第23話 Cycle of Hate

「只今にゃー♪」



「式部おかえり!こっちはバートさんが居たからお任せしてきたけど…」


「まず、リップさんが出た後、マクト社は施錠された。その後は裏口も従業員しか出入り出来ないスキルなのか扉は開かなかった。この間、中は完全に密室。誰かが出てくるのも確認出来なかった…」


「マリーヌさんは?」


「リップさんが帰ってきて施錠を開けてくれてから聞いたらトイレだって言ってた。トイレ中に誰か来たら困るとの話だにゃ」


「帰ってきた?」


「うんうん、少し調べものしてたら帰ってきたにゃ」


「そう……」


「あと、もう一つ気になる事があるにゃ!」





 その夜…



 とあるビルの裏口から黒ずくめが音も無く出てきた。


 ワイヤーをビルの上に打ち込み、上昇する地点を狙って、私の刀と式部の突きが違う角度から襲う!!!


 一瞬見た後、刀・槍の順にギリギリで身体の向きを変えて避けた!!


 私と式部とコロちゃんが建物の上に降り立ち、黒ずくめと対峙する。



「…生キテイタカ」


「残念ながらね!」


「もう、無駄な殺しは止めるのにゃ…マリーヌさん…」






「………」




「…て、言わせたかったんでしょ?マクト社のお向かい、フラグメント社のクロエさん。今日は杖は要らないのかなー?」



 闇の色をしたフードとマスクを取ると現れたのは、この街に来て最初にマクト・ベイナード社に訪れた時にすれ違った、杖をついた儚げな印象の女性だった。



「二人のいずれかには、一時的に罪を被ってもらおうと思ってました。何故分かりました?」



「一見、マクト社の人が犯人の様に見せかけてるけど、二人を犯人に仕立て上げるという視点で考えたら、急に貴女が浮上してきたからね。荷物をターゲットの近くに送り、リップさんとマリーヌさんの犯行を匂わせる…何で連続殺人なんか…」




「……この街は昔…私達の血族『ミキドの眷属けんぞく』が住む小さな村だった。ただ、ミキドの眷属は身体能力は普通の人間を遥かに凌駕りょうがしていた。その為に戦があった大昔は護衛や傭兵として大変な功績を挙げた」


「その異常な身体能力は眷属の特性なのか…」


「だが、ある時。戦争の指揮をしていた将校は、眷属が命懸けで戦ったにも関わらず、この土地の開拓権や謝礼を渋ったが、まずは祝勝会と言う事で一晩祝うことになった。そこで眷属は殆ど毒殺された。軍も毒殺を仕掛けた将校と上層部以外死んだ。証拠を隠滅するかの様に…」


「酷い話にゃ…」


「この土地を離れた一族は生き延びたが、一部の者が帰ってきて愕然とした。ミキドの村が荒廃いていたからだ。眷属は絶滅を危惧し、ひっそりと暮らし始めた。やがて軍の人間がこの土地を徴発・開拓し始め、今の街が出来上がった」


「軍の将校はこの街を戦争の報奨ほうしょうとして貰い受け、その血族を増やし、国の移民も受け入れ今の街を築いた一方、我が眷属も見た目は変わらないのでひっそりとこの街に根を下ろした。だが子供が出来にくい眷属故に…遥か昔にこの地を離れた者以外、もう私一人だけになってしまった」



「…それを恨んでるの?」



「正直…時の流れの中で復讐という感情は次第に風化し、最後の一人の私はもうどうでもいいと思っていた。伴侶を見つけ、子を成せたならそれもよし…一人で死んでいくもよし。在るがままの運命を享受しようと思っていた。だが、ある日届け物をした時に偶然聞いた。将校の末裔が我が眷属を侮蔑し、嘲笑していた。その時、突然激しい情動に駆られた。ああ、この将校の一族は生かしていてはいけない…と」


「無差別に見えて、その将校の血縁だけを殺してきた…と?」


「はい。この街の将校の末裔は全て殺し終えた。マクト社の皆さんはわざと犯行の精度を下げたので証拠不十分でいずれ釈放されます。私がこの街を離れる間だけお願いしようかと。お礼は後日届く手配をしています」



「一つだけ聞く…殺していく中で心を痛める瞬間はなかった?全員が侮蔑ぶべつする態度の非道な人間だった?」


「…いいえ」


「人は全てが愚かな訳じゃない。貴方の一族が酷い殺され方をしたそうだが、それは相手の一族に復讐していいという免罪符じゃない。憎しみも悲しみも全て連鎖していくんだ…」



「…なら貴女ならどうしますか?親兄弟、そこのパートナーを…例えば私に殺されたとしたら?教えて」


「…きっと憎しみの炎で身を焼く…なまじ力がある分、殺してやろうと思うだろう。でも、死んでも私の中の相方は!両親は!相手を殺しても笑ってくれないの!きっと皆、復讐し相手を殺した瞬間、私の中の皆は死んでしまう…だから、私なら…己の利き腕を切り落としてでも相手を恨まず…生きていく」



「詭弁にも真実にも聞こえる…いや、それが貴女の真実なのだろうが…もう私の手は血に塗れている。この街以外に潜んでる一族郎党いちぞくろうとう余す事なく殺し終え、私は一人野垂死のう」


「駄目だ、あんたの殺人連鎖はここで行き止まりだ」


「昨日の借りは返すにゃ!」


「にに!」



「……驚いた、いつの間にか街から人気ひとけが消えてる…戦う準備は万端という訳か…名を聞いておくよ」


「…レクス」


「デッドエンド」


「にっ!」


「ねこちゃん賢い…全員で来ますか?昨日は全員でも無理でしたよ?」



「デッドエンド、まず私からいくピヨ」


「……使うタイミング激しく間違ってるにゃ―――!!!」




名も無き一之太刀ネームレス・ワン!」

 高速移動突きで小手調べ!

 クロエはメスで易易やすやすと受ける!


「どこからこんな怪力が…一族の力って凄いな…」


「本当に…まだそこまで本気じゃないですよ」


 一度引いてリセット…と後方の建物に飛び退いたが同じスピードで着いてくる!


流星触メテオ・エクリプス!!」

 目の前のクロエに全てを抉り取る流星を撃ち放つ!!


 クロエは斜め後方にワイヤーを放ち、流星を避けてから再び猛追してくる!


名も無き連撃ネームレス・バラージ!!」

 高速突き連打で面の攻撃に変える!


 だが、突進してきたクロエは全てをメスで止める!

 かかった!


 無詠唱で障壁・花鳥風月を真下から出しクロエは上に飛ばされる!


襲撃の魔狼アサルト・ウルヴズ!」


 フレキとゲリが上空に飛ばされたクロエに襲いかかる!


 再びワイヤーを真下に放ち急回避すると、回避方向に飛んできたフレキとゲリをメス一撃で真っ二つに切った!


名も無き一之太刀ネームレス・ワン!」

 高速移動斬りでクロエに突っ込む!

名も無き二之太刀ネームレス・ツー!」


 避けられる事を想定して、どの状態からでも直前の技を再度放ち二段攻撃にする二之太刀を詠唱しておく。


 一段目は後方の建物に逃げられて空振り。

 鐘がある塔を斬ってしまったが、置いていた二之太刀ですぐクロエに向かって斬り込む!


 空中ならば!

 だが、クロエは二之太刀を難なくメスで受け、その力を利用して後方へ飛び退いた。


 鐘が地上に落下し、鈍い金属音を街中に鳴らす…




「貴女は強い…だが私には遠く及ばない」



「そうだな…今のままではクロエの強さは遠い。だが…本当に追い抜けないと思ったのか?」


「…何?」


名も無き封印ネームレス・シール解除リリース!」

 私の赤い瞳が深紅に深く光り、赤き闘気を全身に纏う!


「すまないと思っている…クロエ、貴方はもう終わりだ」

 次の刹那、超速でクロエの左腕を貫きワイヤー移動を防ぐ。

 次に背後から右脚、右腕、左足をほぼ同時に貫く。

 何が起こったか分からないまま膝から崩れ落ちるクロエ。

「あああああああああああああああ!!!」

 徐々に突きの速度が上昇し、固有技ではない、通常技だけでクロエの全身が血塗れになっていく。



「そこまで―――!王よ、静まり給え!!」

 魔槍が、名も無き刀を弾く!

 同時にオーラも目の光も無くなり、元に戻る。


「……デッドエンド、有難う…」


 クロエはもう四肢を貫かれて力なく地面に倒れている。


「参ったね…全く反応出来なかった…私の人生で初めての敗北だ…」


「…もう、終わりにしよ。貴女の眷属への思いは…もう沢山届いてると思う」



 次の瞬間、私達は驚愕した…



 私が全身を貫いて出血も酷いのに、何事もなかったかの様に立ち上がった!!


「そうですね。根絶しなくても…天にいる眷属の皆はもう許してくれてるかも知れない。けど、復讐に手を染めた事で私の中の一族の血は喜んでいないかもです」


 酷い出血をしているのにも関わらず顔色一つ変えず天を仰いだ。



「この武器はね…医者いらずの刃と言って…血を吸う程強くなる成長型武器で、血液も操れます。生きていたら…またどこかで会えるかもしれませんね」


 そうクロエが言った瞬間、彼女の足元で爆発が起こった!


聖水の滝ホーリー・ラピッド!!!」

 超反射で式部が聖水を降らせる!


 だが、既にクロエはもう影も形も…血液の痕跡すら消え去っていた…



「クロエ…罪を償いながら生きるピヨ…」


「だから使うタイミング間違ってるピヨ…」


「にに…」




 その日の内に、街の人を避難させてくれたバートさんに事のあらましを話し…犯人のクロエは死んだ、としておいた。


 古の歴史の中、大きな過ちで大勢の人が亡くなった。

 だが、クロエにも痛手を与え、瀕死にさせたのは間違いない。

 これで…憎しみの連鎖は終わりにしよう。


 連続殺人はもう起こらないから、住人からは安堵の声は上がるだろう。


 ただ、クロエが何故犯行に及んだのか、歴史的史実を自警団から敢えて流布し、街の図書館に残してもらう様にお願いした。


 心なき者にいいように使われて毒殺という最後を遂げたミキドの眷属の悲劇。


 差別や迫害がこの世界で少しでも無くなる様に願って…





「有難う御座いますー!私達が容疑者にされるとかとか!」


「私もトイレに入ってるだけで疑われるなんて…」


「いやーごめんにゃ!クロエに推理誘導されてるとは…」


「荷物を指定時間に殺しの現場近くに届けさせて、リップが目撃されてもアリバイがない一人きりの私、どちらが疑われても良い様に…とか…」


「長い付き合いだったから…怪我して暫く杖を付いていて、仕事に支障が出るからって信じちゃってた…」


「二人がすぐ釈放される位の軽い容疑を掛けて、全て終わったら違う土地にいる血族を殺しに行こうとしてたみたいね…」


「…でも昔はクロエさん、良く笑う人だったんだよ…最近は暗かったけど、屈託のない笑顔で…でも、どこか寂しげで…」


「……そっか」



「で、バートさんのどの辺りが良かったの?」


「ふぇ?////あのそのえと…背が高いとか…」


「大体の人類は貴女より高いわよー」


「トイレが長いマリーヌさんがいじわるするー!」


「食物繊維取って、トイレの女神様の名前は返上してやるんだからー!」


 容疑が晴れて、二人の人柄に心からほっこりした。



 リップさんの結婚式が決まったら《社》に連絡する約束をして現代に戻った。





「あ!」


「式部どうしたの?」


「私も身体能力アップのスキル入ったにゃ!」



【攻防自在の型】

 使用すると現在の身体能力を倍化する。

 何回も使用可能だが、身体の負担は大きくなる。



「成程…オレンジの道着来てる元宇宙人並みに動けそう!でも事前にテストしておかないと怖いかもにゃ♪」


「動けなくなる可能性もあるから、気をつけてね?」



 ガチャ!

 秘密基地のドアが不意に開いた。


「あれ?パパ」


「丁度帰ってたか、おかえり!久しぶりに二人に結晶の使い方講座を開こうかと」


「わーい!って式部も?」


「うん、月花の手の内を知る事で新しい連携が生まれるからね」



『ウインクしてくれた!そっか…私の為に…パパ有難うにゃ!』



「では、犬沢池でママが待ってるから行こうか」


 犬沢池でオアシカのカフェオレ飲んでるママがいた!

「月花、おかえりー!」

「ママただいまー!」


「式部ちゃんもおかえりなさい♡」

「六花ちゃん、只今なのにゃ♪」


「さて、幾つか質問。無詠唱で結晶技は出せる?」


「出し慣れてないものは詠唱した方が失敗しないピヨ」


「またピヨが再発してるにゃ!」


「寝てる間、障壁を出したままに出来る?」


「先日たまたまその話をしてたんだけど、気が付いたら解除してる…」


「無意識下で技を出しておく事はかなり有効な手段で、無詠唱からだと相手に悟られにくい。何もなく寝る事がある日は様々な技を出したまま寝る訓練をしてみようか」


「はーい!」


「そして、工夫次第ではパートナーと連携攻撃も出来る」


 腕輪を回転させて多重結界を生み出す。


「六花、頼む」


「はーい!」


「刀と障壁の連携?」



 六花ママが私服で武装もせず指を銃の様にして前に向けた。


「バレット!」


 瞬間に六花ママがママじゃ無くなった!

 煙草を咥えて、ショートの髪、革のジャケットと露出の多い革のパンツ。

 ママの顔だがママじゃない人が立っていた…

「誰にゃあの人!?」

「でも、よく見ると顔はママ…柄が悪そうなママ」


「柄悪くないっつの!私の世界では最早あたしクラスなんか優しすぎて聖母様扱いだぜ?」


「久しぶり!元気にしてたか!」

「もーちろん!」


「娘にあの技を見せてあげたいんだ」


「オッケーオッケー!天までぶっ飛ぶ様な音鳴らせてやるぜ!」


『式部、やべー人かな?』

『一応六花ちゃんみたいだし、逆らわない様にするにゃ』



「池の上空にある結晶の塊が敵だと想定する。あとはここから…檻猿籠鳥かんえんろうちょう!」


 空中に散らばった結晶に偽ママが銃弾を打ち込んでいく!!

 当たっては反射を繰り返し仮想敵を傷つけていくと、次第に結晶が仮想敵の周囲を包囲し始め、最終的には結晶の球体の内部で、弾丸が恐ろしい速度で仮想敵を破壊した。



「これは空中の自動迎撃タイプの敵に対して使ったんだが、遠距離の飛行タイプの敵には有効だった」


「だったよなー!愚鈍なくす玉を盛大に割ってやったよなぁ♡」


「うん、口調が怖い」

「ヤンキーにゃ!」


「にゃにおー!二人のおむつを替えてあげた事もある位優しいんだからなー!」



「結晶の技は応用性が高い。凡そ何でも出来る」


 パパが結晶を沢山出して、手裏剣の様に建物に刺していく。


 次は連結して剣と盾を生み出す。


 更に槍、斧、ナックル、と次々と武器を変え、最後に飛行結晶で飛び、周囲にサークル状に夥しい数の結晶を生み、全方向へ発射すると周囲の建物全てが斬れて崩れ出した。


「攻防自在、それが鹿鳴に伝わる結晶の技だ。自分達の攻防で足りない隙間をきっと埋めてくれる」


『はーい!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る