第38話 Correct Bow Usage

 小町ちゃんも水辺熱が下がりすっかり元気になって、いよいよルクレツィアの冒険者デビューだ!


《社》に冒険者登録して登録証を特別に発行してもらった。

 異世界の人が異世界で冒険者登録するとかがレア案件だからだ。


 私が身元引受人になって、こっそり無理矢理強引にお願いしたのだが…割とすんなり通るとか…こんな時、私みたいな美少女は得だと思う!ね!?



 秘密基地で集まって、ルクレツィアの方向性を決める。

「さて、ルクレツィア!自分の俊敏さ、非力さ、アニメなんかで得たワクワク感等を加味して、どんな武器使いたい?」


「…飛行石?」

「ラ〇ュタがないからにゃー…他は?」


「実用的といえばあれかなー?携帯型心理診断鎮圧執行システムというダーティーなアレ」

「実用的の意味を辞書で引けっ!エルフ特有の力の弱さもあるし、飛び道具が無難かな?」


「だよねー…でもちょっと殴りに行きたい気も…」


「ままま、何事も体験だから!まずは弓からやってみよ!精密な射撃が出来てもかっこいいよ!」


「成る程、一理あるわね!やってみる!」


『ちょろいな!』




 ≪社≫支給の私達が着ている防刃コートを着せて、初めて三人でダイヴ・インし、いつものファンタジー世界へ降り立つ。


 双子山の近くのいつもの街へ行き、ルクレツィアに武器屋で手に馴染む弓をゆっくりと選んでもらうつもりで早く来たのだが、彼女は思いのほか早く武器を決めた。

 武器屋のおじさんが何もアドバイス言わないのに良い物を選んだって褒めてくれた!

 エルフの王宮で日頃から良い物を見ていたから鑑定する眼が養われてたのかも?


 弓を買って上機嫌のルクレツィアに何故それを選んだのか聞いたら「見た目」と三文字しか返答が来なかったから、心の中で武器屋のおじさんに謝罪した。



 次はスキル!

 弓矢が切れたときは元々装備していた短剣もあるが、それ一本では心許こころもとないのでスキルで補おうという考えだ。


「ルクレツィアは回復スキルは持ってるのかにゃ?♪」

「あるけど、人にしか掛けられない回復と、リジェネしかないのよね」


「リジェネ凄いじゃん!高額スキルだよ?」

「いやいや、気持ち回復してるかなー?程度だから…」


「回復とデバフ消去は生命線と言っても過言じゃないからねー!とりまスキルショップいって回復と遠近共に使えるスキル買おうか!」

「イエス!マム!」


 スキルショップに着くなり、カタログを食い入る様に見るルクレツィア。

 そう、スキルショップはこの瞬間が妄想が膨らんで楽しいのよ!


「ルクレツィア楽しそうだにゃ!♪」

「私達も風邪ひかないとかそんなスキル探そう!」

「うんうん♪」



 スキルショップは楽しすぎて下手すると二時間程時間泥棒されてる時すらある。


 私達は常駐スキルの【風邪・病気抵抗上昇】を買い、ルクレツィアを待つ。


「お待たせー!買ったよ!」

「お疲れ様!その表情はいいスキルが手に入ったみたいね!」


「ふっふーん!後で見せてあげるわ!」


「あれ?お金は?」


「私、こっちのお金はあるから大丈夫!でも、稼いで有り難みを実感しなきゃ!」

「偉い!良く言った!それもアニメから学んだの?」


「賞金稼ぎが毎回失敗してシイタケとかゆで卵とかしか食べられてなくて可哀想なアニメだったわ…」

「あのアニメを可哀想というのはルクレツィア位にゃ♪」


「よし!冒険者ギルドへ行って依頼を探そう!」




 冒険者ギルドへ言って、掲示板を見る。

 掲示板には護衛、討伐や薬草入手、人探しまで色々貼られている。


 受ける人は依頼書を掲示板から剥がして、ギルドの人に申告、名前を伝えて後は達成したら再び申告するだけだ。

 申告するのは、依頼書だけ持っていって途中で辞める人をチェックしたり、引き受けた人が同一であるか確かめる為だ。



「ルクレツィア、出来そうなのある?」 


「まだ死にたくないから小手調べにしたいかな…」 


「危機感があるのは良い事にゃ♪…これはどうにゃ?」 


「ゴブリン退治…集団で襲ってくるゴブリンが食料だけじゃ飽き足らず、人を殺し耳を切り落として持ち去るので全滅させて欲しい…うええ…」


「何か気味が悪いね…」


「私、耳を取られたらエルフの美少女から普通の美少女になるじゃない!いやぁぁぁ!」

「ポジティブ思考なのはいい事にゃ♪」


「じゃ、これ引き受けようか!街の人たちが迷惑してるみたいだし!」


「オッケー!デビュー戦頑張る!」




 街の南側は森と岩場が入り組んでおり、少し複雑な地形となっているのだが、その何処かに巣を作り繁殖している様だ。

 低級モンスターだが、鈍器や武器、石を投げる等、意外と厄介なモンスターだ。


 上空から探してみると、森の一部に開けた場所があり、大きな洞窟が出来ていた。

 街から然程さほど離れておらず、討伐しておかないと今後の被害の想像が容易に付いた。



「あの辺りかな?降りてみよう!」


 三人で飛行から地上に降りる。

 コロちゃんは万が一のサポートの為にルクレツィアの頭にいる。


「一発何か打ち込んで追い出す?」

「それが一番いいかにゃ♪」


彼方よりの星光スターライト・ビヨンド!」

 弱い呪文が無かったので、加減出来るこのスキルを弱めに撃ち込んで見る。


 中から木を叩く音が聞こえ、子供位の背丈でスキンヘッド、耳が長く細マッチョだが腹が出ていて簡素な鈍器と服を纏うゴブリン達がゾロゾロと現れた!


 リーダーっぽいのが叫び声を上げると、私達に容赦なく襲い掛かって来るがゴブリン如きに負ける私達ではないので、八割ルクレツィアの方に余所見よそみする。


 どこで覚えたのかルクレツィアは弓を横にし三本同時に弓を放つ!

 数が居るもんだからそこそこ当たるし、三本中一本は急所に当てている!


 接近されたゴブリンには上手く蹴り技を当てて仕留めている!

 蹴り技と弓、意外と格好いいじゃん!


 だが如何いかんせん弓矢でこの数は多すぎる!


「数多すぎ!数を減らすわっ!!!」


 お、スキルを使うか!


絶滅する蹂躙デストロイ・オーバーラン!!!」


 なんか強そうなスキル!!!


 ………ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

 え、なんの音?






 …………牛だ



 荒ぶる牛の軍勢がゴブリンを轢いて踏み荒らしていく…


 草木もゴブリンも一匹残らず牛が蹂躙していった……


 辺りが静かになり、死屍累々の凄惨な光景と風の音だけが聞こえる…


「……どうよ!?」



「え…あ、うん。何故そのスキルを買った?」

「…良くない?」

「威力はあったけど、魅力は無かったにゃ♪」


「おっかしーなー…強ければ大体格好よく見える筈なのに…」


「まぁまぁ、第1ステージクリアだね!後は中に残っていないか探しに行こう!」



 牛の足型が付いてぐったりしているゴブリン達の間を縫って奥に進む。


 奥に進むほどに洞窟は広くなっていき、横穴が小さいゴブリンの巣だろうか?足跡が残っている。


 そのまま進むと少し大きい広間になっていて、高台の椅子に大きいゴブリンが座っていた。 

 あれはゴブリンロードか?

 首から紐で人の耳がぶら下がっている…


「メズラシイ耳…ソノ耳モラウ」


 ドズンッ!と上から地響きを立てて降りてくると、後ろからまたゴブリンが出てくる!

 ゴブリンロードがボロボロの剣を掲げると全員が襲い掛かってくる!


 ルクレツィアはロードとソロ対決だ!

 放った弓矢を剣で落とすと、蹴り技でルクレツィアを後方に飛ばす!

 膝でガードしてたものの軽い分遠くに飛ばされる!

 それを見て素早くルクレツィアを追いかけるロード!


 だが、暗闇から弓矢が飛んで来てロードの肩を射抜く!

 同時に絶招歩法からの頂肘を決め、そのまま鉄山靠でロードを前方に飛ばす!


 ロードは俊敏に起き上がると今度こそ剣で仕留めようと走り寄るが、ルクレツィアの弓矢が邪魔で近寄れてない。

 流石エルフは敏捷性アジリティが高い!


 だが持久戦で絶対数がある弓矢は不利だ。

 ルクレツィア、どうする?


 あ、私と式部はもう雑魚の掃討を終わらせてます!


 ルクレツィアの矢が尽きた!

 喜び勇んで、剣を構えて走り寄るロード!


 振り上げた剣を弓で受け流して、ルクレツィアが取った行動は…弓の弦を相手の首に掛けて後方に周り、!!!

 よく見たらこの状況を想定していたのか、両手に革を巻きつけている!


 なかなか凄惨な光景に私も式部もちょっと絶句しちゃう…


Bow矢ぼうやだからさ…」


「まだ赤い人引きずってたのか!」

「ちょっと上手いけど、絵面が上手くないにゃ…」





 ……ズン

 ……ズン



「え?何?」


「まだ何かいる!?」


 奥に更に続く洞窟から、大きなゴブリンが出てくる!

 頭に冠らしきものが…ゴブリンキング!?

 こんなレアな奴が街の近くに!


「ルクレツィア!矢がないでしょ!?隠れてて!」


「分かった!」



 先日のミノタウロス程じゃないけど、それでもゴブリンにしては大きいなぁ…


 手に持つ棍棒を式部に振るって来たので名も無き刀で先端を切り落とす!


「穿て!魔槍!!」


 式部の魔槍が肩を穿き、返しで腹を穿く!


 統率力が高いのかもしれないが動きが愚鈍だ!


名も無き六之太刀ネームレス・シックス!!」

 技を叫んだ瞬間、刀身が炎に包まれる!


炎陽えんよう!」

 炎属性の乗った流れるような六連廻転斬りでキングの上半身と下半身を分断する!


彼方よりの星光スターライト・ビヨンド!」

 収束光線で全て焼却した。



 焼け焦げてるキングの上を、牛の大群が追い打ちと言わんばかりに轢いていく…


「ルクレツィア!牛さん達からいい匂いがするよ!」

「何か牛肉の香りがするにゃ!」


「ふふふ…確信した!いざとなればスキルが非常食に…」


 ルクレツィア……恐ろしい子!


「……ぉーぃ」

「…ぉーぃ!」


「誰か囚われてる!?」


 更に奥に進むと、簡素な牢屋に痩せ細った男女が囚われていた!

 名も無き刀で牢屋を斬り、中の方々を助け出す事が出来た。



 捕虜だった人達を連れて、街に帰りギルドに報告する。


 ギルドからお医者様達に連絡が行き、入院の手続きをしてくれた。

 そして、張り紙を渡して受けた事を照合されて賞金と人質救出の報奨金を頂き、これで依頼達成となる。



「ルクレツィア、初めての戦いはどうだった?」

「人質も助けられて良かったにゃ!♪」


「…もっとスパッと切れる弓の弦は無いのかしら…?」

「弓はそういう使い方しないのっ!」

「そんなトリッキーな動きをするのはルクレツィア位のもんにゃ♪」


「…でも、力は弱かったし、弓も当たらなかったし、最後に至っては何も出来なかった。それでも人質を助け出せたのには大きな意味を感じたわ!」


「うんうん、合格!自分も大事!他の人の命も大事!」


「ゴブリンも命ではあるけど、倒さなきゃいけなかった?」


「そこは難しい話だけど、会話や触れ合いで済むならそれでいいし、敵意・悪意を持って襲ってくる相手を放置してると、放置した期間だけ命が減っていく。折り合いが付かないなら倒さなきゃいけないにゃ」


「やらなきゃやられる…これはもっと考えなきゃいけないテーマね」


「ルクレツィアが見たアニメのヒーローも何もしない人を殺さなかったでしょ?」


「……ボルガ博…」

「それは言っちゃ駄目!あと富○監督の一部の作品も!!!」



 三人で貰ったお金を三等分する。


「初めて稼いだお金…金銭感覚変わるね。命懸けで稼いだお金…使う時も考えるかも」


「今日一日で色々学べたね!経験で覚えた事は何より頭に入るからね!」


「大事に使う!まずは弓の弦の切れ味をアップさせて……」


「こだわりが凄いにゃ♪」



 何はともあれ、お昼ご飯がまだだったので食べに行くついでにルクレツィアの服を買いに行く。


「服要らなくない?顔も洗ったし、返り血は気にしないよ?」


「返り血は街の人が見たら引くから!あとスカートだからやっぱりチラチラ見えるのは宜しくない!」


「確かに、メンズが居たら恥ずかしいかも!」


「動きやすくて、丈夫な物がいいから何着か買っておくといいよ?」


「下手したら水中に引きずり込まれたりするから、風や水でなびかない物がオススメだよ!」


 考えながら、色々と試着しているルクレツィア。



「初めての冒険は成功だったにゃ!」


「やはりアニメを徹底的に見せたママの教育方針凄いっ!」


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