第18話 Walker and nine-tail
「
某アメコミの映画の様に所持スキルが空中に表示され、手で動かして整理出来るので、使う物、使わない物などを分かりやすく三分割でソート出来る。
何故要らないスキルを所有しているのか?
それは、幼い時に獲得した「哺乳瓶のミルクが適温である物を飲んだ場合、風邪を引きにくくなる」とか「一㎞以上迷子になった場合、自然に家に帰りつく」等お世話になったであろうスキルがあり、何となく手放しがたいのだ。
攻撃スキル、戦闘補助スキル、戦闘外補助スキルと並べて戦闘の組み立てを視覚的に熟考出来るのも良い点だ!
流石にフォルダは無いかっ!
「ただいまー」
「あ、パパおかえりー!」
「おお、かっこいい!あの映画みたいに動かせるのか?」
「そうそう!見た目が良いかなーって中二病心で買ったんだけど、意外と整理に便利で重宝してるよ」
「ん?
「あーこれね…竜を倒した時に貰ったんだけど、最初からバグってて…でも本気で危ない時になるとその状況に適したスキルに変化する謎のスキルなんだ…」
「危なかったら捨てるんだぞ?見たこと無いスキルだ…」
「はーい!」
「たーだいまー!月花ちゃーん!今日も世界一可愛いでちゅねー!」
ハグしてきたママの胸をわしっと掴む。
「…巨乳が憎い…」
「巨乳の事は嫌いになっても…ママの事は嫌いにならないで下さい!」
「ママは世界一大好きー!!!」
「月花…我が子ながら宇宙一可愛い…」
「おーい、俺も混ぜてー!」
「ににっに!」
「ふーん、そんな事あったんだ?パパ似なんだね、月花ちゃんは!♪」
お家に帰ってママの膝枕で先日のアクラドシアの土産話を語る。
「
「逆にママ似なのは何だろうにゃ?♪」
「………んー」
「いやいや、考え込まないで怖いからっ!」
「冗談よー♪手先が器用で人に優しくて、ママ似で超美人なとこだよっ♪うちの娘is最高―――!!!」
言葉にしてくれると嬉しいし安心するにゃ♪
「それより娘よっ!ジェイソン母の月曜日・紅蓮編Blu-Rayがアメゾンから届いたけど見る?♪」
「見る――――!♪お肉食べながら見よ―――!!♪」
「流石我が愛娘!小花ちゃん帰って来たらお肉を大量に焼いて大音量で見るぞっ!♪」
翌日久しぶりに式部と
アナザーバースの滞在時間が伸びると学校の出席に響いちゃうから大変だ。
≪社≫の依頼の活動が多いのでパパやママは怒ったりしないが、私達自身が勉強の出来ない子に仕上がっちゃうのは宜しくないので、なるべく出席を心掛けている。
そういえば学校を出たら…進路どうしようか…
このまま冒険者としてでもやれそうだけど、社会人経験は詰んだ方がいいか…悩む…
「ふっ」
ぞくぞくぞくっ!
「小花ちゃん!私、耳弱いからダメっ!」
「六花お姉ちゃんと弱点同じね。私の話を聞いてないからよ?」
「いや、ちょっと考え事を…って式部、弱点をメモるなっ!」
「気づかれたかー♪」
「小花ちゃんは将来なりたい職業とかあるの?」
「…人を切り刻める合法的な職業ってないかしら?」
「ないないないっ!百歩譲って
「冒険者か…私か弱いから、難しいかなぁ?」
「か弱いかって聞かれると疑問符しか出ないにゃ…♪」
「帰宅したら、式部の部屋の夥しい数の月花ちゃんの写真全てに油性マジックで肉か中って書いておくね♡」
「本当に申し訳ありませんでした」
余り見ない式部のマジ土下座!
「待って待って!式部の部屋って今そんな事になってるの!?」
「少し工夫して、使い込んだ地図を貼って写真にナイフを刺せば、最後のターゲットを狙ってるシリアルキラーの隠れ家に進化するわね」
「だいたい想像できたっ!」
今週はそれほど忙しい案件が舞い込まなく、のんびりと日常を楽しんだ。
いやー日常も本当に楽しいっ!
なんと言ってものんびり出来て気を使わず、死ぬリスクもほぼ無く、帰ったらご飯が出てくる!
のんびりというか部屋に引き籠ってのんびりが好きなのもきっとパパとママの遺伝なのだろう。
今日は学校から帰宅すると、少しづつ進めていたMMORPGの大型パッチまで進んで号泣している両親がいた。
「六花…最後めっちゃ泣けたな…」
「うん…あのずるいキャラがまた助けてくれるとか…バスタオル二枚分泣いた…」
「号泣してるとこ邪魔しちゃうけどただいまー」
「おかえりー!月花もやる?めちゃくちゃ泣ける話だし、ゲームシステムもいいよ」
「バトルの参考になるかなぁ…今度やってみようかな?」
「ならパソコンと出来る環境整えておくね。親子三人で出来るよ!」
「気前がいいのか、オタク気質なのか…でも少し気になってたから嬉しい!」
ぴこーん!
あ、ヤな予感!
この着信音は《社》からだ!
「月花ちゃん、どうしたの?」
「まーた《社》から緊急が来てる…」
「スキル第一世代の方が汎用性が高く、生存能力が高いからだろうな」
「今度はウォーカーが悪さしてるから退治してほしいって」
「
「ママも行った事あるの!?」
「本来は
「そうなんだ…人に歴史ありだなぁ…」
「ただ、アナザーバースに根付いた逢禍は今まで類を見ない形態になっていたり、能力を身に着けたりしてるから、気をつけてね?危険ならママも行くからね?」
「式部もコロちゃんもいるから大丈夫だよ!ママ大好きー!」
「月花ちゃんLove!!!」
「おーい、俺も混ぜてー」
「にににー!」
式部に連絡して段取りを話す。
晩御飯を食べてから出発しようという事になり、小町ちゃんご飯で力付けてから行こうという事になった。
「いえーい!景気付けに肉パーティーだぜ♪」
『いえあ!』
「良かったらホラー映画流そうか?肉進むよー!♪」
ぶんぶんと首を横に降る
「そんなに怖くない奴もあるにゃー♪」
「いやいや!式部の全然怖くないは、我々の結構怖いに相当するから…」
「同棲始めたら頑張って慣れてもらうにゃー♡」
「ひいいぃ!ホラー映画耐性スキルはよ!」
「式部…嫁入り道具にはママのコレクションから殿堂入りした奴持たせるからね…♪」
食事を頂いて、皆に激励を貰った後いつもの服装に着替えて、指定の座標を入力しダイヴする。
「次はどんな所かな?」
「炎の山とか、竜の一族とか、神様の街とか…B級グルメあるかなー!?♪」
「式部は場所よりもB級グルメの有無ね!」
無難に現地に着いた。
なんか暗いけど目の前に左右に先の見えない塀と大きな木の門が構えている。
門の両端には門番と思われる
もう一人軽装の男が木箱に座りながらあくびをしていた。
「おー…お客さんかよ…珍しいな、こんな場所に…」
煙管の煙をくゆらせながら、男がこちらを見た。
「《社》からの使いです。ウォーカーが現れたと聞いて参りました」
二人で≪社≫の身分証明書を提示する。
「あー…なんか来るって言ってたな。あんたら中の構造は知ってるか?」
「いえ…」
「この世界は小規模の階層型になっている。今いるここが第一階層。上に登ると第二階層、更にその上が第三階層になり、管理人の住処となる」
「管理人…?」
「白い狐だ。そいつを倒せば平和になる…お前達も食われない様に気を付けろ!」
そういうと門が開かれ、人々の喧騒が聞こえる。
門を
夜なので奥まで見渡せないが、小規模とは思えない。
江戸時代と表現したが、電気も通っていて電球もネオンサインもある。
建築物も江戸時代の様式かと思えば、煉瓦が積まれていたり、窓ガラスがあったりと作りが変わっている。
「こういうのはお洒落と表現するのか節操がないと言うのか…」
「郷に入っては郷に従えにゃー!まずは偵察するにゃ♪」
第一印象は、夜なのに人が多い!
酒を飲んで酔っ払ってる人、泥酔している人、食べ物を片手に歩いている女性達、お役人さんみたいな人もいる。
「うーん、どこで情報を得ようか?」
「酒場ではお酒が主体かなぁ…この時間に茶屋とか開いてるかにゃ?♪」
「ちょっと歩いて様子を…」
その時、大きな生き物が音も無く空を駆けて行き、通過後は
「狐…九尾…?」
「狐さんにゃ!でも…誰も気がついていない?♪」
「門の処にいたおっちゃんが言ってた狐かな?」
「消えたし、今は害が無さそうだから先に情報を集めよう♪」
「うん…それがベストかな!」
「式部…式部……式部!」
「
「にぃにぃ?」
「二人ともさっき小町ちゃんのご飯食べたのに食べすぎっ!」
「ふぃふぁふぇ…ふぉふぉふぉふぉへふほいふぃふぁふぁ」
「にににににっに!」
「いや、確かにここのおでん美味しいけどさ…式部もコロちゃんも餌を頬袋に詰め込んだハムスターみたいになってるよ?」
おでんの匂いに釣られて酒も飲まずに居酒屋のカウンター席で
「お嬢ちゃん達、食いっぷりがいいねぇ!他所から来たのかい?」
「ですです!さっき着いたばかりで…」
「もしかして怪物騒ぎの件で来たのかい?」
「そうです!何か知ってる事あったら教えて下さい!」
「暴れた、とかそういうのじゃなくて食われてるのを見たって奴が何人かいるだけだね…そいつも逃げちまって結局正体が掴めてねぇ」
「ちなみに上の階層に行くのは難しいんですか?」
「いんや?検問で荷物チェックだけすれば老若男女誰でもいけるぜ?ただし、一番上は警備が厳重だから、人によっては入れねぇかもだぜ?」
「そうですか………ん?」
カウンター席の木の椅子の足元に何か触ったので覗き込むと、着物姿の小さな女の子がいた。
「どーしたの?♡」
びくっ…
怖がっていたから、膝の上に乗せる。
おでん食べるかな?と前向きに座らせると、何故か後ろに向き直して抱き着いてきた。
お腹が空いている訳じゃないのかな?
「おじさん、この子おじさんの処の子供?」
「そこの長屋のとこの子供だな!」
何故かブルブルと震えているので、抱きしめて背中をトントンしてあげる。
式部がジェラシーってるが、小さい子に妬かない!って目で訴える。
居酒屋を出ると、子供を肩車し見渡しやすい様にする。
「お嬢ちゃん、名前は何て言うのかにゃ?」
コロちゃん改め、食べすぎてコロコロちゃんを肩に乗せると少しだけ警戒心が解けた様だ。
「名前…おとき…」
「おときちゃん!いい名前だね!私は月花、こっちが式部、この食べ過ぎで丸々してるのがコロちゃんだよ!」
「ににににに…」
「ころちゃん!」
流石オールマイティ生物兼私のお姉さんのコロちゃん!!
「ね、おときちゃん!何処に住んでるのかな?」
「あっち…でも帰りたくない。おうち怖い…」
何となく指差してる方向に歩いているが、可笑しな状況は無いように見える。
「おとき!!」
着物の似合う美人が慌てた様子で駆けつけてきた。
「おとき!探したのよ!どこ行ってたの?」
「…」
「さ、お家にかえろ?おいで!」
「やだ!やだ―!」
おときちゃんが肩車状態で私の頭を意図せず締め上げる。
余程帰りたくないのか…虐待…?
「お母さん、おときちゃんと遊んであげる約束してるから遊んであげてからお家に送ってもいいかにゃ?♪」
式部が前に立ってお母さんに説得してくれた。
「…そうかい?なら、遊び終わったらそこの長屋の三軒目に連れてきてもらってもいいかい?」
「わかったにゃ!」
おときちゃんのお母さんは、少し不審がりながらも長屋へ帰っていった。
「式部ありがとう!おときちゃんも少し警戒心がなくなったみたい」
「月花、この子のスキルの履歴を見て!」
「え、分かった!
かくれる にげる かくれる かくれる かくれる にげる かくれる かくれる…
…なんだこれは…
「一番最初まで
にげる にげる にげる かくれる にげる にげる にげる にげる みやぶる
背筋に寒気が走る!!
この子は何かを見破って、ずっと逃げていた!
「…おときちゃん怖かったね!おねえちゃんと暫く一緒に居ようね?」
「うん…お姉ちゃん達は怖くない」
「おときちゃん、何が怖かったの?」
「……全部」
「おときちゃんが怯えなくなるまでまだ聞かないでおくにゃ♪それより、周りの人も
言われるままに周囲の人を何人か
「誰もスキルを持っていない…」
「生きてたら二つ三つは持ってると思うんだけど、誰も持ってなくて逆におときちゃんだけ持っているにゃ…」
「生活に困ってスキルショップに売った…それなら分かるけど、所持ゼロが多いのは…」
「さっきの狐が気づかれず奪っていくとか?」
「それなら私達も盗られてそうなんだけど、その形跡はなさそうね」
「コロちゃん、万が一の為に暫くおときちゃんに着いててもらっていいかにゃ?♪」
「ににっ!」
どこかに逢禍も潜んでいるはずだし、兎に角この街を調べてみよう!!
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