第44話 momentary blow

「ルクレツィアを一度殺して…悪魔を分離する!」


「それはリスクが高すぎるにゃ…」


「この救出は、私の最小限の死傷で殺すという加減、式部のスキルガンによるサポート、そして、ルクレツィアの生命力…どれが欠けても成り立たない。だが、あの悪魔ならこの方法で必ず分離出来る!」


「やるしかないのなら…やるにゃ!でも急がないとこうしている間にまた多くの魂が!」


「いや、それはない。何故なら奴は今、回復だけに必死な筈だから」





夜のとばりが降りる。

普段なら虫の音が鳴っていたり野生動物の一匹も通りすがろうが、悪魔に憑依されたエルフの存在に怯え、静かに息を潜めている。


周囲には魂を失った魔物の死骸が幾つかあり、巨大なオークの死体の上に座り、静かに目を閉じている。


『竜の炎で予想よりも消耗してしまった。食事も回復に消えたか…面倒だが効率的にこの世界を食らい尽くす為には現状を維持せねば…』



名も無き八之太刀ネームレス・エイト

刀が水流で八岐大蛇の首を造り、ルクレツィアの身体に水で穴を穿つ!


『ぐふぉっ!』


名も無き九之太刀ネームレス・ナイン!」

刀で突きを入れた瞬間、岩の棘が身体八ヶ所に穴を穿つ!



全身ボロボロになりながらも身体の傷を再生する悪魔。



「何処から現れた…そろそろこのエルフは死ぬぞ?そうなれば我は身体を取り替えるだけだ…」


「先程までの強い言葉はどうした?何、そのエルフも死して悪魔を退治出来るなら、生き長らえて来た甲斐もあるというものではないか?」

因みに我はもう封印解除状態だ。


『そうか、友人を殺す覚悟が出来たと言うならやるがよい。私は痛くも痒くもないぞ?』



「違うな。貴様は悪魔だけに言う事・成す事が虚偽と虚飾にまみれている。聖水を浴びれば激痛が走るし、身体の再生も無限ではない…何よりお前はその身体を捨てる事が出来ない!その身体が無いと、この世界に留まれないからな!」



『出来もしない事を…本当にそうと思うならやってみるがいい』


「その証拠に、貴様は身体が傷付いたら必ず完治させている!火竜の炎で相当やられた様だな?元気が無いじゃないか?」

『ほざけぇ!』

青い炎の塊が投げられたが、刀で両断する。


「初対面で余裕の態度だったが、貴様は最初にこの世界へ召喚された時、この刀に怯えた!だから敢えて余裕ぶった台詞を吐いたんだろ?」



『なら、こちらも指摘してやろう。貴様のその覚悟…それは嘘だ。貴様はこのエルフを殺す事等到底出来はしない。人間でいう処のブラフという奴か?その程度の低俗な駆け引き等通じぬぞ?』


「なる程、本当にやれる物ならやってみせよ、そういう事だな?」



『強がるな、出来はしまい?我の食事の邪魔さえしなければ多目に見てや…』

名も無き一之太刀ネームレス・ワン

高速移動でルクレツィアの胸の中心を貫く!


「グエアァァァァァッ!正気か、人間よ!」



「貴様は…もう一つ嘘を憑いている!人を見下した態度を取りながらも襲うのはモンスターばかり…人が密集している場所を避けている!お前は人を恐れている!」


「抜けぇぇぇぇ!活動がっ!停止してしまうっ!」

周囲に悪魔の絶叫が響き渡る!


悪魔に毒舌を浴びせながらも、手は慎重に心臓へ刀を進める…


「心臓!心の臓は!あああああああああ!」


ルクレツィアの心臓が止まった!

そしてルクレツィアの背中から悪魔の本体が吐き出される!!


それを確認した瞬間、刀をルクレツィアから抜き、全く同時に後方から式部がスキルガンで生命の安定スタビリティ・オブ・ライフ女神の息吹ブレス・オブ・ゴッデスがルクレツィアに正確無比なタイミングで命中する!

生命の安定スタビリティオブライフで仮死状態を作り出し、女神の息吹ブレス・オブ・ゴッデスが命中する刹那生きていれば、全回復する!

そして一度生命が停止したので悪魔は身体に留まれなくなった!



我は悪魔を刀で逃げられない様に串刺しにしている!


「何だ貴様、虚勢を吐いてた割に貧弱な姿ではないか?ワンチャン元いた世界へ逃げ帰ろうとしたか?」


『どの道貴様に私は殺せない…宿主がいない以上この世界に留まれないから送還される…初めから私の勝利は確定していたのだ』



「なる程、身体が薄くなって来ているな!帰るまでに何秒掛かるのだ?二秒か?一秒か?それまでに貴様が恐れたこの刀で…確殺してやろうではないか♡」



「……ひっ!」




「名も無き…乱舞!…一之太刀ワン!」

超高速の突き!


二之太刀ツー!」

一之太刀の二段攻撃!


三之太刀スリー!」

三本の爪が疾走し、悪魔に爪痕を残す!


四之太刀フォー!」

突きを入れた後、満月の様に四回転斬り!


五之太刀ファイブ!」

技の発生時に入れた初撃が五段攻撃になる!

今回は袈裟斬りにしてみた!


六之太刀シックス!」

炎を纏いながら回転六連撃!


七之太刀セブン!」

刀で発生させた竜巻が悪魔を七回斬り刻む!


八之太刀エイト!」

刀で起こした水流が八岐大蛇の首となり、口から高密度水流を放ち穿つ!


九之太刀ナイン!」

突きを入れた瞬間、岩の棘が身体八ヶ所に穴を穿つ!


『ぐぅああああっ!』



「転生しても我の顔を忘れるな…我を恐れよ!乱舞Rumble!」

滅多斬りから全力の居合斬り!


「ぃぎあああああああああぁぁぁ………」


悪魔は元いた世界へ送還される前に雲散霧消していった…




ルクレツィアを介抱している式部の元へ急ぐ!


「月花!!ルクレツィアが!…回復もしたのに!!心臓も動いてるのに!!…目を覚まさないの!!」

式部が責任を感じて号泣している!


仕方ない奴だなぁルクレツィアは…

「式部、すまぬが一瞬だけ後ろを向いて耳を塞いで貰えぬか?」


「ん…?わがっだ…」

泣きじゃくりながら後ろを向いた瞬間、寝たままのルクレツィアに耳打ちする。


『…一度だけチャンスをやろう。今、起きなければこの長い耳を削ぎ落として牛と耳を交換する。迅速に起きろ♡』

秒で覚醒して起き上がるルクレツィア!


「そそそそ蘇生しましたスミマセンデシタ」


「宜しい。式部!蘇生したぞ!」

「よがっだぁぁぁ…!」

ルクレツィアとハグハグしながら式部が号泣する。

式部を後ろに向かせたのは、後々ひそひそ話でヤキモチを妬かれない様にだ。



…む、この気配…面倒な…

「二人ともさがれ!おかわりが湧いたぞ…」


空中に空間の歪が生じ、虚空から出てきたのは先程までの小物とは訳が違う悪魔…羽根と尻尾がある人間の様だが、依代よりしろを必要とせずそのまま実体化した!



『我が名はディアボロス…今、ここに居た低級の雑魚ザコを滅したのはお前達か?』


「我だ。雑魚ザコの敵討ちという訳か?」

『笑止、敵を打つ程でもない雑魚だ…だが、簡単に滅ぼせると思われても困るのだ』


「笑わせるな?笑わせるなだと?その苦虫を噛み潰した様な顔で悪魔は笑うのか?愉快だ!笑わせるな!」



青い炎を我の周囲に発生させ、一度に当てて来た!

避けなくとも、この程度なら周囲の闘気だけで防げるが、弾けた時の視界の悪さを利用してディアボロスが式部とルクレツィアに何かを飛ばしていた!


あれは…蛇、毒蛇か?



『ふむ、これで邪魔が入らず貴様を八つ裂きに出来る』


禍々まがまがしい剣を何本も虚空から生み出し、こちらに射出された!


剣でさばいて叩き落すが、全く本数が減らない!


式部とルクレツィアは…解毒スキルがあるはずなのに倒れているのは…スキルが効いかないのか!あまり長時間は掛けられないな。

二人の元に居るコロちゃんの加護に期待する!


『どうした?数の暴力は下等生物には覿面てきめんだったか?』


「いいや、肩慣らし中だ。人肌が恋しくなったのか?」

変わらず打ち出される大量の剣をさばきながら少しずつ距離を詰めていく。



すると、相手も距離を詰め、巨大化した両手で爪をふるって来る!

その両手を刀で受け止める!


「良い爪だな、悪魔でも爪のお手入れはするのか?猫でも自分で爪とぎはするぞ?」

『口が達者な下等生物だ!』

名も無き断罪ネームレス・ペナルティ!」

怪力技で相手を圧倒し押し返すと、刀を喰らったのか血を流しながら後方に下がる。

そのまま上へ上昇した!


私もすぐ様上昇し、後を追う!



いた!

また剣を膨大に飛ばしてきた!

爆裂する迅雷デトネート・ライトニング!」

飛ばしてきた剣を伝い電撃が逆流していき、そのまま剣を破壊していく!

攻防一体の相性のいい技だ!


技の硬直中だったからか身体から黒煙を上げていたが、お構いなしに蛇を放ってきた!

蛇は放物線を描く様におびただしい数が襲ってきた!

反撃の魔狼リベリオン・ウルヴズ!」

二匹の魔狼が蛇を喰い荒し、残りはかわしながら剣でさばいていく。


『遅い!』

背後に回られた!

また両手を巨大化させ、襲ってきた!

彼方よりの星光スターライト・ビヨンド!」

手を脇から背後に向け、収束ビームを放つ!


背中を爪がかすめたがビームも命中した!

魔狼達が喰らった蛇をエネルギーに変えて反撃してる間に、痛みを無視して背後に向く!

名も無き一之太刀ネームレス・ワン!」


秒で距離を縮めて一撃入れる筈だったが、ディアボロスは先程まで飛び道具だった剣を一本握りしめ、力で押し返したまま鍔迫り合いに入る!


「何だ、ひと山幾らのなまくらで我と勝負とは無粋な」

『下等生物にはこれでも上等だ』


青い炎が二人諸共もろとも包むが、先程よりも火力が強く鍔迫り合いから後方に身を引くも炎が点いたまま消えていない!


『地獄の炎が貴様を燃やし尽くす。死ぬまで消えんぞ』

「だが、貴様が死ねば消えるのだろう?僅か数秒ではないか?」


黒竜こくりゅうあぎと

両手から黒竜の頭が伸びてきて我を喰らおうとする!

名も無き一閃ネームレス・フラッシュ二連ダブル!」


光の刃を飛ばし、黒竜の頭を裂く!

光属性は目に見えて効果的だな。


さて、そろそろ逃げるか!



一目散に森の中へ逃げる我を見て、猛烈な速度で追跡してくるディアボロス!!


『かっ!……何だこれは』


森の中には、先程飛び上がる前に張っておいた蜘蛛の銀糸をびっしりと仕込んである。

警戒されない為に、木の上は柔らかくし、下部はオリハルコン並に強くなっている。

粘度と強度が相まって、蜘蛛の巣に捕らえられた昆虫の様な様になってる。


我は地獄の炎が身を焼いたままでもいいが式部達の毒が気になるので仕上げに入ったのだ。


『この程度で私を捕らえられるとでも?』

「強がり言うな、首が半分切れて手足から出血しておるではないか?」


『この程度傷の内にも入らん。貴様何がしたかった?』


「貴様を仕留める一秒が欲しかったんだ…消失する根源ヴァニシング・コア!」

ディアボロスが必死に逃げようとするが、殆ど動けていない!

そして技が効いてきた様だ。


『…う…うおおおおおおおっ!』

「根源が無くなった生物はどうなるのか…考えた事はあるか?死では無い、消滅だ。元いた世界へは二度と帰れない」


『お…おのれぇぇぇぇ!』

「そして、我の顔を覚えよ!輪廻転生しても…我を恐れよ!」



根源が無くなった悪魔は力無くぐったりし、青い地獄の炎が抜け殻を焼いていく…


おかわりはもう要らないので、用心に用心を重ねて塵は塵ダスト・トゥ・ダストにで灰にしておいた。




刀を封印し、式部達の様子を見に行くと汗をかいてうなさされた様子はあったがもう毒は消えている様だった…


鞄からタオルを出し、マグカップに清浄なる湧水で水を湧かせて、二人の汗をタオルで拭い、濡れタオルで汗や汚れを落としていると、式部が先に目を覚ました。



「……月花…お疲れ様♡…」

「寝起きで秒で可愛いかよっ!」

「私も起きたー!二人ともごめんねー!」


「いいよ!本開いただけであんな事になるとは予想つかないじゃん!」

「うんうん、でも充分警戒して触る事を覚えなきゃだにゃ!♪」

「頑張るー!」


それにしてもあの魔導書…コボルトリーダーはどこで手に入れた?


こんな事が早々あってはならないし、調査しないと!

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