第32話 Price of Knowledge
「パパ、この結晶は…?」
「まずは両手で抑えてみろ?身体の中に入っていくのがわかる」
「うん…パパ!身体の中に消えた!」
「次に、使う時は結晶を斜めに鎖の様に繋げて、反時計回りに回せ。それで行ったことのある過去に飛べる。未来や並行世界へも行けるがそれはその世界の人物等を知っておく必要がある。現時点で行けるのは銃六花の世界だな」
「並行世界まで…パパはチートキャラだったのかにゃ?」
「チーターって呼ばれたくないからその設定はやめなさいっ!」
「ちっ♪」
「そういうとこお母さんそっくりかっ!…この能力は危険すぎる。見るだけでも危険なのに、指一本でバタフライ・エフェクトが無数に起き、誰かを助けようとして戻っても、その人が死んでいる可能性だってある。使う時は小町や月花、自分に何があってもその事象を変えたいという時にだけに使いなさい」
「どうしようも無くなって…絶望しか無くなったら使ってみる…」
「うん、あと一番カオスになるのは対象が死んだ後だ。使うなら死ぬ前に使うんだ」
「もし死んだ後に時間改変を試行してみたら…?」
「その人は死神に手を掴まれたままになる。何回試行してもその人が死ぬ様々な運命に辿り着く」
「気をつけるにゃ!」
「何かあったら頼ってこい。チャットでも口頭でも構わないよ」
「あ…パパちょっとだけ…」
「ん?」
パパにハグして貰った事無かったから、してもらった…
「済まなかったな、小町がずっと黙ってたから最近まで分からなかったけど、改めて見ると目が少し俺に似ているな」
「えへへ♪///」
「さ、《社》さんの作業中断させているから入ってもらうよ!」
「はい♪」
「二・三日歩いたけどまだ掛かりそう?」
「恐らくそろそろ着くと思うよ?馬とかがあればもっと早く着いたんだけどね」
「フィルも大丈夫?」
「平気平気!怖いのは苦手だけど王宮を抜け出して街中はよく歩いてたから!」
「最近の王女は皆抜け出して遊んでるのかな…」
「多いと思うよー!なんたって肩凝るし、外出てた方が色々気楽だから…」
「私の知ってる王女様は色々やらかし過ぎて今は外の世界に放り出されてるわよ…」
「き…気をつけよーかな、私も…」
クレドと私がふふって笑う。
三日も寝食を共にすれば流石に打ち解けてくる。
ただ、一つだけ気になることがある。
この二人には飛行結晶がつかない。
だから徒歩で次の街へ向かってる。
この世界の人の特徴なのか…?
渓谷を超えて崖の吊橋の向こうに大きな街が見えた。
上空には飛行船が見える。
「フィル、あれはフィルの国の飛空船!?」
「間違いないです!」
逸る気持ちを抑え、まずは高低差が怖すぎる吊橋を渡る。
「あっれー?クレド足震えてない?」
「足が震えてるのではなく橋が震えてるんだよ。これは絶対俺ではない!」
笑いながらもフィルが手摺りロープに捕まったまま震えている!
私、普段飛んでる癖に吊橋とかはしっかり怖い…
よく見ると街の見張り台が騒がしくなってきた。
こちらに気付いてくれたのだろうか!?
黒い波の怪物の事も気に掛かるし、早めに街に入れてもらいたい!
「すみませーん!黒いものから逃げてきましたー!避難させて下さーい!」
「お願いします!隣の国のから逃げてきました!!」
見張り台を見上げながら話すと、見張り番が入れ替わる…
「ラッツ!無事だったか!俺だ!開けてくれー!」
「お前…………誰だよ………クレドは先日…黒い泥に飲み込まれて死んだ……」
「……は…?な、何言ってんだよ…俺はここにいるじゃないか!?」
「王女も同じく泥に飲まれて死んだ…君は何者だ!?」
王様らしき人が王女を疑う!
「何だよこの状況…訳が分からねえ…」
フィルも震え出した…
「―――訳が分からないのも致し方ない」
突然上から黒ずくめのフードの男がスローで降りてきた。
杖を持っている処を見ると魔道士か?
「そこの二人はもう既に死んでいる」
「何を言っている!?私達は三日三晩旅をしてきた仲間だぞ!?」
「違う、それは飲んだ相手を完璧にコピーするウーズスライムの能力。それは人に非ず」
そう言うと杖の男の背後から巨大なウーズスライムがうじゅうじゅと湧いてくる。
「街への誘導の役は果たした。もう還るがよい!」
杖をかつん!と一回鳴らすと…
「ぐぅあああああああああああああああああああああああああああああああああ」」
「いやぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ」」
フィルとクレドが苦しみ、叫びを上げて黒い塊となり、ズルズルと擦り寄っていき大きな塊と一つになる。
後には服や武器だけがポツンと残されていた。
「
名も無き刀の封印を解き、目が赤く光り、全身が闘気に包まれた。
「滑空する稲妻」
男が杖から雷撃魔法を飛ばすが、刀で受けて一振りで地面に流す!
「お前の目的は…何だ?」
「知識をウーズスライムで収集し、私へ還元する事。この世界の全ての知識を吸収したら、また次の世界へ行こう。誰も至らなかった知識の泉へと私一人が至るのだ」
「そんな事の為に何千人も殺したのか…?」
「そうだが?知識を得て喜びを感じるのは人のみだ!この知識欲には抗えまい!私という貴重な知識の宝庫以外は生きようが死のうが大差なかろう」
「…一つ、忘れている事があるぞ?」
「何をかね?」
「貴様は狩る側で良い気分だろうさ…だが、狩られる側に回るリスクを考えた事はあるか?」
「何?」
「
「
ウーズスライムに斬りつけた部分から次元に飲み込まされていく…
先程の技で半分ほど削られていたので秒でスライム全てが次元の彼方へ消えた。
「よくも…よくもよくも私の知識の集大成を……煮えたぎる炎!!」
何かを出して来たが確認せずに刀で切り落とす。
「
秒で杖の男の両手を突きで吹き飛ばす!
「…書物を
「っああああああっ!!」
「
続いて両足を一振りで斬り落とした。
「歩いて知識を探さぬのなら足も要らぬな?」
「いぎゃああああ!!!!」
刀をざくっと腹に突き立てる。
「うぶぐぅああうぁぁぁ…」
「貴様の腹黒さは何が入ってるからなのか興味が湧いた」
真横にゆっくり斬り割いていく。
もうそろそろ死ぬか。
まだ逝かせるか。
「
強力な回復スキルで、腹の傷と両手足を治してやる。
ギリギリだったが杖の男は全回復した。
「な…何がしたいんだ…貴様」
「……お前はフィルとクレドを二度も殺した。二人共気のいい奴だった。お前の下らぬ
「だから何だ!」
「…察しが悪いな。お前はまだ一度目だ…」
「え…ひ…」
「
刀を切り上げると斬撃が三本飛んでいき、相手を縦三等分にした!
「いひいいいいぃぃぃっ!!!」
「汚物より酷い臭いの口で、耳障りな声を上げるな。お前に殺された何千人もの民はこれ以上の苦しみを味わったのだぞ?」
「ひぃぃぁぁたずけど!たずけでぐどざ!」
「ふむ、私も鬼ではない。貴様が助けを乞われて許した人の数だけ回復してやろう♡今まで助けた者の名前を言え」
「は…名前…」
「名前だ」
「……あ…」
「
転がっている男を連撃で穴だらけにした。
「
転がっているだけで見苦しいので収束光線で焼却した。
怒りすぎたのか、頭痛でふらつきながら二人が残した服と剣を見て
その時突然ウインドウが開く。
【プロミネンス・ゲイズ】
炎属性の切り上げ攻撃。
斬られた対象に炎属性継続ダメージを与える。
【清浄なる湧水】
持ったカップに清浄で軽い回復効果のある水を湧き出させる。
「クレド…フィル…気の効いた置土産を…泣いてしまうじゃ…」
…意識……が…
チッ チッ チッ チッ チッ…
こういう時はやたら時計の音が気になる…
「一応修理は完了です。今後、こういう事が無い様に転送装置を増設しますので、それまで一つで複数の転送はお止め下さい」
「はい…あの…レクスの行方はまだ分かりませんか?」
「この転送装置の仕組みは余りご存じないですか?」
「はい…」
「凄く簡単に言うと、座標でその世界に橋を架けます。その橋は行きも帰りも同じ人数しか乗れません。そしてその橋をリアルワールドに繋げたロープを持って渡っていくとイメージして下さい。ダイヴ・アウトすると、この紐を装置が引っ張ってくれて橋の上を帰ってくるのです」
「それを強引に一人増やしたから橋が崩れた…」
「そうです。ぶっちゃけコロ様のデータ量なら問題ないのですが、人一人は流石に耐えられなかった様です。こちらに一人運べたのが奇跡ですね…最悪御三人が何処かへ流されていた…」
「すみません、後悔先に立たずだにゃ…」
「ただ《社》もただデータを取るだけの企業ではありません。レクス様のデータを元に調べて回ってるので、お待ち下さい。現状そこまでと多くないとだけは解っています」
「お願いします…」
「知らせが入ったら、一人で向こうに渡って帰りは先日みたいに引っ付いて戻って下さい。一~二回なら耐えられる様にしておきました」
「有難うにゃ!お願いします!」
《社》の方々は帰った。
私はいつ《社》からの連絡があっても良い様にスマホを充電コードに刺したまま、転送装置の前で待機している。
と、突然ドアが勢いよく開いた!
《社》が何か忘れ物か?と思ったらママだった!
「やーっぱりここにいたー!ご飯食べなさーい!♪」
「ママ…」
「ほーら泣かない泣かない!別に誰かが死んだ訳じゃないんだから♪《社》が探してくれてるから大丈夫!月花ちゃんも戻ろうとしている筈よ♪」
「うん…」
「サンドイッチ持ってきたから食べて、いつでも行ける様に体力もしっかり温存しておくのよ?」
「うん…そういえばパパがさっき来て『俺と小町の娘』って言ってくれた!」
「あら、良かったねー!私も正妻とか本妻とか言ってくれないかなー?♪」
「ギスギスした世界が始まるから
「で、月巴は何をしに来たの?」
「時間の戻り方の説明を受けてたにゃ♪」
「そっか、月花ちゃんは使えないって言ってたもんねー♪」
「使う様な事が無ければいいけど…」
「そうだねー!まぁ時間改変は本当に最後の手段だから、慎重に!あと、ここベッドもあるんだから眠たくなったら寝るのよ!♪」
「はいにゃ!♪」
「にんに!」
「コロちゃんどこから湧いたの!?」
「にににんに!」
「月花心配だね…早く居所分かるといいね…」
「ににー…」
目が覚めた…
砂地じゃない…誰かが街に運んでくれたのか…
何か豪華な寝室…客室かな?
コートと靴は横にあり、一緒にクレドとフィルの装備もあった。
身体は…問題なさそうだ。
ドアを開け女性が入ってきた。
「あら、目を覚ました?」
「はい、えー…ここはどこですか?」
「貴女が倒れた街の客室よ。隣国の国王様とクレドさんの仲間が話を聞きたいらしいよ」
「そう…ですか」
「呼んでくるから楽にしててね?」
暫くして、部屋の中に数人が入ってきた。
「隣の国の…いや国民が死んでしまって王と名乗るも
「俺達はクレドの仲間だ…良かったら何故一緒に居たのか聞かせて欲しいんだ」
私は語った。
隣の国で出会った若き勇者とお転婆な王女の話を。
初めは恐る恐る話していたのに、寝食を共にしながら旅をした事で仲良くなった事。
お肉を捌くのが怖くて一緒にフィルと怯えたり、クレドとヤドカリの怪物を倒したり、夜、突然怖い話してフィルが怯えたり…
すぐそこの吊橋を震えながら渡った事も
人格や記憶は間違いなく本人だった。
それだけに、二度も二人を苦しませたのは絶対に許せなかった。
皆、涙ながらに悔しさを吐露していた。
偽物と分かっていても、優しい言葉を掛けられなかったのかと。
けど、仇を取ってくれて有難うと感謝してくれていた。
一頻り話し終わるとフィルとクレドの遺品を持って、二人の身内は帰っていった。
ここから一人か…
二人は賑やかだったから急に寂しくなる。
報奨金も貰ったし、ご飯を食べて元気出すか!
日が沈みつつある街の中、ウロウロとしているとスキルショップを見つけた!
……矢張り火属性スキルは買っておくか…
カタログを見ながらぼーっと眺める。
火属性で応用が効くスキル…
よし、これでも買っておこう…
公園で、何も考えずにぼーっとする。
食欲が出ない…
私いつ帰れるのかな…
あ、明日にでもこの街の王様に会って≪社≫と連絡が取れるか聞かないと…
「
二匹のカラスが現れる。
「フギン、ムニン、周囲の偵察・情報を仕入れて来て」
「カー!」
二匹は主の命を受け飛び立っていった。
私一生このままだったらどうしよう…
まずはどこか分かりやすい場所に家を建てて、本腰入れて式部を待とうかな…
シャワーとウォシュレット作れるかなぁ…
「カー!」
「カカー!」
フギンとムニンが早々と帰ってきた。
「早かったねー!何かあった?」
ベンチに座りながら、二人の様子を見ていると二匹共上を向いている。
ベンチに座ったまま上を向くと…満月…素敵な満月の中に
嘘でしょ!!!!
大急ぎで支度をして、南に飛ぶ!
あれが私の知ってるエルフの浮遊大陸ならば!十四年周期の軌道で北に向かっているから、南に向かえば!!!
…
………
……………あった!アクラドシアだ!!!
通りで知らない筈だ、ファンタジー世界のまだ訪れていない場所だったんだ!
つか、報奨金貰ったのに通貨が同じなの気づいてなかった!!
アクラドシアの王様に帰れないーって言ったら腹を抱えてゲラゲラ笑われたけど、連絡お願いするし、しゃーなし!
《社》に連絡してもらって、魔獣の卵の赤ちゃんと戯れながら待つ。
「君達のお名前どうしよっか?」
「ぴぃ!ぴぃ!」
「何か目印つけなくちゃでちゅねー」
ガバッ!
「……式部!どうどう!ハグが強い!」
「ふええ…もう会えないかと思った…」
「私も脳内で家建てて、シャワーとウォシュレットどうしようってとこまで考えた」
「どこ行ってたの?」
「ここより更に北に放り出されて全然分からなくて…暫く旅してたんだけど、浮遊大陸がたまたま見えたから、嘘でしょ!?ってなって今に至る…」
「良かった、早く気づけて…兎に角、皆心配してるから一回帰るにゃ!♪」
「もー少し待ってね、この子達にカロリーバーあげてからね」
「マイペースかっ!!!♪」
「にににーにに!」
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