第30話 Let a pretty girl travel.

 翌朝にそれは起こった。



 エルフ族の使役精霊が王宮に来て欲しいと宿屋まで知らせてくれたのだ。

 小さい光の珠だから、変わった蛍だなーって捕まえようとしたら突然喋ったので焦ったのなんの!



 王宮に着くと、既に顔も覚えられていたのか、殆ど顔パスで謁見の間に通されたが、謁見の間に入るとお二人とも揃っていてホッとした。



「二人とも早くから済まない。妖精の医師がなかなかの名医で、妖精の技とスキルで直ぐに起き上がれる状態になったのだよ。体力を戻す為に一晩寝ていたが」


「はーい!はーい!」

「はい、デッドエンドさん」

 王妃様もノリがいいな!


「ルクレツィアさんが後ろで吊るされてて不服そうな顔をしているのはどうしてにゃ?」

「ああ、パパの手術中に手伝おうと乱入してきたからお仕置き中です。完全無視でいいわよ♡」

「……活発なお嬢様ですね」

「無理に褒めずとも良い。寧ろ今の内に死ぬ程ダメ出しをして心を折ってやっても構わん」


 国王様容赦ない!



「それでだ、其方そなたらを呼んだのは、アクラドシアへの国交樹立と厚い御礼を直接申したいので、転送門の設置を頼みたいのだ」


「あ、行きます!どうすれば良いんですか?」


「まず三トンある転送門の石材を運びます」

「嘘でしょ!?」



「冗談ですよ!特殊な筆で魔法陣を設置し、消えたり、陣が狂わない様にコーティングすれば大丈夫です!」


 意外とユーモラスだな、国王様一家…



 再びアクラドシアへエルフを一人連れて向かい、王宮内に魔法陣を一つ残して、有効化するとエルフさんがオルフィナードに転送門で帰った。



 程なくして国王様と王妃様がやってきて、辺りを伺う。


「なる程、至る所に妖精が隠れている」

「分かるんですか?私達は国王様が可視化してくれないと気づきませんでした」


「彼らは人を吃驚させるのが大好きだからね」


「国王様に謁見をお願いしてきますね!」

 ……ってドアを出ようとしたら、もう国王様と王妃様がドア前に居てた!



「この度は命を助けて頂き有難う御座いました。オルフィナード国王『この地を統べるナリュード』、妻の『風を読みしオリュシア』です」


「第17代国王ラディス・トワ・アクラドシアだ。隣が妻のジーナ・ヒナ・アクラドシアです。偉大なるエルフの王国と国交を樹立出来て光栄の極みです」


「驚いた…貴方は妖精と人間の血統なんですね。道理で優しいオーラをされておられる」


「楽しい事が好きなのは血筋でな!さぁ、立ち話も何なのでとびきり美味い酒と馳走でも如何かな?《社》の二人は食事を提供するから、立会人としてご一緒してもらえると有難い」


「勿論にゃ♪」

「ににっ!」



「あのー、ルクレツィアが縛られたままなんですが…大臣に縄を持たれていて捕まったばかりの泥棒みたいな様相に…」


「縄を解くと秒で消えるだろうから寧ろこのままで良いのです」


「うえぇぇぇん…色々見て回りたいー!」



 その後、アクラドシアは魚や肉等、オルフィナードは高い位置にあり天候に左右されないので既存の作物やアクラドシアが欲しい農作物の栽培、工芸品の輸出等で大筋合意をしていた。

 もはや友好条約と言ってもいい賑やかな雰囲気の中、ルクレツィアにご飯あげたり飲み物を飲ませたり、コロちゃんをお供えしたりと何かもうお世話役みたいになっていた私と式部。



「はー…下の世界のお肉美味しい…もっと美味しい食べ物沢山ありそうですねー!」


「そうだ、《社》のお二人。ルクレツィアを暫く旅に付いて行かせて貰えないか?」


「え!ルクレツィア様をですか?」


「そう、ルクレツィアはどこをどうしたらそうなるのか三日程悩む位、残念な仕上がりになってしまっています。このままでは王女として人前に恥ずかしくて出せません」


「残念な仕上がりって言っちゃった!!!」


「代わりとして旅の支度金と、オルフィナード王国に貸しを二つとします。フォースアイテムは出し惜しみをしませんし、協力は惜しみません」


「あと、うっかり肥料に頭から落ちて死んだー!とかでも完全スルーします」


「目を瞑る覚悟―――!!!」



「死ぬ気で成長して立派なレディとなって帰ってくるのです。帰還してなお残念なままならママは全力で王宮からポイしますからね」


「いーやー!マーマー!!!」


「死ぬ気で勉強してくるが良い。何なら二百年位帰らなくて宜しい」


 あ、床でネズミの絵が描ける位泣いてる。


 全員ルクレツィアを見てめっちゃ笑ってるし!!


 親ってこれが普通なのか…?それとも私達の親が激甘なのか…?




 外の風に辺りに来たが、ルクレツィアの元気が全く出ないので式部と慰める。

 でも仕方ない…パパとママに見放されたみたいになってるしね…


「ま、まぁちょっと世界にお出掛けに出ると思って!」

「色々経験してしっかりした女性になって帰れば大丈夫にゃ!」


「そうかなぁ…悔しいから王宮にちょっとだけ火をつけちゃおうかな…」

「エルフの王宮、総石造りだから一ミリも燃えないよ?まずは外を経験してみよ?ね?」

「に?」


「わーん!コロちゃ―――ん!王宮から追放された私の心を癒してー!」

「さすがコロちゃんの癒し能力!」

「さすコロにゃ!♪」



 そういえば彼女の戦闘力とかスキル所有とかはどの程度なのだろう…



「ルクレツィア、旅をするなら装備もスキルも必要になるけど、戦闘訓練とかはした事ある?」


「まーかせて!独学で学んだし、脳内では勇者を五回亡き者にしてるわっ!」

「いや、脳内といえど勇者を殺しちゃダメでしょ…」


「ルクレツィアは武器も無いし、少し素手で腕試ししてみるにゃ!」

「え!腕試し!?やるやるー!」



 式部は素手の達人レベルだから余裕を持ってゆったりと構えている。


 ルクレツィアは…レッサーパンダの威嚇みたいな…残念な感じ…



「いーくぞー!」


「来いにゃー!♪」



 レッサーパンダが…秒で距離を縮めて、式部に肘撃ちで突っ込む!


 中国拳法で言う処の絶招歩法からの頂肘だ!


 式部は慌てる事なく頂肘をてのひらで止めるが、そこから鉄山靠を決めて式部のバランスを崩したかと思うと、足払いからの回し蹴りを繰り出してくる!


 式部が足払いを避けて回し蹴りをガードすると、蹴り脚を上げて彼女を宙で回転させた!

 それをルクレツィアはよろつきながらぎりぎり着地する!



「そこまでにゃ♪戦闘は経験値次第で達人になれるにゃ!」

「ほんと!本当に!?」

「うんうん、でも実践訓練が出来ていない…脳内で組み立ては出来るから攻めは出来てるけど、防御に回ると数秒で一撃受けてしまう、そして痛みを知らないから当たり所が悪いとそこで終わってしまう…」


「うっ、何も言い返せない!」


「特にエルフは魔法や精霊魔法が得意だけど、戦闘になると男性でもそこまで怪力ではないから力も問題だにゃ…」

「流石、式部師匠!」


「これは…あれよね?人が指先一つでダウンしちゃう様なスキルや、痛覚を遮断して効かぬわー!みたいなスキルを探せという精霊のお告げねっ!」

「うん、そうじゃないにゃ♪」


「戦闘は私達がやるから、ルクレツィアはまず自分を守る為の力を身に着けて欲しいの」


「相手を完膚なきまでにり潰す力じゃなくて?」

「そういう野蛮な発想してるからパパに追放されるのよ?」

「ううう…気を付けますぅ…」


 ルクレツィアは気が付けばどこかにフラッと行きそうだから、以前アクラドシアで頂いた妖精ようせいえにしという、所持者同士で居所が分かる指輪を私が外して代わりにしてもらった。



「どうしよう?一度うちに戻って、現代の言葉遣いとかを学んで貰うのもよし、浮遊大陸がある内にダークエルフさん達の街を見に行くもよし…」


「待って待って、アクラドシアを離れる前に孵化した子達を見に行こうよ!」



 以前戦闘の舞台になった場所に降り立ち、水際で三回手を鳴らしてみると水底からバレーボール位の大きさで、首長竜に甲羅を付けた様なお母さん譲りのスタイルで子供達が現れて、三体で首を揃えてつぶらな瞳をこちらに向けた。

この子達があの大きさになるかと思うと想像が付かない…


「…かっ…かわいいぃぃぃぃ―――!♡」

「月花が助けた命だから尚更にゃ♪」

「可愛い…こんなに懐く魔獣もいるのね…」


 ぴぃ!ぴぃ!と可愛く鳴くので持ってたカロリーバーを三人であげるとしっかり食べてくれた!

 器用に陸に上がると、コロちゃんを親みたいに列をなして歩く姿が可愛すぎて思わず動画を撮ってしまった!

 コロちゃんと私達が散々遊んで疲れたからか、名残惜しそうに皆で湖に戻っていった。


 可愛い成分補給完了!

 また会いに来なきゃ!!




「さぁ、王様達が揃っている間に『たまに転送門使わせてー!』ってお願いしておこう!」


 皆、お酒に酔っていて二つ返事だったので転送門で再び浮遊大陸へ向かう。



「はわぁー…自国が一番落ち着くねー!あ、ダークエルフの村は詳しいから案内するよ!」


「ルクレツィア、早速頼もしくなってきた?」

「そうかもにゃ♪」


 オルフィナード王国で二番目に大きい島がダークエルフの拠点らしく、転送門で飛んで見る。



 到着すると目に入るのはやはり美しい街並み!


 エルフとダークエルフの街の美しさの違いを語れる程通ではないが、やはり草木の意匠を中心としたレリーフが特徴で街の至る所に木や整えられた草木がある。


「おークレアちゃん!今日も悪さしに来たの?」

「悪たれのクレアが来たか!今日は何かしない様に見ておかないと!」

「クレアちゃんは大陸で一番の悪戯っ子だからねー」



「人気者ね…」

「どうしてこうなった…」

「日頃の行いだにゃ♪」


「ルクレツィ…ここではクレアなのか。何か面白い場所とかある?」


「お忍びで来てるからね!街の中心にある、大樹の麓に湖があってね!そこが凄く綺麗なんだー!」


「じゃーそこで自撮りするか!」


「自撮りって何?」

「後で教えてあげるにゃ!♪」



 ルクレツィアの案内で着いた湖は絶景だった!

 湖の透明度が高く、青く澄んでいて綺麗な魚も泳いでいる上に、側に生えている大樹が枝を湖の方に伸ばしていて、景色のバランスが良いのだ!


 取り敢えず約束の自撮りを四人でしよう!


「ここに自分の姿が写るから、表情やポーズ決めてね!」

「え、どゆこと?……あ、小さい鏡?」

「はい、ポーズしてー!3、2、1!」

 カシャッ!


「はい、取れたよー!」


「おおお、鏡が止まってる!これは魂を持って行かれるタイプのアイテムなの!?」


「あははは!違うにゃ!私達の世界ではえるスポットや物があれば撮っちゃうにゃ!」


「映え…新しい概念ね!こんなに綺麗に時を切り取れる…ずっと思い出に残る…凄いなぁ…」


「少しは私達の世界に興味持ってくれた?」


「うん!面白そう!その箱、量産して売れば儲かるかも!」


「はい駄目ー!そういう目論見は口に出したらいけません!」


「えー…二人とも厳しい!」


「早く王宮に帰りたいでしょ?協力するからビシビシいくよ!」


「ががが頑張りますー!」



 そう決意表明をしているルクレツィアの背後の湖から…ホラー映画級のまだらの蛇がそっと出てくる。


 ルクレツィアに後ろ!後ろ!と身振り手振りで教える。


「ん?後ろ?後ろ向いても蛇しかいないじゃない?この位いやぁぁあああああああああああ!」


 ルクレツィアが動いた瞬間、蛇が牙をいて捕食しょうと動いた!


排撃する手裏剣シューティング・スター!」

 大蛇の頭に手裏剣が無数に刺さる!


「魔槍よ、射抜け!」

 式部の魔槍が口の中を貫通する!


名も無き壱之太刀ネームレス・ワン!」

 移動斬りで首を跳ね落とした!



「ルクレツィア大丈夫?」


「……うん、やっぱり冒険者って凄いね!素直に自分の未熟さを感じるわ!」

 素直に関心してもらえた様で良かった。

 こうやって少しずつ何かを感じ取って貰えればいいかな?


「月花、武器の感触変わってない?」

「変わった!強くなった気がする…やはり手入れって大事ね!」


 蛇は、街の人を襲っていて困ってたらしく、滅茶苦茶喜んでもらえた。

 そして何故かクレアの株が上がり、町の人の評価が良くなったのでいい結果になった。


 ダークエルフの長とも面識が出来、報酬を頂いてしまったのは嬉しい事だ。




 このタイミングで一旦帰宅して、ママにルクレツィアを暫く泊めていいか聞いて見る。

 駄目なら秘密基地行き!!


 ていうか、一人増えてる帰還はした事がないが大丈夫かな、転送装置?


 私がルクレツィアをハグしたら式部にめっちゃ妬かれるので、式部に任せることにする。


『ダイヴ・アウト』



 ……お、無事に戻れてる!

 まぁ今までも実質コロちゃんを入れて三人だったし問題無いのだろう。

 百人乗ったら大丈夫じゃなさそうだが。



 そっと自宅に連れて行ってみる…


「マ、ママー…」


「あら、おかえり!月花ちゃまに式部ちゃまにコロちゃまに……エルフちゃま?」


「うん、ちょっと訳が合ってエルフの王様から頼まれて…」


「ほわー…本物のエルフ…すっごい可愛いねー!宜しくね!本物は初めて見る…どこら辺にいるの?」


「浮遊大陸なのー」


「ああ!最初に行った時に浮遊大陸が月をバックに浮いてた…」


「なる程、丁度十四年前だ…ん?エルフの国で『《社》の人が山一つふっ飛ばした』って聞いたんだけど、ママ達じゃないよね?」


「………ママ、そのあたりの記憶曖昧だから知らないなぁああああっ」


「絶対ママじゃん」



「ここ、こんにちは、ルクレツィアと言います」


「あら、ちゃんと挨拶出来ていい子!月花のママです♡」


「でっしょー?伊達に王族の血を引いてないって言うかー上品さが自然に垂れ流されちゃってる感じ?」


「ママ、少しの間この子のこういうとこを教育して欲しいんだけど出来そう?」

「教育には自信があるよ!!!信頼と安定の実績!」


「自信凄くない?」


「そりゃ凄いよー!だって月花が超絶いい子なんだもん!」


「出た!駒鳥鵙こまどり家得意の親馬鹿にゃ!♪」

「////ありがと」


「じゃ、取り敢えず楽な服装に着替えちゃおうか!」

「お、お世話になりまーす!」


「そして浮遊大陸繋がりで、例のアニメから言葉を学ぶ!」


『オタクへの英才教育が始まるー!』


 お菓子をつまみながら一期見終わる頃には、ルクレツィアがヒロインと同じ口調になってた。



 ママの教育が凄いのか、ルクレツィアがちょろいのか…

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