第16話 Giant Bite

 食後に式部とスキルショップへ足を運ぶ。



 やはり大会の鍵は武器の腕、体術以上にスキルの攻防にあると予想し、カタログを眺める。


 特に、パパ譲りなのか泳ぎが苦手な私は水対策に余念がない。



「式部は泳ぎが得意だから羨ましい…てか、式部も小町ちゃんも苦手な事無さすぎじゃない?」


「そんな事ないよー!苦手あるにゃ!」


「ママも割と不器用だし、パパも何だかんだ努力型だからなー…一方駒鳥鵙こまどりの血筋って料理を中心に天才肌の血筋じゃない?」


「いやいやいや、ママなんか私にホラー映画の悪役の名前を付けようとしておばあちゃんに『貴方にネーミングのセンスはない!』って叱られたらしいよ!」


「あ、それは駄目だね…無敵の小町ちゃんに弱点があったのか…」


「駒鳥鵙ジェイ○ンとか駒鳥鵙ジグ○ウとか、絶対虐いじめの対象になって人生の道を踏み外してたと思う…若干かっこいいけど!」


「流石ホラー好きの娘だね…」



「しかし、良く見るファンタジーなスキルって意外とないにゃ!目くらましとか落とし穴とか…」


「人の命に関わるからポップしないか、出回らないのかなぁ…その代わり日常生活系のスキル多いよね…固い瓶の蓋を上手く開けるスキルとか、玉ねぎ調理中に涙が出ないスキルとか…」


「母の日にスキルのプレゼントとかいいかもね!」


「けど、私達のママの誕生日はレトロゲームとホラー映画Blu-Rayが定番だもんにゃー♪」


「毎年それで喜んでくれるのが嬉しくもあり、ちょろくもあり…」



「あ!これ…使えるかも!」


「成る程、なら私はこれを買うにゃ♪」


「これも中二病心が疼くから買うぞー!」


 使えそうなスキルを二人共見つけてホクホクで宿に帰る。




 次の日、城の入口にある大会受付で登録を済ます。

 すっかり忘れてたんだけど、個人戦らしくて、三位まで賞品があるらしいのでワン・ツーフィニッシュを狙いに行く!


 そして下見もしたかったのだが、フィールド内に予め仕掛けをされない様に立ち入り禁止になっているらしい。


 ただ、遠くから見るのまでは咎められないらしいので、二人で歩いて回る。

 飛べるのも戦術の内だもんね!


 湖から突き出した建物があるとはいえ、隠れられる場所は多くない。


 と、なると水中戦に掛かる比重が大きくなる筈。

 水中スキルを充実させ、空を飛べる私達はかなり有利の筈だが…私が個人的に泳げないから水が嫌いなのに、深海の暗い所も嫌いだから、式部の足を引っ張らない様にしないと!




「式部…久しぶりに稽古付けてくれない?」


「明日トーナメントだけど、大丈夫?」


「逆に少し動かしておいた方がいいかも知れない!」



 宿の近くに遊具のある広場みたいな場所が在ったので、貴重品だけ宿に預けに帰って広場にいく。


 何故か子供用の遊具なのに、やたら小さい物や妖精の言葉らしき文字も書いてある。


 体術は式部の方が完全に上なので遠慮なくやって、後程月光の相愛で回復するスタイルでいつも稽古を付けてもらっている。



 準備体操を軽くして…


「よし!お願いします!」


「来いにゃっ!♪」



 先手を取って相手に牽制の回し蹴りを入れるが、低い姿勢でかわすと式部が脚を持ってひっくり返してくる!


 いつもながらどんな反射神経してるの!?


 手をついて後転、姿勢を戻すがもう眼前に式部の肘打ちが来てる!


 少し痛いが掌でショックを抑え反らして背中側から逆手で逆に肘打ちを返す!


 軽く入るが、バックステップを入れているから深く入ってない!



 その位置から素早く大きく跳び上がり踵落としの体制!


 ガード!

 と思いきや、空かして下段廻し蹴り!


 姿勢を崩したのを見逃さず旋風脚を決めてきた!


 頭にまともに喰らって意識が飛びそうになるが、飛ばされた方に木があったので、蹴った反動で戻り、式部の左脇に突きを入れた!


 蹴り戻りの反動の分、ダメージはデカい!


 が、その肘を受けながら右拳が腹に触れる。


 あ!





 ………はっ!起きたー!

 気が付くと広場に設置している木の椅子で膝枕してもらってた!

「ごめんごめん!月花が反応良くて、つい寸勁打っちゃったにゃ!」


 式部の寸勁は痛みで気を失うか、吐き戻す位の衝撃!

 生身のパイルバンカーだ。

 もう回復してもらってたみたいで申し訳ない!


「月光の相愛…ごめんね、遅くなって…痛かったでしょ?」


「…ううん、月光の相愛は相手の思いの分回復が乗るから…痛くてもその後の回復量で愛を感じるにゃ♡」


「いやー、申し訳ないやら感動して泣いていいやら…式部の回復量はいつでもMAXだからね?」


「あ、鼻血出そうにゃ!」

「絶対、戦闘の痛手じゃなくてやらしい事考えてたなーっ!」


「ほんの少しだけガッツリ考えてた!」

「どっち!?」  



 肩慣らしに丁度良かったが、まだまだ式部には勝てそうに無いや!




 次の日。

 コンディションはバッチリ!

 食べ物は最小限にして、装備品を確認。

 湖に入るのを想定して荷物もコートに入るだけにする。


 二人の主武器である刀と槍も手入れをする。

 これ程強力な武器に手入れがいるのか分からないが、お世話になっているお礼と、もし運が目の前にやってきた時に、それを掴む為の乱数調整でもある。



 城の受付で、チェックをしてもらい控室に入ると三十人以上の猛者達が待ち受けていた。



「おーい!式部!月花!」


「グレースお早うにゃ♪」


「やっぱり参加するんだね!」


「うんうん!腕試しで参加してみようと思ってね!」


「皆で頑張ろう!出来ればこの三人でお宝ゲット!」


『おー!』



 城の門をくぐった大きな広間が待合室の様だ。

 やはり人数は三十人強で様々な人がいるが、獣人さん水大丈夫なのか?



「ドキドキするなぁ…」


「モキュモキュするなぁ…♪」


beat quicklyどきどきですねー♡」


「にににににっに」


「モキュモキュが一番伝わらなかった!」


「コロちゃんに負けたっ!♪」



『参加者の皆様、おまたせしました!これより『フェアリー・リボルヴ』一回戦を開催致します!一回戦は現在の人数から十五人以下になるまで戦って頂きます。終了の合図がなると、そこから三十分のインターバルを挟み第二回戦を行います』


「良かった…休憩はあるんだな!」


「なかったら鬼にゃ♪」


「軍の演習よりハードです!」


『準備が整いましたら、足元の精霊魔法陣にお乗り下さい。ここからランダム転送されます』



 …踏んじゃいけないものと思って避けて歩いてた!


 全員思い思いの精霊魔法陣を踏む。


「それでは!三…ニ…一…スタートです!……って言ったらスタートです♡」


いにしえのギャグ!」

 とりあえず突っ込んでおいた。



「それでは三…ニ…一…スタート!!!」


 一瞬で転送され、私は建物の上!

 橋が左手に見えるからほぼ東だ!


 無言で背後に障壁・花鳥風月を貼ると「ぐぇっ!」て聞こえたので壁に衝突したな?


「貰った!」


 右から女冒険者が斧で斬りかかってきたので…


こうべを垂れよ!」

 超威圧を周囲に放つと、背後の二人が気絶。

 前の一人と女冒険者は斜面だったので気絶して水に落ちていく。


 勝負はまだ付いてないのでそのまま待つと溺れてゲホゲホ言いながら二人が突撃してきた!


 先にずぶ濡れの男がハルバードで突いてきたので名も無き刀でハルバードを三分割し、本体を真横に斬り、返しでもう一撃!


 よし!転送されて行った!

 ずぶ濡れ女冒険者が火球数発と共にこちらに斬りかかってくるので消去で火球を消し…


名も無き一撃ネームレス・スラスト!」


 相手がバックラーで防御するが、貫通して相手の胸に刺さる!

 2HIT扱いになったのか相手が転送された!

 気絶か水落ちも1HITみたいで良かった。


 背後は…大きな障壁で足場ごと分断したら、分断した二人で熱い戦いを繰り広げていたのでそっとしておく…


妖精の散歩フェアリー・ベンチャー


 詠唱し、水に踏み出すと沈まず歩ける様になる。

 一重に水に濡れたくない!溺れたくない!という一心で探して、昨夜買ったスキルなのだ!


 地面を歩いた時の様な感触と音もなるので違和感がない!


 次の足場へ走っていくと、途中で上から投げナイフらしき物が降ってきた!

 年の為に前方を確認し振り返ると上に飛空してるおじいちゃんが投げナイフを再度両手で十本近く投げてきた!


 避けようと思って態勢を崩すと、足が動かない…

 足元を見ると、水面下で両足を掴んでる男がいる!

 一瞬ひっ!てなった!

 スカートだったら千切りにしてるとこだぞ!


塵は塵にダスト・トゥ・ダスト!」


 降ってくる投げナイフを全て塵に返すと、すかさずナイフが両手に現れる!

 ナイフのスキルか!


技術破壊スキルブラスト!!」


 少し可哀想な気もしたが、スキルを全損させると上から落ちてくる。

 一石二鳥!


 続いて逃げようとした足元の男の両手を斬り落として本体に一撃!


 よし、転送された!


 危なっ!ナイフが掠めた!


 さっき降りた足場にずぶ濡れのおじいちゃん!

 まだ戦意喪失してないのは尊敬!


名も無き一撃ネームレス・スラスト!」

 敬意を込めて全力でとどめを刺す!

 技を小出しにしてるのは戦術だ。


 また水面をテクテク歩いて次のビルという足場へ…

 ヒュッ!


 吃驚した!

 死んだのかと思ったら半数減ったから転送された様だ。


 横を見ると式部とグレースも残っていたのでハイタッチした。


「そっちはどうだった?」

「式部ちゃんと一緒だったんだけど、式部ちゃんが槍で三連突きすると一瞬で相手が振り出しに戻るのよね」


「式部が暴れてたからすぐ終わったのか…」


「またつまらないものを突いてしまった♪」



 ここから三十分休憩に入る。


 式部がカロリースティックを持ってたので三人で食べながら戦闘を状況を聞いておこう。


「残った人で印象的な人いた?」


「サクサク倒してる獣人さんがいたねー!強そうなライオン系の人、めっちゃ泳いでた!」


「ネコ科なのに水に強そう!」

「またたびをあげると喜ぶかにゃー?♪」


「まず、誰よりもネコっぽい式部が喜びなさいっ!」

「ににに!」

「猫からもツッコミが!」


「そっちは強そうなのいた?」


「うーん、だいたい倒しちゃったからなぁ…二人位残ってたけど…私達がいなかったエリアに強い人がいたかもね!」


「ネコ科に期待!♪」



『お待たせ致しました!続いて第二回戦を行います。ここでは人数が八人になるまで戦いが続きます。妖精王への奉納に相応しい戦いを楽しみにしております!では妖精魔法陣にお乗り下さい!』


 さっきとは違う魔法陣に皆乗る。


 転送瞬時に終わり、今度は城の後方。


 前方の建物に三人程固まった為、もうバトルが始まっている!


 後方を確認したが誰もいない!


 よし、あの三人に合流して………



 危機感知!!

 このタイミングで!?

 何だ!?


 迷わず身体を捻って、立っている建物の左に全力で身を投げて回避する!

 その瞬間、今まで立っていた足元が崩れる!






 ばくん!!!






 何か大きな長い物が伸びて、前方で戦闘中だった三人を一口で飲み込んだ!!!


 式部に稽古付けてもらってなかったら反応が遅れてたかも知れない!


 もう手の内を隠すとかの騒ぎではないので、結晶飛行で跳び上がり、式部とグレースを探す。


 いた!


 二人に二本指を指して飛行結晶を付ける!



『大会運営本部です。フェアリーリボルヴに関係ない生物が出現した様ですので水棲生物の討伐を優先でお願い致します。報酬は現在フィールドにいる参加者全員に別にお支払致します』



「おおう、恐竜出ちゃったね♪」


「わお!これ飛べるの?Excellent最高よ!!」


「月花の得意技にゃ♪」


「それよりさっきの、上に出てくるかな?」


「あ、水面に顔が少し見える!」


 恐竜が向いてるビルには…獣人さんと、槍を持つ女性が一人…


 来る!


 恐竜が動き出した瞬間に名も無き疾風ネームレス・ゲイルで移動し、三人の前に立つ!


「構えろ!来るぞ!」


 水面が揺らいだ!


名も無き断罪ネームレス・ペナルティ!!!」

 ガギィィィ!!!


 私の刀と獣人さんの剣が恐竜の前歯と押し合い、女性の槍が口の中を攻撃する!


 体躯が違い過ぎるから技で押しても重い!

 

 式部が頭に乗り、グレースが首の横をナイフで攻撃するが、兎に角頭が硬い様で頭頂部も口内も首も殆ど傷が入ってない!


 力比べに飽きたのか、すっと頭を引いて水面に沈んでいく!


「幼女よ、助太刀感謝する!」

「助かったよ幼女!」

「ダブルで幼女ゆーなっ!!!」


 獣人さんと女性槍使いに飛行結晶をつけ、上に退避してもらう。


「すっごい!飛んでるぅ!」

「我輩、飛んだのは初めてである…」


「緊急時だから、全員に飛行を付けた!あれ、どうやって攻略しよう?」


「水中から出てきたらワンチャンあるかねぇ?」


「頭は…ああいう種族なのか進化の過程なのか固くて刃が通らない…だが水中では全員動作があの速度に追いつかない…」


 ライオンさんも頭を痛めている。


「…じゃあ私が潜って技を入れてみるから、飛び出てきたら全員で攻撃、槍の二人は胴体かお腹が見えたら攻撃してみて!」


「りょ!♪」


「私、主武器がブーメランだから、目とか弱そうなとこを殺って見るね!」

「お願い!」



「ふー…水嫌いだけど…行くか!」


 水面にいない事を確認して飛び込む!


「呼吸する大地!」

 水中で飛び込んでも呼吸出来るスキルを使用!

 次に…


「古代魚の推進」

 水中なのに爆速で進めるスキル!


「共存する螢火」

 光量も調節可能な発光スキル。

 暗い水中が嫌いなので全開にしている…


 うわ!魚群が照らされて流れるようにビルの周囲を回っていて、海藻の生えたビルが沢山並んでいる…

 探れば色々ありそうだが暗いとこ怖いからいかないっ!


 街の底面は…何故か独楽こまの様に鋭角で、刺さる様に水底に刺さっていて周囲のビルは崩れている…

 鋭角部分の表面は妖精魔法陣と似た文字が刻まれている。


 底に進んで見ると、底は泥と…あれは…夥しい数の武器、防具、日常品や家具まで沈んでいる…



 危機感知!

 背後から来た恐竜の顎を名も無き刀で止める!

名も無き断罪ネームレス・ペナルティ!」

 力押しスキルを発動しつつ水中を押されるがビルを足掛かりにして、力比べを再開する…


 深い場所で押されているので、まだ式部達がフォロー可能な水深まで達していない!


 グググググ…


 恐竜のどこかの器官が音を鳴らしている…

 まだまだ負けないからね!

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