第34話 Avoiding Traps

 海中都市ウォータリア。


 水中にこんな巨大な都市があるとは驚きだった。

 見た目は地上の都市に近いが、至る所に美しい珊瑚が生えていたり、建物そのものが七色にうっすらと輝いていたり、と神秘的なデザインだった。


 都市内に入り、しばし見惚れていると直ぐに迎えに来てくれた女性がいた。



「お待たせしました《社》様。私は案内役のトワと申します。宜しくお願いします」


 ニコッと美人に素敵な笑顔で挨拶されたので「ど、どうも…」とコミュ障みたいな挨拶になってしまった!


「どうぞ、こちらです」


 どうやら城に向かっている様だ。


 門番の女性も、このトワさんも肌が少し青いが、地下で暮らしているからだろうか?


 そういえば男性を一人も見かけない。

 老いも若きも全て女性だ。


 少し迷いやすそうな道を正確に抜けて城に到着。

 トワさんの顔パスで中に入り、城を黙々と上がっていく。


 美しい装飾の扉を門番が両側から開け、奥に進むと玉座が一つだけあった。

 玉座の横には何人か側近と思われる女性がいる。


「《社》のお二方をお連れ致しました」

 艶のある素敵な声で挨拶をするトワさん。


 辺りを静寂が漂うが…反応がない。



 すると、つかつかとトワさんが玉座へ向かい座ると

「ようこそウォータリアへ、貴方達を歓迎します」

 と、応える。


『………え――――――!!!』



「ふふ、驚いちゃいましたか?」

 周りの側近たちも顏を背けて肩で笑っている!


「王女様自ら出迎えに来たら吃驚しますって!」

「よし!お客様の吃驚びっくり頂いちゃいました!♡」


「サービス精神旺盛だにゃ♪」

「どことなく妖精さん達と似てるね!」


「あら、アクラドシアの王様のアイデアですよ、これ?」


「あんにゃろ―――!!」



「まぁまぁ!まずは肩の力を抜いて下さいね!王宮と言っても、先日国王夫妻がご崩御あそばされましたので、娘の私が即位も出来ず代理で居る事を許して下さいね」


「いや、そんな…今回呼ばれたのはその事に関係していますか?」


「そうですね…実は私達はマーメイドの一族なのですが、更に東にあるリザードマンの一族と昔から不仲でして…国王夫妻の崩御のタイミングをどうやって知ったのか分かりませんが、この街を開け渡せと…」


「丸々乗っ取るつもりなのか…」


「和解案とかはないのかにゃ?」



「あります。でも、要求が凄く厳しくて」


「どういう内容なの?お金?フォースアイテム?」


「リザードマンのオスの数だけ女を差し出せ、と…ざっと国の半分です」


「…た、食べるんですか…?」


「私達マーメイドはエルフに次ぐ美しさを誇る種族…きっと嫁として欲しいのでしょう…」



「それでトワは何て答えたの?」



「生理的に無理っ!て直球ぶつけてやりました!」

「良くぞ言ったー!!!」

「この国の女子は私達が守るにゃ!!!」





 その後、宿まで再びトワが着いて来てくれた。

 フッ軽過ぎる!


 何でも即位する前に国王が崩御したから立場的には王女というより一般人なのだそうだ。


 そしてこの王女も某エルフの王女みたいに遊びまわっていたタイプの様で、街の皆の好感度が結構あるらしく訃報後のあれやこれやも皆が手伝ってくれたらしい。



「こちらで滞在の間はこの部屋をお使いくださいね」


「有難う御座います。あの、幾つかお話を伺ってもいいでしょうか?」

「あ、はい!」


 三人でテーブルに着いて、お茶を飲みながら気になった事を聞く。



「国王ご夫妻は何故亡くなったのですか?」


「アクラドシアが最近エルフと交易を始めたと聞いて、我が国も発展の為に国交を結ぼうと国王夫妻と警護隊が出向いたのですが、アクラドシアからの帰りに襲撃に会い、全滅しました…間違いなくリザードマンの仕業だと思っています。もしそうじゃなくてもリザードマンの所為せいとしますっ!」


「リザードマンへの憎しみが深いっ!!!」


「敵の勢力は多いのかにゃ?」

「ににっ!」


「可愛いねこちゃん♡敵はざっと三百はいますね。襲いに来るとしてどれ位の数を出してくるかは知りかねますが…」


「この街を包んでいる水泡はかなり丈夫なんですか?」


「一方通行で、中から外へは出れますが外からは入れないですし、破壊も出来ないので先程の遺跡を通るしかないのですが、正解を知らない限り至る所に仕掛けられたデストラップで死にます」


「やべーな!さっきの遺跡っ!!!」


「ふふっ、罠も日替わり自動生成だから初めて来る人はあのあたりで消息を絶つのっ」


「言い方はライトだけど恐ろしく物騒な事言ってるにゃっ!」


「…因みにリザードマンとマーメイドの間って、子供は出来るんですか?」


「それが、双方共に水属性・陸属性持ちの性質の所為か出来るらしいです。リザードマンのリーダーが昔から度々求愛してきて…リザードマンの一族で一番のイケメンらしいのですが…」


「ほぉ、イケメンとなっ!」


「正直、周りのリザードマンと見分けがつかないですし、無駄に髪の毛が映えていて気持ち悪くて無理です」


「トワさん、バッサリ切るにゃ♪」



「因みに普通に子供を授かる場合はどうするの?」


「人間と恋をして子供を産みます。けど、人はこの街に長期間いると身体が適応しないしマーメイドも同じく地上に適応しないので、人間の記憶を消して元の生活へ戻ってもらった後にこの国で出産します。生まれてくる子は全て女性なのです」


「好きな人と居られないって辛いにゃ…」


「私達が呼ばれたって事は、リザードマンは確実に闘いを挑んで来そうって事?」


「はい…リザードマンは私達より戦闘に長けていますので、マーメイドと真面に衝突したら滅びるのは我々でしょう…そのまま生き残りを攫われ子供を産まされる…きっとそう!」


「リザードマンは全員倒さなきゃ駄目?出来れば多くを殺めたくはないんだけど…」


「いえ、ロン毛リーダーと、特に強い数人を倒せば戦意を失い敗走すると思います。圧倒的力を見せれば殺さなくてもいいかも知れません」


「では、相手が攻めて来たらすぐ避難出来るようにしておいて下さい。出来るなら周辺の海のお魚さん達も遠くに避難してもらえると有難いです」


「分かりました、手配しておきます!」





「さて、どうしたらいいかなぁ…」


「十中八九、海側から来るだろうが泡は外から破壊不能って言ってたにゃ…遺跡のデストラップを突破してくるとは思えないしにゃ!」


「やはり何かしらのスキルで突破してくるのか…でもこの街が欲しいなら浸水させるのは得策では無いだろうし……」


「まずは下見と腹ごしらえに行こうか?机上の空論よりも実際の地形を見る方が得られる物も多いにゃ♪」


「そうだね!お散歩がてらに出るか!」



 実際に見る景色は、やはり城と街一つが丸々入っている分水泡が巨大だ。


 実際に水泡を触ってみると、確かに水泡から手が出るが、魔法でも掛かっているのか水が中に溢れたりはしない。



 地形は、大きな岩を背に城が建っており、城から棚田の様に丸い形で段々に街が出来ていた。


 一番下の広場にモニュメントが建てられており、何かの碑文も刻み込まれていた。


「海の中だからもっと暗くて気持ち悪いと思ったら意外と明るくて綺麗だね!」


「うんうん、珊瑚も処々光ってて映えるにゃー!月花の水嫌いも筋金入りだにゃ!」


「さっき言ってたのが少し気になってたんたけど、ここで人が住めないってのは何が原因なんだろう?」


「恐らく太陽光を浴びれないからじゃないかにゃ?あの遺跡も頻繁に通れなさそうだし、意外と種族維持の為に閉鎖的なのかも」


「擬似太陽みたいな物を作れたら、好きな人と一緒に要られるのにねー…」


「リザードマンに狙われなくなるかもだしにゃ……ん――――――?屋台らしき物…ちょっと行ってみていい?」


「お、式部の感が何かを感じ取った!?」




「……三本もらうにゃ…」


「……ふふっ、貴女の噂は聞いてるわ…《社》の使者の中に〈喰う者〉がいるって…お目にかかれて光栄だわ!うちの名物・肉スパイラルギョーザ、とくと味わいな!!」



 B級グルメを売ってる人達に式部の名前が売れて来ているっ!

 とりあえず味わってみよう…


 ……

「またも来た!旨味の波!ワタリ魔牛に負けない旨味の肉が、ベストバランス且つ丁度いい厚さで巻かれている!」


「中のギョーザは肉に負けないパンチの聞いた味!そして両方口に入れた時のお互いの旨味を高め合う、計算されたバランス!!」



「たった一つ…お前は大事な事を一つ見逃している…それは!調和をもたらしたッ!秘伝のソースの焦げッ!!」



「な、なにぃ――――――!!!…私の敗北だ…二五本、出来立てをもらっていくにゃ…」


「いいバトルだった…どっちが負けても可笑しくなかったよ…三本おまけしておくよ」


『わーい!!!』



「はい、式部さん!今回の肉スパイラルギョーザ!B級グルメのランキングは何位!?」

「むむむ…これは…四位入りっ!!」

「あったかほっとたこ串頑張って―――!」



 ☆ご当地B級グルメランキング!

  一位:アクラサーモンの塩焼き

  二位:装甲イカの姿焼き

  三位:ガッツ丼

  四位:肉スパイラルギョーザ

  五位:ワタリ魔牛のジューシー肉串

  六位:あったかほっとたこ串

 現地に足を運ぶ価値アリ☆(ゝω・)vキャピ




 式部とコロちゃんと一人二本ずつ食べると結構お腹膨れる…懲りない我々…



「今日のも当りだったにゃー!♪」


「式部のそういう店を見た目で見分ける能力ほんっと凄いよね!」


「実際は視覚も嗅覚も使ってるけど、感に頼ってる部分も多いにゃ!あったかほっとたこ串とか…」


「あそこは寒かったし風もあったからねー!」




 そんな会話をしながら、周囲の地形を確認する。

 城の後ろは絶壁だし、全体を水泡が囲んでいるからどうやって攻めて来るのかが気になるが、現状守るべき拠点はないように見える。

 臨機応変に対応がベストかな?


 あと水中戦は視野に入れておかないと、痛い目を見そうだ。

 特に私がっ!

 本当にね、人は大地を踏みしめて生きるべきなの…泳いだり潜ったりって、必要がないと思うの!

 個人の意見ですっ!



 その日はウォータリアの下見で日が暮れてしまい、宿屋に戻って休息を取ることにした。

 今回はどこも防御が固く、リザードマン達がどうやって侵入してくるのか検討が付けにくい。

 だが、今回は相手が交渉して来ているのが救いだ。

 相手も苦労せず利益を得たい筈だから、いきなり戦闘になるというのは考えにくい。


 つまり、相手を見てから避難する余裕があるという事だ。


 リザードマンがいつ来るか分からないがベストを尽くそう…





 翌日。

 昼前に起きて、ご飯どうしようってなってた時にトワさんがやってきた。


「お早う御座います。どうしたんですか?」


「それが…広場で異臭騒ぎが…あと何人かが誰かに突き飛ばされたと…」


「誰か…?すぐに行きます!」



 広場に向かうと丁度モニュメントの周りからヘドロの様な異臭が漂ってきて、広場には流石に誰一人いない。


「凄い臭い…」


「なんか呼吸音が微かに…排撃する手裏剣シューティングスター!」


 適当に手裏剣をばら撒いてみると、無の空間から突然剣が出てきて手裏剣を薙ぎ払った!


「いるのは分かってるから出て来なさい!」

 叫んでみると、突然武装したリザードマンが百体位が忽然と姿を表した!



「集団で透明化して入ってきたか。どうやって遺跡を通った?」



 話に聞いていたボス格の髪の毛のあるリザードマンが口を開いた。


「簡単な話さ、国王夫妻が死んだ処で脅しを掛けたら外部から助っ人を呼ぶに違いない、と。だから待った。迷彩で姿を消して!そうするとお前達がやって来た。だから後をつけてお前達が門を潜った瞬間門番を拉致させてもらった。あとはデストラップが解除されたままの遺跡を悠々と歩いて来たのさ」


「まて、国王夫妻の話を他人事の様に語ったがお前達が襲ったのではないのか?」


「それは違う!俺はトワに求愛してるんだ、襲うわけ無かろう」


「その顔でかにゃ?」


「何を言うか!全リザードマン一の整った顔、健康的なスタイル、逞しい尻尾、そして!美の女神から愛されし俺にのみ与えられたサラサラロングヘアー!!!」


「私なら美の女神に『ううん、そこじゃないっ!』って突っ込むなー」


「ドヤ顔がヴィランそのものだにゃ♪」


「ちょっと…体臭が…消臭剤のお風呂に三日三晩入って欲しいですね…目に来ます」



「俺が傷付くから皆やめたまえっ!!!結婚はという事だな?」

「はい!今、たまたま全員既婚者なんです!」

「嘘つけ――――――!!!」



「ボス…俺達いつ幸せになれるのかな?」

「泣くな!きっと幸せはやってくる!」


 メンタル弱いなリザードマンの方々!!!


「はいはーい、皆様お帰りはあちらですー!今まで嫁候補だった方々を殺す気にならないでしょー?」


 ゾロゾロと綺麗に列を成して遺跡の出口に向かうリザードマン達。

 メンタル弱い上にちょろいなリザードマン!



 その時だった!

 突然リザードマン達に槍が降り注ぐ!

 あっという間に数を減らすリザードマン!


「何だ!何処から槍が!?」

 突然広場の端の水泡沿いに魚っぽい種族が三叉の鉾を持ち、姿を表した!


「あれはサハギン!凶暴な種族です!」

 サハギン…折角戦闘せずに解決しそうだったのに…!


「まさか、リザードマンの後をつけてきたのか!?」


「そうだ、頭の悪いリザードマンは気付きもしなかったよ…さぁ、この街は今日から俺達の物だ!全員死ね!」


「国王夫妻を襲ったのもお前達か!?」


「そうだな、邪魔だから殺したよ!」


 ナイフをトワに投げつけてきた!

 それを式部の魔槍が一振りで落とした!


 気が付いたら背後からもサハギンが!

 トワさんの退路が断たれている!



 マーメイド達は守り抜いて見せる!!

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