第40話 Disappearing Classroom

ルクレツィアの疲労回復も考えて、少し早めにホームワールドに戻ってきた。


初戦とはいえ、三連戦を熟して殆ど私達のサポートが要らなかったのは凄いセンスだと言える。

まぁ、本人はグリフォンに踏まれて不満げだったが。


一旦解散して、家に帰りのんびりする。

明日は学校だったな…


なんだか、ここ最近大型のモンスターを出くわす事が増えている気がする。

悪い予兆で無ければいいのだが…


ルクレツィアは研究熱心というべきか否か、アニメをファンタジー系に絞って自分のアイデアを膨らませている。


ママも見てないアニメはルクレツィアと一緒になって見るから、私はママのお腹に顔を埋めて膝枕で少し寝る事にした。

ママの腹筋固った!






今日はママが土日なのに休みだったから、ホラー映画を見ながらのんびり過ごすにゃ!!

しっかりママの膝枕はキープしつつ、ママ手作りのスパイシーサイコロステーキを食べつつ、あの演出家がーとか、音楽がーとか和気藹々わきあいあいと語り合う。

「式部も小花に負けない位に語れる様になってきたねー♪」


「小花ちゃんは下手したら全ての映画のスタッフクレジット覚えてそうだにゃ♪」


「ありそうだねー!私も好きな映画位なら覚えてるけど、あの子何でも吸収しちゃうからねー♪」


「人をカービィみたいに言わないで」


「小花ちゃんお帰りにゃ!」

「小カビおかえりー!♪」


「その呼び方はもうカビ!」



「日曜に珍しくどこ行ってたの?♪」


「同級生がね、クラスの男子の誕生日にプレゼントを渡すらしくて、選ぶのを手伝ってほしいって」


「青春だにゃー!小花ちゃんは何を勧めたの?♪」


「アマギフからウェブマネーまで順番に薦めてみたけどピンと来なかったらしくて…」

「思いの丈が薄っぺらにゃ♪」


「自由度高いしオススメだったんだけど…で次に大型商業施設に行って」

「うんうん」


「雑貨屋でホラーマスクと返り血の偽物とドクペを薦めてみて」

「何でドクペを混ぜたのかっ♪」


「最終的に謎のパワーストーンになったわ…」

「中学生が好きそうな奴―――!!!」


「しかもお揃い」

「後々捨てにくいアイテム―――!」








翌日、平凡な一般中学生として学業に勤しむ私達。

どうしてもアナザーバースの日常と比較してしまうから退屈に感じるが、これが正常なのだと思わないと、私の日常感覚がどんどんずれて行っちゃう!!


そんな時三時間目の十五分休憩に、私と式部がこっそり龍安寺りょうあんじ先生の呼び出しを受けた。



あんちゃんどうしたの?」

「龍安寺先生や、ゆーてるやろ」


「とうとう結婚報告かにゃ?」

「職権乱用して給食の量えげつなく減らすで?」

『申し訳ありませんでした』

「分かればええねん」



「それで、何かあったの?」

「せやねん、ちょっと困った事になっててな。少し手を貸して欲しいねん」


「武力で解決する事なら呼ばれない…痴漢や盗撮も先生に限ってあり得ない…という事は何か無くなった系かな?」

「一発張り倒したろか思たけど、正にそれやねん」

「何が無くなったのかにゃ?」



「窓から見える景色…なんか違和感覚えへんか?」


「窓から見える…窓から…げっ!」

「北校舎が消えてるにゃ!」

渡り廊下の先の校舎が忽然と消えていた。


「しかも、タイミングが悪い事にお昼休み辺りに教育委員会のお偉方が視察で来るねん。校長が結構大ピンチやねん」


「ここはもう校長が居なくなる覚悟で打ち明けるとかにゃ?」

「鬼かあんたらっ!校長、ああ見えて≪社≫の仕事で出席日数減ってるあんたらの事多めに見てんねんで?」


「式部!校長先生の為に頑張ろう!」

「月花、絶対に校長先生を助けるにゃ!」

てのひら返すのが秒やな!」




授業を抜け出して、北校舎跡を訪れる。

一応本当に実体が無いのか確かめるが、透明化してるとかその類ではない。


龍安寺先生の話では、朝は校舎は間違いなくあったそうだ。

という事は、朝八時以降に無くなった事になる。


破壊された形跡もないので、スキルで消した、持ち去った、その類かと推測するが…


「式部どう思う?」

「校舎を消すメリットがゼロにゃ…明確な動機を感じにくい」


「うん、そうだよね。消すメリットを思いつかない。そこさえ分かれば突破口になるかも知れないのに…一瞬、薬物が沢山ある理科室も考えたけど、北校舎にはないしね…」


「そして、水道・下水なんかのインフラが辺りに散っていない…」


「無理矢理校舎を動かせば水道管が破裂したりするもんね…何かしらの形で校舎とこの土地は依然として繋がっている…」



「あ、鹿鳴ろくめい駒鳥鵙こまどりじゃねーか、サボりか?あ?」

「どこ中じゃゴルァァァァ!」

「おな中だろっ!」

以前校舎で落とされ掛けてたいじめっ子四天王だった。


「あんた達と一緒にしなーい!先生の許可は降りてる」


「うお、校舎消えてるじゃねーか!何だこりゃ!」

「それよりも、俺達今日金がねーんだよ…メシ代貸してくれよ。ジンバブエドルにして返すからさぁ…」

「迷惑な外貨両替にゃ!!」


私はさっと、奴らの目の前に小銭をばら撒く。

「小銭だが恵んでやる、一挙手一投足いっきょしゅいっとうそく隈無く見ていてやるから全員四つん這いになって一枚一枚感謝の気持ちと共に有難く拾え。小銭全て合計すればパンを二つ位は買えるかもしれないぞ?」

気持ち、口調は解除後に寄せてみる。


「阿呆かボケェェェェェ!足りねぇんだよ!札だよ!札!ドルでいいよ!」

「何故外貨に拘るにゃ!」


「一つだけ、言っておいてやる…私達二人は特殊な依頼を受けてあちこち飛び待っている。噂位は知ってるな?そして、お前達がある子に呼び出され大変になった。助けてやったのは私なのは聞いているな?」


「ああ、それ位は聞いた」


「あの子はその後、お前達を殺す能力はあったのに…お仕置き程度にし、人への憎悪に身を焦がしこの世を去った…」


「俺達の所為だってのかああ?」

「知るかよいちいちそんな事!」


………

徐に刀を取り出し封印を解除する。


「立場を弁えろ。我が時間を作ってやって遊んでやってるのだ。そろそろ落とし所ではないか?」

刀を抜いて全身真っ赤に光ってるものだから全員ビビりまくって式部が止めに来た。


「全員正座しろ」

竜の威圧ドラゴン・アイでいじめっ子全員が尻餅を突き正座したくても震えが止まらず動転している。


「お前達は岡崎君を加虐し、それを知らないと言った。なら、逆にお前達が我に加虐され知らぬ存ぜぬと言っても許されるな?そうだな?」


「お…俺達未成年だぞ」

「銃刀法違反じゃ…ないのかお前」


天まで伸びるような炎を刀に点けて塵芥ごみの眼前に伸ばしてやる。


「いいか、我の権限は警察、マスコミにまで及ぶ。例えばお前達及びお前達の家族・親戚全員が一cm角のミンチになって発見されても新聞に載らんし警察も動かん。全員我が冗談で言ってるかどうか…我の眼を見ろ」


「…ひぃ…すみませんでした」

「ごめ…なざい」

「ごろざないでぐだ…ざ…」


「貴様達、これから一年間毎日岡崎君の墓に冥福を祈りにいけ。反省し、いじめ行為全般もするな。再犯すればその日の内に命が終わると思え」


『はい!』

脱兎の如く逃げるいじめっ子四天王。



「はいはい、どうどう…月花やり過ぎにゃ」

「遅かれ早かれ、いつか言おうと思ってたんだ。いじめで心を病む者がいてはいけないし、野放しにしてもいけない。少しムキになったから顔を洗ってクールダウンしてくるよ」

「いってらっしゃいにゃ♪」




外の水道の水が生ぬるい…

あいつら大人しくなってくれるといいけどなー…


よし戻ろう…と運動場の水道から戻ろうとしたら式部が走ってきた!


「月花!ちょっと、あれはやばい!」

「式部どうしたの!?」


「校舎のあった場所の上空!!!」

「見てみるね!天をる瞳!」


上…どの辺か目測が付けにくい…な…あ!


「嘘でしょ…?」


校舎がそのまま上に浮いていた!

「式部、校舎跡に立って位置情報と《社》に連絡して、飛行機が通過しないか連絡確認して!」

「分かった!」


念の為式部の上に障壁を張っておくが、あの質量がそのまま落下してきたら大惨事では済まない!


式部が連絡している間に上空に様子を見に行く!


間違いなくうちの校舎だ…

綺麗に水平に浮遊している。

全面窓越しに見たが、人は居ない様でほっとした。


下から見ても上から見ても浮遊の原因と思しき物は確認出来ない。

落下だけは防ぎたいので障壁に乗せる形で空間に留めておく。


やはり…スキル関係だろうなぁ…

もうひと工夫しておこうか…飛行機だけ心配だけど…



下に降りると式部の連絡が終わっていて、飛行機は上空を通過しないとの事で安心した。


次は念の為に龍安寺先生に連絡しておく。


「あ、彼氏がいない先生?」

「ほんま、いてまうでマジで!」


「学校全員避難させるとしたら最短何分?」

「死ぬ気で三十分やろか…」

「下手すると雲の上から校舎が落ちて来るかも…あと、犯人像が見えて来ないの」


「ふーん、何故今日なんだ…教育委員会のお偉方が来る時に限ってタイミング悪い…」


「……そうか、そこを逆に狙った可能性もあるか!」

「先生、お偉いさんの経歴とかここ最近の仕事とかちょっと法に触れたやり方で調べられるかにゃ?」

「ちょっとアレな先生扱いするな!三分でスマホに送る!」

個人情報がゆるゆる!



きっかり三分後、私達のスマホに経歴と最近の仕事が送られてきた。


「うーん、視察とか会議の連続…後は採用や解雇、その位かにゃ…」

「私が単独任務で他所の学校に行った時と、この最後の懲戒解雇の時期同じじゃない?」

「本当にゃ!」


「犯人が一気に絞れた!自分がやらかして解雇になったのに逆恨みしてるんだ!短髪、メガネ、やせ細った長身の男だ!絶対この周辺にいる!」

式部と自分に飛行結晶を着けて、周辺を探し回る!

あのスキルタイプは目測しながら使う筈だ!

遠視スキルも考慮しないと!

犯罪経歴がある奴は公式スキルショップから購入出来ないし、前回スキル全損させたからそれ程多くのスキルを所有していない筈だ。



『月花いた!校舎の方を眺めつつ上に視線をやる男!』

「式部!スキルガンで遠距離から技術強奪スキル・スティール!」


『OKマイハニー♪』

「校舎を浮かせてるスキル…式部に移るから一旦解除になる…校舎を降ろさなきゃ…」


上からゆっくりゆっくり白い塊が降りてくる…

念入りに結晶を校舎と同じ面積に上下に広げ、蜘蛛の銀糸を最高強度でぐるぐる巻にしてコントロールしている。

歪んで窓が割れても、この高さでは凄い被害になりかねない。


慎重に且つ早く降ろさないと教育委員会の人達来ちゃう!


なるべく校舎の跡ぴったりに降ろす様にして、結晶障壁と蜘蛛の銀糸を解除し、完了!


「式部、そっちは大丈夫?」

『警察待ちだし、問題ないにゃ♪お疲れ様!』

「式部もお疲れ様!先生に報告だけしてくるわ!」




「先生、無事完了したよー」

鹿鳴ろくめい駒鳥鵙こまどりならやってくれると思てたで!無事教育委員会の人ら来る前に終わらせてくれて、ほんまおおきにな」


「あと、いじめっ子四天王脅しておいたから、更生するか少し様子見てあげて」


「……そんな事があったのか?言い辛い話なんやけど…」




なんだ、胸が嫌な動悸を始める




「…例の四人らしき連中が電車に飛び込んで四人共亡くなったみたいやねん…何かブツブツ言いながら様子がおかしいのを目撃されとる…」



「まさか…私のせいで…」

「いや、お前が脅した処で武力に怯えるだけでブツブツは言わんやろ。あの子らが狙われる心辺りあるか?」


「……あるとしたら…岡崎君を殺した奴」


「そこに繋がるのか…あんたらも狙われてるなら注意しぃや?私が見やんでも分かる位、目的の為に人の命を気にせーへん奴や…」


「有難う先生…」




式部と合流し、縁切りの奴が私の姿を見て怯えきった処でパトカーが迎えに来たので犯人を引き渡した。

そして、式部に先程の事を話す。



「後味が悪すぎる…まるで私達の素行を監視してるかの様なタイミングにゃ…」


「一番タイミングの悪い選択をして、私達のメンタルを攻撃してくる…思ったよりあの魔女は近くにいるのかも知れない…」


「前回はスキルショップのウェイトレスをしてたし、人間不信が広がるにゃ」


「私達だけでも合言葉決めておこうか!そう言えば、校舎を持ち上げたスキルって何だったの?」


「ゴムぱっちん」

「…え?」

「テキストを見ると子供向けスキルみたいで、手に持った物を引っ張ると伸びて、手を離すとパチン!ってなるだけなんだけど、効果範囲が明らかに改ざんされているにゃ!これも恐らく魔女の仕業…」


「校舎がぱっちんされて、加速して地上に激突したら大惨事じゃ済まなかった…」




「魔女の一連の事件、発端が小花ちゃん誘拐だったし、家族構成がバレてると予想して、家族ごと避難した方がいいかな?」


「そうだね、ママ達に相談して家族配分も替えた方がいいかも?」

「最終的にパパがどちらに行くか揉めそうな予感しかしないにゃ♪」

「もう、ママと小町ちゃんがバトルする姿が想像出来るわー!」

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