第21話 serial murders

「月花、式部ちゃん」


「レアモンスターじゃなくなったパパどうしたの?」


「レアって付かないだけで何か損した気分…二人とも二つ名って決めた?」



「まだ…迷って全然決まらない」


「決まらないのにゃ…」


「もう今見てる無料求人誌から無作為に決めようかなとか考えてた」


「年頃の女子が朝から読みふける雑誌ではないな。高校に進学したらバイトしたいの?」



「いや、このまま行くとずっとこの仕事をしてそうだから世の中のニーズをリサーチして少し妄想してみようかと…」


「メイドカフェとか楽しそうにゃ!♪」


「美味しくなぁれ♡萌え萌えきゅ―――ん!♡ってやってたら特殊なスキル手に入るかな?」


「それは兎も角、以前≪社≫がやらかしたトーナメントがあっただろ?」


「確かにやらかしたにゃ!そんな催し物もありましたにゃー♪」


「あの掲示板が二人の事でスレがまだ伸びていてだな…」


「私達人気者!?」


「猫坂48とか応募したら最終選考を突破出来るかにゃ!?♪」


「式部!私もう卒業コンサートで花束持って泣いてるシーンまで脳内イメージが進んでる!」


「二人が他の職業に興味津々なのは分かった。で、≪社≫の関係者やスポンサーの間で名前が安定してきたんだよ」


「え」


「にゃ♪」



「まず式部ちゃんに付けられたのがデッドエンド」


「かっこいいにゃ!あざといってつかなくてよかったにゃ…」


「あざとさが無くなって殺伐さだけが残った…」



「そして、月花に名付けられたのがレクス」


「王…何故レクスにしたし…」


「え、月花切れるとちょっと王様口調だよ?」


「…え、嘘!?」


「月花、自覚がなかったのか…?」


「私もあざとく語尾に何かつける!ピヨとか!」


「あざとくないもーん!ピヨは可愛いけどー!♪」



「その認識で浸透しつつあるから、見ず知らずに名乗る時はそれで通すといいよ。最初は違和感あるだろうけど、二つ名は絶対二人も周りの人間も守ってくれるからね」



「ありがとうにゃ!♪」


「ありがとうピヨ!」


「実戦投入の速さっ!」





 あれから、パパに指摘されて気になっていたあの江戸時代みたいな世界を式部と再度訪れた。



 こちらの世界の食料や、栄養価の高い物を手土産におときちゃん達に会いに行き、狐さんのお庭?というか戦って壊した場所を再度確認しに行った。


 拝観料は払わせて頂きましたっ!


 社務所はまだ完全修復されてなくて、多少無が広がっていた。


 やましいから少し視線をらしつつ、狐さんにあれから何か変わった事は無いか聞いたが、特に何もない様で安堵した。


 亡くなった方でも直後ならギリギリ履歴閲覧ログブラウズが間に合うが…ここまで時間が経過すると見れないし、何より本体を塵と化したので対象が取れない。


 もし次出て来たら技術破壊スキルブラスト十回位撃ってやる!



 兎に角、≪社≫の支援が届いている様で胸を撫で下ろす。


 撫でおろしやすいからじゃないからな!



 でも、人数が激減して余りにも寂しくなった。


 生き残った人々は第一階層の一区画で固まって住んでいる。


 移民等が増えてまた活気が出る事を祈るばかりだ。




 その後買い出しに行こうと式部のお誘いがあったので、例の大氷河の間にある小さな町へ赴く。


太陽の上着ノースウインド・アンド・サン!」


 とりあえず極寒すぎるので防寒スキルで暖を取る。


「式部…ってもういない!!!」


 目指す場所は一つしかない…あったかほっとたこ串のお店!!!


 ダッシュしてお店に行ったのに式部がもう一本目を完食する寸前だった。



「式部、早くない!?」


「月花…私は大事なことを忘れていた…」


「ん?どうしたの?ピヨ?」


「ピヨも忘れがちだにゃ♪忘れていた事…それは旬!!!」


「た、確かもぐ」

 一本、口に突っ込まれた!


「え!旨味が増してる!しかもプリプリ感増してない!?」



「お嬢さん達、通だねぇ!このアイリシア・アカタコはこの時期に北から流れてくる海流に耐える様に生息するから、身が締まる!しかも海流に乗って好物の魚が回遊してくるから旨味もアップ!……だがすげぇのはここからだ…これだけ美味くなって…お値段そのまま!!!」


「な、なにぃぃぃぃぃ―――!!!」


「有名料亭だって旬の素材はちょっと値段上げたりするのに…売る側のプライドを感じるッ!おじさん…二十本…いや三十本貰うにゃ!」


 食に目が無い式部が可愛い♡


 でも妖精の保存袋、三十本も入るの?


 ……入ったじゃん…しかもまだ余裕ありそう!




「たこさん補充出来たし、一度帰る?」


「どうしよう…ワタリ魔獣のジューシー肉串を補充したい気持ちもあるけど、違う世界で新しいグルメを発掘したい探求心が強いっ!」


「今、《社》の依頼もなかった筈だし、違う世界を見に行って見る?」


「そうしてみよっか!」



『ダイヴ・アウト!』


 二人で叫ぶと、転送装置が引き寄せてくれてホームワールドに戻った。


 ぴこーん!


「ん?《社》から?」


「だにゃ……えーと、物資輸送依頼?」


「あ、江戸世界の支援物資の効率上げる為だって!」


「それなら断る理由なんかないにゃ♪」


「だよね!流石相棒♡」


 物資はご丁寧に転送装置横のテーブルに小さなダンボールが置かれていた。

 受ける事読んでたな…



 ダンボールを持ってダイヴした先は…ファンタジーとは少し違う、イギリスとかチェコみたいな上品な香りが漂う街並みだ。


「素敵な街だねー!まずは依頼を済ませちゃお!渡して終わりとかちょっと楽だよね!」


「だにゃ!マクト・ベイナード社を探すにゃ!」


「聞いて秒で終わらせるー!あ、すみません!マクト・ベイナード社って場所を探してるんですが…」


「………」


「…スルーされた?聞こえてなかったのなな??」


「すみません!マクト・ベイナード社を探してるんですにゃ…」


「……あー、そこの通りを進んで、赤い扉の建物がそうだけど…行かねぇ方がいいよ」


 年配の男性が怪訝な顔で教えてくれた…



「何だろう?物騒なのかな?」


「一応警戒しながら行こっか…私達美少女だからにゃ…」

「それな!!」



「あった、ここだ。赤い扉!」


 開けようとすると、中からドアが開いて杖をついた女性が出てきた。


 通行の邪魔にならない様に避けてから、中へ入ると大きなカウンターがあり、図りや重量計等がいくつかあり、女性が二人カウンターで待っていた。



「あの…《社》から物資をあずかってきたのですが…」


「はいはい、お待ちをー…《社》さん《社》さん……はい!お待ちしてました!」


 向日葵の様な明るい表情と声の人だ!

 ちょっと可愛い!


 荷物を渡すと、受取証と一緒に別の荷物を渡される。


「受領証もサインだけお願いします!レクスさんでもデッドエンドさんでも大丈夫です!」


 二つ名の違和感!


「マリーヌ、これ配達の時刻なんだけどどうしよう?」


 横に座ってる金髪の女性が困った様子で話しかける。


「あ!うーん…手押し台車壊れてるんだった…私もリップにもこの重さは…」


「あ、良かったら手伝いましょうか?」


「私達のスキルなら持てますよ」


「わ!助かるですー!お届け先は私がご案内しますね!」


 リップさんという小柄な女性の方が案内してくれる事となった。


 背が私より低い!




 筋力増強のスキルを掛けて式部と二人で運ぶが…地味に遠い!


 着いたのは少し大きい一軒家だった。  


 ノックを二回し、挨拶するリップさん。


「今日はー!マクト・ベイナード社でーす!お届け物をお持ちしましたですー!」


 喋り方が可愛いなぁ、この人!



 暫らく待つが返事がない。


 もう一度繰り返すが反応がないので、リップさんがそっとドアを開けた。



 開けた途端、鼻を突く生臭い匂い。


 イヤな予感がしたので、リップさんを下がらせて中に入った。


 中は仄暗く、目が慣れた頃にテーブルの陰から足が見えたので近付くと…


 三十代位の男性が亡くなっていた。


 恐らく死んで時間が経過してない…


 胸を縦に切り裂かれて、胸骨と肋骨が開かれ内臓が出されていた。


 グロ耐性がないから気分が悪くなる…


 リップさんは直立で倒れて気絶してる!


「…とにかく自警団を呼ぼう」



 すぐにブラックチャペル自警団という方々が来てくれて現場検証を始めた。

 亡くなっていたのはこの家の男性で間違いなかった。


 事情聴取されている間に少し聞いてみると、人柄的にはこんな酷い殺され方をされる様な方ではなく、実に真面目で温厚だったとの事。


 そして、最近この様な猟奇殺人が連続して起きているらしい。


 三人共事情聴取を受けると、自警団から再度事情聴取を行うかもしれないので、すぐに帰らないで欲しいと言われた。


 うーん、急いでないから良いんだけど…



「式部、どうしよう?とりあえず宿を取っちゃう?」


「うんうん、宿を取って連絡先を自警団に教えておくにゃ♪」



「リップさん、私達宿を取って来ます」


「はーい!宿ならこの道を真っ直ぐ進んで右手にある博識な大樹亭がオススメですよ!」


「有難う御座います!」



 リップさんと別れて宿を目指すと、見えてきた宿に少し吃驚した。


 宿の中心に大樹が埋まっている!

 樹の周りに宿を作ったのだろうか?


 屋根の辺りは樹で見えない程青々と茂ってて、所々建物から木の枝が突き出ていた。


 映えるから式部とコロちゃんとスリーショットで写真撮った!



 その後部屋を借りると、部屋の天井にも何本か木の枝が突き抜けていて、普段見ない光景に先程の凄惨な光景で荒んだ心が幾ばくか癒やされた。



「…ふー…キツイの見ちゃったねー」


「うん、犯人早く捕まるといいにゃ…」


「気分が落ち着いたらどこかご飯いこ!今日はたこしか食べてないし!」


「ふふふ、あの味がいつでも食べれると思うと顔がニヤニヤしちゃうにゃ♪」


「もー式部は本当に食いしん坊なんだから」


「にゃはは♪」


「ににに♪」



 自警団に向かうと先程事情聴取してくれたバートさんという男性がいたので、宿の場所を知らせると飴玉をくれた。


 子供か!貰うけど!!



「一応出来る事は終わったし、何か食べ…」


「感じる…!この感覚…しゃ―――!!!」


「ちょ!暴走式部待って―――!!!」



 あれは間違いなく何かを察知してる!


 ようやく見つけた式部が落涙していた…


「ど、どうしたの式部!?」


「感動にゃ…漁港のない街だからと舐めていたにゃ…」


 既に一回食べ終えてる感じだ!!!


 店を見ると……今度はイカ?


「お嬢さんもどうだい?装甲イカの姿焼き!」


「めちゃめちゃ硬そうなイメージだけど二本貰います!」



 串を受け取りお金を渡し、二本貰う。


 なぜ二本かというと既にコロちゃんが食べたそうだったからだ! 


 しゃがんでコロちゃんに食べさせつつ私も一口かじる…



 ……嘘でしょ!?


 名前に反して柔らかいし、滅茶苦茶旨味が強い…しかも皮が付いてるのに噛みきりやすく皮がまた旨い!

 ゲソの部分は食感が良すぎて無限に噛んでいたい…そして異世界なのに!醤油っぽい調味料で焦がしていて香りが最高!


「装甲イカは焼くと柔らかくなるのが特徴で、漁港から日数掛ける事で熟成されて美味いんだよ!」


「式部…またクリティカル出したね!」


「私の鼻はどんな旨味も逃さないにゃ!♪おじさん、二十本下さい!」


「嬉しいね、うちの味で喜んでくれて!三本サービスしておくぜ!☆」


「おじさん有難う!…さて式部先生…今回のランキングは!?」


「ちょっと意外な肉超え!」


「来ましたー!二位にランクイ―――ン!」



 ☆ご当地B級グルメランキング!

  一位:アクラサーモンの塩焼き

  二位:装甲イカの姿焼き

  三位:ワタリ魔牛のジューシー肉串

  四位:あったかほっとたこ串

   食べないと損だぞ☆(ゝω・)vキャピ




「いやー、これだから異世界B級グルメはやめられないにゃ♪」


「うん、我が相方ながらその嗅覚には脱帽だわ…そしてコロちゃんが食べ過ぎで限りなく球体に近い丸さになってる」


「雪合戦の時に間違えて投げそうな位丸々としちゃってる…」


「にににに…」



 B級グルメは別腹で、ご飯何にしよう?と話していると…謎の既視感…この臭いはさっきも!


 式部も気づいた様で、周囲を見渡す!


 コロちゃんが路地裏に転がっていったので追ってみると…



 矢張りだ…女性の死体がある…


 今度は玩具の様に顔面の骨が切られ、脳から喉まで丸見えの状態…少し時間が経過している様だ。 


 自警団を再び呼び、事情聴取される。



「あー食欲が失せる…」


「映画なら肉が進むんだけど、実際の事件は流石に食欲失せるにゃ…」


「式部、スキルショップ行っていい?」


「どうしたのにゃ?」


「少し前から探してるんだけど、寝込みを襲撃されない様に部屋に障壁張れないかなって。私の花鳥風月、寝てるとたまに解除しちゃうから」


「スキルの方が確実だし、見に行くにゃ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る