第36話 Retrieval and Visitation

 スキルショップの店員さんは大体が同じ服を着ており、基本的に顔を見せない。


 基本的に現地の人が国から要請を受けて経営し、どの世界も同じスタイルを取っている。

 襲撃されても大丈夫な様に腕利きの衛兵が常駐しており、今まで襲われてスキルを奪われたという話は聞いた事がない。


 噂では、衛兵は超高額スキルに分類される物を支給されていると噂されている。


 詳しい話を聞く為に、再度スキルショップへ赴く。



「こんにちはー」


「へい!らっしぇえっ!!!」


「店を間違えました」


「待て!帰るな!用事があるんじゃないのか!?」


「挨拶に暑苦しさを感じたのでプライオリティを一番最後にしようかと…」


「ここまで来たのならもう用事終わせないー!?」



「さて、これより貴様の尋問を執り行う」


「…私にというか男全般に何か深い恨みがあるのか?」


「この店の女性が行方不明だと依頼を受けたんだけど…有益な情報あるかにゃ?」


「店長がいなくなったのは昨日…夕方にお客様がいらっしゃった時にはもう誰もいなかったみたいで…」


「昨日の昼までは居た…と」


「それって、今現在も販売できないんじゃない?カタログと全く違うラインナップになるし…」


「あまりシステム面は言えないんですが、お店に居れば大丈夫です。だから店長が帰宅途中に襲われてもスキルを所持していないので大丈夫です」


「ショップ独特の防犯システムがあるのね…それは店から出たらすぐ発動するの?防犯の手続きをして出ないと駄目なの?」


「恐らく…防犯システムを起動する前…営業中に居なくなった状態では無いかにゃ?…」


「そうです、だから今は私の預かっているスキルを販売してますが…億単位のスキルを持って消えたとなれば洒落にならない騒ぎになります。こちらからも≪社≫にお願いしたんですが…」


「あれ?依頼が被っちゃってる?」


「見たいだにゃ♪」


「みたいだねー☆」



『グレース!!!』


Unbelievableしんじられない!まさに今、話をしてた件で呼ばれたの!コロちゃーん!久しぶり!」


 三人でハグをして再会を喜び合う!

 コロちゃんは再開を祝したのかグレースの頭に乗った。


 今聞いた情報をグレースに話す。


「スキル目当てか…女性が目当てだったか…」


「まずは周辺で、ショップの人が歩いていたかどうか、不審人物がいなかったか聞いて回ろうか?」


『おー!』




 三人で手分けして、不審な人物を見かけたか聞き込みをする。


 そして、遺跡の門番の方に、ここ最近でマーメイド以外の人種がここを出入りしたか?マーメイドが何人出て行ったかを聞き込む。



 総合して出た情報は、リザードマンとサハギンを除いて、私達以外の人間は見ていない。

 常駐しているスキルショップの女性も人間だが一切出歩かない。

 外へ出たマーメイドは、アクラドシアへの伝達の女性が一人。

 中へ入った人は私達のみだ。


 現状では、マーメイドの誰かの犯行の確率が高いが…気性を見る限り、そういう激しい情動を取る種族に見えない…

 たまには確率論より感情論を優先してみたい。




「あの、一旦外に出たいのですが、戻る時はどうしたらいいですか?」

 門番の人に話しかける。


「あー、それでは私の鱗を一枚お持ち下さい。還る時には入口の前で鱗を強く押してみて下さい。私がそれを感じ取ってデストラップを解除しますね」


「デストラップ!?」


「グレース、ここは普通生きて通れないらしいにゃ…」


Oh, my Godなんてことなの…」


 鱗を頂き、念の為リザードマンとサハギンの住処を教えてもらい外へ出る。



 遺跡の入口まで戻り改めて確認してみると、入り口付近だけ湿った砂地で海へ近づく方が湿地帯になっていた。


 入ってくる時は全く気付いてなかったのだが、砂地が多少水分を含んでいる分足跡等が残りやすくなってる。


「この足跡はグレースかな?アクラドシアあたりから来た?」

「うんうん!当たりだよ!」


「これはリザードマンかな?トカゲみたいな足跡に尻尾を引きずってる線が付いてる」

「こっちはサハギンだにゃ!尻尾の先にヒレがついてるから、足跡の上に箒で掃いた様な跡があるにゃ」


「私と交差してる足跡は、アクラドシアに使いで出たマーメイドさんの足跡ね…」


「それ以外は目立ったとこは……ん?」


「月花どうしたにゃ?」


「これ…サハギンの足跡…尻尾が消し掛けてるけど、外に向いてない?」

「本当だ!一番上の足跡は外に向いている!」


「昨日の昼にリザードマンが出て来て、その後にサハギンと対峙した。リザードマンは全員帰ってもらったけど、サハギンは全滅させた筈…」


「また壮絶な闘いをしてたのね、月花は…」


「リザードマンはね、臭くてトカゲで髪の毛生えてる奴が居たけど、悪い奴じゃなかったから逃したの」

「臭くてトカゲで髪の毛生えてる、の部分しか頭に入ってこなかったわ!」



「兎に角、何匹かが逃げてる…何かしらの用事で戻った…最悪スキルショップの人をさらった可能性もある」


「マーメイドの誰かが犯人の可能性も無くはないが、これを見るとサハギンの動向の方が気になってくるね」


「教えてもらったサハギンの住処行ってみる?」

「うん、そっちの方が当たりの気がする!二人とも戦闘準備と水中呼吸の準備しといてね!」


『了解!』





 二時間程湿地帯を崖沿いに進んでいくと、崖と崖の間に道が出来ており、先に進むと崖の中に大きな湖が見え、その周囲の崖に岩を削って幾つも住処が出来ていた。


 丁度正面が親玉の住処だろうか?

 そこだけ装飾が細かくなっている。


 真正面から進み、正面から堂々と入る。

 昨日結構な数を倒したが、あとどれ位サハギンの残存勢力がいるのか?

 推測が付かないが、人をさらって悪巧みをしてるなら懲らしめなければならない!




 ソロで歩いて中に入ると、突然足元に三叉の鉾が二本刺さった!


「立ち入るな!ここは我らサハギンの聖域!」

「ぬ、貴様!マーメイド殲滅部隊を殺した奴だな!」


「貴方達がスキルショップの女性を連れ出したのは分かっている!ただちに返しなさい!」


「……そこまで知ってるなら話は早い」

 サハギンは会話の駆け引きとか知らないのか!?サラッと自白したじゃん!



 サハギンが叫び声を上げると、建物の至る処からサハギンが武装状態で飛び出してくる。


殲滅部隊せんめつぶたいの敵だ。弱肉強食の掟を味わえ!」



 自分の周囲に結晶をバラバラに百枚程発生させ、周囲に円状の配置する。


 上から見ると歯車の様に規則正しく展開している。


 敵が向かってきたらその方向に手を翳すだけで、結晶が敵を切り裂いていく。


 そのまま道なりに敵を結晶で倒しながら進んでいくと後方から敵が三叉の鉾で上から突いてくるが、手を翳し一旦防御壁を構成し、その後に結晶でサハギンをバラバラにする。


 前方から大量の鉾が飛んでくるが結晶で障壁を作り、弾き落とす。


 階段を降り、見えるサハギン全てに手を振りかざすと結晶がサハギンを薙ぎ払っていく。


 パパの真似でやってみたけど、これ強いな!手を振るだけでイメージ通りに動く!



 今のんびり歩いているのは、先に式部とグレースに潜入してもらってショップの女性がいないか見てもらう為だ。


 これだけ派手にやっているし陽動は成功している筈。


「まだ何か文句があるならかかってらっしゃい!相手になるわよ!」


『者共、引くがよい…』


 周囲に反響する様な大きな声で誰かが喋ったかと思うと、サハギンは横並びに整列し、突然正面の建物から装飾に激突しながら式部とグレースが吹き飛んできて、建物中央にある湖に落ちた!


 二人も気になるが、二人がこの程度でやられないのは知っている!

 まずは人質優先だ!


 ダッシュで今二人が投げ飛ばされてきた建物に突入したが、外が明るかったのに対してここは薄暗くて、目が慣れない…



 目が慣れてきた頃に見た光景は……奈良の大仏より巨大なサハギン!!


 横には両足を鎖で壁に固定されている女性がいた!


「その人はスキルショップの女性だな?返してもらおう」 



『マーメイドの城の乗っ取りの裏で、万が一しくじった時の為にスキルを強奪して再度城を襲撃するつもりだったのだが…こんなに早くバレるとはな?』


「しくじる可能性考えてたっ!危険なスキルを易々と渡す筈が無いだろう!」


「そうか?その女は気持ちよく二つ返事で渡してくれたぞ?ここで死ぬまで我らの子を産み続けるか、スキルを渡すか選べと言ったらなぁ?ギャハハハハハ!」


「うっわー生理的に無理だわーサハギンの子供を産むとか…」


『我らは優秀なサハギンの一族…子を成し育てる事は生物に於いて無上の喜びなのだ』


「女をなめるなよ!?女は好きな人の子を産んで育てるのが喜びなんだ!」


『違うな、優秀な遺伝子を残し、後世に種族繁栄をもたらす事こそ生きる者の務めであり女は優秀な種族を育む道具だ』


「店員さん、大丈夫!?何もされてない!?」


「大丈夫です…が…怖くて強力なスキルを幾つも渡してしまいました…ごめんなさい」


「問題ない、私がすぐ助けるから!」


「針千本の嘘」

技術破壊スキル・ブラスト!」

 と同時に女性の周囲と私の前に障壁を出す!


 障壁に針が刺さり難を逃れるが…技術破壊スキル・ブラストが効いてない!


 攻撃を散らすか!

「機械仕掛けのデウス・エクス・マキナ襲撃の魔狼アサルト・ウルヴズ!」

 デッくんとフレキ、ゲリで相手を撹乱する!


爆裂する迅雷デトネート・ライトニング!」

「スキルキャンセル!」


 スキル破壊が通じない上にスキルキャンセルも…


 が、充分時間は稼いだ!

 フレキが女性を繋いでる鎖を噛み切ってくれたのだ!


 女性を乗せて遠くまで運んだので、もう派手に動ける!


『漂う湖』

 私の周囲に水が発生し、球状に包まれそうになる!

 呼吸する大地は予め掛けてあるのだが、サハギンなら次の攻撃は…


『スキルキャンセ…!』

技術斬スキル・スラッシュ!!」


 効いた!これなら通じる!

 引き付けて一瞬で回避し、相手のスキルキャンセルは漂う湖に直撃。

 私は、相手のスキル無効を斬り払った!


『何故だ…スキル破壊は効かない筈だ!』

「何を持ってるのか知らないけど、スキルに全体スキル破壊無効って書いてる筈よ?単一対象なら問題ない訳?分かる?お魚さん」


『おおおのれぇぇぇ!!!』



名も無き封印ネームレス・シール解除リリース!」

 刀の封印を解除して眼が赤く光り、闘気を纏う。


『死滅する水ど…』

 言い終わる前にサハギンの口を斬り裂く!

『ぐぅいえええええ!』


「知ってるか?詠唱出来ないと、どんな高額スキルも塵芥ゴミらしいぞ?」



 尾鰭おびれで吹き飛ばそうと動いたみたいだが、デッくんとフレキ、ゲリが散々攻撃していたのでもう動かせない様だ。

 デッくんと魔狼を戻し、もう何も出来そうにないサハギンの眼前に立つ。


 一瞬嘲笑う様な表情を見せた瞬間、両腕で私を捕まえに来た!

 両腕を避けつつ、ついでに両腕を斬り落としておいた。


「…スキルショップの女性を誘拐してやりたい放題…あんなに酷い怯え方をさせて良心が痛まないのか?」 


『ひひひはひあひはぁ!』


「聞こえん。はっきりと喋れ」


 口をもう一発斬る。


「じょへいにはゆびいっほんふれてまへんたふけて…」


 眼球を思いっきり刺してえぐる。

「スキル譲渡は両手を触れないと駄目だろ?嘘をつくな。今まで何人の民をこの手口で攫った?…まぁ寛大な我の心は、正直に吐露する者をゆるしてやるかも知れぬ」



『……たぐざんじましだ…』


「んー…いい子だ!正直者への褒美として生まれ変わる機会を与えてやろう」  

『あ―――!やめでやめでやめで!!!』



絶対零度アブソリュート・ゼロ…」


 秒で巨大なサハギンの身体が白く硬く冷気が見える位に凍りつく。


「凍らせてもおぞましい物はおぞましいな。絶対無限アブソリュート・インフィニティ


 小さな火球が胸の辺りを溶解させながら身体に入っていく。


「-273.15 ℃と摂氏せっし5・5兆度を同時に味わえた最初の生物だぞ?無上の喜びであろう」


 去ろうかと思ったらブルブル振動して気味が悪かったので止めを刺す。


名も無き五之太刀ネームレス・ファイブ!」

 当てた最初の技が五段攻撃になる!

 今日は袈裟斬りを入れてみると、更に袈裟斬りが追加で四発入り、サハギンの身体が斜めにズレていった。




 表に出ると、式部とグレースがサハギンを殲滅してたし、女性も無事で良かった…



「済まない店員よ…サハギンボスの両手を切り落としてしまった」


「大丈夫ですよ!トラブルありきの依頼で話が行ってるでしょうし請求もないと思います!それより乱暴される前に来てくれて良かった…」


「わーしっかりしてー!よしよしにゃ!」


「サハギンの子供に『ほーらママでちゅよー!』って言ってる姿をどうしても想像出来なくて…」


「わかる!恐ろしく無理よね!!!」


「リザードマンも大概だったにゃ♪」


「私なら腕時計に仕込んだノートにサハギンて書きマス!」


「グレースが一番怖いっ!」




「待て」


 男の声が周囲に響く。


 見ると黒髪、ややロンゲでマスクで顔を隠している。

 マントで耐熱処理をしていて、全身黒ずくめでロングブーツを履いていた。


「ここのサハギンは全て処分したのか?」


「ああ、女性を誘拐してスキルを奪ったから私達が掃討した。だったら何だ?」


 まだ封印解除したままだったから戦闘状態を継続している。

 後ろに障壁を張って三人を護る。



「段取りが少し変わったが死んだのは問題ない…が、少々肩透かしを喰らってつまらんのでな。手合せでもしてもら…おう!」



 腰の剣を振るうと斬撃が飛んできた!


 名も無き刀で斬撃を斬り弾くと男が感心する。

「衝撃波を斬るとはなかなかの腕前。これならどうだ!!」


 猛烈な勢いで離れた我の元まで飛んで来て連撃を決めようとするが全て受け止める!

 剣を斬れない…あれは魔剣か!


 連撃を決めれなかったからか、男はすぐ後方に離れながらスキルを唱える!

「シン・フレイム!クアドラブル!」


 四方向から灼熱の炎が迫る!

反撃の魔狼リベリオン・ウルヴズ!!」

 フレキ、ゲリが炎を二つずつ炎を喰らい、男に撃ち返す!

 男が入れ違いにもう一度炎をこちらに撃ち込む!


消去イレイズ!」

 炎を消去し、反撃の動きにシフトした瞬間、額に石が激突した!

 炎に隠して投げてきたのか!


 流血し左目に血が滴るが、戦闘に問題ない!



 そして痛みで一瞬目を離した隙に男が消える!

 流血して死角が出来たのを把握している!


 だが、我の方が上だ!


 左に振り返ると私がこっそり貼っていた近寄らないと見えない位の蜘蛛の銀糸に絡まっている。


 そこに躊躇ちゅうちょ無く飛び込んで技を決める!

名も無き切り札ネームレス・ジョーカー!」

 男が不自由な体制で刀を受け止めた為に剣が折れる!

 折れた剣の間から手を伸ばす…


「消失する根源ヴァニシング・コア…」


「スト――――――ップ!!!相手が死んじゃうにゃ!!!」



 われわれに還る。

 いかん、遊び過ぎた。


「現役JCの顔に傷をつけるとか死罪五回でも安いぞ?」


「取り敢えず封印しなさ―――い!!!」


 式部が煩いので刀を封印し、男の周りの蜘蛛の糸を斬って首根っこを持って飛んで皆の所に連れて行く。


 すぐさま式部が月光の相愛で顏の傷を治してくれた。



「初対面でここまで差を見せられるとはな。ここを制圧する腕を見越して、敢えて実践でやったんだが」


「いや、こっちも油断してたわ。いい勉強になった。で、貴方は誰?」


瓦堂かわらどう重工の冒険者インターセプタ―、シャドウだ。そちらも≪社≫の関係者なんだろ?」


「私がレクスで、こっちが相方のデッドエンド、彼女は友達でアメリカの企業所属の…二つ名出来た?」


「イエース!リバティだよ!宜しく!」


「思い出した、大会覇者のレクス、それにデッドエンド…君はあざといむごいと評判だった…」


「もう全世界の人に忘れて欲しいにゃ―――!!!/////」



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