第27話 giant killing

 久しぶりのメンテナンスだ。


 勿論、私の事ではなく転送装置のメンテナンス・アップデートだ。

 その間、≪社≫からの依頼も来ない筈なので少し安心出来る。

 その内緊急メンテナンスのお知らせとか来そうで戦々恐々としている今日この頃。


 私達の命が掛かってる物なのでメンテナンスしてくれるのは有難いけどね!



 今、私が何をしているかというとコロちゃんをおでこにお供えして、ごろ寝しながら考え事をしている。

《社》の依頼は明確な目的があるからウロウロと動けるけど、日常は通学してご飯食べて寝る毎日。


 そう、私は…割と無趣味なのだ!

 正確に言うと広く浅くというか、色々好きだけど全てに於いて造詣が深い訳ではない。


 式部はママと小花ちゃんとホラー映画という立派な趣味がある。


「ねーママー!ママの趣味教えてー」


「どうしたの急に?私はいつも通りレトロゲームだよ!あとは月花に甘える事かなー♡」

 お腹に顔を埋め、ぐりぐりするママ!


「あ、コロちゃんお供え中だから動けない!」

「ふふふー月花のお腹は天国なのじゃ♡」

「やめてー!私の余分なお肉を愛でないでー!」


「愛情表現の激しさは姉妹で一緒だにゃ♪」


 ひっそりと式部に見られてた!


「式部ちゃんいらっしゃい!式部ちゃんもやるー?やるよねー?♡」

「断られてもやるぅー!♪」


 これで贅肉も一カロリー位減ればいいのに…




「なんかさー、最近の戦闘の波乱続きじゃない?」


「うん、やはりなるべく殺さない様にって戦ってるからにゃー♪」


「美姫さんの言うとおり、スキルショップで近距離~中距離技見ようかなぁ…」


「行ったら行ったで、心ときめく大技に目が行くからにゃー!♪」


「娘達よ!そう!大技は乙女の浪漫!」

『ですよねー!』




 近鉄奈良駅前にビル一つがスキルショップになっている場所があるので、そこに式部と向かう。


 スキルショップは基本カタログ販売なので、カタログをじっくり見られるテーブルと椅子が沢山用意されており、ドリンクや軽食も頼める。

 長椅子とテーブルのある階はあたかもカードショップのデュエルスペースの様であり、今にも黒いマジシャン女子や目が青い白竜が召喚されそうな空気だ。


 二人でコーラフロートを頼んで、のんびりとスキルを高額の方から見る。

 買えない額のスキルを見るのが楽しいからだ。


 ただ、高額なのに何に使うの?ってのもたまにある。

 手汗が酷くなるとか、富士山の天候がいつも悪くなる、とか…世に出したらマズいから高値を付けてるんだろうけど…


 近距離~中距離で強い技…流星蝕エクリプス・メテオは強いんだけど、一歩間違えたら危ないしなぁ。


「式部、なんかいいのあった?」


「はっ!億越えのスキルの使い方を妄想してたにゃっ!♪」


「そうなっちゃうよね!多分来てる人皆そうだよ」


「当たっても致命傷にならなくて、牽制に使える技…悩む悩む♪」


「うっ…中二病心出すとうっかりやべーの買っちゃう…」


「周りのお客さんもノールックで頷いてるから皆そうにゃ♪」


「逆に周りのお客さんが何の仕事か気になるわっ!」




「あ…月花、メールが…」


「げ」


 案の定≪社≫からだった。人前だから口に出せないけど。


 内容はビル一つがが結界の様に密封されていて内部に入れないらしく、人命に関わるかもしれないのですぐ向かって欲しいとの依頼だった。


 二人共目ぼしい物を一つづつ買って現地に飛んだ。


 今回は奈良の南の方なので、見られない様に物陰から式部と飛んで現地急行する!



 山沿いの県道沿いにある工場の、敷地内のビルが座標の示す位置だった。


 結構急いだから電車よりは早かった筈!


 空間移動か早い乗り物欲しいなぁ…



「久々のリアルの依頼…気を付けていくにゃ!♪」

「ピヨッ!」 

「まだ馴染んでなさそうにゃ!」




 周囲を確認するが人気はない様に見える。


 ビルの中は何カ所か明かりが点いているが窓からは人気が確認出来ない。

 正面玄関のドアは固く閉ざされていて、遊びすらなく、窓も一切がたつかない。

 一階は全てブラインドが下ろされていて、二階より上もブラインドが半分以上視界を妨げている。

 飛んで確認してもいいが、犯人に見られて悪戯に刺激すると閉じ込められている方達の命に係わる。


「先に解除出来るかやってみるね!名も無き解除ネームレス・リリース!」


 名も無き刀で戒めを斬ってみると、何かが割れた音がし封印が解除された。


 静かにドアを押してみると、ギギギと軋む音がして中に入れる様になっていた。


「一階からしらみ潰しに行くよ!」


「にゃっ!」



 入ってすぐ右手の部屋…事務所だろうか、ドアは開いたままドアストッパーで固定されている。


 左右を見ると机に伏せて寝ている姿の女性事務員さんが居たので声を掛けてみる。


「すみません、大丈夫ですか?」


 髪が長くて表情が伺えなかったので、軽く揺すってみる。


 呼吸が出来てない可能性もあるので、後ろに起こしてみると…



「いっ!」

「顏が無い…」


 出血もしていないが身体はまだ暖かく、でも息はしていなかった。


 部屋の机の陰で同じような死体が幾つかあった…


「手分けしてダッシュで他の階も回ろう!」


「分かったにゃ!」


 最上階まで駆け抜けて一人一人確かめるが、従業員と思われる人達は全員今亡くなった様な状態で、身体の顔や首、胴体等を斬られていた。


「なんて惨い事を…」


「目的も不明…シリアルキラーの類なんだろうか…」


「敷地に生存者がいないか確認しよう」


 外に出ると、女性二人と男性一人が吃驚した様子で出迎えてくれた。



「あの…≪社≫の方でしょうか?中はどうなってましたか?」


「≪社≫の冒険者インターセプタ―レクスと申します。残念ですが中に入った時には生存者は一人もいませんでした…」


「あの…犯人は…?」

 茶髪の女性が青ざめた表情で聞いてくる。


「ビルは封印されていた様な状態で、結界を斬り中へ入りましたが犯人はいませんでした。亡くなった方は皆体温が残っていましたので、犯人はまだ近くにいるかもしれません。警察が来るまで我々が保護しますね」


 式部はもう警察へ連絡をしていて、女性は横にいたポニーテールの女性にすがって泣いていた。


「何でうちの会社が…過去の大戦の痛手から乗り切ってきた人達ばかりなのに…」

 男性もショックが大きかったのか、その場で屈んで動かなくなってしまった。


 少し話を聞いてみたが、他社と揉める様な事も泣く、順風満帆の様だった。



 まだ泣いている女性二人を見て、妙な既視感に駆られる。


「レクス…あの人…」


「違和感に気付いたの?」


「顔は分からないが、ポニーテールの髪、袖の折り方…最初に見つけた事務員さんと同じ…」


 聞こえたのか、泣いていたポニーテールの女性が突然無表情になり、抱き締めていた女性を突き飛ばした!



 指を鳴らすと、突然ビルが粉々に弾けた!!

「花鳥風月!」


 全員にドーム状の障壁を張って保護する。

 謎の女はどこかに消えていた。


 ビルが弾けるとそこには典型的な姿の、ビルと同サイズの巨大なゴーレムがいた!


 拳を振り下ろし殴ってきたのを避ける!

 向きを変えないと障壁の人達が危ない!


まわれ魔槍!ニーベルングの指環!」

 式部の魔槍が回転・貫通しながらゴーレムを削っていく。


流星触エクリプス・メテオ!」

 全てをえぐり取る流星でゴーレムの上半身を削った!

 しかし石が盛り上がり再生しようとする!



「あーこれ、典型的な奴かにゃ?」


「デッドエンド!身体の何処かにあるemeth(真理)の文字の『e』を削って!meth(死)になれば自壊していく筈!」


 だが巨大すぎる上に攻撃が早いので、攻撃しながらだとなかなか難しい!

 セオリーなら頭部にありそうなんだが…攻撃を避けながら上から探す。



「あった!首の後ろ!」


かすめろ!魔槍よ!」

 攻撃を避けながら式部の魔槍が正確に『e』だけを削りきる!


 その瞬間、ゴーレムは音もなく唸りを上げる様なポーズでボロボロと自壊していく…


 魔法で構成されていたのか?土煙が落ち着くとビルの瓦礫しか残っていなかった…いや、誰かがいる…


 さっきの事務員だ。



「あらあらぁ?倒しちゃったの?折角このビルの人間の命をゴーレムに転生させてあげたのにー?」


「全てお前の犯行か!?」


「何がぁ?」


とぼけるな!このビルの人々を何故殺害した?」

 式部が女に怒りを浴びせる!


「殺したのは私じゃないよ?」


「まだ仲間が居るのか!?」



「殺したのは…貴女…アナタよ?」

 耳に髪を掛け、私を指差す。



「何を…言ってる?意味が分からない」



「あのビルの封印…破壊するまでは全員生きていたのぉ。でも、破壊すると破壊した方法が中の人間に反映される様になってたのぉ。封印を斬ったんでしょ?だから皆、封印と共に斬られて絶命した」


「…何だと…」


「粉々に砕けば人間もグチャグチャ、槍で突けば穴だらけ…つまり斬られたのはお前が斬ったからだ!お前が殺したのよ!あははははははははははははははぁ!!!」


「この汚いやり口、貴様!あの時の魔女か!」


 指を鳴らすと事務員が≪社≫の大会でデスゲームを仕掛けてきた魔女の姿に変わった!


「レクス、しっかりしろ!奴は罪悪感を植え付けたいだけに過ぎない!」

「…後悔は後でする!今、ここで生きて返すと更に後悔が増える!」



 名も無き刀を次元の狭間から取り出し、構え……れず、刀を落とした。



「え?」

 見ると式部も魔槍を落としている!!



「遅延スキルって知ってるかしらー?一定時間するとスキルが発動するの。けど、貴方達は常に一定の警戒をしている。毒も駄目だ。だから…接触発動遅延スキルにしたのー!さっき、コーラフロートのグラスに触ったよねー?時間経過で発動したから今、貴方達の握力はゼロよー♡」

指を鳴らしながら嫌な笑い方をする魔女!


流星触エクリプス・メテオ!」

消去イレイズ!」

 流星をかき消された!


「武器は苦手だけど、スキルなら負けないわよぉー」


消去イレイズ!」

 試しに手に掛けてみたが握力は戻らない!


「野獣の毒爪!」


 複数の刃が地面を削りながら迫ってくる!

消去イレイズ!!!』

 消去で消えたかに見えたがまた目の前で復活した!


 咄嗟に結晶飛行で全速で空に逃げる!


「にににっ!」

 コロちゃんが空中から火炎を魔女へ飛ばす!

 だが、ギリギリの処で何故か魔女が避けた!


 そうか!コロちゃんのは私の結晶と同じでスキルではなくアビリティなのか!

 アビリティは消去イレイズで消せない!

 コロちゃんが撹乱かくらんしてくれている間に!


流星触エクリプス・メテオ!!」

疾駆する小槍チェイシング・スピア!」

 コロちゃんの消せない火炎、全てを抉り取る流星、そして式部の新技!尖岩せんがんが足元から段々と大きくなって走っていく!


 全て命中したか?と思ったのもつかの間!


 空間転移で式部の背後に現れる!

「指輪よ!」

 式部が指輪の能力で身体能力を上げ、高速の蹴りを背後に撃った!

 だが、更に空間転移で背後に回り、式部の脇腹を背後から刺す!!

「デッドエンド!」

「相変わらず背後が甘いわねぇ」

 思わず叫んだが、意識は残してそうだ!

 刺した後、横にえぐり式部を蹴り飛ばす!


「燃え盛る憎しみ」

 巨大な炎をこちらに放ち背後から更にもう一発!上からも撃ってきた!

 空間転移ウザすぎる!

 段々と逃げる隙間が無くなってくるが問題ない。


 炎が命中して散ったときには花鳥風月の障壁で全方向カバーしてたから無傷!


「だが足元は無傷じゃないでしょ?」

 地面から大きい棘が生えて両足を貫いた!

 地面に縫い止められた瞬間に空間転移で目の前に移動してきて、腹を蹴られた!

 思わず転倒してしまい、うずくまった処を何度も何度も何度も何度も執拗しつように蹴られる。



「……私達に何の恨み…がある?」

「教えなぁーい!自分で思い出せよカス!」


「どういう…恨みかは知らないが…関係ない人を巻き添えにしていい筈ないだろ!」



 蹴りの痛みを堪えて立ち上がり、蜘蛛の銀糸で名も無き刀を取り、両手を銀糸でぐるぐる巻にして刀を持たせる。



「あんたはさっき関係ない人を巻き添えにしたのにぃー?」


「…この刃は…亡くなった罪なき民を弔い、かたきを打つ為の刃だ!」


「ほざくな!その状態なら技を出すのも難し」

名も無き一閃ネームレス・フラッシュ!」

 言い終わる前に、刀から光の刃が飛んでいく! 


 消去イレイズで消そうとするが刀のアビリティは消えず、魔女に直撃する。

 後方に吹っ飛んだ処を式部の魔槍が飛んできて脚を貫く。

 式部の魔槍は命令だけでも動くので、これを狙って待っていた様だ!


名も無き封印ネームレス・シール解除リリース

 瞳が真紅に光り、全身に。紅き闘気を纏う。


 体中を闘気が纏い、目が真紅に光る!


 腹を光の刃で斬られ、魔槍に足を穿かれ、フラついてる魔女がスキルを発動する!

「爆砕連鎖!」


 周囲を爆発が連なり発生する!


 倒れてる式部の前に結晶で障壁を作り、同時に魔女の背後に回る。

名も無き連撃ネームレス・バラージ!」


 超速突き連打で一瞬で魔女の背中が血塗れになる!


名も無き一撃ネームレス・スラスト三連トリプル!」

 正面に周り、突きを至近距離で三発貫通させる!


「ぐああああああっ!」

 悲鳴を上げて倒れる魔女。

 倒れた直後に両手を切り飛ばす!


 その後、肩を貫いたまま魔女の顔を見る。


「この短時間で随分老けたんじゃないか?イニシアチブを取られた気分はどうだ?命を踏みにじる奴は命を踏みにじられても仕方ないと思え」

 刀を動かし、肩を抉る。

「ぎゃああああああああぁあぁぁぁああ!!!」


 次は逆の肩だ。

「鼓動の静止ィッ!」

 心臓狙いか!

生命の安定スタビリティ・オブ・ライフ!」

 倒れている式部が後方からフォローしてくれた!


「果物の収穫位の気軽さで命を摘み取ってくるな。次はお前が収穫される側に回れ」


 魔女の喉を声が出ない程度に斬る!

 血塗れで涙を流しながら口をパクパクさせる魔女。


「すまん、その様子だとお前は人ではなく魚だったか?なら手足は要らぬな?」

 四肢を切り落とす。


「懺悔の時間だ。罪なき民へ謝罪をしながら地獄で苦しめ」

 刀で上半身を引っ掛け、上に投げて目の動きで追えない速度で魔女を微塵切りにした。




 式部も心配だが、プライオリティは障壁で囲っていた一般人二人が先なので見に行く。


「良かった!無事…」

 障壁を開けると…先程の茶髪の女性が…男性の首を締め上げていた!


「な…何をしている!」


「何って…目撃者の排除よぉ?」


「お前は誰だ!?」


「冷たいわねぇ、今、謝罪して地獄から戻ってきたばかりなのにぃ」


 理解が追い付かない…今死んだはずだ。

「さっきの女は偽物だったのか!?」


「違うわねぇ。死を引き金とし、意識・スキル・身体感覚等を近距離にいる人間に移し変え、宿主の意識を殺すバックアップスキル…私はどんな死に方をしても誰かを乗っ取り生き返る…」


技術破壊スキルブラスト!」

「静寂の時!」


技術破壊スキルブラスト流星触エクリプス・メテオ!、くそ!スキルが封じられた!」


 と、言うとボキリ!と男性の首を折り、横にゴミの様に捨てる。

「野獣の毒爪!」

 貫かれた両足の痛みで回避が遅れて掠ってしまう!


「くっそ……ん?言葉は喋れる…スキルは駄目なのに…」


「通常会話だけはOKしてあげるわ!さぁ、もう八つ裂きにしてあげるから、最後の言葉を聞こうかしら?」


 針みたいなスキルを飛ばして私と式部を嬲ってくる魔女。




「……」



「何?もう声が出ないの?あら可哀想…もう死んじゃった方がいい?」



「……私が刀の詠唱を何故日本語にしないか、分かるか?」



「かっこいいからとかいうガキの発想でしょ?」



「……何故母国語で詠唱しないのか…それは…」



「興味ないからもう死んでくれるかしらぁ?」





「…威力を抑えられないからだよ…名も無き切り札!!!」



 魔女が何かの防御スキルを詠唱していた様だが、魔女の胴体部分丸ごと斬撃で斬り飛ばし、目の前に広がっていた山が五つ程切断され斜めにずれていく!!!

 風圧と刀圧で色々な物が吹き飛んでいく…


 魔女はまたしても空間転移で消えていったから、まだ生き延びてるかもしれない。



 フラフラになりながら、式部に生命の安定を掛け、途中で意識を失った…

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