第43話 textbook of magic

夏の様な深い青空が色濃く広がり、白い雲が幾つも気ままな風の行く先に追従していく。


私達三人は今日もファンタジー世界に修行に来ている。



≪社≫やしろの依頼ではなく、ルクレツィアの修行がメインの旅だ。


例の始まりの街(と、勝手に名付けた)の冒険者ギルドで掲示板の依頼書を物色している。


「ルクレツィアのやりたい依頼があれば教えてね!適性Lvか確認するからね」


「ファイヤードレイクとかファイヤードラゴンとかイフリートとか?」

「可燃性が好みなのかにゃ?♪」


「キキーモラとかアイアタルとかワルタハンガとかは?」

「やっば、一つも分からない!」


「じゃーアークエンジェルとかペガサスでいいかな?」

「聖属性の方々で妥協しようとすなっ!」


「じゃー何だったら首切っていいのーっ!?」

「まずは落ち着いて矢を放てっ!」



うーん、グリフォンにめっちゃ踏まれてたけどルクレツィアはそれなりに動けるしなぁ。

やはり弓を使った攻撃に慣れさせるのが最適解かなぁ…


「レクス、これはどうにゃ?海からくるコボルト退治!」


「…コボルトって海産物だっけ?」


「どこからか泳いできて勢力が集まりつつあるらしくて、近場を通った旅人が被害にあってるんだって」


「犬かきって遠泳力あるんだなぁ…」



北の河…河と言っても相当な幅があり、マーメイドの国ウォータリアと、スライムで滅びた国との中間地点位がコボルトが溜まって勢力を成している地点らしい。


その依頼を受け、偵察がてら上空から除きに行くと、近くの岩場に大人数のコボルトが溜まっていて、すぐ近くの道を通過している荷馬車が襲われそうになっている!



「ルクレツィア!荷馬車以外やっちゃっていいわよ!」

「とぉりゃ―――!」


矢を番えて空中から正確に放ち、荷馬車を襲おうとしてたコボルトを射抜く!

それは反復練習していたのか、それとも持ち前のセンスなのか、二本、三本と次々にコボルトに命中させていく!


一撃で急所に当てているのはいいが、気まぐれなのかあらゆる急所を狙って当てているのがルクレツィアのエグい所だ。


荷馬車が気づいて逃げ出したのを確認して、コボルトの群れの方へ向かう。


思ったより多いな!

数が二百体近くうごめいている!

だが、私が一度に倒したらルクレツィアの経験値にならない。


「ルクレツィア!サポートに回るから好きにやって!」


「良いの!?牛の皆さん!やっちゃって下さーい!絶滅する蹂躙デストロイ・オーバーラン!!」

数で嫌気が差したのか、いきなり大規模スキルを発動するルクレツィア!


拠点を襲われ、牛さんの群れに蹂躙じゅうりんされたコボルト達の残党が鈍器で襲ってきた!


矢を三本ずつ番え、綺麗に命中させていくルクレツィア!


私と式部はまでサポートなので、端でひっそりとコボルトを捌いている。



と、調子よく戦闘を継続していたルクレツィアの手が止まる…


「……お前達…何してるんだぁぁぉっー!」


ルクレツィアの視線の先の焚き火には、スキル絶滅する蹂躙デストロイ・オーバーランで頑張って仕事をしてくれていた牛さん一頭が綺麗に処理され、串に刺されて焼かれていた!


「お前らの体液は、何色だぁぁっ!!!」


「式部、奴らスパイスも使っているっ!」

「肉の焼ける匂いとスパイスの仄かな香りが食欲をそそる!」


激昂したルクレツィアが先程よりも早く矢を放ちコボルトを掃討していく!

矢が無くなると、待っていたかの様に強化した弦でコボルトの首を落として行く!

野蛮さで言えば下位モンスターさん達よりも断然上なルクレツィアさん!!


しかし、よくあんな動き出来るなぁ…何だかんだ言いながら天才的なセンス!


残党は三十分位で終わった様で、コボルトリーダーもサクッと倒されていた。



焼かれてスパイシーな肉の匂いを漂わせる牛さんの前でルクレツィアが膝を落とす。

「ごめんね…敵は取ったからね…」

「泣きながらも食べやすく切り分けようとしてるにゃ♪」

「サイコパスな言動だなぁ…」



結論として、スキルで出した牛は食べれるし、美味しかった!

しかし、あのスキル、牛の発生って如何どうなってるんだ!?



牛さんを美味しく頂き休憩していると、ルクレツィアが何かを読んでいる。


「ルクレツィア、何を読んでいるの?」

「ん?コボルトリーダーが魔術書グリモワールを持ってて、何かなー?って」


「うっ、血だらけの本にゃ…」

「うん、契約印みたいな、手形に血で手跡を付けたページもあるの」


「…それ、ヤバい気がするね」

「召喚系なら何が出てくるか分からないにゃ!」

「斬って燃やす!」


名も無き刀を取り出して斬りつけた瞬間、両断された本を捨て、ルクレツィアが素手の指で私の刀を受け止めた!!



「良き刀ではないか?どこで奪ったのだ?」


「レクス!」

「不味い、憑依されている!」

ルクレツィアがニヤリと笑うと大きく息を吸い込む。


すぅ―――と吸い込むと周囲のコボルトから魂らしきものが死体の上に浮き出て、ルクレツィアの口の中に吸い込まれていく。


「ふーむ、本来魂という物は美味なのだが、ここまで下等な生物だと質より量だな」


「おい!そいつの身体から離れろ!」

そいつと言ったのは宿主の名前を悟られない為だ!


「まぁ、そう焦るな。私の食事が先だ。何百年ぶりかの地上だ。存分に欲を満たそうぞ」


唐突に上に上昇し、ルクレツィアは飛び去って行った…



「式部!位置は!?」

「…指輪のお陰で位置は把握出来るけど…月花、どうやって退治するの?」


「恐らくは中級より下の悪魔だろうが…憑依されている間は聖属性以外は効果が薄い…何とか引き剥がさないと…」


「私も聖水の滝ホーリー・ラピッドしかないから…聖水に通せば武器も多少効果が出るだろうけど…」


「どのみち追い出せなければルクレツィアの身体を傷つける他ない…」


「まずは聖水の滝がどの位効果を及ぼすか、試してみよう!効くならそれに越した事はない!」




急いでルクレツィアの跡を追跡する。

ルクレツィアが突然何処かへ行かない様に指輪をつけてもらっておいて良かった!


ルクレツィアが向かったのは始まりの街の西に広がる森…


双子山の麓に広がる森は、謎にモンスターとの遭遇率が高い。

ルクレツィアが真っ先に人間の街に行かないのは矢張り質より量だからなのか!?



森に着くと、オークや、サイクロプス、トレント等ありとあらゆるモンスターが無傷で倒れている。

それもおびただしい数が!


もうこれは一方的な狩りだ!



周囲を探していると、怪物の悲鳴と思しき声を聞き取りその方向へ急ぐ!



向かった森の中には、少し広い場所で積み上げられた死体の上に乗ったルクレツィアが笑顔で座っていた。


「…さっきの二人か。もう追いついたとは見上げたものだな。が、追いついたとて何が出来る?この身体は貰うし、貴様達が我に勝つ事等も無い」

舌なめずりしながら嫌な笑い方をしているのが腹立たしい!


無言で式部が聖水の滝ホーリー・ラピッドをスキルガンで何発も撃ち、聖水を大量に注いだ処で私が結界で封印する!

聖水のプールだ!

悪魔は聖水の中を静かに漂っている。


「……聖水…成程、何万年ぶりかに浴びたが…私に効果を及ぼす程ではない…それよりも悪魔化したこの身体が滅ぶ方が先でないのかな?」

確かにルクレツィアの表皮を焼いて泡になりつつある!

慌てて結界を解くが、悪魔が秒で再生していた!


「あいつ、食事をした分強くなってる!」

「おい、悪魔!取引は出来るか?魂は無理だが他の物なら用意出来る!だからその身体を返して欲しい!」


「他の物ならいらぬ、貴様達二人を含んだ都市一つ分の人間の魂…それ以外は譲歩せぬ。信仰心を持たぬ者が聖水等を使っても威力は対して無いし、この身体が死滅しない限り我は出て行かぬし、そもそも我が使い続ける。つまり不可能なのだよ」


「くっ…」



「別にここで戦っても良いのだぞ?飽きるか身体が死んだら別の身体を奪うだけ…」


悠然と佇むルクレツィアだが、鼻で笑うと何処かへと飛び去って行った…



「今までも…式部と二人で何でも超えてきたが、ここまで不利な状況は初めてだ…」

「諦めないで考えよ?絶対攻略の糸口は見つかる!」


「時間を要した分だけ生き物が死滅する…考えろ…考えろ…」



「…奴は何故、私達の魂を取らないにゃ?」

「そうだ、そこからだ…魂を取る位造作ぞうさもない筈…」

「ににん!」


「そうか、コロちゃんが何かしてくれてたの??」

「ににんにん!」

「有難うにゃー!コロちゃん!」

「コロちゃんの加護最強じゃね!?コロお姉ちゃん有難う!」

「にににー!」


私達はコロちゃんの加護で即死からは免れたが、あとは奴をどう退治するかだ…



「そもそもコボルトが悪魔の魔術書を持っている意味も分からないが…今更聖属性の武器とか使えない…悔しいが悪魔の言う通り信仰心が足りないのかも…」


「スキルショップに効果的な技が無いか見に行っても良いけど…あの回復速度では焼け石に水だし、下手したらルクレツィアが死んでから身体を放棄して逃げるかもしれない」



「一旦追いながら考えるにゃ!」


飛行結晶で飛びながら、式部が位置を探ってくれる!


進行方向は…双子山の左の山!

まさか、竜の魂を狙ってるのか!?


急いで竜の巣まで移動すると、視界に竜の巣が見えた瞬間炎の塊が西の空へ飛び立っていった!


竜の巣の入口まで行くと以前会った若い火竜が見えた。


「あのー、こんにちは!」


『其方は、母を倒した人の子…覚えておるぞ』

「あの時はごめんなさい…」

『気に病まずとも良い。して、どうした?今押し込んできた不躾者と関係があるのか?』

「正しくその話なんです!」


『先の者は…悪魔に乗っ取られておったな…中の者が非礼にも魂を要求してきたのでドラゴンブレスを浴びせたらすぐ逃げた。あれは相当下級の悪魔だな』


「あれで…下級なんですか?」

『其方達でも充分倒せる存在であろう?宿主のエルフに気を使っておるのか?』


「はい…エルフの王からお預かりしているので、死なせるわけには行かないの!大事な友達なんだ!」


「でも、肉体を盾に取られて迂闊に手が出せない…聖属性の技も信仰心がないので効果が薄い…例え肉体を殺したとしても相手は宿主を変えるだけ…現在お手上げですにゃ…」



『…今の話は悪魔から聞いた情報か?』


「はい…」


『なる程…奸智かんちで負けておったとはな…一つヒントをやろう。我がドラゴンブレスは聖属性等ついておらん。火力こそ自信はあれど聖属性ではない炎に悪魔が怯む意味を成さない。ならば、何故奴は一目散に逃げた?』


「…あ―――!腹立つ―――!そういう事だったのか!?」

「月花、何か打開策が!?」

「見えた!打開策!竜さん有難う!!!」


『うむ、暇なら話相手の一つもしてやるのでまた来るが良い。私は暫し眠りに着こうぞ…』

そう言うと竜さんは洞窟奥の結界に帰って行った。



「どうするにゃ、月花!」


「式部、女神の息吹ブレス・オブ・ゴッデスって超回復スキルあったよね?それを上回る回復持ってたっけ?」


「いや、月光の相愛を除いてなら、あれが最強…どうしてにゃ?」


「ルクレツィアを一度殺して…悪魔を分離する!」


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