第8話 Memories and Bugs

 バタバタとした一日が終わり、夜が明けた。


 相変わらず式部しきぶはベッドを間違えて私の横にくっついてる。


「私の彼女可愛いなぁ…近くで見ると、端正な顔立ち…今なら脱がしても許してくれるかにゃー?」


「そんな事考えてないっ!」


「……月花つきか!?ぐうぜーん!♪」


「毎朝偶然にも同じベッドだねー」


 罰として乳揉んでやった!




 昨夜の事件があり、聞き込みをした以上情報が漏れて狙われる可能性があるので、お互いに消去を唱えられる心づもりはしておく。



 朝ご飯を食べた後、何か事件に進展があったか自警団に聞きに行く。


 昨日の女の人がまた勤務してた。


 え、ブラック会社?

 

「おはようございます!昨晩の事件、何か進展はありました?」


「お早よう御座います!今の所、進展はなしかなー?」


「そうですか…あの、団長さんて最近変わった事ないですか?行動が変とか?」


「ああ、じじ…団長ね?割と普段から変わり者よー!シフトキツイし賃金少ないし…あ、そういえば先日、ポケットに入ってたお金を「落とし物」って言って聞かなかった事あったわね」


 冒頭じじいって言いかけた辺りやはりブラック勤務だったか…


「……それって幾ら位でしたか?」


「銀貨三枚だったよー」



 やはりスキルショップで買ったあの守護抜けスキルの金額とほぼ同じ。

 スキルを売ったのは団長だ…だが、証拠の隠滅?記憶がない?


 だが、昨夜の団長は履歴閲覧ログブラウズで見た限り怪しい履歴は無かった。



 その時、突然式部が床に数式を書き出し、計算し始めた。


 こう見えて式部は頭がいい。

 どこかで見た事ある光景だが。


「…ふ…あっはっはっはっはっ!」


「式部、何か分かった?」

「…さっぱり分からない」

 私のハリセンが良い音を立てる。


 床を汚したので頭を下げる私と式部。



「もー何してるのー!怒られるかと思ったー!」


「ごめんにゃー♪一度やってみたくて…あと、あれ【妖精の追跡フェアリートレース】で書いたんだー!奥に団長さん見えて、ローブ着てたからね!きっと今から出掛けるし、足にばっちり付着するよ♪」


「おー!やるねー式部!ハリセンで殴っちゃったから頭撫で撫でしてあげよう!」


「うにゃーもっと撫でるが良いよ♪」




 空中から影だけ気を付けて、アドラム団長を追跡する。


 どうやら巡回警備の様だが、ソロで回るのは腕が立つのか…他に理由があるのか?


 昼に食堂で昼食を取っている最中に自警団の一人が団長を呼びに行き、二人で何処かへ向かう。


 向かった場所には……グロいもの見てしまった…

「脳だにゃー!ママとホラー映画見てると高頻度で出てくるにゃー!♪」


「式部のホラー耐性がちょっと羨ましい…」


「でも、団長のアリバイを私達が成立させたから…犯人は…矢張り一人なんだろうにゃー♪」


「そう、心臓から脳になってるけど、同一犯が他人を使って犯罪行為に手を汚してる!」





 ローブを着た人が、暗い裏路地から出て行く。

 跡を付ける様にもう一人小柄なローブが距離を離して監視してる。

 日中に気づいたのはローブを着てる人なんか殆どいないという事。

 逆にローブを着ている人が怪しすぎる!


 前方のローブの人が町中を歩いている人に手を差し出した。


消去イレイズ!」


 ミスした事を感じ取った後方のローブが手を立てて裏返す動作をし、踵を返した。


 だが、行く手には私が居る!



「貴方が真犯人かしら?成る程、交換スキルと催眠スキル…それで他人を犯人に仕立て上げて…」


「そうだね。あのローブの老人が怪しいが証拠はない、みたいにするつもりだったんだが。今の人もそう。だが標的は犯罪者、人の弱みに漬け込む奴、偽善者のみだ!この国に貢献はしている!」


 少し幼い声が声を荒らげる。


「それでもね…人を殺すのは駄目。スキルを悪用するのはもっと駄目!岡崎君!」


 彼はローブのフードをあげ、素顔を出した。


 その表情は悲しいとも、泣きたいとも、取れる表情。


「この世の害悪何て無くなればいい。いじめに抵抗出来ない辛さなんて誰も分からない。ヘルプサイン出しても皆気付かないふり…」


 やはりいじめ切っ掛けか…


「中学のあの四人組も貴方がやったんでしょ?適当な高さに空間固定を張って、あの嫌われてる四天王を呼び出す。自分は屋上に石でも何でも交換出来る物を置いて屋上から落ちる。空間固定のゾーンに入る前に四天王一人と入れ替わる。後は自由落下で空間固定される。そして屋上に置いた交換出来る物と交換し、屋上から飛び降り…を繰り返した」


「そうだね…正解だよ。あと君は履歴閲覧ログブラウズを持ってる見たいだけど、スキルを交換してしまうと所有してない履歴は閲覧出来ない見たいだよ?」


「ここで世直しごっこして、何が目的なの?」


「勿論、僕らの世界を良くする為…」


 そう言うと彼は消えた。


 私達の世界に帰ったのだろう。



「月花!ローブの人は意識を取り戻して帰って行ったよ!」


「式部、有難う。犯人はウチのクラスの岡崎君だった…」


「見間違い…であって欲しかったね」




 犯人が戻った事で、一旦報告の為私達の世界に帰る事にした。




「パバ…」


「どうした?」


「最近居すぎじゃない?」

「居たら居たで文句を言われる…思春期の俺を見てる様だ…」


「まぁそれはどうでもいいんだけど…」

「パバだって泣く時は泣くからな?」



「…同級生と戦わなきゃいけない。もしかしたら命を奪わなきゃ行けないかもしれない。パバならどう決断する」


「…昔ね、中学の時の先生が逢禍を身体に取り込んで、自分の信念を貫こうとしてた。たまたま犬沢池で会って、二人でたい焼き食べて…そこから命のやり取りをした。互いに譲れない物があったからだ。先生は研究成果と長寿、俺はママとの未来。結局俺が勝ったけど、後ろでママが見ててさ。格好悪い位ママの胸で泣いた事あったよ」


「パパは躊躇なく信念の為に刀を振るう?」


「命のやり取りになった場合、自分の信念を穿け!自分が死んで悲しむ人を思い出せ!残り一秒で死ぬ!という時でも信念を曲げなければ奇跡は向こうからやって来る」


「パパ…有難う…」


「勿論、助けられる奴は助けてやれ!いのちだいじに!だからな?」


「うん!そういえば夕食時なのにママがいなくない?」


「犬沢池の前で結界に入って戦ってるから見に行ってご覧?」



 犬沢池に近付くと多重結界の中に入れた。


 ママは神器と神衣で武装し、少し大きい筋肉質な逢禍と対峙していた。


「穢れを祓え…常初花とこはつはな


 突きを一瞬繰り出したかと思うと全身から白い花が咲き出し、全てを包む。

 その内、花が地面に落ちると逢禍はもう祓われていた。



「ママーお疲れ様!」

「月花おかえりー!」


「戦っている時は別人みたいだね」


「ママの意外な魅力に気付いちゃったかー娘よ…」


「あ、そうでもないんだけど」

「即否定ー!ママ泣いちゃおかな…」


「冗談じゃんー!ママ大好きー!」

「ああ、娘にぎゅーされると心の力やらフォースやらが回復する」


「パパにも聞いたんだけどさ、同級生と戦わなくちゃならなくなったの。ママならどうする?」


「…説得は随時するけど、戦ってみないと分からない事もあるし、周りに被害を掛けずに戦ってみる。殺したくなくても、その人を殺さない事によって多くの犠牲者が出ちゃう事だってあるんだよ…」


「止めなきゃ行けない時は、重い選択をしなきゃ駄目だね…」


「さ!お姉ちゃんのご飯食べて元気出そう!」


「うん!先に《社》に報告してくるね」



 犬沢池の畔で数分待つと《社》の使者が到着した。

 サングラスにスーツで、逃走してる人を捕まえるのが上手そうだ。


 まず、主語が欠けたスキルを渡して、同級生の岡崎君が首謀者である事、当該スキル以外にスキルの言葉を消すスキル、交換スキル、空間固定スキルを所持していると推測される事を話した。


「…おかしいですね。我々研究機関以外の人間がアナザーバースに…」


「何者かに利用されてる可能性が高いので調査お願いします」


「そちらもお気をつけて」



 さっき龍安寺りょうあんじ先生にも、チャットを入れ岡崎君が学校を休んだら連絡を貰う手筈になっている。

 何でも、うちのパパとママ、小町ちゃんの知り合いらしい。


「ただいまー」


「おー月花ちゃんおかえりー!元気の出るロコモコ作ってるぜー♪」


「わーい!コロちゃん目玉焼きあげるね!」


「にっ♪にっ♪」



「式部、明日岡崎君休んだら捕まえに行くよ!」


「…自首して欲しいね…」


「歩む先に明るいものを見つけて欲しい…」





 翌日の朝。

 龍安寺りょうあんじ先生から岡崎君がお休みの連絡を貰ったので、式部とアナザーバースに向かった。



 彼が出現しそうな場所を二ヶ所に絞り、式部と手分けして見張る…



 …そう…君はこちらに来たの…

「式部、こっちヒット」

『りょ!すぐ向かうね!♪』



 ここは…北の森にある、盗賊の集落。

 はみ出し者、柄の悪い人達の集まるヤンキー集団で、自警団も手を焼いているらしい。



 彼の姿を隠密追跡ハイドアンドシークで隠れながら見ていると、人が出てきた瞬間、スキルを発動させる構えを取ったので、手を掴んだ!


「…やぁ、今日は学校お休みかい?」


「皆勤賞捨てて、あんたを止めに来たの!」


「うっ、それはごめん…」


「もう、辞めなさい!ここで世直ししても、現実世界は何も変わらない。いじめを受けてるのなら助けるから…辞めよ?」


鹿鳴ろくめいさん、駒鳥鵙こまどりさん、君達ともっと早く親しくなってたら、僕は変わってたのかも知れないね…」


「人がやり直すのに遅い時なんかないっ!!!」



「でも僕は…出会ってしまったんだ、あの人に。スキルをくれて、使い方を教えてくれて…理想の叶え方を教示してくれた!甘美で濃密な実現出来る世界の作り方…」


「…誰よそれ!?岡崎君にアナザーバースの潜り方を教えたのもその人?」


「そうだ…人生一度切りなら、ヒーローになってみたいじゃないか!アナザーバースで経験を積んで…現実世界で、生きていても仕方ない奴らを全世界レベルで殺していく!」



「岡崎君、駄目なんだよ…人の善悪の二元論のバランスはリセットしてもいつか戻っていく…」


駒鳥鵙こまどりさんお早よう!…お願い、邪魔しないで!」




 これだけ騒いでたら柄の悪いのも気づいて出てくる!


「貴様達の種はこの世にいらない!」


 出てきた三人程の男達の心臓が岡崎君の足元に音を立てて落ちた!


「止めて!岡崎君!」


「…まぁだだよ…」

 彼の姿が消える!

隠密追跡ハイドアンドシーク!」


「式部、追うから男達お願い!殺さない様に!」


「終わったらすぐ追うにゃー!♪」


「おい、お前か!ウチの仲間を殺したのは?」


「あ、違う違う!今犯人追ってる所だよー!」


「悪いが手荒い真似をするぜ!」


「ごめんねー、私の方が手荒いぞ♪」



 式部が到着して岡崎君に話しかける前に【妖精の追跡フェアリートレイサー】をつけてくれてたので追跡は楽だった。


 相当北に逃走し、もう次の水没都市国家が見えている。


消去イレイズ!」


 上から隠密スキルを消した。


 彼と間合いを離して着地する。


「僕ね、剣も練習してたんだ。あの人が素敵な剣をくれてね…」


 ひ弱な体躯の彼が自信を持つ位だ、きっとフィジカルよりマジカルな剣なのだろう


「種よ!」

消去イレイズ!」


「流石だ…あまり親しくなかったから分からないけど、君たちの方がずっと強い…」


「うん、だから…もう止めよ?」


 彼が間合いを詰めて切りかかってくる!

 それだけなのに、危険感知とかそんなレベルじゃない!

 全身が危険信号を訴えかけてる!


 あの剣!何かヤバい!!!!

 どうする!受ける!?それとも彼を殺して…そんな事したくない!


 その時、突然触ってもいないのにスキルが表示された。


 以前手に入れたバグってるスキル…デジタルノイズが走り、何かが表示された!




【    】

 敵対する全てが直前に発動させた武器スキルを無効化する




 何これ!?だが有難う!


 彼の剣を、私の名も無き刀で受け止める!


「流石だよ、この剣をブロックした人はランダムで身体の何処かが欠損するのに…」


 危なかった!

 頭や内蔵を欠損してたら即アウトだった!

 互いに間合いを取り様子を伺う。


「そんな危ない剣捨てなさい!」


「これは…世界を変える為に必要なんだ!」


「変える為に知らない人を切るの!?」


「五月蝿い!二人は絶対傷つけないから放っといてよ!」


「名も無き武装解除ネームレス・ディスアーマメント!」


 斬りかかってきた私の刀を咄嗟に受け止めるが、この技は武器を破壊する技!


 目の前で砕け散る禍々しい剣。



「終わりにしよ?勝負はついてる」



「人の命を奪う覚悟が無ければ、世界は救えない…多分僕もう駄目だから…実は駒鳥鵙さんの事好きだったんだ…こんな奴も居たって覚えててくれると嬉しいな…種よ!!!」


 片膝をついて両手を大地に着く。


 小さな地鳴りがする。

 地鳴りが次第に大きくなり、地面が割れる!

 彼の足元が大きく隆起し、世界全体が揺れる!


 …そうか、世界の中心を…こんな形で終わりにするの?


 もう、私じゃ止められない


 …え、またスキルが勝手に動き出した!

 バグってるスキルが何かに変わる!



【     】

 元に戻す。だが、対象のスキルは破壊され使用不能となる。




「…有難う!元にぃ―――も―――ど―――れぇぇぇぇぇ―――っ!!!!」


 両手を大地に付けると、丸で逆再生の様に種で壊れかけた世界は元に戻り、種のスキルは砕けた。



「岡崎君、帰…ろ…」


 彼は…もう息をしてなかった。



 履歴閲覧ログブラウズで確認してみると



【退職勧告】

   疲れた時、  人  を  引退する



 ぐいっと抱き寄せてくれる式部。

「月花の所為じゃない…彼を追い詰めた奴を捕まえよう」


「……私たちの友人を死なせた事をあがなわせてやる!必ず!」

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