第28話 Elves want a quiet life

 ぼんやりと目を覚ました。


 見たことない天井…


 病院かなぁ…


 横で式部しきぶが私の手を握りながら椅子に座って寝ている。



 またしてもあの魔女…


 戦闘が格別上手い訳ではないが、空間転移や転生の様な厄介なスキルを持っている上に、陰湿なやり口が非道過ぎる。

 出来れば何故恨みを買ったのかも聞いておきたいが、取り付く島もない態度だしなぁ。


 再戦も考慮してスキルは流星触だけにしておいて正解かも知れない。



「ん?月花つきかお早うにゃ♪」


「おは!私入院する程酷かったの?」


「起きたら病院だったのと、私が起きてから殆どスキルで治せたんだけど、毒が心配だったから…」


「それで式部も入院着なのか」



「あー!まーた抜け出してる!♪」

 小町ちゃんが式部に呆れた表情を浮かべている。


「ママ、ごめんにゃ!♪」


「スキルで回復したとはいえ、二人とも運ばれてきた時酷かったらしいから、ちゃんと寝てるのよ!♪」


「はーい!」


「それよりも小町ちゃん、その格好で来たの?」

「うん、《社》から電話掛かってきて吃驚しちゃったからつい普段着で…えへへ♪」


「スクリームマスクとフレディの服とジェイソンの斧…今日は滅茶苦茶控え目なのにゃ!♪」

「ねー地味よねー!♪」


 駒鳥鵙家の普段着の基準よ!

 寧ろ派手な時はどうなってるの小町ちゃん!?


「あれ?うちのママは来てないの?」

「逆よ、逆♪」

「あ、いた!」


「こんな子煩悩こぼんのう姉妹が、娘が怪我して来ない訳ないじゃん♪ねー♪」

「にゃー♪」


「その割にはママ凄く爆睡してるけど…寝てなかったのかな?」


「寝ずにドモホルンリンクルを見守る製造員みたいにずっと月花を見てたけど、私がスキルを掛けたから安心して少し仮眠するって♪」


「そっか…ママ有難う♡」

 そっとコロちゃんをママの後頭部にお供えする。



「式部、メンテ開けたらそろそろあれが来るんじゃない?」


「おおお、やっと来るのかにゃ!♪」


「うんうん!待ちに待った浮遊大陸!そろそろいつもの双子山あたりに戻ってくる筈だよ!」


「じゃ、メンテ明けはますそれで行くにゃ!」



 その夜。

 今日退院でも良かったんだけど、念の為明日退院になる。

 ママは今、リンゴをうさぎさんに剥いてくれてる。

「ママ…」


「…何か辛い事があったの?」


 例の封印のトリガーで中の人を殺してしまった事を素直に話した。


「それは、あの魔女が悪い!助けようとして罠にかかったのなら貴女も被害者なのよ?それを加害者って立場をすり替えて罪悪感を押し付けるとか…次会ったらガチで倒す!」


「ママ、会った事あるの?」

 うさぎさんを一つ食べながら聴く。

「あ、いや、あの時の中継を見てたからついつい白熱しちゃって…えへ」

「ママらしい!」


「少しだけ…泣いていい?」

「いいよ…おいで」


 泣くとストレスホルモンが分泌されて心の負担が軽くなるのは科学的に証明されているのて.これは有効なストレス発散方法なのだっ!


 やっぱりママの胸の中は落ち着く。

 ビルの中に居た皆、必ず仇は取るからね。



 次の日。

 退院して小町ちゃんの車で四人で帰宅する。


 一旦お風呂に入ってから集合と言う事になり、コロちゃんと風呂でのんびりして、出てすぐに保湿液を塗り、ドライヤーでブローする。

 コロちゃんは相変わらず乾かすと球状になるから可愛すぎる♡


 準備をして、秘密基地へ行くと今日は式部の方が早かった!


「ごめん!待った?」

「大丈夫だにゃー♪わー!毛玉コロちゃんいつもながら素敵すぎる…」

 恐らく球状の物を競う大会とかあったら世界一位取れると思う!


「あれが来る時期…ちゃんと来てくれてるかな?!」

「これを逃すと14年待ち…今行かないでいついくにゃ!♪」



 私達が贔屓にしているファンタジー世界には幾つか浮遊大陸が存在しているが、その内一番大きな大陸は何とファンタジー世界を周回しているそうで、それがいつもの双子山に来るのがこの時期なのだ!


 そして、大体の人には、たまにやってくる名物にしか過ぎないが、飛行出来る人にはワクワクの冒険大陸!


 行った人が少なすぎて情報が殆ど無いが、どうやらエルフの住処で世界に散らばるエルフはあの浮遊島がルーツだとか何とか。


 何かお宝が手に入るかも知れないし、美味しい物もあるかもしれない。


 逆に流通とかあるんだろうか?

 困ってるなら橋渡ししてあげたいし、色々気になる!




 取り急ぎダイヴ・インし、状況を確認!


 良い天気だ!!


 そして…浮遊大陸が見えるー!!!

 大きな大陸の周囲に小さい小島が幾つも浮いている。


「何持っていく?念の為カロリーバーとかあるけど」


「調味料とかスパイスの種はあるから、魚とか要るなら仕入れに行ってもいいにゃ!♪」


「これだけワクワクで行って、滅茶苦茶荒んでたら凹むね…」


「独立してる上に交流が少ないと、流行り病で全滅とかしてても可笑しくないにゃ…」



 何はともあれ飛んで見る!

 三人で、まずは遠目に状況を確認する。


「緑が綺麗だねー!」

「月花あっち見て!一番大きい大陸から滝が落ちて下の浮遊島に流れてる♪」

「虹も出てるー!一番大きい島の真ん中の木、大きくて綺麗!」


 取り敢えずJCらしく自撮りと写真撮りまくった!


 もう少し近寄ってみる。

 いきなり障壁とかに弾かれたら怖いし…


 小さい島と言っても相当大きいので家や畑、湖、島一つが牧場になっている様な場所もある!

 という事は島同士で行き来は出来るのか。


 主軸とおぼしき大樹の島を目指す。


「門みたいなのがあるから、ちゃんと手続きして入ろう!」

「にゃ!♪」

「にっ!」


 街の端にある門の広場に降り立つ。

 ちゃんと石畳になっていてもう美しさが分かる!



「こんにちはー!」

 門番らしき、椅子に座るエルフに声を掛ける。

「ああ、来訪者は久しぶりだ。ようこそエルフの国オルフィナードへ!どの様なご用件ですか?」


「あ、観光です!あと、何か困ってる事があれば仕入れとかお手伝いしますよ」


「あ、もしかして噂の《社》の方かな?」


「わっ!ご存知なんですか?」


「お会いした事はないですが、下の三つ子山の一つを吹き飛ばしたのは聞き及んでおります」


「あれ、三つ子山だったんだ…」


「誰だろう…山一つ吹き飛ばす《社》の人って……」


「とにかく《社》の方なら問題ありませんが、身分証明証だけ拝見しますね」


 二人で身分証明証を提示し、コロちゃんは肉球を提示する。


「はい、レクスさんにデッドエンドさんにネコちゃんですね!王の城以外は何処でも歩いて大丈夫ですが、訪れる物が極端に少ないので、少し怖がる人も居ますがご了承下さい」


「あの、通貨とかは…?」


「下の国と同じですよ。ご心配なく!では、良い旅を!」



「イケメンだった…」

「イケメンにゃ…皆あんな感じなんだろうか……うわぁー…」


 城は見えていたけど、街も独特の様式で…アールヌーボー調でボタニカルな雰囲気…

 人間は殆ど居らず、エルフの中にまれに見かける程度だ。


「まぁ、まずは腹拵はらごしらえとB級グルメ探しかな?」

「エルフの街のアイテムは全て美しい気がするにゃ!色々漁りたい!」

「エルフのスキルショップも気になるー!」



 恐る恐る通りすがりのエルフさんに美味しいお店を聞き、広い街を探して入ってみる。

 中はやはり装飾の美しさとボタニカルの良さを合わせた素敵なお店だった。



「いらっしゃいませ。人間のお客様は久しぶりで嬉しいです!」

「何がオススメですか?」

「ウチは草木薫るラムシチューと焼きたてのパン、デザートエルフ風アイスがオススメですよ」


「それを二つお願いします!デザートはもう一つ追加で!」

「ににっ!」


「はい、お待たせしました!」


 やはり飾り付けや色使いが食べ物まで美しい!

「いただきます!……あ、秒で美味しい!」


「ラム肉のシチューこの歯がいらない柔らかさと肉の旨さ、パセリともまた違う格調高い薫り…」

「焼きたてのパンをシチューに浸けて食べる楽しさと、具をパンに乗せて食べる楽しみ!」

「にににんにに!」

「コロちゃんもラム肉をお気に召しておられる!」


 アイスはバニラアイスが二個半分ずつ乗ってあり、あっさり味バニラアイスには軽く焼いた薄切りバナナにシナモンが薄く振ってある物が。

 濃い味バニラアイスにはさっぱりミントの葉が乗せてあり、一度で二度美味しい味だった!

 アイスはコロちゃんも完食!




「美味しかったねー!」


「繊細な中にしっかりとした味が…A級グルメだったにゃ!」


「よし、宿を取ってウロウロしようか!」


 装飾がアートレベルな宿を抑えたがそこまで料金が高くなくて吃驚!

 やはり種族の様式美が美しいと全てが美しいものなのかな?



「失礼します。本日我が国に来られた《社》の方というのはお二人様ですか?」


「はい、そうだにゃ!」


「もし、差し支えなければお願いしたい事があるのですが…お時間如何でしょう?内容を聞いてから断ってくれても構いません」


「時間はあるのでお聞きしますよ!」


 自警団かと思いきや、この国の警護は宮廷騎士団が行っているらしい。

 街に配備されているのは分隊だって。

 で、騎士団の街の詰め所にお邪魔した。



「で、ご相談はどんなデスゲームですか?」


「確かに浮遊してますがデスゲームじゃないです。実はお恥ずかしい話、数日前王宮の宝物庫から特殊なフォースアイテムが盗まれまして…」


「どんなアイテムかお聞きしてもいいですか?」


「物を巨大化するアイテムです」

「何を如何やっても迷惑にしかならないアイテム!!!」



「そうなんです、万が一ここで何かが巨大化すれば危険ですし、下の世界でも同じく…ルーペを巨大化するだけでもう兵器です。お願いしたいのは犯人からの奪還です」


「まず、下の世界に逃げた可能性は?」


「ありません。視覚で分からないでしょうが、入るのは自由ですが外には出られない障壁を張っています」


「良かったにゃ、逆じゃなくて…」


「アイテムの外見と、犯人の外見の目撃情報はありますか?」


「アイテムの外見はネックレスで、青い宝石の周囲のフレームにエルフ文字が刻んでます。青い宝石はこの大陸に殆どないので見つけたら十中八九それが該当の品です。犯人の目撃情報は暗闇だったので断定できませんが、エルフの女性で背は高くなくなかったと…」


「うーん…発見出来るかお約束出来ませんが、滞在中の日中は捜索してみますね!」


「宜しくお願いします…」




 詰め所から帰り道、色々考える。


「珍しく自信なさげだにゃ?」


「うーん、大陸を封印しているとはいえ、対象が小さくて手掛かりが少ないよね。浮遊大陸とはいえ、王国一つ以上の広さに加えて浮遊島もあるからね…」


「見つけられないと帰れないかもにゃ?」


「本当だ!滞在中とか言っちゃったけど解決しないと帰れないじゃん!」


「現状を打破出来るようなスキルないか見に行くにゃ♪」


 式部によしよしされる私…


 スキルショップに寄り、良さげなスキルを買い探索に出る。


「捜査の足掛かりが欲しいね」


「フォースアイテムショップで売られてないないか、ダメ元で行ってみようか?」




「……どうだったにゃ?」


「駄目、そういうアイテムは取引してないって。他の取引出来る店にも聞いてもらったけどないらしい」



 前に小花ちゃんを攫った奴を特定出来なかった時はパパが過去に戻って見てきてくれたんだっけ…


 糸口さえ見つかれば…


 糸…


 足元で何回か試してみる。


「使えそう!」



 宮廷騎士団の詰め所に戻って、立ち合いは厳重にして良いので宝物庫を拝見出来ないか聞いてみる。


 すると「いいですよ、ご案内します」と二つ返事だった。


 聞くと、国が閉鎖的というか、エルフかダークエルフしかいない為、犯罪が殆ど起こらないそうだ。

 その為宝物庫も施錠していないという。


「あの、偏見でごめんなさい。ダークエルフって怖い人達ではないんですか?」


「あははは、よく聞かれますが、同じ種族で系統が違うだけです。違いは肌の色、耳の角度位ですよ!人間の中でも黒人さんが身体能力が高くて優れている様に、ダークエルフも身体能力が高い傾向にあります」


「成程…」



「あ、着きました、こちらです」


 凄く綺麗な模様が彫刻されている天井まである大きな扉。


 城の内部の中腹辺りにそれはあった。


 大きな一枚岩の扉なのに、それ程音も無く内開きに開いた。



「一旦立ち止まって下さい、スキルを使います」


 式部と騎士団のお二人が立ち止まる。


「蜘蛛の銀糸!」


 あらゆる調節が可能なこのスキル。


 かすかなほこりや足跡の段差のメリハリがつく様に射出すると足跡も浮き彫りに出来るのだ!

 さっき気づいたのは内緒だ!



「例のアイテムが置いてあった場所を、足跡を避けて案内して下さい!」


 念の為式部と騎士団を一人置いて、もう一人に案内してもらう。


「こちらです。普段本当に入る人が少ないから足跡がしっかり残ってますね」


「真っすぐここに続いているけど…もう一つ寄り道して、取っていない…」


「そのアイテムは少し変わっていて、医学・薬学が一瞬で身に付くアイテムですね」



「あれは…身に着けているとずっと身に付くんですか?」

「いえ、三分も付けていれば指輪は外しても大丈夫です」


 これだけアイテムが沢山あるのに、ほぼ目もくれず一点だけ…何をしようとしている?


 足跡は小さく、騎士団の装備とも違い、滑らかな靴底…


「恐らく標準的な女性用の靴底ですね、踵が高く見えます」


 行く先は回廊の正面、庭に続いているが高さが結構あるので飛び降りたら怪我では済まない。


 何らかの飛行スキルを持っている証拠だ。


 さっきよりは情報が多くなった!


 ここから煮詰めてみるか!




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