第42話 act of genius

駒鳥鵙式部こまどりしきぶは天才だ。


私のザックリとした指示に対しても的確に応えてくれる。

まさしく一を聞いて十を知るタイプ。

駒鳥鵙の家系は集中して勉強すれば、ある程度の事は短時間で熟してしまうので羨ましい限りだ。


そんな彼女のとある一日のエピソードを語ろうと思う。




「え、ラブレター!?」

「…うん、昨日と今日一通ずつ別の人から♪」


「で、どうだった?」

「文章は誠実で合格、二人とも違うクラスの人にゃ♪」


「あっれー…私まだ貰った事ないんだけど…?」

「月花はまず授業中に龍安寺りょうあんじ先生に睨まれながらパンを堂々と食べるの止めるにゃ♪」


「ほんまやで…まずこの学校一の美女の私にラブレター出すべきちゃうのんって思うんやけど」

「龍安寺先生が突然えた!」



「あー…そっかーもしかしたら美しすぎて手ぇ伸ばし辛いんやろなぁ…うちは罪な女や…」

「先生が生徒を狙っちゃ駄目じゃん!」

「それって年齢と同じ年数言ってる?♪」


「まぁ、それは若干冗談やけどラブレターが羨ましいのはちょっと本心や」

「先生可愛いー♡式部はラブレターどうするの?」

「断るけど、真面目な人には真摯に向き合ってお断りしないとにゃ」



時間をずらして二人を屋上に呼び出し、一人づつお断りするが、その子のタイプに合わせた傷つけにくい言葉をきちんと選んでお断りする。


私だとどう考えても細かい配慮が出来なくて傷つけそうなので、同じ美少女でも式部はスペックが高い。


「もーまた月花が見てるー」

屋上の階段の上の塔屋という建物に潜んで見物している。

「いやー、断り方を学んでおこうかと…あははは」


「相手が傷付きやすいなら、かなり遠回しに入ってやんわり断ればいいし、傷付きにくい時は笑顔で直帰、でも笑顔で有難うは絶対!これにゃ!」


「おおう、プロの恋愛講師のアドバイスだ…」

「まぁ、月花が好きなのは永遠に変わらないからお断りが上手くなっただけにゃ♪」

「う…うん…/////」

「青春やなぁ…」

「龍安寺先生も潜んでた―――!」



そんな龍安寺先生の授業を起きている振りをして寝ている天才…

勉強は私より良いが、高頻度で寝ている。

だが…

「次の文の訳を駒鳥鵙やってみー?」


「この魔法の力も、もはや捨てようと思う。天井の妙なる音楽を鳴らしながら魔法をかけて置いたこの者たちの感覚を目覚めさせてやったら、この杖を折ってそいつを地中深く埋め、測量の鉛も届かぬところに、この書物も放り投げてしまおう」


「せやな、プロスペローの有名な言葉や。勉強以外に書物としてもおもろいから先生的に読んどくんもオススメやで?」


『はーい!』


急に先生に当てられても、何ごとも無かったかの様に起きて、英訳もしてしまう。

そして再度寝た―――!

庵ちゃん、軽く舌打ちしてんじゃん!




―――昼休み


式部とお弁当を持って屋上のベンチを占拠する!

ここは早い者勝ち!!!


お、今日はお高めの赤くないソーセージが入っている!

「式部!あーん!」

「あー…」

ってソーセージを持っていったら箸が滑った!


そんな状況も慌てず式部がお箸で空中で掴む!

「…少し前に宮本武蔵が箸で蝿を掴んだエピソードをした記憶があるけど、目の前でそれをやってのける式部マジかっけー!」


掴んだソーセージを食べずに私の弁当箱に戻して、もう一度口を開ける式部可愛すぎる!



弁当箱の蓋をして、さぁ残りの昼休みはどうしようってなった時、妙に人が減っているのに気付いた!


ふと目の前を見ると、顔が中学生離れしてて怖い、新生いじめっ子四天王だ!

ヤンキー座りで目の前でメンチ切っていた。


「でさー式部ー!」

「無視すんなゴルァァァァっ!」

「舐めてんじゃねーぞ、どこ中じゃゴルァ!」

「それ、校内で使う台詞じゃないぞー?」


「うっせ!俺はなぁ…先代四天王の意志を継ぐと決めたんだ!」


「んー…言葉はカッコいいけど、いじめやカツアゲは駄目だよ?本当にカッコいいのは…いじめを止めてあげたり、困ってる人を助けてあげたり…カッコつけても自分の道を通す、そんな尊敬される漢になって欲しいな…駄目…かな?」


やっば!四人共式部に惚れてる顔してんじゃん!


「ま…まぁ、そういうのもカッケーかもな。考えとく」


すごすごと帰っていく新生四天王。

「あざとさはこういう時に使うにゃ♪」

「流石あざといというワードを欲しいままにするJC…」


放課後、小花ちゃんは用事で残るらしくて式部と二人で帰宅する。


途中で横断歩道の反対側に、お婆ちゃんがまるで漫画の様な荷物を背負っていて、青になって踏み出した瞬間倒れそうになる!


「危な……くない?」


式部がスキルガンで重量減少を撃ち込んでいた!


「お婆ちゃん大丈夫かにゃ?」

「おお、おお、これは今流行りのスキルっちゅー奴かな?有難うね」

「お家に着いたら早く荷物置いてね!それまでは軽くなってるから」



「有難うね!お礼にこれもろてね?」


飴玉を沢山貰った!

お婆ちゃんはお礼をいいのんびりと帰っていった。


「式部、あの荷物ってお家着くまでに重くならない?お家知ってるの?」


「お家は知らないにゃ♪手に持っていたの、お爺ちゃんのお店のケーキの箱だったし、あの大きさならケーキは六個、保冷剤は一時間分だからお家は一時間だと♪」


「さす式部!あの一瞬でそこまで!」

「お爺ちゃんのケーキの残りを良く貰ってたからにゃ♡♪」



家の近くまで辿り着いた瞬間、狙い澄ましたかの様なタイミングで《社》からアナザーバース関連の緊急依頼が届く。

いや、絶対何処かで見てるだろ!


仕方なく、秘密基地に直行して着替えて指定座標の世界へダイヴする。





明らかに今まで来たことがない街…

電飾が派手でビルのあちこちに巨大モニターやプロジェクションマッピングが投影されている。

ビルや車も洗練されたデザインで、人も変わった服を着ている。


「うはぁ…未来的な世界だね!」

「これは珍しいね…食べ物やスキルも変わってるかにゃ?」


「で、どこ行くんだっけ?」

「中央の制御政務室…場所が分からないにゃ…」


斥候せっこうからす!フギン、ムニン、この周囲の地形を見てきて!」


二匹の鴉が周辺を偵察している間に我々も手掛かりを探す。

「あっちに案内板みたいなのがあるにゃ!」

見に行くと立体構造の地図になっていてクルクルとタッチで視点を変えられる案内板だった。

「こういう所はタブレットの名残みたいなんだね」

「未来でもこの方法が最適だと認識されてるのかもにゃ?」


「ふむふむ…あの光るビルを目指していけば良いみたいだね!」

「進んで行こうか!」


結構沢山の人がいて、和気藹々わきあいあいとしてはいるが、どことなく無機質さも感じる。

こういう雰囲気の世界だからだろうか?


光るビルに進んで行くと、フギンとムニンが戻ってきて、式部と私にイメージで情報を伝えてくれる。


今いる島が凄まじく大きい正方形で、海の上に西方向へ橋が伸びて、今いる島の半分位の正方形の島がある様だ。


この世界って島二つだけ?

気にはなるがまずは依頼を聞きに行こう。



光るビルの入り口に美人の受付嬢がいたので身分証明証ベーターの二十一階の部屋を案内された。


ノックして、指定された執務室へ入る。

「どうぞ」


入ると、スーツ姿の男性が座っていた。

中は国旗や地球儀があったりと、まるで大統領の部屋の様だ。

「《社》の方ですね?私はこの国の大統領、チェスター・トゥルーマンです。宜しく」

大統領だったー!!!


「お掛けになって下さい」

秘書が紅茶らしき物を持ってきたので、普通に頂く。

……ん…なんだこれ?


「さて、今回お願いしたい事は急を要します。こちらにいた重症患者の男が医者をスキルで襲って、橋を違法に通り抜けて向こう側の国に逃げ出したのです」


「動機とかは分かりますか?」


「恐らくは、手術を拒んだのかと思います。彼は重い病で早く手術をしないと命に関わるのです」


「命が掛かってるのに拒んだのかにゃ?」

「向こうの国の人間はこちら側を良く思わない人間が多い…だから多少強引ではあったが命を落とすよりいいだろうと少し治療が強引になってしまったのかもしれません」


「命は尊いと言えど本人の尊重もしなきゃね?」

「…兎に角、思い直してもらいたい…出来れば彼の命が尽きる前に説得して欲しい。頼めるだろうか?」


「命の使い方は本人の意思が最優先だ。依頼主の貴方の気持ちも分かるが、本人が手術を嫌がるなら無理強いはしたくない」


「分かりました。嫌がる彼を無理矢理手術するのは私共も本意ではありません。宜しくお願いします」



「ふーん、助かるのに手術をしたくない…宗教上の理由か何かかな?」

「それより、さっきのお茶とクッキー、味がしなかったにゃ?」


「無味無臭で不味かった…毒はなさそうだけど…」

「でも栄養素だけは入ってたにゃ…」

「発想が初期のカロリーバーと一緒だね!」


飛んで渡っても良かったが、念の為身分証明証を提示して橋を渡る。

送迎の車があったので、ちゃっかり乗って向こうの国まで行く。


向こうの國でも身分証明証の提示の必要があり、物々しさを感じる。


「こちらの国へは何の御用ですか?」

なんて言う?素直に人探しは不味い気がする。

「私、鼻が効くので…こっちに美味しそうな匂いを感じて…えへへ♡」


「それなら中央の広場のフード街じゃないかな?お嬢さん凄い鼻してるね…どうぞ!」

「有難うにゃ!」

「お、お邪魔しまーす」

アドリブが効く式部ってば天才!


「あれなら大体どこでも使えるにゃー♪」

「凄いよ式部さん!」


「相手の名前なんだっけ?」

「トゥール・バルジャン、身長180超えの短い金髪の大男でスキルを複数所持、料理人みたいな名前だにゃ♪」


「あら?トゥールの事知ってるの?」

買い物帰りっぽい金髪の女性がにこやかに話しかけてきた。


「いえ、トゥールさんがお身体を悪くされたと聞いて…」

「ああ、そうですか…弟は寝ておりますが、お会いになりますか?」


「お願いします!」


女性の後を着いていき、家に入ると、荷物を置いて弟さんを呼んでくれた。


まぁ、「え、誰?」って顔になるよね。

倒れそうになったから支えに行き、椅子に座らせる。

そして、身分証明書を出して、ありのままを話し、敵意がない事を話した。


「ああ、そうか。お前達も騙されたクチだな。あいつらの言う治療は治療であって治療ではない…」


「どういう事にゃ?」

「あの大統領、いや皆『向こう側の人間』もしくは『人間』と言いませんでしたか?」



「そう言えばそんな言い方してた!」

「奴らは人じゃないですから。寧ろ人から昇華し、神にでもなったかの様な言動に見えます」

「人じゃない?なら奴らは何?」

「サイバーノイド…向こう側の人間は脳以外殆どは機械です。だが、人間としての習慣も残しているから最小限の栄養を経口摂取する。良かれと思って、寿命が短くなった者を攫って強引にサイバーノイドに変えるんだ…」


「皆、人の感じがしなかったのはそういう事か…」


「取り敢えず横になってくれる?医者じゃないけど軽く様子みるにゃ!」

触診と状態診断というスキルで見ると、やはり腎臓が機能してなかった…


「月花…」

「先日めっちゃマイナスしたし、それに比べたら安いよ!使っちゃって!」

「月花有難う!腎臓再生!」

「ちょ、それ滅茶苦茶高い使い捨てスキルじゃ…?」


「いいよ、こっちの国にも友達が欲しかったし!」

「そうだにゃ♪」


「済まない、初対面の俺と姉ちゃんに優しくしてくれて…この礼は何でもする!」


「今はこの街に入りやすくしてくれてたら、それでいいよ!」


「まずはもう狙う理由がない事を伝えてくるよ!」

「次来たら街の美味しい物教えてにゃー!」

急ぎ、追手が来ない事を確認しながら大統領のオフィスへ行く。





「そうか、治療してしまったのならサイバーノイド化する必要もないな」

「思ってたのと違うけど、人が救われたのは貴方も本意で良かったでしょ?」

「…本音を言えば…死の恐怖に怯えなくて良いサイバーノイド化を推奨だったのだが…」


「勿論ね、皆死にたくないって思ってるだろうけどそれは人として死にたいっていう人と、人を逸脱してでも生きたい人がいるんじゃないかな?貴方達は寿命が長くサイバーノイドの歴史と知恵がある。すぐに判断しないで人間を対等に見てあげて欲しいにゃ♪」

「うむ、良い言葉を貰ったな。我らは沈丁花じんちょうげの様な存在。人と向き合って、人だった頃を思い出し、人と寄り添って行こう」



「式部、上手く丸め込んだねー!」

「大統領にもなった人間なら相当脳年齢あるだろうし、直球の心打つ言葉が響くかなって♪」

「さす式部!」


って言った瞬間、ノールックで後方に三発程撃つ。


「狙われてた?」

「改造支持派かな?消去イレイズ行動過負荷ヘヴィ二発入れたから大丈夫にゃ」

「話が話だけに根が深そうだなぁ…」

「大統領が考え方を抜本的に変えてくれたらいいんだけどにゃ♪持ち上げる様に話して置いたから良い方向に風が吹いてくれればにゃ♪」


大統領に口約束ではあるが無駄に襲わない事を約束させたのをトゥールさんに伝え、帰路につく。


無駄な争いを起こさず解決してしまった!

これだから天才は凄い!




帰ると何故かあんちゃんがオアシカカフェに居た。

「庵ちゃんどうしたの?映え写真?」

「いや、答案返すの忘れてたから帰り際に来たんやけど、まずは駒鳥鵙こまどり。お前は授業中爆睡してるのにちゃっかり点は取るなぁ…はい、満点や!」

「わーい♪」

「そりゃ、うちの子なんで♪」

面白そうな時には必ず来る小町ちゃん!


鹿鳴ろくめい、お前は普通やな。普通だけに堂々とパン食うてるのが余計悪く見える!はい、五十点!」

駒鳥鵙親子に笑いを堪えられながら返却される。


「庵ちゃん、うちの子は良いとこ一杯あるからそこも見てあげて!パンは怒っておくからっ!」

ママが現れて、ハグされながらお説教予告されたっ!


そんな訳で、駒鳥鵙式部は色々な意味で天才なのだ!

神様が私に授けてくれた、唯一無二の相棒!

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