第6話

 ようなる人類のなかに不思議な個体が存在しました。この世界はくるしみにみちている。ゆえに『一切皆苦』である此岸よりすべての存在を成仏させんという『法蔵菩薩』と名乗る僧侶です。「わたしはながいむかし一本の『超紐』でした」と衆生に物語った法蔵菩薩は四十八の誓願をむすびました。ひとことでいえば『善人も悪人も聖者も殺人鬼も山も川も草も木もしつかいを成仏させるためにわたしも修行をして仏になり申す』とけつしたのです。法蔵菩薩はかんなんしんの人生をしんしようたんし見事に往生しました。といえどもこの信仰はわたしとの『接触』を超越していました。つまり森羅万象そのものであるわたしすなわち宇宙をりようする存在を前提としていたのです。同時にこの十一次元時空のいずこにも存在しない『極楽浄土』なるものに山川草木しつかいを成仏させるという妄想にひようされていたわけです。わたしは法蔵菩薩をれんびんいたしました。いんもうの生命がしゆうえんをむかえればそこにはえいごう不滅の虚無しか存在しないはずなのです。

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