第24話 Priestess and Beast

 クロエ達の事件の翌日。



 学生の本分である中学校で授業を受けている。


 式部、横で教科書立てて寝てんじゃん…


 龍安寺りょうあんじ先生に見つかるぞー…


 まぁ、確かにクロエとの闘いは疲れたし…見つからない事を願うしかない。



 回復スキルは飽くまで状態回復なのでそこに体力を元に戻す効果は殆ど付与されていない。

 別途スキルであるにはあるが、一度付与するとかなりの時間を開けないと再度使用出来ない物が殆どだ。


 因みに最近のアスリート界はドーピング検査に加えてスキル検査も行われる徹底ぶりだ。


 スキルは競技や犯罪に使われない様な一定のルールで生まれているのかもしれない…



「おい、鹿鳴ろくめい


「はーい先生♡」


「授業中やで?パン食うたらアカン。いてまうで?」


「食べ終わったら止めます!」

「完食宣言とか絶対ナメてるやろ?」

「あ!」

「ん?」

 天井にミスディレクションした瞬間、口に残りのパンを詰め込んだ!

 勝利!


 パンを詰め込み過ぎて、もごもごしてる私の鼻を龍安寺先生が摘んで離さない!

 んんんー息が!!!


 右手で鼻を摘みながら、左手の教科書で寝ている式部の後頭部に木魚の如くペチペチと攻撃をする先生!


 あ、意識が




 気付いたら放課後だった…

 …っていう事も無く秒で殴られて起こされる。

 龍安寺先生容赦ない!




「あー…先生にやられたー」


「龍安寺先生厳しいもんにゃ♪」


「危うく死ぬとこだったよ!人間、栄養も呼吸も欠かしちゃ駄目なんだよ!」


「月花、授業中なのに堂々とパン食べるもんにゃ♪」


「そ…育ち盛りだから…今日は明太子パン買えたし…」




 放課後、式部と小花ちゃんと三人で下校途中にノーソンに寄り、カフェオレを買う。


「んー味はヘブンの方が好きかなー」


「小花ちゃん、バッサリ切るにゃ♪」


「個人の好みだから他所を否定してるわけじゃないよ?」


「そうだねー、でも贅沢を言わなければどこも甘くて美味しいし、いいかな」


「グルメの月花にしては珍しい意見にゃ♪」


「うん、現代も異世界も見て、食べれる環境そのものを有難く思わなくちゃいけないな、って」


「いい考えよ月花。食べたくても食べられない環境にいる人は世界中に沢山いるから、感謝の気持ちは忘れない事。ホラー映画のゾンビ達なんか大概腹ぺこなのに殆どが撃たれて朽ちていくんだから」


「小花ちゃんの中で、ゾンビが食べられない可哀想な子にカテゴライズされてるにゃ!」


「流石小花ちゃん…ホラー例え話させたら第一人者…」


「誰しも一度位、ゾンビの気持ちになった事あるでしょ?」


『共感し辛い部分キタ―――!』


「いーや、皆一度はゾンビの気持ちにならなきゃ!人をめて、理性も薄い中でたった一つの欲求が『食』!食べたいんだったら食わせてやればいいって何かの漫画で言ってたでしょっ!♪」


「ママがどこからか湧いたにゃ!♪」


「流石、お姉ちゃんはいい事言うわ」


「でも小花ちゃん、ゾンビ来たら食べさせてあげないでしょ?」


「全てレーザートラップで焼き切るわ」


「それとこれとは別だったにゃ―――!♪」


「ゾンビのきもちっていう月刊誌出たら年間購読しちゃうかもだけど、三m以内に寄ったら天に返しちゃうのが乙女心かな?♪」


「ママと小花ちゃんの乙女心が複雑すぎるにゃ…」


「難解すぎる…ゾンビのきもち…」




 ゾンビの話題で盛り上がっていた処にまた《社》から連絡がある。

 最近多くない?


「式部、《社》なんだって?」


「大型モンスターの討伐らしいにゃ♪」


「大型…街とか襲うのなら早めに行かなきゃ!」




 早速帰って、ママに《社》の依頼でアナザーバースに行くのを伝え、秘密基地でコロちゃんと式部を待つ。


 コロちゃんは最近お気に入りのアイスバーがあって、待つ間に備え付けの冷蔵庫から出して二人で食べていると式部が到着した!


「お待たせにゃー♪」

「よし、着替え終わったら行こうか!」





 降り立った世界は海に浮かぶ孤島の様だった。

 大きくCの形に海岸が広がり、島の中央にも大きな湖が広がっている。

 旧火山の様な物も見える。

 溶岩が流れた跡か、森が開けて海まで続いている。

 なんで詳しいかというと、スタート地点が久々に上空だったからだ。


「久々の落下の感覚―――!♪」


 飛行結晶をつけて上から眺望を見ておく。


 雲を抜けて改めて見ると、島は孤島では無く諸島で、大小沢山連なる島が見えた。


「あの森の中の村かな?」

「座標がここなら多分あの村だにゃ!♪」



 森林を切り開いて丸く作られた木の塀が南国感があっていい!


 門の処にいる日焼け跡が凄い警護兵に、《社》から魔獣退治で来た事を伝えると、少し待たされて村長の家に案内された。


「私がこの村の長、バストルです。この度は要請に答えて頂いて有難う御座います」


「《社》所属の冒険者インターセプタ―、レクスです」

「同じくデッドエンドにゃ♪」



「話はもう古き時代からの事となる…この村には巫女がいた。そしてその巫女の役割は一年に一度、この島に上陸してくる巨大魔獣を沈める事。巨大なお椀に酒を組み、横の岩場で巫女が舞を奉納する。巨大な魔獣はそれを見ながら酒を飲み、やがて帰る…そんな習わしじゃった」


「神様を鎮める祭りだったんだにゃ?」


「はい、だが数年前に事態が一偏した。舞も終わり、巨人がそろそろ帰ろうかと酒を飲み干そうとした時、巫女がバランスを崩し、酒の中に落ちてしまった。魔獣はそれを飲干すと…今まで一言も鳴かなかった魔獣が巨大な声を上げ帰った」


「不幸な事故だったんですね…」


「はい。翌年、巫女と酒でお迎えしたら、巫女を酒に入れて飲んだ。その翌年は酒だけにした。すると、街に手を伸ばし人を掌で掴めるだけ掴んで酒に入れて飲み干し帰った。このままでは村が滅んでしまう…」


「…魔獣が人の味を覚えてしまったのか…」


「次に魔獣が来るのはいつにゃ?」


「明日の晩までには来るかと…」


「分かりました。魔獣とこの村の歴史の資料はこちらにあります。解らないことがなんなりと…宿はここの裏にあります。村と言ってもそこそこ大きいので今日はごゆっくりなさって下さい」



 まずは宿を取って、魔獣の資料を読む。

 いつから始まったのかは知らないが相当歴史があり、この年一回の儀式は友好関係と共に村の守り神とされてきた様だ。


 魔獣が酒…神に近いものなら分かる…舞の奉納…これに霊的な鎮静効果はあったのだろうか?



「式部はどう思う?確かに倒したらそれで終わりなんだけど…」


「うーん…話を見ると人間の味を覚えた魔獣がーって感じだけど、明日のリミットまでに調べられる事は調べよ!私達の心の自己満だけどにゃ!♪」


「そこは重要だからね!ただ倒すだけは気分が良くない。そこに倒して命を奪うだけの理由があるかどうか…」


「まずはその巫女がいるのなら、霊力の有無とか聞きたい」


「自称霊力者が『私、霊力ありません』とは言わないにゃ!♪」

「ほんとそれな!!」




 街を当たって巫女さんがいるという御神殿横のお家を尋ねる。


 神官さんらしき一番偉い人に話を伺うと、祈れば神に届きますとか、霊験あらたかな私達の舞の奉納は神を抑える力が強力なのですとか、ホームワールドで壺やら数珠やらをそっと売り付けてくる胡散臭い人からしか聞けない台詞が山の様に聞けた。



 その後、酒を献上する場所を聞いて下見に行く。

 やはり上から見た火山から直線で森が無い場所…あれは年に一回魔獣が往復するから木が無かったんだ。


 火山のふもとに巨石がいくつか重なって大きな台の様になっており、その上に石で削り出したお椀が乗っている。

 右手に階段があるので、人の手で酒を運んで汲み入れる様だ。

 左手には少し広い場所がある。

 ここがきっと舞を奉納する場所なのだろう。


 魔獣信仰と言えるのか疑問だが、何が始まりなのだろう…



「現時点では、魔獣が人の味を覚えた説が強いにゃ…」


「この村と魔獣との起源も知りたいけど、どこにも文献が残ってないのよね」


「魔獣を討伐して平和になりました、そんな話なのかにゃ…?」


「式部、もう少しチェックするから、美味しいお店探しておいてくれない?」


「オッケーにゃ!コロちゃんも行く?」

「にに!」


 式部の頭で激しく頷くコロちゃん!

 すっかりグルメさん!


「見つけたら連絡入れるにゃー!」

「わかったー!」



「共存する蛍火!」

 発光スキルで舞台とお椀をまじまじと見る。


 お椀の内側と外側に縦に傷が四本…牙が当たった箇所だろう…獰猛どうもうなのだろうか?

 舞台は…微かに人の足跡が見える位…さかずき側に崩れた場所がある…ここでバランスを崩したのか?


 ……ん?

 欠けてる部分…なんかおかしい!

 名も無き刀を出して少しだけ切り出してみる。


 …銃弾!!ライフルの様な物で足場を崩してわざと落とした!?


 やはりこの話、裏がある!!




「式部、こっちは終わったけどどう?」


『…うーなんかここの料理はおかしいにゃ!』


「何かあったの?」


『私の個人的なイメージかもしれないけど、出てくるもののイメージが違うというか、どこでも安定して食べられる普通の味?』


「無理して食べないで、一旦宿で落ち合おっか!」


『にゃ!♪』

『に!』




 宿に戻って孤立する空間アイソレート・スペースで部屋を閉じる。

「今回もスキル使っておくの?」


「案内されたこの部屋…いやに部屋が広いと思ったんだけど元は応接室っぽいね。だから部屋の内側から鍵を閉めれない」


「本当だ!鍵がないにゃ!」


「あと、式部が街中で気になった事あった?」


「うにゅ―――…皆よく日焼けしてるなー位?…ん…あれ?」


「そう、南国みたいな島だから、日焼け跡凄いなー位しか印象なかったんだけど、その違和感に気付くと…」


「この村、全体が怪しい…?」




 ……その夜

 ランプを早めに消し、息を潜める。




 ガチャガチャガチャ…


『やっぱりにゃ』

『女の子の寝込みを襲うとは』

『私は良いのかにゃ?』

『式部とコロちゃんは許す!』

『やったにゃ―――!♡』

『小声で声が大きい!』


『なんかタポタポと変な音しない?』

『例えで言うと?』

『うちのおじいちゃんのお腹を叩いた様な音?』

『日本が世界に誇る天才パティシエに何て事を…』


『あ、めっちゃ焦げ臭いね』

『丁度いいから孤立する空間が火事に耐えられるかだけ見て脱出しよ』


 宿は油も火の周りも早く、さくっと全焼した。




 翌朝、全焼した宿屋の周りに人だかりが出来ており、遺体を雑に探す男が二人程いた。


「お早う御座います!村長さん、火事があったんですか?」


「おおお、無事で良かった!厨房から出火したみたいでの…お客さんが無事で良かった!」



「今日、魔獣は夜までに来るんでしたっけ?」


「例年だといつも昼過ぎから夕方までの間だのぉ」


「分かりました!皆さんは危ないので島の反対側まで退避して下さい。」


「お願いします」


「ああ、これをどうぞ。この村に伝わる戦士の薬です。早めにお飲み下さい」


「あ、有難う御座います!」






「私達絶対バカだと思われてるよね?」


「こんな毒の渡し方、小学生の漫画でもしないにゃ♪」


「死体探してる人も私達を見た瞬間どこか行ったし…でも何が目的だろう」 


「怪物のお腹の中に宝が蓄えられてるとか?」


「無くはないけど、それなら私達が怪物を倒してから始末しに来る筈…寧ろ魔獣に殺されるのを待っている!」


「自分で《社》に依頼しておいて…そうか!私達は招かれざる客だったのにゃ!」


「そう、それが答えね!やる事は決まったけど捜し物をしたいから、もし早めに魔獣が来たら私が戻ってくるまで保つ?」


「大丈夫にゃ!コロちゃんもいるし!」

「ににん!!」



「飛行付けておくから、無理しないでね?」

「はいにゃ♡」





 昼が過ぎ、そろそろかなーと海面を見ていると、海面の揺れが大きくなり、背びれの様な何かが水面から見え始めた。


 でかっ!!!


 それはゴリラに鱗と角が生えた牙のある白い生き物。

 ナックルウォークで超スローで上陸してくるが、人の味を覚えた所為か最早もはやお椀の方向では無く村を目指している。



「さぁ、暴れるにゃ!」


「ににっ!」

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