第15話 submerged city

「ねー式部?」

「んー?♪」


「最近忙しかったし…」

「ごめんよハニー…今晩は寝かさないからね…って続くんだにゃ?♪」


「残念だが違うぞー!例の水没都市に行ってみない?ってお誘い!」

「あの事件があってから避け気味になってたね…行ってみようか!」



「はい、そこの鹿鳴ろくめい駒鳥鵙こまどり!堂々と私語してるけと授業中だからなー!」


『はーい!』

 龍安寺先生、キレると怖いからすぐ黙りました!



 という訳で、何かと波乱の多いファンタジー世界へ久々に足を運んだ。


 竜の洞窟がある壮麗な双子山を超えて北上すると、巨大な湖が見えてくる。

 その湖の中心にあるのが水没都市アクラドシアだ。


 モンサンミッシェルを彷彿とさせる様な山形の城と街、大きな橋が湖の上を渡って道路へと繋いでいる。


 街の周辺は高い建築物が水面から幾つも顔を出している。


 竜もファンタジーっぽくて好きだけど、こういう如何にも何かある!って雰囲気はゾクゾクする!


「月花、如何にもファンタジーって場所好きだもんにゃー♪」


「考えてる事を当てないでっ!でもさす式部!」


「にへへ♪」

「ににに♪」

「コロちゃん、そろそろ喋れそうな勢いだね!」



 橋の入口には検問があって、身分証明と軽い荷物チェックをされる様だ。


 飛んで入っても良かったんだけど普通の人間はほぼ飛べないので、観光客気分で歩いて入ろうって事で真面目に検問にかかっている。


「はい、身分証明OKです。少しだけ荷物を拝見しますね」 


 マッチョだが爽やかな衛兵さんに身分証明証を返却して貰い、バックパックを開けてチラ見せする。

「はい、大丈夫です。アクラドシアへようこそ」


 ふふふ、貴様は知るまい…

 相方の頭に乗ってる白い毛玉が猫である事を!

 そしてこの猫、超強い事を!

 どこの検問も華麗にスルー出来る最強生物コロちゃん!


 バックパックを背負いなおして三人で門を通過する。




 …うっわぁーーー!

 天気がいいから水面に逆さに映る建物が如何にも映えスポット!


「月花、三人で自撮りしよー♪」

「うんうん、絶好の自撮りスポットだもんね!」


 謎の箱からカシャカシャ音が鳴ってて何してるんだろう?って目で通行人から見られる。

電波が届かない…というか無いから、すぐSNSに上げられないのは残念!!



「つか、ここの橋長いねー」

 検問を出たとこに馬車が何台もあるのは、有料で文字通り橋渡しする為か…ちゃっかりしてるなぁ…


 左側通行で真ん中が道路なのは日本と同じで、映える為か観光客やカップルが多い。

 売店や絵描きさんもいて、凄く賑やかだ。



「如何にも観光スポット!って雰囲気だね!」

「私の望みはただ一つ…あったかほっとたこ串を超えるB級グルメ!」

「式部先先の目が本気マジだっ!!!」


「突然今思ったんだけど、フォースアイテムで食材が劣化しないバッグとかないかな?いつでもB級グルメを食べられる!」

「月花の天才が発動した!!!あとで探しに行こう!!!」


 旅の楽しみがまた増えた!



 長い橋を渡り切り、街の入口へ着く。


 門は開かれており、真正面の道から城に行ける様になっていて、左右に街が円状に広がっている。

 街の案内図を見ると左右の通りによってグルメ街、武器防具街、道具、日用品雑貨街と別れている様だ。


「よし、本気出すぜ…♪」

「町に着いたばかりだけど式部らしい!!」


 気がつくとおもちゃ屋で迷子になる子供並に式部は消える。

 何なら本気で迷子の時もある。

 だから、グルメ街で式部が動き出したら式部の後ろを付いていくのが正解だ。


 既にいくつか味見して、いくつかあーんしてもらったが、感動レベルではない。


「むむむ、B級グルメ評論家の私の感が…一番奥へ行けと告げている…しゃ―――!!」

「ちょ!式部まって―――!!!」


 進むと、何かを焼いている匂いがする…

 あれか!!!


 店先で焼いているそれはどうやら魚の様だ。

 まるで屋台のりんご飴の様に串に刺して焼いて売られている。



 魚を焼いているお店の店主が鋭い眼光を式部に向けた…


「……お嬢さん、ウチに目を付けるとは…相当な猛者だ」


「にやり…♪」


 なんのやりとりが始まったのかな?


「二本頂こう…おっちゃんの腕…確かめさせてもらうぜ!♪」


「間違いねぇ…あんたのその目…食の側の人種だ…焼き立てを食って行きな!」


 二人で焼き立ての魚の串をかぶりつく!



 もぐもぐ…


「な、何ぃ―――!!!何だこの味はッ!」

「この白身の旨味、骨まで食べれる柔らかさ…程良い塩味…火の通り方までが完璧に計算され尽くしてる!♪」


 お店の店主がニヤリと笑った!

「クックックッ…罠にハマったな!うちのアクラサーモンの塩焼き…一本じゃ足りるまいッ!」


「くっ…もう一本…いや二本食べたい…」

「これは身体が!魚を求めている!」

「にににっに!」

 コロちゃんもお気に召した!!!


 珍しくコロちゃんも一本丸々食べて、三人で七本食べた!



「さぁ!式部先生、今回のアクラサーモンの塩焼きとワタリ魔牛のジューシー肉串…ランキングはどっち!?」


「ワタリ魔牛…ごめん!!!」

「また出ました!一位にランクイーン!」



 ☆ご当地B級グルメランキング!

  一位::アクラサーモンの塩焼き

  二位:ワタリ魔牛のジューシー肉串

  三位:あったかほっとたこ串

   厳正な審査です☆(ゝω・)vキャピ



 到着して一時間立たないうちに満腹で動けない我々。


「矢張りアナザーバースはグルメの宝庫だにゃ♪」

「コロちゃんが満腹で動きがスローになってるの初めてみたよ…」

「にににに…」


「さて、食休みしたらどこ回ろう?」


「…この都市、なんで水没してるんだろうね?」


「地盤沈下とか?」


「潜ったらお宝あるかな?」


「超デカい恐竜とかいるかも?」


「トーナメントで用意した水中スキルもあるし潜ってみてもいいかもにゃー♪」



「何、君達トーナメントに出るの?」


 上の通りへ続く大きな階段の端で休んでいると、金髪の冒険者風の女の子が話しかけてきた。


「ん?トーナメントあるんですか?」


「え?トーナメント出ないの!?」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

「あははは!ごめーん!違う話してたんだね!」


「いえいえ!貴方はどこから来たの?」


「そっちの世界だよ!アメリカから!」


「同業者!めっちゃレアだにゃ!」


「宜しくだよー!日本語難しいから、変なとこあったら教えてね!」


「いえいえ!滅茶苦茶上手ですよ!」



「私はグレース!貴方達は?」


「私は月花」


「私が式部だにゃ!で、この食べ過ぎで動きが緩慢な子がコロちゃん!」


「わお!二人とも名前可愛い!コロちゃんはもっと可愛い!」


「にににっ!♪」




「そういえば先日、日本のダイヴァー関連の企業が交流戦やったらしいんだけど知ってる?」


「あ、ああ噂でちらほら…」


「優勝したチームがとても凄絶な倒し方をして残忍だと評判になってるんだって!」


「へ…へぇそれは怖いですにゃ…」


「うちのボスもオファーしたいらしいけど…そんな怖い人とお仕事なんて願い下げだよねー!」



「ワタシモソウオモイマス」


「月花、汗凄いよ?ボディシートいる?」


「だだだ大丈夫お気遣いなくっ!で、トーナメントっていうのは?」



「あー!ごめんね!テンション上がっちゃって忘れてた!この都市の名物でね、年一回妖精王へ献上するバトルトーナメント【フェアリー・リボルヴ】ってのがあるの!」


「妖精王?」


「この水没都市を救った妖精王が、人が戦う姿がお好きだったみたいで、年に一回戦いを妖精王に奉納するんだって!」


「まさかガチバトルなのにゃ?♪」


「いえ、妖精の守り玉というアイテムがあって、当日この都市の湖からドーム状にセーフフィールドが貼られるの!その中で守り玉があれば規定回数まで何をされても大丈夫なの!」


「安全対策もバッチリなんだ!」


「うんうん!三回攻撃を受けるか、致命傷になると控室に転送されてゲームオーバー!念の為医療班も完備!でもスキルが壊されたり奪われたりってのは保証がないみたい。まぁ、レアスキルだからそんなの持ってる人早々いないけどね!」


「イヤーホントウニソウデスネ」


「もし一位になったら、王家が所有している激レアアイテムの中から好きなのを一つ貰えるらしいよ!腕のいい人はお城からスカウトも来るって!」



「その大会って事故とかない?過去に死人が出たとか…?」


「そこは問題なし!伝統と実績の催し物みたいなもんだから!」



「激レアマジックアイテム…ちょっと気になるなー」


「参加受付と開催日っていつなのにゃ?♪」


「参加受付は前日までで、開催は三日後!ルールは登録したら貰えるし、図書館で閲覧出来るよー!」


「グレース有難う!あの…良かったら連絡先教えて!」


「おおおーいいよ!喜んでー!」


「私もお願いにゃー!♪」


「有難う月花、式部!二人共宜しくね!」





 少し早めに宿を取り、部屋に入る。


「…月花どう思う?」


「正直、あんな事があった事だから疑ってる気持ちもあるんだけど、グレースの無邪気な笑顔見たら違うかなぁって信じたい気持ちもある」


「だよね…でも私達は前回より警戒心が上がってる!」


「そうだよね!まずはルールとか調べてみようか!」




 グレースに聞いた図書館に行き、ルールと過去の開催も漁ってみたが確かに事故はなかった。


「ルールは三ダメージか一デスでゲームオーバー以外は、フィールドから出ないって位だにゃー!♪」


「出たら失格だけど飛ぼうが潜ろうが大丈夫…お城や街もフィールドで除外されるのかな?」


「うんうん、城と街の安全は考慮されてるみたい!でも、問題はこのトーナメントが始まったのが100年以上前…」


「スキルが世界に発生したのは精々14年前…スキルによるトラブルは考慮しないとね!」


 トーナメントと言っても、バトルロイヤル形式で、人数が規定まで減ると一旦仕切り直しになって、休憩を挟んで再開の様だ。



「ん?」


「どうしたのにゃ?♪」


「アクラドシア湖の漁獲量減る。大型水棲生物の目撃情報も!だって」


「大型…まじで恐竜とかかにゃ?」


「三葉虫とかアノマロカリスみたいなのだったらー?」


「気持ち悪くて、即逃げるか即殺すかどっちかにゃー!」


「極端な二択!!!」




 夜ご飯を食べて、食堂で情報収集しつつ色々考える。

 どうしても先日のデスゲームが頭の隅に引っかかる。

 式部と私の命が掛かってるのだから、懐疑的になっても仕方ないのだが…


「よし、嫌なイメージを払拭する為に気分転換に出るか!」


「うん、月花ならそう言うと思ったにゃ!♪」

「ににっにに!」


「コロちゃんも応援してくれるでちかー!いいお姉ちゃんでちねー!」



「まだスキルショップ開いてるかな?みにいかない?♪」


「いこいこ!!」

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