第19話 Looking for discomfort.
おときちゃんを肩車しながら、夜の街を歩く。
人通りは滅茶苦茶多いので寂しさとかは皆無なのだが、この人混みの何処かに逢禍が息を潜めてるのかと思うと逸る気持ちもある。
かと言って、おときちゃんに根掘り葉掘り聞くとまた怯える可能性もある。
「見る限り不審な点はないよね…」
「スキルショップあるかな?一応調べておきたいにゃ♪」
「そうだねー!わかるところから調べて消去法で行こう!」
「すみません、この辺りにスキルショップありますか?」
「ああ、あるわよ!ここを真っ直ぐ進んで大きな十字路を左に曲がったら見えてくるわ」
「有難う御座います!」
気のいい美人さんだった!
言われた通り進むとスキルショップらしき建物が見えてきたので入る。
寧ろこんな夜中にショップが空いているのが凄い!
♪カランコロン
ドアベルが店内に響く。
「いらっしゃいませ!」
テーブル席に座ってカタログを見る。
「お姉さん、ここはスキルの売買は多いのかにゃ?♪」
「いえ、売りも買いも他所の世界に比べたら少ないと思われます。ここ一ヶ月位は取引がないですね…」
「ふーむ…有難うにゃ♪」
「式部、有難う!カタログは…やはり日常系のスキルが断トツに多いけど、不審がるほどの数でもない…」
「思い切って空から一望してみる?」
「何か掴めるかもしれないし、そうするにゃ♪」
飛行結晶を私と式部に付けて、目立たない場所から上に上昇する。
「ふおおおー!凄―――い!」
おときちゃんは気に入ってくれたみたいで喜んでくれている。
街の明かりは道に面している部分に付いているので、上から見るとちょっとした地図の様に見える。
どうやら、階層は四角ではなく円の階層になっているようだった。
上から静かに旋回しながら街の様子を見るが、どこも活気があって、酔っ払いのいざこざはたまに見るものの逢禍や怪物らしきもので騒ぎが起こってるような事はなかった。
「この階層は街のみで、これ以上情報がないかにゃあ?♪」
「うん…何だろう、大きな事件は無いのに全てが微妙に引っかかる…」
「何かおかしいって気持ちはおときちゃんのおかげで確信に変わったけど、何が違和感なのか…」
「手っ取り早いし、管理人…狐さんの階層目指そうか!」
「そうだね…管理人が逢禍に乗っ取られてるかもしれないしにゃ!」
聞き込みを進めると、入っきてた場所の正反対側に転送門がある様なので再び裏道から人目に着かないように飛んで進む。
おときちゃん早く元気になって!!!
おときちゃんの頭にコロちゃんを御供えしたので効いてくるはず!
門の辺りで地上に降り立つが、不思議と門の周りは人が少ない。
さっきと同じ服装の門番に第二階層に行きたいと話すと、武器の有無と所持品検査を少しされる。
成程、やはりチェックの厳しさが一段階上がった。
無事にパスをして、転送門に入る。
特に違和感もなく
街の毛色が変わった。
何というか華やかな街に見える。
少し進んで見ると、誰かが道の真ん中を大人数で進んでくる。
男が鈴を鳴らし、女がゆったりとした歌を奏で、先頭を美しい女が進んでいく。
一度見たら忘れない真っ赤な着物には桜が描かれている。
足元の三枚歯の高下駄をゆっくり回しながら歩いているが、その高下駄のお陰で着物を引きずらず美しく見せている。
「綺麗だねー!ここ吉原みたいなのがあるのかな?」
「あのシークレット高下駄を履けば月花も高身長に……♪」
「全然シークレットさがない!けどあれは歩くのが疲れそう!ていうか、吉原があるって分かると急に周りの男が汚く見えてきた…」
「それにゃ!!!♪」
暫く進むと格子や窓から女性が手を降っている。
格子窓近くを通ると、
「式部、どうどうどう!」
「きしゃ―――!」
威嚇が激しかった!!
「お姉さん、最近化物を見たとかそんな話聞いたりしなかった?」
「そうだねぇ、そういう話はここ最近聞かないでありんす」
「有難うお姉さん!」
何人か聞き込みをしていると、再び上空を白い狐が通り、炎の
そして町の人々からは見えてない様だった。
この事案はやはり白い狐がマクガフィンなのか…?
「おときちゃんはこの街来たことある?」
首をふるふると横にふる。
そして怖いのか、しっかり私のおでこに捕まってる。
せめて何を見たのかとか、何に怯えてるのか分かれば行動しやすいのだが、何というか全てに怯えている様な…そんな素振りが見られる。
ぐぐぐぅー…
「式部、おときちゃんにアクラサーモン一本あげてもいい?」
「勿論にゃ!」
町中に流れている川の畔に木の椅子があったので、椅子に座ってもらって、アクラサーモンの塩焼きを渡した。
「食べてごらん?目玉がぼふん!て出る位美味しいよ!」
ぱく…もぐもぐもぐ……ぱくぱくぱく…
「美味しい?気に入ってくれたら良かった!」
安心したせいか、大粒の涙を溢しながら食べていた。
「ほら、泣きながら食べると美味しくないから、涙を拭くにゃ!♪」
式部がハンカチを出して涙を拭いてあげた。
アクラサーモンを綺麗に食べきって、ちゃんと手を合わせた!
めっちゃいい子!!
「でも言葉数が少ない…余程ショックなものを見たんだろうね…」
「全体的に怖がってる様に見えるけど、たまに周囲を確認してるから、特定の怖い人がいるんだと思うにゃ」
「だよね…」
危機感知!!
名も無き刀で背後から振り下ろされてきた刀をノールックで止める。
「式部、おときちゃんをお願い!」
「分かった!」
おときちゃんを抱っこして素早く距離を取る。
こっちは振り返るとウォーカーが刀を使って襲っていた。
『これはこれは…懐かしい匂いがする…貴方達は
「だったら…どうだと言うんだ?」
「ふふふ…あの人には多少借りがありましてね。いずれこの世界を出て、粛清しようと思ってました」
刀を弾いて相手の正面に立つ。
コイツを逃したり、派手な技を繰り出すと街の人々が危ない!
「
黒い狼フレキとゲリが顕現する!
二頭は逃さない様に超速でウォーカーに食らいつく!
「
高速移動で間合いを詰めてウォーカーの身体を穿く!!
「いい技ですね…またいずれお会いしましょう…」
そういうと逢禍は粉末の様な塵になって消える。
「月花、お疲れ様にゃ!♪」
「本体じゃ無かった…まだ何処かにいる…」
「おときちゃんが見たのはあんな奴だったのかにゃ?♪」
「……うん、でも違う…あいつだけどあいつじゃない…」
「やっぱりウォーカーが複数いる…刀も使ってたし、あいつパパを知ってた」
「逃すとまた潜伏される…確実にここで決着をつけようにゃ!」
「式部、体力的にどう?おときちゃんが疲れてるなら宿を探そうと思うんだけど」
「眠いけど…怖い…」
「それならここで寝ようか?式部も先に寝ていいよ?私おときちゃんを抱っこしてるし」
「今日は膝枕が無くて寂しいのにゃ…」
「はいはい、今度生足でしてあげるから」
「ほんとにゃ!?絶対にゃ!また人生の楽しみが増えたにゃ…」
式部がチョロくて可愛すぎる!
今度、生足膝枕を有言実行してあげないと。
丁度、寝てるおときちゃんの頭に乗ってるコロちゃんが私の鼻の前あたりにいるので、猫吸いするともぞもぞ動くのが可愛すぎる!
なんだか夜が長かった様に思えたが、朝日はしっかり登ってきた。
逆に人減ってない!?
ここの人皆夜行性なのかな?
日が登り切る頃には誰もいなくなった。
野良猫の声、小川のせせらぎ、何処かの家でで夫婦喧嘩してる声位しか聞こえなかった。
二人とも寝ている間に上まで飛んで周囲の地形を見る。
吉原が街の中心にあり、周りが街だが、奉行所らしき建物もある。
肩にタトゥーした人とか、マフラーした役人とかいるのかな?
下に降りてまた椅子に座り直す。
式部が椅子に仰向けに寝ていて、手をこちらに出してきたので握ってあげる。
本当食いしん坊だけど、世界一頼もしい相棒だ。
この後、仮眠を取ったら…いっそその管理人の狐さんとケリをつけに行くのもありかも知れない…
その後交代して二時間程仮眠を取り、思い切って第三階層を目指す事にした。
町の人に聞いて第三階層への転送門へ向かう。
見えてきた!
「そこで止まれ!」
「ここから先は天子様の領域である」
「通して下さい。我々には行く理由があります」
「皆そう言う、口を揃えて!」
「お主の行く理由とはなんだ!?」
「この子が泣いてる、その原因を探しに行くにゃ!」
「子供が一人で行く宛もなく何日も何日も彷徨って泣いていた。その原因を探りに行く!これ以上の理由がいるか!?」
「……俺達だって人の親。それ以上の理由はいらねぇよな?通りな!」
荷物チェックだけしてサクッと通してくれた!
「めっちゃいい人だったね!」
「江戸じゃないけど、あれが江戸っ子の心意気って奴なのかにゃぁ?♪」
門を通ると、神社の入口だった。
「いらっしゃいませ、拝観料お一人様二銭になります」
詰め所の中から、巫女さんが笑顔で拝観料を徴収する。
「ちゃっかりしてるにゃ!♪」
「財政難なのか…?」
道なりに右に曲がると、凄まじく大きい鳥居が奥に、目の前には千本鳥居が並んでいる。
横は整えられた庭木に紅葉が美しく紅葉しており、枯山水も処々見られる。
「あ、鐘が突けるにゃ!」
見に行くと一回一銭と書いてある。
式部はそういうの気にしないので、一銭を賽銭箱に入れて思いっきり突く!
ごぉ――――ん!
「こら式部!おときちゃん耳抑えてんじゃん!」
「あははは、ごめんにゃおときちゃん!力を入れ過ぎたにゃ!」
千本鳥居を進むと途中から、桜並木が続く…
滅茶苦茶綺麗な場所だ。
事が終わったら、式部と自撮りして帰ろうかな?
十分程進んで、巨大な鳥居の前の広場に辿り着いた。
階段の手前にはお稲荷様が二体並んでいて、左には手と口を清める手水舎がある。
何となくお参りのノリで清める。
「おときちゃんも一緒にやろうね!」
「うん!」
「左手で
「たのしいっ!」
「月花は幼稚園の先生とかも向いてそうにゃ♪」
「えー…そうかなぁ?♡」
コロちゃんは普通にお水をがっつり飲んでた!
さて、階段の前に立ったが…先が見えない…
「何千段あるんだにゃ?」
「ちょっと気が遠くなる…飛ぶよ!」
飛行結晶を足に仕込んで飛ぶ!
「これを制覇したらアスリートみたいな足になるかも…♪」
「うちのママみたいなバッキバキの筋肉質に!!!」
頂上が見えた!
上まで上がると本堂に社務所、本堂の下にはきっちり賽銭箱もある。
その本堂の上から、ひょこっと白い大きい狐が出てきた。
ふさふさの白い毛並みに温厚そうな瞳。そして背後の九尾の中には…人が何人も!
「おねえちゃ―――ん!!!」
「おとき―――!!!」
狐が威嚇なのか口を大きく開くが、声は出ていない。
威攻撃の前兆なのか!?
突然狐の首に付いている黒い首輪が何十本も棘を伸ばしこちらに殺意を持って襲ってくる!
「花鳥風月!」
結晶による障壁を出現させるが、全てが障壁を器用に迂回してこちらに来る!
「静寂へと還れ!
伸ばした手の先にある棘が全て塵に還る!
「式部、おときちゃんをお願い!コロちゃん!ライトニングスタイル!」
「にに!」
コロちゃんが電撃を纏う攻撃モードになる!
「コロちゃん、触手の危険なのだけ排除お願い!」
「ににっに!」
…違和感が凄い…
ここまで到達して、得たものと到達先で見たものが合致しない!
再び棘の触手が私達を襲う!
「
コロちゃんは後方へ飛んでいく!
激震の波動で棘が無くなった後、見たのは地面に伸びてる棘!!
背後を見るとライトニングコロちゃんが地下から式部達を狙った棘を全てへし折ってくれてた!
さすコロちゃん!!!
あの首輪からしか攻撃が飛んできていない……狐に悪意を感じない…
ダメ元で!!
「
超高速で首元まで移動し、
黒い首輪を切断する!
この技は戒めだけを斬るので、予想が合ってるなら……
狐が巨体の動きを止め、急にへたり込んだ!
消えた首輪の部分に等間隔で巨大な棘の跡が残っていて血だらけだ…
「何だ、折角お狐様が死ぬ所を見に来たのに、まーだ死んでねぇじゃねぇか」
社務所の横にいつの間にか男がいた。
一番最初に門にいた男だ!!
「これを…仕組んだのはお前か?」
「
下衆が…こいつは野放しにはしない!
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