第22話 Chase and Defeat

 スキルショップを見に行き、就寝時の安全を守るスキルをようやく見つけたので試してみる。



孤立する空間アイソレート・スペース


 部屋の内側で使い、部屋の中に居た人は出入り自由だが、外からは入る事が出来ない仕様だ。


 安いスキルならこの種類は沢山あるのだが、一度出たら入室出来ず、トイレやご飯に行く度にかけ直しという物なので買わなかったのだが…上位互換が見つかって良かった…


 女子の部屋は入室禁止で当たり前なのです!



「さて、一日に二体もエグい死体を見ちゃったわけだが…」


「これ、もしかして帰れないかにゃ?」


「数十人殺されていてまだ捕まってないなら…かなり狡猾な奴なのかもね…」


「発見出来れば、お仕置きして終わりなんだけど…」


「尻尾も出して無さそうだしねー…」


「下の食堂開いてるかな?樹木に癒やされながらご飯食べよっか」


「気分転換だにゃ♪」


 フィッシュアンドチップスらしきものとスコーンぽいものと紅茶で軽く済ましたけど、味はなかなか…ここの世界は美味しいものが多そうだ!




 ―――翌朝。


 服を着替えて、さぁどうしようってなった時にタイミング良く部屋をノックされる。


「…合言葉は?」


「…えっと…すみませんブラックチャペル自警団のバートです。なんかごめんなさい」


 孤立する空間アイソレート・スペースを解除し、ドアを開ける。



「どうぞ!無茶ぶりしてすみません」


「こちらこそ面白い事言えなくてすみません…」


「来客を凹ましたら駄目にゃ♪」


「ごめーん!ところでバートさん、どうしたんですか?」 



「実はリップさんからお二人が《社》派遣の冒険者プロテクターとお聞きしまして…出来れば捜査の協力をして頂けませんか?」


「うーん、自警団が協力を依頼してくるって事は…捜査が難航してる訳じゃなくて、逮捕出来ないって判断したんですか?」


「はい…正直な処、早々に片付けないと我々自警団の評判も落ち、住人も不安になります。そして決定的なのが犯行の時間です」


「ん?時間帯って事?」


「いえ、被害者があの状態になるまで…最短で一分と判明しました…」



「…いっ」


「手慣れててもそこまでするなんて難しいにゃ…お医者様でも難しい…」


「やはりスキル絡み…」


「だと思っております」



「一つ聞きたいんだけど、マクト・ベイナード社でも被害者が出てる?」


「仰る通りです。一人はマクト社の外部の方、残りはマクト者とは無関係な人が三人…全員血で扉に手形を残していて、周囲から風評被害が出ています」


「忌避されがちになっている…んー……あとまだ何かを隠してますか?」


「えーっあ、あの…分かりますか?」


「女の子絡みだなってのは察したにゃ♪」



「あ…えー…私、マクト社のリップさんとお付き合いを始めたばかりなんですが…」


『ひゅーひゅー!!』


「この連続殺人……被害者の発見時間の前後にリップさんの目撃証言が…」


「偶然が重なった可能性もあるんじゃない?」


「僕もそう主張したんです。でも、もう一つの可能性がリップさんを疑う大きな理由なんです…」


「どういう事にゃ?」



「被害者の多くが後ろから襲われています。膝と両手を着いて、倒れた処を襲われてます。何故かというと…下半身…低い位置を刺されて転倒、その後殺されたのだと推測されます」



「ふーん…バートさんが欲しいのは、リップさんが無実だという証拠?殺人犯が他にいるという証拠?」


「……いいえ、犯人を明らかにし、住人に安心して頂く事です」


「いい返事!わかった!見つけられるかどうかは別として協力するよ!」


「任せておいてにゃ!♪」



 被害者の状況を聞いた後、交代の時間との事でバートさんは自警団の詰め所に戻った。



 ごろーんと式部と寝転びながら考える。


「式部、どう思う?」


「全てがフラットかにゃー…リップさんを疑うのはどんぐりの背比べ位の差にゃ」


「うん、証拠が少なすぎるから返ってリップさんが目立つだけ。この程度の証拠ならバートさんや私達だって容疑者に含まれちゃう」


「目的は何なんだろう…金銭にも手を付けられていないにゃ」


「無差別殺人なのか…それともまだ辿り着けてない何かがあるのか…」




 式部と空に上がり、貰った地図上に刻まれた遺体発見現場と実景を組み合わせてみた。


 この街が思ったより広いのと、大きな鐘や塔など高い建築物があるので見渡しにくく情報が少なかった。


「地形的な関連も今の所なしかな…」



「犯人に出てきてもらう方が早い?」


「賛成にゃー!♪」





 その夜、機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナを二人で呼び出し、服を着せて夜の街を徘徊させる。


 たまに客引きに会ってるのを謎のオーラで怯ませるあたり、流石神の名を冠するだけはある!


 二時間程不規則に囮として泳がせているが、二人にヒットする気配がない。


 私と式部はそれぞれの機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナが見える塔の上に潜んでいる。


 …うーん、これは気長に待つしかないかなぁ…


 大きい鐘の横で座ろうとした時、カラーン!と金属音が街の雑音の中響く。


 そこまで珍しくないので、様子を伺っていると…



「こちらの機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナが動いた!向かってみる!」


 式部から通信が入ったので待機…


「マキちゃん交戦中!サポートに入る!」



 周囲の被害を鑑みて、二人の神には『危害を加えてくる者以外への攻撃禁止、攻撃は刀剣のみ』と縛りを与えている。

 何も言わないとガトリングガンで全破壊しそうだからだ。






 作戦続行中、私のマキちゃんがいる方向から金属音が聞こえるにゃ!


 念の為魔槍を構えて向かうと…マキちゃんが持っていた剣が飛ばされてこちらに飛んできたので慌てて弾き落とす!


 周囲に死者はいそうになくてホッとするのも束の間!


 奥の暗がりで火花が飛び散る!



 相手は…黒いマスクを付けた黒づくめで何も情報が見えない。


 マキちゃんが剣を両手に持ち力押しモードだが、マキちゃん相手に片手で受けた!


 武器は…少し大きい手術用メスらしきもの。


 片腕だけでマキちゃんを押してるにゃ!


 その体勢でマキちゃんが片足を剣に変えて斬りつけるが、相手は片手でしのぎを削りながら不自然な体勢で剣を避ける!


 逆にマキちゃんが姿勢を変えた瞬間足を潜ってメスを数発食らった!



「血ガデナイ ダト 生キテイナイナ」


 攻撃を受けて怯まないマキちゃんが突きを繰り出すが、体術だけでかわしている。


「魔槍よ!穿うがて!」

 グングニルで相手へ確定の一撃を放った!!


 ギギン!と金属音と火花が飛び散る!

 魔槍とメスが力でせめぎ合っている!


 不可避の魔槍の一撃を止めた!?


 それだけでも驚愕だが、鍔迫り合いから魔槍を反らした!?


 顏の横をギリギリかすめて、魔槍は私の手元に戻る。


「ソウカ ソノタイプ カ」


 魔槍の戻り際にマキちゃんが武器を戦斧に変えて再度当てに行く!


 同時に私も攻撃に向かうが、戦斧をメスで受け魔槍を手で掴まれた!



「オモシロイ ヨル ダ」


 メスが戦斧を真っ二つにし、一瞬でマキちゃんの首が落とされた!


 間髪入れず蹴りを私に向けるが、垂直蹴りで蹴りを跳ね上げる!筈が!

 軌道を一瞬ずらして、槍を掴んだまま引き寄せて蹴りの速度を上げつつ私の姿勢を崩した!


 頭部にモロに喰らい、建物の外壁に激突する!


 相手は魔槍を持ったまま…床に捨てる。


「イイ 出血 ダ  サラバダ」


 血が出てるが、今こいつを逃すわけには!!


 上に飛び上がり、逃げる体勢だ!



 だが、もう既に満月を背にレクスが斬り降りて来ている!!!






 逃走は上方向に来ると思ってたよ!


 名も無き刀で上空から斬りつける!!


 空中で接触寸前、相手はあり得ない姿勢で避けて、外壁にワイヤーを打ち込み引っ張られていく!


 こちらは飛べるんだ!舐めるな!


流星蝕メテオ・エクリプス!」

 相手の前方からこちらに向けて空間をえぐる流星を放つ。


 進行方向から現れた流星を再びワイヤーで避けようと範囲外まで移動する!

 それを待っていた!


名も無き一之太刀ネームレス・ワン!」

 高速移動突きを放つ!


 その瞬間、相手がワイヤーを引き寄せ、再度ワイヤーを私の腹に打ち込んだ!


 名も無き一之太刀ネームレス・ワンとワイヤーが空中で交差!


 けど、また刀を絶妙な美動作と体術で躱し、メスを私の鎖骨から真下に突き立てる!

 死の匂いがする!!



 メスが私の心臓に届きそうな瞬間、猛烈な勢いで魔槍が飛んできた!


 コロちゃんもライトニングモードで相手を追い詰めるが、凄い勢いでワイヤーに引かれて黒づくめが闇に消えていく…



 ロストした…だが、まずは式部の回復だ…


 下に降り、横たわっている式部に月光の相愛を掛ける!


 心臓まで達しかけた刺傷とワイヤーを打ち込まれた傷で、途中で気分が悪くなり気を失いかけたが回復途中で式部も月光の相愛で回復してくれて少しづつ持ち直した…


 暗い路地では安心も出来ないので一旦上空へ飛び、念の為迂回して宿へ帰った。




「ごめんねー、式部…来るの遅かった」


 二人でハグし合って、お互いの生存をぬくもりで確かめながら話す。


「いやいや、久しぶりに相手が強かったにゃ…魔槍の確定の一撃を止められたのはちょっとショックにゃ…」


「あいつの身体の動きというか体術?が…式部と同等の動きだった…」


「そっちも完全に上だったにゃ…マキちゃんが一方的にやられるのもちょっと信じがたい…」



「…まぁ…念の為こういうのも想定してたけどねー!」


「そろそろデッくん戻ってくるかにゃ?♪」


 ガチャ!


 普通にドアを開けて入ってくるデッくん。


 私のスキルだから入れたのかな?


「デッくんどうだった?」


「デッくんとは何だ?」


「二体出すと分かりにくいし、機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナって長いじゃん?だから名前を分けようって」


「成程。固有名詞…出来れば派手な修飾語も付け給え」


「で、どうだった?」



「最後は撒かれたが、この街の四分割された区域の北の区域、その中でも北部か東部に絞っていい」


「何故その区画?」


「簡単な話だ。北東部に逃げこんで撒かれたが、北の区画の南西部は夜の店が多くて明かりが煌々と点いていた。黒ずくめだったとはいえ返り血の匂いをさせて雑踏は動けまい。したがって移動先がフェイクではなく北東部が根城と判断した」


「デッくん頭いい!流石神様!」


「式部様、有り難きお言葉」


「デッくん私にも様つけてー!」


「なんだ?小数点様」

 スパーン!!!

 スリッパをフルスイングで決めて引っ込めてやった!




「式部、笑い過ぎ!」


「ごめんにゃ!小数点がツボで…あははは!」


「スキルが私を限りなく小さくしようと弄ってくるー!」


 兎に角、捜査範囲が絞れた!


 ただ、その区域には…マクト・ベイナード社もあるよね…




 しっかり寝て、お昼に起きてご飯を食べて完全復活!!


「月花、履歴閲覧ログブラウズって使った?」


「うん、昨日の奴は履歴ゼロ…逆にそれが怖すぎる」


「スキルなしであの動き…」


「ちなみにマリーヌさん、リップさん、バートさんは怪しい履歴はなし」


「逆にスキルを使わないなら、スキル履歴の無い人が昨日の奴かな?」


「区域は特定出来たし、怪しい奴を虱潰しらみつぶしする?」


「潜伏先というだけで表に出ていない可能性もあるにゃ…」


「昨日より進捗進捗はあるんだから頑張るピヨー!」

「ピヨにゃー!」

「ににー!」




 手っ取り早く、最初に自警団の詰め所に向かいバートさんにマクト社の事を幾つが聞いて、それからマクト社へ向かう。


「こんにちはー」


「あら、いらっしゃい!今日はどうしたの?」


「いらっしゃいですー!」



「いや、昨日自警団の人とリップさんが付き合ってるの聞いて、からかいに来たにゃー♪」


「ほぉー!私も初耳だぞ?」


「はうわ////いや、こんな私でも良いって言ってくれて…いやいや何言ってるの私ー!」


「パニクってるにゃー♪」


「リップさんめちゃかわ!」


 余りにパニクりすぎてテーブルに手をぶつけてるのが可愛すぎる!


 ぶつけた拍子にペンが飛んできたのを緩やかに拾ってくれるマリーヌさん!


「リップ…手、大丈夫?怪我してない?」


「だだだ大丈夫にょす!」


「動揺が酷すぎるにゃ♪」


「顏真っ赤よ?さぁさぁ、落ち着いてお届け物をお願いしていい?」


「いいいいいてきますっっ!!!」



「なんかお邪魔しちゃってすみません!」


「業務妨害になりそうだから失礼するにゃ!」


「いえいえ!またお越し下さいな!」




「どうにゃ?」


「二人のスキル履歴に異常なし、リップさんの追跡をしよう!」



 上空からリップさんを追跡…本当に愛らしいなぁ…あの人が犯人だったらちょっと泣く!


 届け先に荷物を渡し少しだけにこやかに談笑をして、マクト社に足を向けるリップさん。


「式部、そっちは?」


『マクト社は鍵が掛けられてる…リップさんがマクト社付近まで来たら…そちらを頼むにゃ!』


「りょ!」




 マクト社裏口から入るのを見てから、先程荷物を届けた家の周辺を調べる。


 きっと届け先は無関係…その周囲…あった、窓が斬られて開いている!

 少し高い位置にある窓を飛行結晶で飛んで覗きに行く…



 人がうつ伏せに倒れているが、後頭部の骨が切られて中が剥き出しだ…



「……あったよ…殺されたばかりだ…自警団を呼ぶ間頼むね!」


『了解にゃ!♪』




 月花が自警団を呼びに行く間…


 マクト社が解錠するのを待つ。


 カチャッ!という音がなり解錠された!



「ほわぁ!!」


 ドアを開けるとリップさんに吃驚された!


「吃驚したっ!どうしたんですか?」


「……マリーヌさんは?」


「おトイレですね…私が居てない時はトイレで心細くなるらしくて鍵を掛けてるらしいんです…」


「た…確かにトイレ中に人が来たら嫌だにゃ…」


「トイレから声出すのもとっても恥ずかしいので…」



「あ、マリーヌさんがトイレに入ってる間に…リップさんが届け物に行った場所や、荷物、依頼人のリスト拝見していいかにゃ?」


「ここここっそりとなら…」


 リップさん可愛すぎるにゃっ!

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