第13話 Othello

 トーナメント当日。


 無観戦に見えるがライブビュー。

 どういう技術か分からないが、カメラワークも凄い。


 手の内を晒さず、対戦相手を倒し、小花ちゃんを探す…対戦相手が手練だと手加減が出来ないので、手の内は状況に応じて必要最低限で晒すしかない。



 オアシカの上にある秘密基地内、転送フレーム横の椅子で式部と戦術について少し打ち合わせをする。


 何か話していないと不安が胸中を去来する。


 話ながらも、手を繋いで不安を和らげる。


 あの「出ろ」という言葉が、このトーナメントの事を指すのなら間違いなく何かしらのリアクションを起こしてくる筈!


 絶対小花ちゃんを取り戻す!



「月花、座標来たよ!」


「よし、気合入れよう!!」


 タッチパネルで座標を入力する。


『ダイヴ・イン!』




 転送された先は控室らしき場所。


《社》の社員証をつけた女性が一人控えている。



「では鹿鳴様、スキル一つ封印とコーティングしますのでそのままの姿勢でお待ち下さい」


「はーい」


 スキルは案の定技術破壊スキルブラストを封印してきた。


「はい、終わりです。表面上どの様な攻撃を受けても控室に戻れますのでご安心下さい」


「本当に?何してもいいの?」


「大丈夫です。次は駒鳥鵙様お願いします」


「はいにゃー」



 こっそり履歴閲覧ログブラウズを使って女性の履歴を…うわ、履歴閲覧ログブラウズを妨害するスキルを持ってる!


 気づかれたのか、女性が視線をこちらに向ける。


「あんまり見ちゃダ・メ・よ?」


 これが大人の色気か!!!



「開始すると一言挨拶を出来ますので、ご自由にお話下さい。では、音楽が流れば回戦です開戦!ご武運を」



「何封印された?」


「やっぱり技術強奪スキルスティール!」


 想定の範囲内だ。


 パパとかに預けても良かったんだけど、逆にこれが危ないってのを一つ入れておけば他の戦術に関わるスキルを封印されないので好都合!



 ファンファーレらしき音楽がなり、アナウンスが流れる。


第一回主催・技術交流トーナメント、第一回戦第一試合、開始致します!まずはお一人ずつ意気込み・挨拶等をどうぞ!』



「えー…宜しくお願いします」


 こういう時、気の利いた言葉が何も思い浮かばない!


今日こんにちは!優しくして下さいねっ♡」


 式部が可愛すぎた!




「……なんだ子供か?秒で終わらせるわ」

「企業イメージもある。真面目にやれ」

「殺しても大丈夫なんだから何してもいいだろ?」



 ……うん、殺そう♡


 式部も同じ気持ちだと思う。


軽くジャンプしてウォームアップする。



 お、カウントダウンが始まった!


     5


     4


     3


     2


     1


    START!


 部屋の正面が開きバトルフィールドが見える!



 平凡な森林、遥か真正面に相手の控室が微かに見える!!



「……名も無き切り札ネームレス・ジョーカー!」


 奥の対戦相手の目の前まで一瞬で斬り抜ける!!!


 抜刀の姿勢で止まった私に二人の視線が集まる。


「初めまして。そして…さようなら」


 刀を納刀すると、通過してきた森林と対戦相手、その背後の控室以外がニ等分されゆっくりずれていく。

 伐採された森林が派手な音を立てて崩れていった。



『試合終了!WINNER《社》!対戦時間3秒!』



「これで舐められないにゃー♪」


「小花ちゃん待たせてるんだ!最速で駆け上る!」



 控室に戻って、一旦秘密基地に戻る。


 次の座標がまた変わるからだ。




「《社》の掲示板、月花の話題で盛り上がってる!!」


「一手で一回戦終わらせて最小限の手の内で倒せたのは大きいね!」


「まぁ、絶対やると思ってたから私、一歩も動かなかったにゃー♪」


「微動だにしてなかった―――!!!」


「他の試合、見る?」


「面白みがないから、見ないでいこう!」


「犯人の接触まだかなぁ…もし接触してきたら直接取り押さえるのに…」


「もしかしたら戦闘が不得手な犯人なのかも?」



「おおお、月花!掲示板で企業オファーかかってる!外国からも来てる!…って、秒殺がもう一組出たって!」


「どこどこ?」


「株式会社 鴉ってとこ」


「何やってる会社か分からなくて胡散臭い…」


「確かに…同じく刀で一撃だって!♪」


「初速の速さに自信がある人か…ちょっと気になるね!」



 秒殺ではないにしろ、他の二組も試合が終わり候補が四組に絞られた。




《社》

 株式会社からす

 瓦堂かわらどう重工

 神殿こどのインダストリアル


 次は神殿インダストリアルと当たる。



「次は性格的にアレな感じゃない人がいいな…」


「一度位クリーンな戦いしたいよね♪」


「その言い方だと普段ダーティーな戦いしてるみたいに聞こえちゃう!」


「あ!」


「どうしたの式部?」


「掲示板で犯行声明を探してたの!多分これ!」



【負けたら命はない】



「やはり賞品の好きなスキル目当てかなぁ…小花ちゃん返してくれたらスキル位幾らでもあげるけど…」


「小花ちゃんのスキルを知らないで誘拐してる可能性とコロちゃんの能力に期待したい…」


「パパ達も静かだから動いてくれてるだろうし、情報を待とうね」


「過去で見た男を月花パパが見つけてくれると嬉しい…」


「私達は、私達の出来る事を精一杯やるよ!」




 色々と話していると座標が送られてきて、ダイヴする。

 先程と同じ女性がいて、コーティングとスキル封印をしてくれる。

 封印スキルは前の試合と同じだった。


第一回主催・技術交流トーナメント、第二回戦第ニ試合、開始致します!まずはお一人ずつ意気込み・挨拶等をどうぞ!』



「宜しくお願いしまーす!」


「私…怖がりなんで…どうしよう…」


 式部があざと女子を演じてる!!!



「噂の秒殺チームに当たって嬉しいぜ!!俺はな!アナザーバース強者ランキングで七位の!!コル」「宜しくお願いします」


「被せんなよ!名前言えてないだろ!!俺はアナザーバース強」「宜しくお願いします」



 漫才チームかな?


「次、私から行っていい?」


「あざと女子のギャップに期待ー!」


「にひひ♪」




     5


     4


     3


     2


     1


    START!





 控室前面が開放した!


 私達は海の上!


 相手は山を背後に砂浜の上だ!


 …一人いない?


 久々の危険感知スキル発動だ!

 名も無き刀を次元の狭間から取り出し、殺気の方向へ刃を向ける!


 だが、式部の方が早かった!

 背後に突如として現れた男をノールックで串刺しにしていた!


 これは、空間移動スキル!!


「顔は見たよ!」


「後で話を聞こう!」



 もう一人は…剣を持って我武者羅がむしゃらに走ってくるも、波間でウロウロしている…飛べないのね…


「可哀想だからあざと女子、出向いて上げて」


 結晶飛行をつけると、すいっと飛んで男の方へ向かう式部!



「…初めに聞くけど、うちの家族を誘拐したのは貴方?」


「え…?なにそれ?」


「相方の人は付き合い長い人?」


「いや、今日あったばかりで知らない人だよ?」


「私が勝ったら相方の情報貰っていい?」


「俺が勝ったら、アナザーバース強者ランキング七位の俺様の名前を教えてやるぜー!」


「え、あ…う、うん」


「赤き抹消!」


 素早く後転した式部がいた砂浜が、円球状に抉れる!


「泳ぐ稲妻!」

消去イレイズ!」


 式部が詠唱と同時に前に出て魔槍で連続突きを放つ!


 剣が折れた!

 剣を落とした!

 一発当たった!


『月花…私…はたから見たらイジメてる様に見えちゃう?』


「そ…そうだね…実力差ががが」  



「ふ…やる様だな!だが、俺の戦いはこれからだ!」

 終わりそうな台詞第一位!!!


「これが俺の真の姿!超二刀流だ!」


「えーっと…ごめんなさい、なるべく痛く無い様に刺しますね」

 遠慮がちにとどめを刺す算段してる!


「やっぱり面倒なのでガチで投げまーす!♡」


 光速でコルなんとかさんの腹部を突き抜けて1.5m位の孔を穿ち、頭と手足が残って消える。




『WINNER!《社》チーム!またしても短時間で決着!惜しみない拍手を!!!対戦時間は三分十二秒でした!』


『いえーい!☆』

 式部とハイタッチ!


『この後休憩を挟みまして、決勝戦を行いますので、暫しお待ち下さいませ!』




『もしもし、《社》さん?鹿鳴です!今対戦したお二人に連絡取れますか?家族の命がかかってるかも知れないんです!……はい…はい、番号教えてくれたらで掛けますので!……お願いします!』



「非通知ってあたりを滅茶苦茶強調してたにゃ♪」


「男に教える番号はないっ!!!」




《社》から返事が来たので非通知でコールしてみる。


「もしもし?」

『もしもし、仕事のオファーなら順番で頼むぜ?こっちは忙しいんだ』


「あ、今貴方のお腹に穴を開けた美少女の相方の美少女なんですが」

『言葉が強いねぇ!相方の事を知りたいんだっけ?』


「そうです、もしかしたら家族の命がかかってるかも知れないんです!」

『何?手短に教えてくれ!』




 …………



『分かった!今、相方の情報を読もうとしたら情報が消されてた!俺は本体を追ってみる!三つ編みの制服の少女は見かけたら保護する!』


 切れた。

 連絡先どうするんだろ?

 でも…ちょっと暑苦しいけど良い奴だ!


「月花~」

「何!?何で泣いてるの?」


「今ね…犯人の書き込みがないか見てたんだけど…」

「何か書き込みが!?」


「いや…さっきの戦いぶりを見た観客が私の事をアサシンとか、あざとアサシンって…」

「あははははははは!!!」


「ひどーいー!笑ったー!」

「ごめんごめんて!で、怪しい書き込みはあった?」


「うん、『恨みは晴らす』…がそうだと思う…」


「恨みかー…いちいち覚えてないし、悪い人しかお仕置きしてないからなぁ…」


「逆恨みだろうねー…」




 コルなんとかさんの連絡を待ったが、先に決勝戦の座標が来てしまった。


「仕方ない、相手を刺激しない様にしよう。決勝戦で勝てば何かリアクション起こすだろうしそこで交渉してみよう…」


「うん…勝とうね!」




『お待たせしました!第一回主催・技術交流トーナメント、《社》vs株式会社鴉の決勝戦開始致します!まずはお一人ずつ意気込み・挨拶等をどうぞ!』


「…返してくれるなら何でもやる。返して欲しい」


「…お願いします」


「意味深な《社》のコメントです!なお鴉側はノーコメント継続だそうです」



「マジか、声を聞かれたくないとか犯罪者とか関係者かな?」


「時間が惜しいから、なるべく早く片付けよう!」


 お馴染みの女性がスキル封印とコーティング処理をしてくれる。

「ご武運を」


 カウントダウンが始まる!


     5


     4


     3


     2


     1




    START!


 控室の前面が開放され、フィールドが現れる。

 今度は…砂漠!

 起伏はあるが遮蔽物しゃへいぶつが無い!


 前方の控室から対戦相手がゆっくり出てくる。


 全身黒の少しSFっぽいボディスーツに黒くて丸いフルヘルメットらしきものを被っている。

 パートナーは逆に白い…女か?



「式部、私は黒行く!」

「りょ!」


 向こうは歩いてくる…余裕か?

 こちらは刀だけと思うなよ!?


八咫烏やたがらす・五連!」

 結晶の鴉による突進切り裂き技!

 だが黒敵が携えてた刀を抜き、八咫烏を全て斬り落とす!


 ヘルメットで視線を追えない!

「蜘蛛の銀糸」

 黒敵の前に蜘蛛の糸を五m位密度を上げて張る!

 斬られるのは承知の上!

 その隙に背後に回って、名も無き刀で斬りつける!


 黒敵は蜘蛛の糸を切って視界にいないのを確認したのか、背後に刀を回してノールックで受ける!


 舐めるな!

名も無き断罪ネームレス・ペナルティ!」

 背中でノールックで力は出せまい!


 ギィン!!!

 唐突に白敵が乱入してきた!


 白敵は再び式部との戦いに…余裕がある!


 こちらは力比べをリセットされたので距離を取ると、黒敵は巨大な炎の珠を無数に出す!


機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ反撃の魔狼リベリオン・ウルフヴス!!」

 金髪の神と、黒い狼が二匹現れる。


「猛れ!デウス・エクス・マキナ!」

 両手に剣を携えて黒敵に走り出す!


「火球を貪れ!フレキ!ゲリ!」

 黒敵がデウス・エクス・マキナと接触前に式部に火球を放つが、フレキとゲリが炎をいち早く喰い尽くす!


 白敵が黒敵と合流したので、こちらも!


『スイッチ!』


 デウス・エクス・マキナと交戦中の黒敵に式部が行き、白敵に私が向かう!


 白敵が刀を構える…突きか!?

名も無き一撃ネームレス・スラスト!」


 突き技同士が激突する!

 何だこれ…滅茶苦茶重い!!

 ならば!

名も無き二之太刀ネームレス・ツー!!」


 直前に出していた技を再発動させる技!

 二段攻撃に耐えれるか!?


 ギィィィィン!!


 相手の刀が粉砕した!

 今なら行ける!


「…名も無き一閃ネームレス・フラッシュ!!!」

 抜刀した刀から光の刃が白敵に走る!


 だが、何かが弾いた!!!

 白い…いや、桜…吹雪?


 危険感知!来る!

「フレキ!ゲリ!」

 呼ぶのが遅かった!


 桜吹雪が腹を抉った!



 痛い!


 砂の地面に血が飛び散る!


 これは!


「式部…コーティングが効いてないから気をつけろ…」





「月花!!!機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ!白敵を防御50%で追い詰めろ!」



 月花が!私の機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナを出して、一瞬間を作る!



「我が王よ…黄泉の淵より還り給え!ヴァルプルギスの夜!!!」

 槍を回して矛先を天に向け構える

 同時に月花が闇の珠に包まれ無敵蘇生状態となる。


 回復が終わり、右手で闇を縦に引き裂いて、王が戻る。


「式部有難う!…この一方的なデスゲーム…あの術士の女、後で問い詰める!」


「うん!まず今は…」


「あのオセロみたいな二人に勝つよ!」

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