状態に陥るのは余程の事に違いない。


 不測の事態に陥ったか…いや、悪い推測の幅を広げるのはよそう。

 秘密基地で待っていると、メールを受け取った式部と、それにルクレツィアが付いてきた。


「ルクレツィア、私達の友達が行方不明なの。正直危険度がどの位あるのか、見当が付かない…それでも来る?今回は待っているのをオススメするよ」


「言われると悩んじゃうけど、弓で後方にいるからこそ分かる事もあるかもしれない。大丈夫、今回は前に出ないし足手まといにならないから!」


「分かった、気を付けてね?」


「私には確信があるの」


「ん?何の?」


「先日の話…謎の女に酷い事言われたアレ。あれが本当なら、月花が終わらせるまでは世界も月花も大丈夫って事でしょ?きっと上手くいく!」


「おおお、確かに!!ルクレツィア天っっっ才!!!」


「時間の概念て面白いわね、見える事が沢山ある!じゃ、行こうか!」




 場所はファンタジー世界の…まだ私達が行ったことがない場所。


 以前にミドリゲネツソウという名の長ネギを貰いに行ったガルワルディアという都市の近くだ。



 三人が紐付いてるのがアクラドシアまでだったので、そこにダイヴ・インしてからガルワルディアまで飛行結晶で飛ぶ。

 …しまった!早くアクラドシアの魔獣の子達に名前を付けてあげなきゃ!



 一旦ガルワルディアで宿を取り周辺の調査をする。


 アメリカのグレースの所属企業の情報によると、この周辺で行方不明者が多発しているらしく、依頼を受けてグレースが派遣されたらしいが…手掛かりがまだない…


 いや、手掛かりを掴んだからこそグレースは消えたんだろうが…


「式部、ルクレツィア、まず情報を集めよう。情報屋があればそこでもいいし、ここ暫くの行方不明者の話と、どこへ向かって消えたかが知りたい」


「わかったにゃ♪」

「了解しました!」


 ルクレツィア、接客言葉が馴染んできたね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る