第2話

 ぼくは誕生した。つまり『宇宙がらんしようをむかえた』。同時にぼくのなかでは素粒子が発生し指数膨張する『熱』がうまれた。『熱』はあるいは『こんとん』でありあるいは『破壊』でありあるいは『たべもの』だった。つまりぼくはようやく『自分がたべるべきたべもの』をみつけたのだ。これが『エントロピー』とよばれるものだった。ぼくのおなかつまり膜宇宙のなかでエントロピーは発生しつづけた。エントロピーはしかった。エントロピーはピンチョンの長編小説やポロックのアクションペインティングとおなじ『味』がした。同時にエントロピーはどこか『かなし』かった。エントロピーをたべるとぼくなぜか『涙』をながしそうになる。理由はわからなかった。エントロピーはふくいくとしてまたしようりようとしていた。とにかくぼくはエントロピーをたべつづけた。でなければ生きてゆけなかったからだ。これでぼくの人生は順風満帆だとおもわれた。その希望はしゆつこつとして雲散霧消する。ぼくのなかの『熱』はつねにハゲドン温度をたもっている。つまりぼくが誕生した刹那に生成されたエントロピーが『たべられる』と川合―二宮指数膨張の式の逆効果によってぼくの『肉体』はちいさくなってゆくのだ。いわゆるビッグクランチである。ようにしてぼくは造次てんぱいもなくふたたび一本の『超紐』へと還元された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る