第47話 New deadly skill

 謎の事件から一夜が明けた。



 朝御飯にあったかほっとたこ串を三人で食べて、一旦仮眠を取る事にした。

 コロちゃんは最近アクラサーモンの塩焼きがお気に入りだ。


 始まりの街で四人部屋の宿を取り、私はシャワーも浴びず横になる。

 式部は横に座ると頭を撫でてくれた。


「…ごめん、結構ショック…」

「あんな事言われたら誰だってショックだにゃ…」


「ごめん、ちょっと聞いていい?」

「ルクレツィア、何か気づいた事あるにゃ?」

           

「……私が寝た後、やらしいプレイをする感じ?」

『するか―――!!!/////』

 顔真っ赤で叫んじゃう私と式部!!!

「良かったービデオカメラ持って来てなくて危ないとこだった…」

「待て待て、危ないのは寧ろこちら側だからなっ!あとプレイゆーな、何処で覚えてきた!?」


「まずは仮眠して、今日はあのヴァンパイアをどうにかしよ?♪」

「退治してしまうか、無力化して牧場主さんに引き渡すか…」


「スキルショップに前に見たスキルが残ってないか、寝る前に見て来る。それがあれば多少戦闘も有利かも知れない」



 一寝入りする前にスキルショップへ行き、記憶の片隅に残ってたスキルを購入し、やっと睡眠を摂る。


 初対面の人に、世界を滅ぼす者みたいに言われて凹んだ…

 この世界はいい人が多いし、大好きだ。

 モンスターも多いし、争いも多いけど嫌いになる要素がない。

 寧ろ自分の世界も、おときちゃんの居た和の世界も、氷に閉ざされた世界も、皆こよなく愛している。


 もし、未来の話だとしたら…この先自分が何かをきっかけに変わってしまう可能性があるのか?

 少なくともあの女性が私に向けた憎悪は嘘偽りの無い真剣で激しい憎悪だった。

 …とりとめのない思考になってきた…寝よう。





 ……月花が寝息を立て始めた。

 ルクレツィアもコロちゃんも寝ているので、あたかも寝ぼけてトイレへ行く振りをして外に出る。

 服は疲れて着替えるのも辛い風に、着替えず寝てたから問題ない。



 下に降りて、飛行結晶で物陰から飛び上がる!

 少し上空まで上がり、街と距離を離してから時間跳躍の結晶を出す。

 初めて使うので少し緊張していると…

「ににっ」


「あれ!?コロちゃん付いてきたの?」

 いつの間にか頭に乗ってた!

「ににん!」


「そっか、有難うね!今からする事は月花には内緒にしてね?♪」

「にににん!」


「まずは一年単位で時を跳躍して探っていく!」

 対象を月花にして、一年ずつ過去に飛んで見る!


 一年後…二年後…三年後…特に以上がない…

 月花の背が伸びて美しくなっていくだけだ…



 処が、私達が二十歳を迎える六年後にそれは起きていた…





 ――――――世界が終焉を迎えようとしている。

 遠目でも分かる程荒れ狂う海、大地は裂け、空は万雷が降り注ぎ、至る処が炎の海と化し、大型モンスターが徘徊している…

 都市も見える限り全てが瓦礫の山だ…


 そんな時、遠目に月花が上空に見えた!

 背も高くなり、美しくなった月花はロングヘアを風に靡かせながら、腕を組んで微動だにしない。


 隠密行動を使って気配を消して気取られない距離に近づくと、他にもそばかしずく誰かいた。


 ……あれは、私…?

 後ろ姿だけだが、私も背が伸びていて大人びた後ろ姿に見える。

 コロちゃんは二人の傍に居ない様だ。


「…式部、この世―――処で歯車が狂ってしまったのだろうな…」

「……」


「我―――た世界は…もう終焉への歩みを止めなくなってしまっ―――しき事だ」


 距離を取っているから聞こえづらいが、天を仰ぐ様に目を閉じ、言葉や思いを飲み込むかの様に少しだけ首を振る。


「ならば…最後の―――して民―――ませず一思ひとおもいに終わらせてやろうぞ…」


 名も無き刀を抜き、ひと振りすると目の前の大地が視界では補足できない端まで両断され、ゆっくり崩壊していく。

「さらばだ…―――き天地万物よ…」


 全てが無に帰っていく。

 ゆっくりとゆっくりと全てが無かった事の様に…




 そこで凄惨な光景に耐えられず気分が悪くなったので、元の世界に戻った。



 戻ると急いでトイレに駆け込んで、胃の中の物を戻した。

 一体何故あんな事に!?

 何故、私は黙したままだった!?


 吐き疲れていた処をコロちゃんがふみふみしてくれたので、比較的気分の戻りが早かった。

「コロちゃん有り難うにゃ」

「ににん!」


 考えるのは後にして、一旦寝ようと、うがいをしてベッドに横になると、体調を察したのか月花が起きてたのか無言で横に寝て頭を抱きしめてくれた。


 そうだ…こんな優しい月花があんな事をする筈が無い…別の理由が…何かが違う…ああ、起きてから…考え…よ…





 ―――夕方に目が覚めた。

 式部が戻った時に気分の悪そうな顔をしていたので心配になったが『もう大丈夫にゃ♪』との事だった。

 念の為に生命の安定を掛けておく。


「ゆうべはおたのしみでしたね」

「楽しんでないっつの!」

 ルクレツィアの耳を左右に引っ張ってやる。

「みーみーがーなーがーくーなーるー」

「もう充分長いだろっ!」


 皆で食堂でご飯を食べて、再び牧場へ。

 今日は式部の体調が心配だったので、ルクレツィアと持ち場を交代してもらった。

 ルクレツィアはこういう時は進んで聞いてくれるから優しい!



 そんなこんなで張り込みスタート!

『ヴァンパイアが来たにゃ!』

 っや!!!



 ノーガードでとぼとぼとやって来た処を三人揃って出迎えた。


「親父ー!生血とねぎま二本…あと茄子の漬物ね」

「居酒屋の常連かっ!居酒屋感覚で血を求めるな!あとねぎまとか食べれるの!?」


「勿論食えるし味もするぞ?栄養にならんだけで…」

「取り敢えずさ、昨日戦って私達が面倒なの分かったでしょ?ただ飼われてる動物を狙うのだけは止めて欲しい…本当にそれだけ!何とか折り合いをつけてくれないかな?」


「言ってる事は理解出来るのだが、我輩の食料が安定供給しないからなぁ…」


「ここから北に進んで川を超えた辺りは小さいモンスターの群れとか、大型モンスターのどちらかが多いから、大型を食料にしたら近隣の街も被害が減って喜ばれるわよ?」


「共存共栄とかSDGsという奴だな、これも時代の流れか…」

「SDGsとか、この世界の何処で覚えてきたっ!」


「嘘ではあるまいな?嘘ならば私が率いる、むくつけき眷属48がこの牧場を…」

ベツレヘムの星ベツレヘム・ラプチャー

 差し出した掌から八芒星が現れ、聖なる光を前方に照射する!


「くぁぁっ!これは聖光か!」

「いいから現地に行ってみなさいって!一時凌ぎの嘘とかついても私達にメリットないでしょ?」


「…うむ、ならば信用するとしよう。全ての者が美味しく楽しく幸せな食事が出来ます様に…アーメン」



「めっちゃあっさり引き下がったにゃ…」

「しかも宣教師みたいな台詞を残して行った…」

「言葉が通じると、無駄な争いも命のやり取りもしなくていいから嬉しいね!」


「たった今、聖光でヴァンパイアを焼こうとしてたのに…」

「ルクレツィア、ああいうのは威嚇!厄介さをアピールして話し合いをより円滑に進める為の潤滑油なのっ!」


「ルクレツィア、こういうのをゴリ押しって言うにゃ♪」

「しーきーぶー!」

「あははははは♪」

 それにしてもSDGsとか48とか何処でネタを仕込んできたんだろう…?




 念の為に次の日も張り込んでみたが、ヴァンパイアが現れる事はなかったので、牧場主のベジタリアさんに報告だけして、解決案件とし調査は終了とした。

 なお、牛が消えるとか居なくなるの部分も漏れなくヴァンパイアの仕業にしておいた!!!

 なすり付けたんじゃなくwin-winの関係を構築しただけですっ!




 さて、牧場主さんに報告し、始まりの街に戻った処で一つ重要案件がある。


 ルクレツィアのメインの決め技だった絶滅する蹂躙デストロイ・オーバーランが使い辛くなってしまったのだ。


 使って、うっかり消える所を目撃されたり、戦闘に巻き込まれて牛が減ってしまったら、また牧場主さんから『前回の依頼が解決していない』と再依頼が来る事は想像に難くない。


 もう次はなすr……和解できる襲撃者もいないだろうし…となるとルクレツィアの決め技を新たに新調してもらうしかない!

 あと、結構な金額するけれど隠密行動ハイド・アンド・シークがあれば欲しい処だ。

 気軽に入手出来ちゃうと犯罪に使われるからね!



 と、いう訳でスキルショップでルクレツィアが選ぶのをのんびり待っている。

「あ、ルクレツィア!水中で呼吸出来るスキルも買っておいてね」

「分かったー!」


 これだけ労せずしてスキルを入手出来てしまうと、最近流行っているラノベの異世界転生ものでスキルショップで主人公が最強になる話とかも出て来るかもしれない。



「これなんかどうかな?」

「何てスキル?」

「絶滅不死の病原体」

「バッドエンドしか思いつかない!」


「絶滅不可避の天地鳴動」

「範囲広そうだし、絶滅不可避は駄目!」


「外界より来る絶滅」

「絶滅好きすぎじゃね?」


「ほら、絶滅って付いてたら強いっていうイメージががが」

「今選んだの全部億超えてるから買えないにゃ?」

「お金はあるんだけど、今後節約しないとだから…」

 エルフの王様、何だかんだ子煩悩な金額持たせてたんだなぁ…


「お金は、思いついた時に思いついた使い方を出来る様にしよ?まー私も衝動買いする事はあるけど、今回みたいに切羽詰まった時にお金が無くて何も出来ないのは悲しいからね」


「そうだね!牛さんもそんなに高くなかったし、レアを掘り起こしてそれを使いこなす方が格好いいかもしれない!月花、有難う!」

「カードショップで黙々と安レアの束からお宝を探すトレカゲーマーみたいだにゃ♪」

「最近、式部の突っ込みがマニアックになってきたねー」



「よし、これにする!君に決めた!」

「お、決まったら買っておいで!さっき言ったスキルも忘れないでね!」

「はーいママー」


「……ぷ♪」

「あれ、反射で言ってるから気づいてないだろうね」

「まぁ、私達もたまにやらかすし…」

龍安寺りょうあんじ先生をママって呼んでしまった時は不覚だったわー」

「それで一か月位いじられたもんにゃー♪」

「生徒を積極的に弄り倒す教師ってどうよっ」




 新しい決め技を手に入れ、ウズウズしているルクレツィアを連れて帰ろうとしてる時に、街中に人だかりが見えたので三人で何事かと見に行くと、一人の大柄な男が見えた。

 体中傷跡だらけの禿げ頭の冒険者が口上を振りまいている。


「さぁさぁ、希望者はいねぇか!?俺様に一太刀入れるだけでこの札束を進呈するぜ!勿論街中だから周りに配慮した闘いでやるぜ!!さぁさぁ挑戦者募集だよ!」


「秒で終わらせる!」

「待って待って、月花が出るのは反則だから!」

「えー、手加減するじゃんー!」

「月花は手加減しても真っ二つでしょ♪」


「ここは真打登場って訳だねっ!」

『ストロベリーフラペンさんキタ――――――!!!』



「お、お嬢ちゃんやってみるかい?」

「おう!札束ゲットだぜ!」

「じゃ、ルール説明だ。双方相手が死ぬ攻撃はしない、観客に当たる範囲攻撃はしない、武器や防具は自由で、俺が刃が付いてない剣で攻撃してそちらがダウンしたら負け…何か要望はあるかい?」


「いや、大丈夫だよ!」

「よし、決まりだ…」



「あいつ、しれっと範囲攻撃封じてきたねー、人相手に加減する事も計算してる」

「まぁ、観客を呼ぶ為もあるんだろうにゃ♪ただ、奴は人が相手でも加減はしないっ」



「じゃ、このコインが地面に落ちたら勝ちだ!」

「オーケー!」


 キィン!と親指でコインを弾き、放物線を描いて地面に落ちると遠慮を知らずに育ったルクレツィアが殺意まみれで矢を三本放つ!

 男はラウンドシールドで矢を上手く弾き、ルクレツィアとの間合いを詰めて剣を振り上げる!

 ルクレツィアが弓で剣の横腹を攻撃し、剣を逸らした瞬間にジャンプで相手の肩に登り後方に飛ぶ!


 逆さの状態でルクレツィアが新技を詠唱する!

南瓜造りの角灯ジャック・オー・ランタン!!」

 タキシードを着た南瓜頭のジャック・オー・ランタンが生み出される!!


 思わず男はシールドを構えるが…距離を取った二人の間で綺麗な所作で正座し、急須でお茶を注ぎ飲みだすジャック・オー・ランタンさん。


 ルクレツィアはリアクションに困り、男は対処に困るが様子見に少し近寄った瞬間にそれは起こった!


 お茶をぶっかけた!!

「あぢゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 お茶を掛け終えると颯爽とマントを翻し消えていくジャック・オー・ランタンさん!


「………勝負あったようね!!!」

「君、今分からずにこのスキル使ったよねっ!?」

「全て計算よ、け・い・さ・ん!」


 物凄く納得の行かない顏をしながら賞金を渡す男に、めちゃめちゃ勝ち誇った笑みを浮かべるルクレツィア。


 ざわつく群衆をかき分けてルクレツィアが戻ってきた。


「今のスキルが新しい決め技にゃ?」

「……おっかしーなー」


「やっぱり本人が分かってなかったか…」

「ジャック・オー・ランタンの気分で技が変わりそうだにゃ♪」

「スキルの説明には前方に強攻撃って書いてるんだけど…」

「昔の格闘ゲーム並みに説明不足っ!」


 こうして、ルクレツィアがまたユニークなスキルを手に入れた

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