第29話 Let's do surgery.

 飛んだと思しき方向を中心に空から偵察をすると、吃驚する位早く吃驚様な物があった。


 バーの裏手なのか、酒瓶、樽等が建物の側に沢山置いてあったが、エール酒の瓶や、タンカードが少しずつ大きくなって並べてある。


 マトリョーシカかな?と目を疑う位の綺麗な並びだった。



「これは…例のアイテムでの犯行と、ロシアから輸入された物とどちらを疑うべき…?」

「九分九厘スキルの仕業にゃ♪」


 これを見る限り、矢張りアイテムを試用した形跡と見て間違いない。


「ここを起点に周囲に何か痕跡を残してないか探し…」

 と、言い終わる前に結構な地響きがする!



 横を見ると……超巨大なバッタ…

 普段聞けないバッタのギシギシというどの部分が鳴ってるのか分からない音が怖い!


 横にいたバーの方に一応聞いて見る。


「あんな昆虫、ここにゴロゴロいるんですか?」


「んー見た事ないかなーあははー」

 のんびり過ぎる!


「わーお腹が気持ち悪いにゃー!

「バッタさんごめん!」


 下手に倒して寄生虫とか出て来たら気絶しそうなので塵は塵ダスト・トゥ・ダストにで塵にした。


「ニ手に分かれて探そっか…エルフの国が昆虫ワンダーランドになる前に…」


「お…おうにゃ♪」



 その後分かれて捜査してみるも、少し大きい昆虫や草木位で迷惑になりそうなサイズは先程のバッタだけだった。


 途中から痕跡が途切れたから、一応捜索範囲が限定された事になるので跡は絞っていくだけなのだが…




「騎士団の方、この大陸で飛行って流通している物なんですか?」


「いえ、離れている浮遊島にも転送門があるから飛ばなくていいし、騎士団でも団長と副団長しか持っていません。あとは国王、王妃様、王女様、王子様、ダークエルフの長、この街のおさ位です。基本飛ぶ必要がないですし、逆に変に飛んで島の安全圏を出てしまう事で気流に巻き込まれて落ちてしまう事故も過去にありました」


「盗まれるここ数日での外部からの旅人はいないんですよね?」


「ですね、≪社≫のお二人だけですね…」


「ここ最近で飛行を使わないと行けない事件はなし」


「はい、街の長にも聞きました…」


「そこまでいけばもう四人に絞り込まれてるんじゃない?」



「そんな、いやまさか…王族の中の誰か…!?」


「どんなに在り得なくても消去法で残ったのなら疑う余地があります。良ければ謁見えっけんをお願いしても宜しいでしょうか?」







 謁見が許され、騎士団の案内の中、謁見の間に通され、後から国王達がいらっしゃった。

 エルフの国王と王妃様が滅茶苦茶美人!!!


「ようこそ、オルフィナードへ。私は『この地を統べるナリュード』、横に居るのが妻の『風を聴きしオリュシア』だ」


「≪社≫の冒険者プロテクターレクスと申します」

「同じくデッドエンドだにゃ♪」


「この度は揉め事に巻き込んで済まない。平和な国なので争いや盗難は起こらないので、たまに起こるとこの有様だ」


「いえ…その件についてなのですが、少し人払いをお願いしたいのと、王女様への謁見も叶えて頂けませんか?」



「…そうか、少し読めてきたな。王女をここへ!」



「はい、お呼びでしょうか、国王陛下」

 国王様、王妃様もだが、王女様も超美少女さらさらロングヘアを緩くまとめ、素敵なドレスを纏っている。


「お呼びでしょうか?」

「王女のルクレツィアだ。ルクレツィア、宝物庫からあれを持ちだしたのは君かな?」


「…はい、申し訳ありません。国王様の身を案じ、私がどうにか出来ない物かと思案していた時に宝物庫の事を思い出して…」


「やはり、御事情があったんですね?医療知識も身に着けていたのは国王様、どこか御身体が…?」



「うむ…内密にしていたのだが、どうも内臓に腫瘍が出来ているらしいのだが…ルクレツィアはどうしようと、思っていたのだ?」


「医療知識は宝物で身に付けましたので、患部をシャッと開いて、宝物の力で小さい腫瘍しゅようを…こう、ぼぼんっと患部ごと大きくして、こう…勢いよくズパッと切ってしまおうと」


「肝心な部分がざっくりすぎです!」


『王妃様エルフが突っ込んだー!』



「あの、国民に不安を与えるのは良くないですが、お医者様だけでも呼べないのですか?」


「我が国の医療では治らないし、薬も足らぬのでな。エルフは長寿命だ。そろそろ精霊の身元へ渡るのも良いやもしれぬ。私は十分長く生きたよ」




「父上…嫌です、もっとがっつり逞しく雑草の様に生きて下さい…」


「エルフは自然と共に生きる種族なのだが父に雑草って言うなっ」


 王女様の語彙力が面白過ぎて困る!


「あの、国王様、下の世界で薬とお医者様を探してきましょうか?」



「…どのみち果てても良いと思って居った処だ。それならお二人に任せてみても良いか、王妃よ?」


「はい、国王。私も繋がる命を無碍にしたくありません」


「見つからなくとも気に病む事は無い。精霊の導きがあればえにしも命も繋がるだろう」




 王様の詳しい容態と、必要な薬をルクレツィアさんに紙に書いてもらい、オルフィナードを後にした。


「ある程度国王様との面識が出来た国もあるけど…何処か心当たりあるにゃ?」


「うん…精霊のエルフに近くて最近お知り合いになった国と言えば?」


「そっか!妖精の国アクラドシア!」


「可能性はあると思う!行ってみよ!」





 久しぶりに訪れたアクラドシアは変わらず旅人と観光客で賑わう国だった。


 あの卵達が羽化したかどうかも気になるが、人命優先なので、いきなり王様に取り次いで頂いて助力して頂けないか聞くことにした。



「久しいな、元気であったか?」


「有難う御座います。実は折行って助けて頂きたい事が御座います」


「また、面白い話か?聞いてやろうぞ!」


 国王様に話を経緯を伝えると、メモを見せろと言われ従者の一人を介してお渡しする。


 すると、興味を持った妖精さん達が何人かふわふわとメモを覗きに来る。


 其の後妖精さんの一人が袋を国王に手渡した。


「薬はこれで良い、医者は誰に行かせるか…」



「あ、僕がいくよー!」

 妖精さんの一人が手を上げてくれた。


「ニーナ=ティジカ…お前エルフの国に行きたいだけだろ?」


「ちゃ、ちゃんとお仕事するよ!少し帰りが遅くなったりするけど…三年位」


「長いわっ!」


 国王様のツッコミ!!!



「ま…まぁこれで良かろう、で、対価としてお主らに使いを頼みたいのだがいいか?」


「勿論!お受けいたします!」


「エルフの国は進んで人と会わず、ひっそりと暮らすと聞く。それを拗らせて浮遊大陸に移り住むあたりなかなかのヒキニートぶりだが、エルフ達との国交樹立と工芸品等の交易を頼みたいのだ。エルフには自在に各所を繋ぐ転送門があると聞く。それを王宮内の部屋の一室に設置すれば、国民に騒がれる事もなく交易出来るのではないかと」


「素敵なお話ですね!申し出てみます!」


「頼んだぞ。上手く事が進めば報酬も出す。あと、其方に頼まれていた卵が孵ったぞ。湖の畔で三回手を叩けばやってくるから、手が空いたら会いに行くといい!」


 笑顔でウインクする渋イケメン!


「はい!有難う御座います!!!」



『ねぇ、王様どこでヒキニートとな覚えたんだろう?』

『国王様、好奇心旺盛っぽいからにゃー♪』




 まず、容態が悪化したら怖いので、ニーナ=ティジカと一緒に浮遊大陸へと急ぐ!

 妖精さん、飛ぶの速いな!



 一目散に王宮を目指し、国王様に取り次いで貰う。

 二度目なのですんなり謁見は叶った。


「こんにちは、二人とも早かったね!其方そちらの方は妖精族の方だね」


「はい、妖精族にお知り合いが居まして…それで、手術が上手く行った暁には国交樹立と交易をエルフさん達の邪魔をしない程度にお願いしたいとの事でした」


「素敵な申し出だ。こういう不測の事態にも下の世界の力を借りれるなら、こんな喜ばしい事はない」


「良かったー!」

「人の輪が広がるにゃ!」


「国王様、手術ですか!?」

 清潔そうな服と帽子、そしてゴム手袋をした両手を前で揃えている。


「ルクレツィアは如何あっても手術したいのだね?」

「何事も経験だし、最悪傷跡がガッツリ残ってもパパだから良いかなー?って」


「ママ、ルクレツィアの今晩の晩御飯は激辛コースで」


 王妃様に首根っこ持たれて引きずられていくルクレツィアさん…

「いやぁぁぁ辛いの嫌いぃぃぃぃ……」


「すまん、話が逸れた。ではお願いして良いか?」


「おまかせあれ!あの、終わったら街を観光してもいいですか?5年位…」


「滞在期間伸びてる!!!」




 その日の内に国王様の手術が終わり、無事命の危機は回避出来た様だ。


 あとは回復待ちかな?


「式部、街を見に行こ!まだまだ見どころありそうだし!」


「まだ全然見れてないよね…ん?あれ武器屋かな?」


「ちょっと見に行こう!」


 入り口に素敵な装飾の大剣が掲げてあり、そうかな?と思ってたんだけどやはり正解だった!


 どれも素敵な装飾で、安い武器でもデザインが美しく、壁に掛けてあるクラスの物は芸術の息に達している。


「どれも滅茶苦茶綺麗だねー!」


「目の保養になるにゃー♪」


「お前さん達は人間の子かな?まだ若いだろうに旅をしとるのか?」

 少し筋肉がついているエルフの店主さんが話しかけてきた。


「はい、なんだかんだで旅しています!」

「二人とコロちゃんとであちこち旅してます!怖い目にもあったけどね」


「知ってのとおり、この国は争いごとが無くて武器はさっぱり売れん。暇だからサービスで武器の手入れをしてやろう」


『やったー!』


 カウンターの上に武器を出すと、エルフさんの顔色が変わる



「これは…どこで手に入れた…?」


「あ、フードを被った片目の髭のおじいさんから譲り受けました…」


「やはりか…その年でとんでもない武器を手に入れたのぉ」


「あのおじいさんとお知り合いなんですか?」


「詳しくは言えないが、刀に飲まれるな?お前さんが主人である事を刀に分からせろ」


「はい!」


「グングニルは言わずとも最強の魔槍…だが、磨いたり研磨してやるともっと魔槍は答えてくれる。信頼関係じゃな!」


「分かったにゃ♪」


「そこで座っておれ、手入れしておいてやる」

「有難う御座います!」



「あの武器屋さん凄いね、最近の悩みを見抜いちゃった!」


「うんうん、魔槍ももっと自分で手入れしなきゃ」


「今度一緒に手入れしよ!」


「するするー♪」



 十分もすると店主さんが磨き上げられた私達の武器を持ってきてくれた!

『すご―――い!』


「ふふふ、綺麗になったじゃろう?それと、二本とも宝石が抜け落ちている部分があったから嵌め治しておいた。こういう武器は計算されて作られておるから無くなると何かしら不具合が出る。本番でベストを出したかったら日頃から命を守ってくれる武器を愛してあげなさい」


「有難う御座います!お代は幾らですか?」


「いらんいらん、いい物を見せてもらったからサービスしておいてやるよ。もし、その武器で折れたとか異常が出たらここに来なさい!」

『はーい!』

 お抱えの武器屋が出来た!!!



「さ、式部!ご飯行こっか!?」


「そうだにゃ!♪」


「でもエルフの街って綺麗だし流石に屋台とかはないよね…」


「お店の中にもあるかも知れないしにゃ………ん?くんくん…この脂の中に感じる肉の匂い……」


 しゅっ!と指輪の力を使い高速移動で消える式部!




「やっと式部見つけたー!いい物あった?」


「これは、庶民的な風体を装って中が上品…そのギャップに魅了されるにゃ…」


「そこのお客様は分かっておられる…このエルフ風コロッケ、中の肉はここでしか食べれない天空牛!そしてそれに負けないオリジナルのパン粉、ジャガイモもこの地特産の甘いジャガイモ北十字を使用して、牛の油に負けない様にしております」


「二つ下さーい!」


「二十個下さーいにゃ!♪」

「はっや!」


 コロちゃんと一つずつ味わってみる。


「うわー、全体のマリアージュが凄いのに甘いだけじゃない!旨味もある!微かに香草の香りもする!そして揚げたてならではのサクサク感が耳から食欲を促している!」



「エルフの街…恐ろしい所にゃ…」

「さて式部審査委員長!今のエルフ風コロッケ……順位はっ!?」


「ガッツ丼は超えられなかった!」

「四位にランクイーーーン!」


 ☆ご当地B級グルメランキング!

  一位:アクラサーモンの塩焼き

  二位:装甲イカの姿焼き

  三位:ガッツ丼

  四位:エルフ風コロッケ

  五位:ワタリ魔牛のジューシー肉串

  六位:あったかほっとたこ串

   鉄は熱い内に食え☆(ゝω・)vキャピ



 この後宿に戻り、国王様の経過の続報を待つ事にした。

 早く吉報を聞きたいな…

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