Chapter of Gathering Friends

第31話 Fellow travelers

 ルクレツィアがリアルワールドに来てから数日が過ぎ、徐々に王女というより、どこに出しても恥ずかしくないオタクになりつつあり、ママとレトロ格闘ゲームも出来る様になってきた。


 どこに出しても恥ずかしくない王女のラインだけはギリギリ保って欲しい。



「リアルワールドって…とても良いところねキリ○君」


「○リト君じゃない!まだヒロイン口調が抜けてないっ」


「いやーヒロインが尊すぎて、私もう一生推すかも!」

 言葉の節々に現れているオタク口調!



「ルクレツィア、良かったらマニメイト行ってみる?」

「なにそれ?メイド喫茶!?」


「アニメのグッズとか売ってる所なんだけど、今のルクレツィアなら楽しめるかな?って」

「いくいくー!!!」


 だが、だが返事は分かっていたので式部はもう表で待機しているのだっ!




「おおおおおー!漫画もBlu-Rayも一杯ある!」


「マニメイトに来るの滅茶苦茶久しぶりにゃ!♪」


「ねー!ちょっとウキウキしてしまう自分がいる…」



 目を離したらルクレツィアが囲まれてる!

 何かやらかしたのか!?


「ねーそれってエルフのコスプレ!?」

「すっごい!本物クオリティだねー!」


「でしょ?エルフの本物感に拘ったから耳とかウィッグとかは苦労してるの!」


「自分で捌いてたにゃ♪」


「わずか短期間でこの仕上がり…流石ママとルクレツィア…」



「今度は何見てるの?」

「Gペンと原稿用紙よ」

「今度はそっちに走るのか!」


「意外と行けちゃいそうな気がするのよね」

「一回家で絵の練習してからね?」


 今日は取り敢えずスケッチブックだけにする。


 けど、お会計はグッズだ何だで五千円超えた。


 あ、ルクレツィアはお金持ってないから、支払いは私じゃん!!!



「有難う、月花!大事にするからね!」


「あ、うん、次は自分でお金を稼ごうね!」

 と、言っても命懸けのミッションが多くて、お小遣いはそこそこあるんだけどね!

 言うとルクレツィアのアニメグッズに全て持って行かれそうだから…


「因みにこの絵の描いたプレートは何に使うの?」


「買う前に聞いてー!!!下敷きといって、紙の下に敷くと筆圧で裏がボコボコにならないし、文字が書きやすいでしょ?」


「なる程…でも私は使わないし袋から出さないで大事に愛でる…」

「成長が早すぎるオタクにゃ…」


「取り敢えずルクレツィアはママに任せて、ファンタジー世界の違う場所回ろ!」

「そうだねー!まだ何を口走るか分からないしにゃー♪」


 ルクレツィアはママとアニメ満喫中だったので一言言付けて家を出る。



「じゃ、行ってみますか!」


『ダイヴ・イン!』






 ………あれ?おかしいにゃ…

 月花は転送成功しているのに、私が失敗している!?


 慌てて《社》に確認をすると思わぬ答えが帰ってきた。


「最近、一つの転送装置に複数人で入ったりしましたか?」


「いえ…そんな事は…」



 ………そうだ!帰ってきた時にルクレツィアをハグして、頭にコロちゃんが乗ってた!


「すみません、猫を入れたら三人かもしれません…」


「分かりました、調整に伺います。ただ、隣にいたレクスさんの消息…見つけるのは困難かも知れません…」


「嘘……」











 ……ここは…いつものファンタジー世界じゃない…何処だ?

 式部とコロちゃんも来ていない…転送装置の不具合?


「ダイヴ・アウト」

「ダイヴ・アウト!!」


 戻れなくなっている…

 救援が来るまでこの座標で動かない方がいいか…?

 いや、覚えのない世界だから救援がここを見つける可能性は低い。


 ならば、するべき事は一つ。

 数多ある世界には《社》と通信が出来る人物が数人必ずいる。

 その方に《社》を呼んで貰えれば解決する。

 地位の高い方ならコンタクトの取れる人物が分かるはず!


 まずはそういう人を見つけよう。


 …といっても、周囲は誰もいない。

 見渡す限り廃墟の様だ。


 少し肌寒く感じたので、自慢のロングヘアをコートの中に入れ、コートの前を締めて、フードを被る。

 少し風が砂ぼこりっぽいのでフードに付いているマスクと、ゴーグルもしておく。


 飛行結晶で上に飛び上がり、周囲を確認する。

 夕日に照らし出されたのは見渡す限りの廃墟…

 街自体が大きい訳ではないが、人が誰一人いない。

 だが、逆に人の骨や死体等もない。

 風化もしていないので、人が居なくなってからそれ程経過していない。


 空き巣みたいで気が引けるが、闇雲に動くのは得策ではないので、地図みたいな物がないか探し回る。 


 何件か入るが、飲食店や、宿屋の様で何もなかったが…宿屋で気になる物を見つけた。


 日記だ。


 この世界の日付が今現在いつなのか分からないが、十一月三日に「黒い津波が押し寄せてきた」

 というのを最後に途絶えている。


 黒い津波とは何を指している…? 


 更に探し回ると近辺の地図を見つけた。

 どうやら北の方角にも街があるらしい。


 しっかり街を探索し、夜が更けてきたので仮眠を取ることにした。

 今までシングルで動いたことがないので、式部がいない以上慎重に動こうと思う。


 孤立する空間アイソレート・スペースで部屋の内側に障壁を張る。


 気になったのは、人の姿、或いは亡骸も無ければ水、食べ物等も残っていない。

 一応カロリーバーと水は常備しているので軽く食事を取り、ベッドでゴロ寝する。


 夜が明けたら北の街に向かってみよう。











 事が事なので六花ちゃんに伝えに行く。


「アナザーバースで行方不明ってマジで…?」


「うん…転送装置の上限を超えていたみたいで…今修理してもらってるんだけど、月花が何処に飛ばされたかが《社》にも分からないみたい…」


 すると六花ちゃんが私の頭を撫でてくれた。


「大丈夫よ、あの子は頭がいいし、必ず帰る手段を見つけるから!こちらも《社》が発見してくれるまで待ちましょ?」


「有難う、六花ちゃん…」


 六花ちゃんが一番辛い筈なのに娘の事をちゃんと信じている。

 私も、月花が見つかったらすぐに出れる様に秘密基地で待機しておこう…











「夜が明けた…かな?」


 空に光が指し、朝の訪れを告げる。


 さて、街を目指してみるか!



 飛行結晶で飛行モードになり、北へ進む。


 上がった瞬間、後ろから奇声が聞こえ振り返ると巨大な鳥が私を餌と勘違いしてるのか嘴を開けて迫ってくる!


排撃する手裏剣シューティングスター

 前日ショップで買ったこの技、使い勝手が良くて物理・非物理の選択、飛ばす数の選択、大きさの選択が出来るので様々な事につかえそうだ。


 今の手裏剣は大き目の非物理で鳥の肩に刺さり、鳥は痛みでゆっくり降りていく!


「ごめんねー!痛いのその内消えるからねー!」



 鳥を無力化し、先を急ぐが、今の所あの鳥しか生物を見ていない…


 よく見ると遠くに鳥の群れが飛んでいるのは分かる。

 一応生物が居るのだけは確認出来たが…人はどこに行った…?



 そんな事を考えながら進むと街が見えてきた。

 規模はアクラドシアに比べたら小さいが、先程の街よりは大きな街みたいだ。


 上からは街の様子が分からない…というより誰も居ないので、門から入ってみる。

 わざわざ門から入るのはトラップを警戒しての動きだ。

 門を抜けて少し歩いてみるが人っ子一人いない。

 ノックして家に入ってみるが、誰も出迎える事は無かった。


 街は崩れたりしておらず、つい最近まで人が居たかのようだ。

 街が二つこの状態ならただ事ではない。

 街を隅々まで周り、手掛かりがないか調べる。

 特に何かが見つかった訳ではないが扉が開いたままの家が多かった。

 何かに慌てたというか、慌てて出たのか、それともその後に空き巣にあったのか…


 そろそろ人恋しくなってきたぞー!

 誰か居て欲しい!


 街を調べながらぐるりと一周するも誰も発見出来ず、次は城を調べる事にした。


「すみませーん!誰かいませんかー?」


 虚しく反響する私の美声…


 城を順に上に登りながら周囲の確認をしていく。


 謁見の間を抜けて王族のお部屋まで登った時に、何か金属の音がした!


「こんにちはー!どなたかいらっしゃいますかー?」


 後ろから足音もするので構えると、顔立ちが整った軽装備の剣士だった。

 勇者とかそんなイメージがする。


「…君は生き残りかい?」


「あー…訳有りで昨日来たら人が居なくて…」

「そうか…生存者は居たかい?」


「今、気配がしたので誰かいそうなんですが…」


 目の前の部屋を開けてみると、誰もいない様にみえたが、ベッドの陰に金髪の髪が震えているのが見えた。


「こんにちは、私は味方、大丈夫だよ!」


 ベッドの陰から出てきたのは金髪ロングの小さな女の子だった。


「おいで、怖くないよ!こんなに美少女だよっ!」


 震えながら手を伸ばしたのでそっと抱き寄せると声を殺しながら泣き始めた。


「お兄さん、名前は何ていうの?」

「クレドだ。自称美少女の君は?」

「私は自他共に認める美少女のレクス、昨日来たばかりだから状況が分かってなくて人を探してたの」



「状況は最悪だ。黒いうねりの様な物が生きとし生けるもの全てを飲み込んで行くのを見た。だが、高いところまで行けない所為か高い建物と上空にいる鳥などは無事な様だ」


「戦ってみた?武器は通じる?」

「いや、顔も声もないドロドロの生物だから攻撃して効いてるかどうか分からないのと、斬った瞬間に融合するから効いているのか判断がつかない…」


 スライムみたいな知能が低い生命体なのかも…


「貴女はどうやって助かったの?他の人は?」

「怪物がここまで来なかったの…国王様…父や母は騎士団に連れられて飛行艇で脱出したんだけど、私は隠れてたから気づかなくて…」


「逃げ遅れたのね…その黒いのは弱点とかある?どうしたら帰った?」

「あの形状の多くは炎が有効だ、実際試してみたら効いた筈だが、再生が早いのと人を大量に飲んでやっと収まる感じだった」


「炎…まずいな、炎属性のスキルを持っていない…」


「来たら私が炎系で戦うから、有効そうな技で攻めて見てくれ。兎に角、この街はもう私たち以外生き残りが居そうにない。隣の国へ行こう。もしかしたらそちらに国王様が退避しているかもしれない」


「そうね…王女様、動きやすい服と靴に着替えて。国王様を探しに行きましょう!」


「分かりました!」


「…くっ…」

「どうしたの?」


「頭痛の所為せいか頭がぼんやりとする…」


「お水ある?薬あるから飲んで!」


「すまない、恩に着る…その内収まるだろうから先を急ごう」


「私も記憶がぼんやりとしてる…叫び過ぎたからかな…?」


「お水あげるから少し飲んでおこ?」


「あれ?私にはくれなかったのに?」


「男と間接キスはしませ―――ん!!」


 殺伐とした状況の中、少しだけ三人で笑い合う。


 無事この二人を送り続けて、黒いスライムをどうにかせねば!


 そして私も帰りたい!!!




 隣の国までの旅が始まった。


 王女様はフィルメリアという名前で、フィルと呼ぶことにした。


 少し道のりが遠いのだが、最初降りて来た場所よりは草木や水場もあり、動物も多少いたので飢えや渇きには無縁だった。


 フィルが水場の音を聞くのが上手く、クレドが肉を捌くのが上手くて助かってる。


 たった今まで生きてたものを捌くのとか魚でも無理っ!!!


 念の為塩を持ち歩いておいてよかった…塩さえあれば味付けは何とか!

 だいたい式部任せなんだけど…

 あ、式部の事考えたらちょっとホームシックががが!



 焚火に集まり、交代で私とクレドが見張りをしながら夜を明かす。


 三人とも起きている時はつまらない話や、旅の話等、色々と語り合った。


 こういう経験は今まで皆無だったが、知らないメンバーで旅をするなんて、早々ないだろうから今の内に味わっておこう。

 何より、一人旅よりは断然楽しい!



 浅めの渓谷に差し掛かった時、突然巨大なヤドカリ?みたいな生物と目が合っちゃった。

 どこから沸いた!?

 海生生物は海に帰れっ!!!


「あ、私がやるから下がっていて!」

 強そうな剣を背中から抜き、走っていくクレド!


「プロミネンス・ゲイズ!」


 炎属性の技の様で、剣が炎を纏い下から斬り上がる!


 ヤドカリの顔の正面が縦に切り裂かれるが、空中で止まった瞬間両手のハサミをクレドに伸ばす!!

 クレドが落ち着いて片方のハサミを切断するが、もう片方が間に合わない!


彼方よりの星光スターライト・ビヨンド!」


 収束された光がヤドカリの左半分をハサミごと焼き切った!



「クレド、大丈夫?」

「今、ちょっとカッコつけて前に出た自分が恥ずかしい…」

 フィルと二人で大笑いした!












 秘密基地で一人で、≪社≫本部の連絡を待つ。


 ワンチャン月花が戻って来たら一番に迎えたいから。

 何も出来ない自分が歯がゆい。


 目の前には≪社≫の使者が二人派遣されてきて、転送装置のチェックを行ってくれているが…もし不具合なら直って欲しい。


「あ、デッドエンド様」

「どうしたにゃ?」


「新しく開発した武器を渡す様に仰せつかってます」


 アタッシュケースを開けるとそこにはオートマチックの様な形でリボルバーのシリンダーが付いているガンメタル色の銃とホルスターが入っていた。

「銃…でも弾がないにゃ?」


「弾は必要ありません。それはスキルガンと言いまして、スキルの射程を伸ばし発射します」


「射程が近距離の回復魔法を飛ばせたりするのかにゃ?」


「はい、至近距離でしか使えないバフやヒールを百mまで飛ばせます。詠唱も入りません。また最大六発まで予め装填しておき、装填順に連射も出来ます」


「すっご…有難く貰うにゃ♪」



「すまない≪社≫さん、少しだけ外してもらえるか?」

 突然パパが入ってきた!!


 言われて≪社≫さんが一旦表に出る。



「話は聞いた。月花が行方不明になったんだって」


「うん、もしかしたら私の所為かも…」


「過ぎた事を悔やんでも仕方ないし、命が危ない訳じゃない。俺と小町の娘よ、これを預ける。使うかどうかは式部次第だ」


「パパ…」


 初めて娘と呼んでくれて、渡されたのは小さな色が違う結晶だった。

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