第9話 どんでん返し

 岡崎君の亡骸は連れて帰り《社》がご家族には上手に伝えるから、接触しない様に言われた。


 追い詰めた私達が悪かったのか?

 死のスキルを仕込んだ奴が悪かったの?


 帰ってからパパとママの前で泣いてしまった。


 きっと式部も小町ちゃんと泣いているのだろう。


 式部の事を思っていた事は…伝えたらきっと式部の重い鎖になるから…ごめんね、岡崎君…伝えない…代わりに私が絶対に忘れないから!

 絶対に!




 放課後。

 少し気分転換したかったから、式部と小花ちゃんとでモスドに行った。

 私はバニラシェイクにポテトにナゲット、式部はメロンソーダにオニオンリング、ナゲット、小花ちゃんはアイスコーヒーブラックと、ハンバーガー一個だった。


「二人とも奢るから元気出しなー!」

「わーい!有難う小花ちゃん!」

「小花ちゃん有難うにゃー!♪」

「奢りで元気出るの凄くちょろいな」


 その後少し死生観について話すが小花ちゃんはホラー映画から学べという。


「つまりだ、一般的なホラーは…例えばバイオな奴としよう。ウイルスハザードによって無差別に人類がゾンビになる。そして、抗体を持つヒロイン、感染してない仲間、ウイルスや抗体を持ち、自分自身も強化している敵。この場合、倒すべき敵は?」


「抗体を持つ元凶?」

「メタ表現つけて監督を倒すー♪」


「メタに走るな!…この場合、全て距離が均等ならばまずゾンビなんだ。倒さないと人類に指数関数的に感染して増えていく。友人や家族が敵になったら…どんなに辛くても倒さないといけない。ここから学ぶべき事は、被害を最小限に食い止めるならば相手を見て躊躇しない事」


「成る程…ママもパパも同じ事言ってたなぁ…」


「悲しくはあるよ。胸が痛いだろうが、その子を野放しにすればもっと沢山の人が死んでた。彼を倒して良かったとは言わないが、彼を失った事で失われなかった命もある事を覚えておけ」


「流石、ママの愛弟子だけあってホラー映画を踏まえた説明が巧すぎるにゃ♪」


「ホラー映画はスキルが出やすくて楽しくてな…先日また新しいスキルをゲットしたぞ?」


「なになにー!小花ちゃん、どんなスキル?」


「ん?【レーザートラップ】ってスキルなんだけどね」


「サイコロステーキになって絶対死ぬ奴じゃん!」


 式部はホラー耐性強いからオニオンリングを黙々と食べていた。




「式部、次は前回見損ねた水没都市行ってみない?」


「そうだね、悲しい気持ちを明るくしなくちゃだね♪」


「うん!あと、真面目に強いスキルを探す!」


「マルチ対応型スキルとかあればいいのににゃー♪」


「あー、それなんだけど…手元にあるスキルが一個バグってるのがあって、破棄も出来ないから放置してたんだけど、先日の戦いの時、自動でスキルが変更され、役に立ったの…確認したらまたバグってて使えないしね…」


「意思を持つスキル…?」


「そんな風にも見えるけど…謎過ぎる」


「助けてくれたなら、もう少し様子を見よ!」


「…ん、そうだね!次は景色の綺麗な所でご飯食べてゆっくりしよう!」


「じゃーママにお弁当作ってもらうね!♪」


「やったー!小町ちゃんのお弁当ー!」




 週末、小町ちゃんのお弁当を携えてアナザーバースへ向かった。


 今回は式部がオススメの場所があるそうで、黙ってついていく。

 両目を塞がれ、着いた先は雲海の上に大きな満月が照らしだす、雲の上の城。

 雲海の上に顔を出してるのはこの城と、いくつかの山。

 雲海の下がどうなってるか想像が全く着かなかった。


 一番高いテラスに降り立ち、そこでお弁当を広げる。


 座って、一息つく。


 漫画で見る様な大きい満月。


 美しい眺望に心が洗われる。


「岡崎君にも見せてあげたかったね」


「うん、感受性高そうだからきっと喜んだよ!さ、ご飯食べて元気出そう!」


「うん!」


 小町ちゃんのお弁当は豪華な小学生のお弁当という感じで、極上の卵を使った厚焼き卵、高級ソーセージを使ったタコさん、野菜も味が良いものばかりで…小町ちゃんの手作りご飯食べると舌が肥えて困る!


「この塔?城?の下はどうなってるんだろうね?」


「城下町が広がってて広大な緑が広がる素敵な土地だといいにゃ♪」


「星も綺麗だし、抜群のデートスポット!どこでこの場所知ったの?」


「ふふーん♪《社》発行の月刊アナザーバース特大号!アナザーバースのデートスポット十選!付録はアナザーバースの絶景スポットカレンダー!!!」


「そ、そんなニッチな雑誌あるの…凄く狭い業界なのに…」


「グルメ特集あったら、二人で回ろうにゃ♪」


「あったかほっとたこ串、ランキングに入ってて欲しい…」


「月花も相当ハマったにゃ♪」


「また復興の様子を見に行くついでに買って帰りたいね!」




「…帰る…それは誤りだ。帰る事無くここで朽ち果てるのが正しい…」


 城の中から男が出てきた。

 金髪の長髪、美形で上半身裸、両腕にはトライバルのタトゥーがしてあり、足だけは甲冑を装備しており、一本の剣を持っている。


「こいつ、いきなりやる気!?」


「《社》のデートスポット案内にあんな殺意高そうな奴は書いてなかったにゃー♪」


「ぬぅん!」


 剣の一撃で衝撃波が起きる!


「魅せろ!花鳥風月!!」

 結晶で出来た壁が衝撃波を弾いた!

 その瞬間、衝撃波と一緒に突進して来ていた長髪が壁を切り裂く!


 ギィン!!!


 咄嗟とっさに名も無き刀で受ける!

 重い!


 同時に式部が魔槍グングニルで上から攻撃する!

 長髪は空いてる手で剣を出し、上からの攻撃を正確無比に薙ぎ払う!


 私を力押ししながら、式部を押し返したと同時に左手の剣を捨て、どこからともなく銃を装備した!


 慌てて式部の前に花鳥風月で壁を創る!


 ギギギギギン!


 素早い動作で銃を式部に撃つが花鳥風月で弾き返した!

 次の瞬間、私の眉間に銃を!


「君死ニタモウ事ナカレ」


「名も無き疾風ネームレス・ゲイル!」

 高速移動で剣と銃を回避したが、頬と耳を銃弾が掠った!


 こいつ強い!何者だ!?


「魂の灯火を消せ!魔槍!!!」


 あ、私が怪我したから式部がキレてる…

 目が光る位キレてる式部が放った魔槍は必ず敵を屠る必殺必中の技!!


 回避もままならず腹を貫かれ地面に穿たれ斜めの状態になる。


「流石魔槍だねー!」


「まって月花!…こいつ生きてる…」


「…血液も一滴も出てないね…」



 自ら魔槍を力づくで床から抜き、腹から魔槍を引き抜くと式部の方に投げた。

 途中で起動を変え、式部の手に収まる。


「生を持たない我が身が愉悦を覚えるのは何万年ぶりだろう…もっと我を充実させたまえ!」


 銃を捨てた手に再び剣が現れ、二刀流で襲ってくる!!!


「重い!!凄まじい膂力りょりょく!」


「ユニークスキル二刀流とかあったら終わりだねー!」

「十六回も切られたくない!!!」


 式部が槍を繰り出し、剣一本分の力が式部に流れる!


「僅か二人で私が手を焼いてる…愉快!!」


 武器を捨て、テラスの端に移動した長髪を追う様に間合いを詰める!


 相手がまた武器を出してきた!

 両手にガトリング・ガン!!!


「名も無き疾風ネームレス・ゲイル!花鳥風月・硬!」


 式部を回収して分厚い壁を張る!!!


 ガトリング・ガンが結晶で出来た壁を削っていくが、私の障壁はそう簡単に…


 ゴォン!


 ゴォンゴゴォン!


 ガトリング・ガンの煙で何が起こってるのか分からない!


 その時、ゴォン!という音と共に障壁が崩れた!!


 恐ろしく強そうなナックルを両手に装備している!



「貴様達、良いな…久しく無き脅威よ!」


「ににっ!」


 コロちゃんが頭の上から火球を飛ばす!

 だが炎の中から愉悦の表情で拳を振り下ろしてくる!


 左右のコンビネーションを刀で受けるも、速度が速すぎる!


「穿て!魔槍よ!」

「二度目は通じぬ!!」


 突然腕を掴まれて、魔槍の前に出される!


「舞い戻れ!」


 槍が戻るのを見て、突然式部の方に投げ飛ばされた!


 学習もしていて、長期戦は不利だ!疲労する様子も武器が品切れする様子もない!


『式部、下半身を一秒だけ固定出来る?』


『お任せあれーマイハニー♡』



「名も無き切りネームレス・ジョーカー!」

 低く…深く…超速突進居合の構え。


「魔槍よ、原点回帰せよ!ミーミルの泉!」


 魔槍が水の様になり、長髪に発射される!拳で連打するも水故にダメージが通らず、それが突然二本の槍の形状に戻り両太腿を貫き、地面に固定!


 その隙を逃さず、名も無き切り札ネームレス・ジョーカーで切り捨てる!

 弱点が分からないので心臓から頭にかけて斜めに切り落とした!

 ついでに上の塔が切り落とされて雲海へと音も無く消えていく…



 長髪は…やったか?


 見ると長髪の断面が…機械!


「小さきものよ…」

「小さいゆーな!」


「そうだ!美乳だっ♪」

「身長にもバストにも触れてくれるなっ!」


「良き闘いだった…これからも私を楽しませてくれ…」


そういうと、長髪が消え、二人にスキルが譲渡された。



【機械仕掛けのデウス・エクス・マキナ

 機械仕掛けの神を呼び出す。

 機械仕掛けの神は指定した標的が滅するまで攻撃する。

 機械仕掛けの神は主の命令に従い、服従する。

 ダメージを一定以上蓄積すると消滅するが何度でも呼び出せる。




「なんか凄いの貰えたね…」

「私も貰えたー!二人で呼び出すとイケメンが二人にー♪それより先に月光の相愛!」


「あー掠ったんだった!耳切れてない?」

「うんうん、元通りだよー…あれ、あそこなんか表示されてるね」


 式部が指差した方向を見ると…


【機械仕掛けの城・踏破!】


 って出てる…


 上から入っていきなりラスボス倒したからクリア扱いになったのか!


「わ、この世界の金貨めっちゃ貰えた!」

「この世界でお金持ちだね!…式部、まだ満月が綺麗…、星も美しい!」


「んーホントだにゃむん…ん」


「ロマンティックな星空だもんね!大好きだよ!」


「はわーファーストキス幸せー…この後モザイク掛かるようなあれやこれやを…?」


「しないしないっ!それより、ここから下に降りたら上層のお宝だけ貰えるのかな?」


「クリア扱いになってるから消えてるかも?」


 中に入って見ると、機械仕掛けの神が座ってたと思わしき椅子の周りは武器で一杯、奥の階下に降りる道は封鎖されていた。


「今思ったんだけどさ、式部」


「んにゃ?♪」


「この部屋入ったら階段が封鎖されて、勝つか死ぬかの二択になるデストラップだったんじゃない…?」


「うわーありそー…勝ててよかった♪」


「本当だね…やはりデストラップは実在した…」


「イケメンだし頑張ればあの子、コンビニにパシリとかしてくれるかな…?♪」


「一応神の名を冠してるのに、半裸でコンビニ行かせてチキンとアイスコーヒー下さいって言わせるの?」


「一度拒否されるか試してみよ♪」



 なんかバトルあったけど、ロマンティックな場所だったし、いいスキル二人で貰えたし今日はいい日だ!



 雲を下まで降りると、やはり大きな街があったので、今晩泊まる宿を決めて、少し寒かったので三人でお茶をしてた。




 ふと見ると正面のテーブルの男性二人、女性一人の組み合わせが気になった。


 まぁまぁの年の男性が号泣していたからだ。



「くっそぉぉーチクショー!!!」


「はいはい、保険もちゃんと降りるんだし元気だしなー!従業員も全員無事なんでしょ?」



 なんだろう?何が不幸な事があったんだろうか?


「そうだけどよぉ…立て直すまで商売上がったりだしよぉ…何で突然塔みたいな瓦礫が降ってくるんだよぉ…」


お茶吹いた。


「何か剣で斬った様な後があったんでしょ?機械仕掛けの城に誰か挑戦してるんじゃない!?」


「かもしれねーが、挑戦するならこの街がスタートなんだから周囲見てるだろ、上から物落としたらどうなるか位分かれよ!って思うよな?」


 もう一人の男性が半笑いで正論を述べた。



 今の私、汗と震えが止まらない!


「月花の冷や汗が那智の滝の様にゃー♪」


「ににっ!♪」


「二人とも!ここは華麗にやりすごすわよっ!」


 式部とコロちゃんがサムズアップしたので事なきを得た。


 ごめんね、おじさん……機械一新するみたいだしお仕事頑張って下さいっ!



 そそくさと部屋に戻る。


「全力でやり過ごそうとしてる月花が可愛かったー♪」


「あれは天災だったの…そう…不幸な事故…」


「まぁ、ワンチャン私達の所為じゃないかも知れないしね♪」


「城斬れる人とか早々いないし、死傷者いなかったし…過ぎた事は忘れましょ!」


「月花もスルースキル上がったにゃー♪」



「…そう、スルースキルは時には必要…アレ、ワタシジャナイ精神大事」



「茨ちゃん!小雪ちゃんもー!」


 条件反射でハグする!


 鹿鳴茨ろくめいいばらちゃんはパパのお姉ちゃんのお嫁さんで、小雪ちゃんが二人の子だ!

 ホラー好き繋がりで式部も可愛がってもらってる!


「はわー!ダーリンもいる!」

「にゃにゃっ!」


 ダーリンはコロちゃんの師匠らしい。

 たまにコロちゃんとゲームやったり武者修行したり、猫らしからぬ動きをする。



「いつもみたいに突然湧いたけど、お仕事なの?」


「そう…《社》の仕事で来てるの…」


 この親子、口調が一緒だからたまにどちらが話してるのか頻繁に混乱する時がある。


「折角だし…二人も乗る?簡単なお仕事だし」


「やるやるー!」

「茨ちゃん、どんな依頼?♪」


「依頼は…魔獣退治…」



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