第17話 settlement

押していると、時間の無駄と言わんばかりに顔を引こうとする!


ここがチャンスだ!


激震の波動クエイク・オブ・ウェイヴ!」


触れることなく強烈な震動で攻撃する技!

水の中なら伝播して全体を攻撃する!

魚が逃げ、ビルが揺らぎ、恐竜も水中をうねり出す!


が、突然下方向で止まり振動に耐えながら睨みつける!


何だろう、その動き…



振動を止めると、こちらに突進を掛けてきた!

ギリギリで高速移動でかわし、首より下の部分を斬りつけてみると、睨んだ通り刃が通った!


すれ違ったので恐竜が水面側に移動し、威嚇をしている!

水の外側から攻撃がされている様だが首しか水面に近づいてないので殆どダメージが通っていない!


だが、こちらに腹を向けている!

今なら!!!


「花鳥風月!!」 

結晶障壁をビルよりも高く伸ばし、恐竜を腹から上に打ち上げた!!!


んー…おかしい…



巨大な水のうねりと共に水面から大きく打ち出された恐竜は、街の上にある城の高さまで押し上げられた!!



私も水面から飛び上がり、技を構える!


名も無き一之太刀ネームレス・ワン!!!」


技の特性で相手に突進し、一撃を決めた!


いや、浅い!!!


恐竜の長い首が狙いを定め、こちらに顎を繰り出す!



彼方よりの星光スターライト・ビヨンド!!!」


昨夜手に入れた中二病スキル!


収束された光を打ち出す…つまりビーム!!


恐竜の顎を貫通し、光が斜めに空に走る!!


すかさず女性冒険者の槍や式部のグングニル、ライオンさんの剣が胴体に刺さる!


恐竜が動きを止め、水面に落ちていく。


巨大な水飛沫みずしぶきを撒き散らし、湖面を赤く染めた…



『参加者の皆様、討伐お疲れ様でした!お約束の報酬は大会終了後お渡し致します。再戦は一度控室にお戻り頂いてリセットでも宜しいでしょうか?』


「我輩は棄権する。こう見えても己の実力は弁えている。第一、武器が恐竜と沈んでしまったしな」


「はーい!私も同じく槍がないから棄権するぅー!」



式部達の元に戻って、建物の上で久々の大地の感触を味わう。


「月花ー!グータッチにゃー!」


「nice fightですー!」


ダブルグータッチで拳を握り、両手を前に突き出す。


こちらに走ってくる二人とグータッチ!



かと思いきや、二人共わざとらしく拳に当たってよろよろと倒れる!


「やられたにゃー♪」


「効いたぜ…お前のknuckleこぶし…ガクッ」


「うお――――――い!!!」



『優勝が決定しました!この戦いを妖精王様に捧げます!観客の皆様も参加者の皆様に大きな拍手を!!!』


いやいやいや、こんな寸劇で決勝決めて良かったの!?


式部もグレースも倒れたふりしながらニヤリとすんな!!!




控室に転送されてあたりを見ると、飲み込まれた三人もいてホッとする。


何人か寄ってきて、投げナイフのおじいちゃんに褒められたり、ライオンさんに褒められたりワイワイと話した。



その後。


運営の女性に話し掛ける。

もう一度だけ湖に転送して欲しいとお願いする。


年の為に式部とグレースも付いてきてくれるそうだ。


「何かあったの?」

「うん…少し確認したい事があるんだ」


スキルを再度かけて、先程戦った水の中に入る。


少し怖いが水底まで潜り、先程恐竜が妙な動きを見せた場所まで進む。


途中大きなウツボみたいなのがいて気持ち悪かったので大きく迂回して避ける。



………あった。

ビルと瓦礫の間に、卵が三つ。

君はお母さんだったんだね。

さっきの動きは、振動から卵を庇って、湖底から遠ざけようと必死だったんだ…


咄嗟に人を食べてしまったから、討伐してしまったけど人間の方がテリトリーに入ってきたんだもんね。


ごめんなさい…


「花鳥風月」


障壁で卵が潰れたり、襲われたりしづらい様に周囲を囲って、生まれた時の出口だけ開けておく。


ついでに巨大な街の底の鋭角になっている部分を調べる。


やはりどの面も妖精の文字と魔法陣らしき物も刻まれている。



「ただいまー」


「おかえりにゃ♪」


「何か面白い物でも見つけたの?」


「どちらかと言うと面白くないものかなー?」




上位三位の私達は別室に通され、待機している。

流石に調度品や飾りが高そうだ…


「汚したら買い取りかにゃー…♪」


「そんな王族嫌ですねー!」



「入賞された三名様、国王から直接労いの言葉を頂戴出来るとの事なので、今からご案内致します」


「はーい!」



控室から通路横の階段を登り、上の階層まで着くと赤い大きな絨毯が通路に伸び、それが続く部屋の大きな扉が開く。


左右には鎧に身を固めた騎士団が並び、剣を斜めに掲げて道を作ってくれた。


玉座には、白髪、口髭、顎髭の眼光の鋭い王様と、黒髪、セミロングの王妃様と思われる美人の女性が座っていた。


王様の背後の上には巨大な青いクリスタルがゆっくりと回転しながら浮いている。



王様が手を上げると、騎士団が剣を戻し、私達の左右に付いていたお城の人が跪いた。



「私が第17代国王、ラディス・トワ・アクラドシアである。隣が妻のジーナ・ヒナ・アクラドシアだ」


謁見とかしたこと無いので、全員跪く事もなく軽く会釈をする。


「此度のフェアリーリボルヴ、及び緊急の魔獣討伐、見事であった。一位のスキルの多様さ、刀裁きは見事であった」


「あ、有難う御座います!」



「二位の者も電光石火の槍捌きで次々と猛者共を屠る力は圧巻であった」


「有難う御座いますにゃ♪」



「三位の者は目立ってはおらなかったが、一撃で致命傷を与えるブーメラン使いは見たことがない。素晴らしかった」


「わお、有難う御座います!」


ほぉ、グレースのブーメランは結構強力なんだなー!




「さて、私が呼んだのは他でもない。その力…私の下で活かして見ないか?待遇は手厚くさせてもらう」



「その前に国王様、一つ…お聞きしてもいいですか?」


「許そう、申してみよ」



「もしかして…戦争の準備をしていますか?」


謁見の間がざわつき始めた。

王様、王妃様も表情を変えたな?



「発言を許す、続けよ」



「近年、フェアリーリボルヴからのスカウトが多いと聞きます。この都市は来たばかりですが、活気もあり、観光の旅人も多いが何故か入口からチェックが厳重だった。まるで何かを警戒している様だ」


「……ふむ」


「国王様にもお会いして確信した。この国は攻める側の国ではない。なら、何故準備を進めるのか?何故狙われるのか?…それはこの国の歴史に関わる事かと」


「うむ、騎士団は下がって良し。余り話を広げるのも良くないのでな」


騎士団は礼儀正しく下がっていく。



「式部、これ何が始まったの?Battleたたかいになる?」


「多分大丈夫!月花はツッコミ入れないと気が済まないからにゃ♪」



「すまない、続け給え」


ピッとクリスタルに指を指す。

「この城は…遥か天空を浮かんでいた。そして、本来アクラドシアとは水没した都市の方。この街は本来妖精王の都市だった…」


「……」


「文献が何も無いので、ここからは想像なのだけど、そのフロウクリスタルが何かの異常をきたし、丁度真下にあったアクラドシアの真上へ降りてきた。さもそれは天災の様だったでしょう」


傍に居た大臣達も席を外し始めた。


「国を…民の大半を失くしたアクラドシアは妖精王の国と争い、妖精王の国はアクラドシアへとなる。大きな衝撃で隣の河川と繋がり周囲は水没した。これがこの都市の始まり…如何でしょう?」



「それが真実だとして、貴様はどうしたい?」


「この秘密と引き換えに、貴方を…脅迫します」


「ちょっ!♪」


「何言ってるのー!!!」



「うむ、面白い!聞いてやろう」

前のめりに笑顔になる国王!


「先程倒した恐竜…魔獣…どちらか分からないが、卵を産んで気が立っていただけなんです。いつ孵化するか判らないですが、出来れば飼い慣らすか、優しく見守ってあげて下さいませんか?」



「ぷっ…あっはっはっは!王家を脅して何を要求するのかと思ったら!全然いいわよ!面白いわっ!」


「うむ、殺生は好むところではない…二つ三つ訂正させてくれ」


「は、はい…」



「妖精王の国が落ちてきて国が滅びかけた、ここまでは貴様の推測に間違いない。だが、落ちてきた妖精王の国はすぐにわびてきた。上空で魔物に襲われてフライクリスタルの魔力を吸われ地上に落下したのだ」


「そして、この国と妖精王の国は長き話し合いにより、極秘に国を統合した。妖精王の一人娘と当時の我が国の王は婚姻。それが今の王家のルーツとなるのです」


「では、妖精達は?」


「…妖精達は恥ずかしがりなのだよ」



国王が指をパチン!と鳴らすと、妖精達が一斉にあちらこちらから飛び出してきた!


王様の背中にも輝く羽根が現れ、部屋がグリーンやイエロー、レッドの光に包まれる。


「おおおおお!」


「初めて妖精見たにゃ!♪」


「わお!eccentricすてき!!!!」



「心配をかけたな、妖精のアイテムや我が国そのものを狙う動きがあったから警戒しているだけで、自衛以外の戦争はせぬから安心せよ。卵から孵化した獣も我が国が間違いなく安全を保証しよう」


「有難う御座いました!自衛の為の戦いならば《社》を通じて呼んで下さい。この恩に報い、必ず手助けします」


「うむ、その時は力を貸してくれ。そして、たまには遊びに来い!貴様の様な冒険者は、楽しい事が好きな我々は大歓迎だ!」




「月花、何を言い出すかと思ったら卵を守りたかったのね!」


「月花はそういう事を見過ごせないからにゃー!」


「戦争も自発的にしないのを約束してくれて良かった…いい国だ。そもそもこの国が負ける事ないだろうけど」


「何でなの?」


「きっとフェアリーリボルヴのシステムは本来、妖精達の自衛システムなんだと思う」


「そっか!大会であれを見せ付ければ防御の手厚さは分かるにゃ♪」


「逆を言えば技術の高さを見て狙う国もありそう…」


「争いはしたくないけど、もし起こるなら未然に食い止めないとね!」




その後、三人でアイテムと報酬を貰ってホクホクで街に戻った。

アイテム数が多すぎて二時間悩んだのは秘密中のナイショだっ!



グレースは大会が終わって、ホームに帰るそうなので途中で別れて、宿に帰る。



ベッドに腰を下ろす前に、湿っている服を着替えた。


「…月花、あまり気にしない!お母さんは可哀想だったけど、私達も喰われる訳には行かなかった。守り玉はあったけど人間が食物って覚えたらもっと悲しい事になってた」


「…うん」


「覚えててあげよ!そしてまた子供が生まれた頃に見に来よ!心を痛めるなって言っても…相手を思いやっちゃうのが月花の良いとこだにゃ!」


横に座って式部が頭を引き寄せて、抱きしめてくれたので…少しだけ気持ちを吐き出しておこうかな…



――三分後

「本当に人っでわがりあえるのがなぁ…」

「よーしよし、変な方向に感情が反れてるからそろそろご飯行こうにゃー♪」



ご飯を食べに来たので、式部に妖精のアイテムを何にしたか聞いてみた。


「ふっふっふっ…もうこれは月花が縁をつくってくれたとしか思えないにゃ!♡」


出したのは…妖精の保存袋!!!


「中に入った物は入った時の状態で永久保存…すなわち…出来たてをいつでも味わえる!!」


妖精さんも食いしん坊がいそうだな!


「しかも!容量がかなりある!帰りはアクラサーモンの塩焼き、出来たてでお土産に出来るにゃ!!」


「そういえば、妖精のアイテム見てる時並べ替えしてなかった?」


「実はこのアイテム二個あったのにゃ…一年使って容量足りなければフェアリーリボルヴを無双して、奥に隠してある二個目を取りに行くのにゃ…♪」


「おもちゃ屋でラスト一個の商品を隠す子供みたいだが、それはやむを得まい!」


「容量が許すならあったかほっとたこ串も買い出しに行かねば…」


「式部…ランキングを付けて現在最下位のあったかほっとたこ串、めちゃくちゃ愛してるじゃん」


「B級グルメに目覚めさせてくれた特別な味だから…ランキング外になったら殿堂入りさせようかにゃ…♪」


「私はこれー!はい、指出して!」


出された小指に指輪を嵌める。


「ふぉー!これはここここ婚約指輪!?」


「残念だが違うっ!これは妖精の縁というアイテムで、嵌めてる相手の位置が判るんだって。で、一番大きいのが小指にしか入らないけど、逆に小さいのはある!だから…」


「ににっ!」


「コロちゃんサイズもあったから三つセットで貰ったの!」


「にっにっ!」


あとは嵌めた状態で指輪と指輪を触れさせると同期が完了するらしい。



「にへへー!三人ずっと一緒だよ!」



ご飯を食べ、身支度をしてアクラサーモンを買い込んで家に帰る。



夜にホームワールドに帰ると小町ちゃんのご飯タイムだったのでアクラサーモンの塩焼きをパパ・ママ・小町ちゃんに一本ずつ味見して貰った!


「何これ!?めっちゃ美味しいー!サーモンの旨味と鮎のほくほくあっさり感が混じってて最高ー!♪


「本当に美味しい!脂がないお魚だから、塩焼きが旨味を引き立てて美味しい!」


「美味い…和食の技を集約した様な味わいだな!」


また絶賛を頂いてしまった…


異世界のグルメ凄い!

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