第46話 calf over run

 アナザーバースのファンタジー世界で、謎の動物誘拐事件が多発しており、このままでは経営が成り立たず廃業になってしまうので、犯人を捕まえて欲しいという切実な依頼が来た。



 私達の世界ではUFOが動物をさらうキャトルミューティレーションという話や、家畜の血を吸う怪物、怪物を目撃する等の都市伝説は数多あまた存在するのだが、ファンタジー世界では都市伝説ではなく確実に存在する事件なのだ!


 依頼を受け、式部とルクレツィア、コロちゃんと共にアナザーバースへ赴く。



 場所は始まりの街の南東の広大な牧場。

 育てられた牛・豚・鶏さん達は主に都市へと纏まって卸されている。


 この牧場は遠くから見える位大きいのだが、特に用事がなかったので今まで行ったことがなかった。


 三人で飛んで牧場まで行くが、目前まで来ると流石に大きい!

 牧草の緑が目に眩しく、動物達が活発に動き回っている。

 建物からしてあれは鶏、豚、牛、等色々と飼育してるのだろう。


 横にはサイロも見えるし、今は牧場に牛が放牧されている。

 寮みたいな建物もあるので、従業員数もかなり多いのだろう。



 牧場に降り立ち、従業員さんに依頼主を呼んでもらうと、オーバーオールに麦わら帽子、気のいい感じのお爺さんがやってきた。


「こんにちは!《社》《やしろ》から派遣されてきました、レクスです」

「デッドエンドにゃ!」

「ストロベリーフラペンです」


『えっ!?』

「あー、決まってないから仮名ね仮名!」


「この牧場の代表のベジタリアです」

「名前のそれじゃない感!」

「ご本人を目の前にして突っ込まない!♪」




「事件は少し前から何ですが…牛が集団で消えたと思ったら突然戻ってきたり、数頭戻って来なかったりというのが何回か続きまして…先日も牛が一頭居なくなったばかりでして…」


「フラペンそこでストーップ」

 ムーンウォークで軽やかに逃げるストロベリーフラペンを蜘蛛の銀糸で逃げられない様に止める。


「因みに帰ってきた牛さん達に傷とか怪我、目印になるものは付着してませんでした?」


「あー、一回だけ焦げ臭い事がありましたね…あと、豚や鶏も居なくなっている事がありました…」

「ストロベリーフラペンの発汗量が凄い事にっ!」


「分かりました…調査しますので数日頂けますでしょうか?」


「数頭居なくなるだけで損失が大きいので…宜しくお願いします…」




「私の牛さんじゃないから…あれは…そう!スキルによって生まれる無敵の妖精さんっ!」

「ジューシーな妖精さんだにゃ♪」


「ルクレツィア、ちょっと柵の中に入って、何もない方向に絶滅する蹂躙デストロイ・オーバーランを撃ってみて」


 柵を器用に空中一回転で飛び越え、手を広い方向に向けた。

 深呼吸をし、まるで『私じゃありません様に』との祈りを込めて詠唱する!

絶滅する蹂躙デストロイ・オーバーラン!」


 奥にいる牛さん達が数十頭消え、ルクレツィアの手を向けた先を真っ直ぐ暴走して行き、見えなくなった頃に先程消えた群れの中に突然帰ってきた!




「……牧場主さんに突き出しちゃうかっ」

「仕事終わりだにゃ♪」

「待って待って!知らなかったのー!てっきりスキルで出てるのかとっー!」

「冗談よ冗談!私も知らなかったんだから言わないって!」


 つまりあのスキルは、スキル詠唱者が指定した方向へ、この牧場の牛さんが瞬間移動し、敵を踏み荒らした後この牧場へ戻ってくるスキルだった!

 絶対この牧場で生まれたスキルな気がするが、ちょっと気まずいので牧場主さんに聞けないっ!!


「でも鶏や豚もって行ってたから原因は他にもあるのかも?」

「見つからなかったら最悪ルクレツィアを犯人として突き出すとして、先ずは鶏と豚の方向でさぐりましょ!」

「月花…恐ろしい子っ!!!」




 式部とルクレツィアは牧場周囲の調査、私は鶏さんと豚さんの小屋を調査に向かう。


 鶏舎は『ここここここっ』と鶏さん達のリズミカルな声と、リアルタイムで生まれる卵に気を取られて遅々として捜査が進んでいない。

 普段こういう光景を見ないのでついつい気になって見てしまう!


 床は地面剥き出しではなく加工されているので足跡などは無さそうだ。



 次いで豚舎の方へ。

 鶏舎でも合ったが、余計な菌を持ち込まない様に一度消毒槽に靴のまま入る。

 これも経験した事が無かったので新鮮だ。

 因みにこれを怠ると豚さんや鶏さんが丸々全滅する事もあるらしく、念入りに足を漬けた。


 豚舎は床が土ベースなので、以前に宝物庫の宝物を盗み出した犯人を捕まえた時みたいに、蜘蛛の銀糸で足跡の起伏を強調してみる。


 …あった!

 モンスターだろうか、人だろうか、妙にデカい靴の跡!

 人より大きいなぁ…恐らく食用に連れて行ったんだろうな…


 流石に足跡だけでは分からないので、足跡が出て行った方角に蜘蛛の銀糸で足跡を強調させながら追跡していく。


 北方向、森の中へ続いているわね。



『月花?』

 式部から通信だ。

「どうしたの、何かあった?」


『うん、鶏さんと豚さんの死体を見つけたんだけど、…どうも外傷が少なくて血を吸われてる感じだね…』

「人以外を吸血する……メジャーなとこだとチュパカブラかなぁ…?吸血だけだったらドラキュラ以外にもソーコーヤントやアセマとかマイナーな物も含めたら数多いからねー…でも見つけたのが靴跡なんだよね」


『すご…私ヴァンパイア以外知らないわ』

「ルクレツィアも見て、すぐ対処出来る出来るとかっこいいよ?チュパカブラなんか保菌してる個体もいるみたいだし、気付かないと戦っている内に感染しちゃうからね!」


『私達も最初痛い目に合って色々学んだ口だからねー!月花が着いてるだけ心強いよー』

『はっ、ここ暫くお世話になっております』

『口調が接客業になってきてるにゃ♪』

 ちょっと笑いのツボ入った!



 一頻ひとしきり笑い終えた頃には式部達のいるポイントへ辿り着いた。


 ……んー?

 モンスターにしては噛み口が小さい…

 人の様な大きさだ。


 家畜の血を吸うならチュパカブラかなーって予想してたんだけどなぁ…

 チュパカブラは靴を履かないだろうし、得体が知れない見た事無い奴かな?



 牛さんはちょっと置いといて、鶏さんと豚さんが消えたのはいずれも直近の夜中らしいので、三人で場所を変えて待ち伏せる事にした。

 私と式部は隠密追跡ハイド・アンド・シークというスキルがあるが、ルクレツィアは隠密スキルが無かったので、飛行結晶を付けて上空から日頃お世話になっている牛さんを手厚く見守る事に。

 ルクレツィアは飛行スキル持ちなのだが、羽搏はばたくタイプの羽根が出るスキルだったので、音で気取られぬ様に私の飛行結晶にした。


 深夜、森の中の空気は澄んでいるが気温は低い。

 私は鶏舎を担当しているが、周囲の空気が良い分鶏さんの香りが引き立っている。

 流石に鶏さん達が寝てくれた分だけ静かだが、飼料の香りも絶妙なハーモニーを奏でている…



「二人とも、以上ない?」


『豚さんは異常なしにゃ♪』


『牛さんは美味しそ…異常なーし!』


「生きてる牛さんに食欲出しちゃ駄目ー!お腹空いてるならバックパックにカロリーバー入ってるから食べてね?」


『夜が明けたら一旦集まって、あったかほっとたこ串食べようにゃ♪』


『何それ美味しそ……しっ!何か来る!』


 ルクレツィアが目を凝らすと、森の奥から黒ずくめの人物が歩いてきて、柵を一足飛びで超えるとおもむろに牛さんに歩み寄る。


 ルクレツィアは牽制で矢を三本つがえて足元に撃ち込む!


 黒ずくめはひるみもせずその場で立ち止まったので、逃さない様に距離を詰める!



 ルクレツィアが足止めしてくれたお陰で私と式部も追いついた!


「おい、お前!何をしている!?家畜泥棒なら見逃してやるから帰れ!」


 男が青ざめた顔でこちらを見る。


「…お前達、昨晩は何を食べた?」


「え?肉とサラダだけど?」


「そうか、我輩は今からだ」



「待って待って!ヴァンパイアなのかにゃ?そうなら、殺さずに少しずつ均等に吸ったりして殺さない様に出来ないのかにゃ?」


「食事という事は…命を頂くという事。量の問題ではない、命を吸血しているのだ」


「無駄に人間ぽい優しい理屈をつけんな!大体人間の血を吸わないで何故家畜を狙う!?」


「医者に検診に行ったら人間アレルギーが出てしまってな…仕方なく食事は人間以外にしている」

「ヴァンパイアがアレルギー検診に行くなっ!」



「空腹なのだ…邪魔するならばっ!」

 上空の私と式部に、手から放ったコウモリの群れが衝突しながら切り裂いていく!

 慌てて障壁を貼るが、きっちり迂回して飛来してくるコウモリ!


「がっ!」

 式部が叫びを上げたので見るとヴァンパイアが半分コウモリ化の状態で式部の腕を固定し、上半身が人に戻り首筋に噛み付こうとしている!


「おいおいおい!式部の首筋を噛んでいいのは私だけだ!!!」

 名も無き刀を取り出して、ヴァンパイアの顔を斬りつけると、塵になって消える!



 塵とコウモリが空中の離れた場所で実体化すると、再び手からコウモリの群れを発生させて私達を襲う!


 私は刀、式部は魔槍、ルクレツィアは弓で牽制するがなかなか効率よくコウモリが強くて効率よく捌けない!!

 流石、噂に名高い吸血鬼だ!



 コウモリを斬っても塵になり、そこから復活するので斬った処でキリがない!


「ふーむ、抵抗しなければアレルギーの身体を無理させても頑張って血を吸ってやろうと言うのに」

「頼んでないよっ!!」


「…眷属にもならんぞ?血がちょっぴりごっそり減るだけだ」

「ちょっぴりとごっそりの振り幅!!」


「どの道私は不死だから勝負は永遠に付かんぞ?」

「でも朝日が出れば死ぬんだろ?」

「日の出までにはきっちりお家に帰るわっ!」

「計画的帰宅!!」



 面倒臭そうなので立方体の檻で囲んで捉える。

 これで朝まで待てば終わりだ…とか考えてたら平気ですり抜けて来た!

「不死の王を舐めるな、すり抜け位造作もない」

「朝弱い低血圧スタイルの癖に偉そうにするなっ!」

「貴様達も朝、自分の体温で適温になった布団から出たくないだろう?」

『わかるわ―――!』

「そこの二人!分かるけど今はややこしいから理解を示すなっ!!」


「興が削がれた。出直すとしよう」

彼方よりの星光スターライト・ビヨンド!」

 塵となって消えようとしていたので光属性に賭けて撃ってみた!

 何かが焦げた音がしたが本体は逃走した様だ…これは明日も張りこまないと。




「二人共後ろ!!!」


 ルクレツィアの言葉に振り向くと、背後の空から落ちて来る超巨大な火の玉!

 軽く牧場一体が焦土と化す位の被害に繋がる!

消去イレイズ!」

 式部が反射で消去イレイズを入れてくれたが効いていない!


 障壁で防ぐ為、空中に巨大な壁を結晶で創ると、今度はそれに対応するかの様に無数の火の玉に分裂して、私達を襲う!


「ヴァンパイアの仕業!?」

「分からないが牧場に一発も落とすな!!」

 ルクレツィアが呪文を込めて弓を放ち、式部は魔槍で順番に火球を貫いていく!

反撃の魔狼リベリオン・ウルヴズ流星蝕メテオエクリプス!!」


 残っている火球をフレキ・ゲリの二匹の魔狼と流星で急いで消していく!

 その最中、炎に紛れて氷の氷柱も飛んでくる!

 魔狼達と刀で落としながら炎を先ず片付け、氷は魔槍や弓、刀で叩き落していく!



 攻撃が落ち着いた処で、奥から女性が、階段を上がる様に空中に優雅に、だが凄い殺意をこちらに向けて登ってくる。


 ロングヘアで薄着だが防御力が高い服であろう事は分かる。

 右手には水晶のはまった木の杖を装備している。


「お前は誰だ!?私達には敵対心は無い!」


「…敵対心がないだと…?世界を滅ぼす大罪人が…どの口でほざく!」


「え…ちょっと待って!心当たりがないです!」

「私達は世界を滅ぼす気等ないにゃ!!」


「レクス、何かしたの?」

「そこのエルフ、常習犯みたいにゆーなっ!!」



「心当たりはないだと?だが、そのおぞましい刀が証拠だ!お前はいずれ、その刀で…この世界を斬り滅ぼす!!お前はこの世界の破壊者だ!」


「…あ、え?ちょっと話を…」

「問答無用!消し飛ばせ!ケルベロス!!」


 魔方陣が縦に現れ、一匹の獣が現れる…

 召喚魔法か!!

 通りでスキルを掻き消す消去イレイズで消えない訳だ!

 大型の三つ首の地獄の番犬ケルベロスが召喚され、それぞれの首から炎、風、氷の強烈なブレスが放たれる!!!

「消えてしまええええええ――――――!!!」


 あれは…真面に受けると死ぬ!!


「二人ともこっちへ!!反撃の魔狼リベリオン・ウルヴズ!!!」

 念の為障壁を張り、壁の向こうでフレキとゲリが攻撃を喰らう!!

 だが、障壁にも凄まじいダメージが激突する!

 フレキ、ゲリ、ごめん!耐えてくれ!!


 ケルベロスが攻撃を終え、攻撃を吸収仕切った!

「フレキ!ゲリ!空に向かって放出!!!」

 反撃を空に放ち、見渡す限りの空が明るくなる位のエネルギーが放出された!



「…お前の後方に牧場が無かったら、手加減等しなかったのに…次は状況を選んで仕掛ける」

 取り付く島も無く女は森の中へ消えていった…



「…殺されなかったからいいものの、壮大な言い掛かりを…いや、本当に言い掛かりなのか?」

「世界を滅ぼす事を肯定したら駄目にゃ!」

「月花はそんなタイプじゃない、付き合いが浅い私でも分かるよ!」


「二人とも…有難う。でも、牧場を見て攻撃の手を緩めたって言うのも嘘に見えなかった」



「でも未来を見て来た様に『お前は敵だ』みたいな言葉はにわかに信用出来ないにゃ…」


「出来るでしょ?少なくともパパは出来る…」

「そうだったにゃ…月花パパは出来たね」




 真偽の確かめようがないから、次に対峙する機会に話を何とか聞き出さないと…

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