第3話

 といえどもぼくの人生はしゆうえんをむかえなかった。ぼくの肉体の温度がつねにハゲドン温度をたもっているということは一旦指数膨張したぼくの肉体でふたたびエントロピーが発生するはずだった。やはりぼくは死んでいなかった。ぼくはつぎの膜宇宙に『りん』した。このビッグクランチとビッグバンのはざに誕生したエントロピーは第一回目の人生の五十倍におよびぼくの半径は第一回目の人生より四倍おおきくなった。どうやらこれが十一次元実数時空における『ことわり』のようでやがて前述の川合―二宮指数膨張の式とよばれるものらしかった。無論二回目の人生でもぼくのたべるエントロピーは充分ではなくぼくはまたビッグクランチでプランク長にもどった。つぎは第三回目の人生だ。こんどは第四回目の人生だ。三十回目の人生ではクォークの閉じ込めがおこった。三十六回目の人生では元素合成がおこり四十四回目の人生では宇宙の晴れ上がりがおこった。

 ようにして五十回目の人生がはじまる。

 半径百億光年をこえた『わたし』のなかに『人類』が誕生しました。

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