最初からそう言ってくれ

 学校にて

 赤石が風邪をひいてしまったらしい。

「あいつ、無理してたしな」


1 赤石の家に行く

2普通に帰る


 ここでもギャルゲーの裏コマンドを使う。ここは電話で大丈夫か?と聞くである。

 なぜなら、家に行ったら行ったで無理をさせてしまったと思わせてしまったり、普通に帰ってしまうのは攻略班的でないからな。おまえはいつから攻略班になったんだ。


 プルプルと自分のスマホから相手のスマホを振動させる。すぐにつながる様子がない。5、6コールをして一度切った。やはり風邪がきついのだろうか、俺が行くと逆に邪魔かもしれない。

 諦めて今日は授業に集中しようとしたその時

 プルプルと折り返しの電話が来た。

「もしもし」

「もしもし」

「あー、今日風邪なんだってな、大丈夫か?」

「ゴホゴホ、うんなんとか電話かけ直せるくらいには」


 なかなかにきつそうだ。

 精神的にきついのを隠しているように思える。すると、「だれからの電話だぁ?」と電話越しに聞こえてくる。これは、弟っぽい声だ。「聞こえるだろ、ほらしっし」聞こえてるんだが。

「あのーもしもーし」

「な、なんだ?」「もーらい」「あ。おい!」

「あの、お義兄様とおよびしても?」

くっ、陽キャのようなコミュニケーション。

「う、うんもちろんだよ〜」

 裏返ってしまった。

 取り返したらしい赤石が、

「甘やかすな、」

「あぁ、ごめん、なんか家族みたいだなって思って」

「はぁ?」

「いや、ごめん、違くて、弟いないからさ、なんかお兄さんって言われるのちょっと夢だったってか」

「じゃあ、そう言ってくれ」



 私は電話を切った後、変な勘違いしてしまったではないか、とボソッと電話の向こう側にいる城ヶ崎に言ってみた。







 コーヒマシンが見える。

 なぜ?なぜ?

 部室の端っこにあるのを俺は見逃さなかった。

 しかもあれだ、エスプレッソじゃねえか、、俺は嬉しいけど、、

 俺は飲む気満々だ。近くに立ってみる。

 部室に今日は珍しく全員がいる。

 俺はまだ問うていない。


「なぜコーヒーマシンがある?しかもエスプレッソ、、誰か俺の好みを把握してんのか?」

 俺はエスプレッソ大好きだ。

「知りまっせーん」

「なぜそんなに嫌味ったらしい口調なのだ!」

「なのだ?ぷふ、オタクここに極まれりですな」

 こいつ。

「赤石、そういうな、城ヶ崎も思春期だから、ああ厨二病とも言ったっけ」

「庇ってんのか?貶してんのか?神さん」

「それで、城ヶ崎はエスプレッソマシンがなぜ部室にあるのか気になってるのか?」

 と白波。

「そう言ってんだろ」

「顧問の先生にさいみ、、頼んでみた」

「なんて?さいみ……催眠?」




 白波は催眠術師も息子で、実は催眠を本人も使えるという。

 顧問がついた時の嫌な予感はこれだった。

 こいつには、人を惹きつける魔力があったのだ。



 エスプレッソマシンや誰もやりたがらない知らない部活の顧問を頼むとか、友達がいない奴らを集めて部活をしてしまうところも、全てこいつの実験に過ぎない、巧妙に仕組まれた罠。だが、決して嫌な思いにはさせない、なぜなら感情までも催眠でコントロールするからである。


 ちなみにエスプレッソは白波が好きすぎて顧問の先生に頼んでみたと言っていた。



 ヴィーーーー


 うるさい。



 抽出は、神経質な人にとってみれば、最悪な音である。

 こんな音するなら、ドリップでいいんだが。


 出てきたのは、小さめのカップに6割くらい入ってる黒い液体であった。

 多分40ミリくらい。


 催眠と口にしたら、女性陣は帰ってしまった。これも催眠の効果なのか、どすけべすぎる。


 この部室には二人しかいない。


 砂糖だっぷり入れる。


 少し混ぜる。


 二口、三口で飲み終える。


 底に溜まった砂糖をスプーンですくって食べる。


 この砂糖がメインまである。


 美味しい。


 男子二人が、エスプレッソを飲み、夕方のオレンジがかった夕日が見える。

 優雅である。


 戻ってきた女性陣は、「いい匂いーー!」といいながら部室に入ってきた。コーヒーに合いそうなスイーツを買って戻ってきたらしい。催眠で帰らせたのかと思った。白波はいつ、誰に催眠を施しているのだろう。


 女性陣はエスプレッソを割って飲むアメリカーノにしていた、どうやらエスプレッソ単体だと濃すぎたらしい。何を買ってきたのかと問うと、「マロンバウンドケーキ買ってきた」今の時期は秋の先取りとしてマロンパウンドケーキが売られており、それを買ってきていた。確かに何かと合わせるなら量を多くしたアメリカーノが最適だろう。


 部室がコーヒーの甘い香りで満たされた。






 往々にして、説明というのは、相手とのすれ違いから起こりがちだ。相手もよく思っているだろうとか、都合よく進めたいからことが終わったら説明することや、順序立てて説明すると長くなるから省いて説明するとか。


 最初から言ってくれればいいのにの連続。相手の心は読めない。なら最初から、それが起こる前提で進めたら、最初から言えばいいのにと進行を妨げる思考をしなくて済むのではないか。だが、これをすると損な立場として自分を自覚するだろう。


 そうすれば、相手を呪うかもしれない。それは自己犠牲とも言われる感覚だ。なんとも思考のループというのは恐ろしいが、自分が最初に動くしかない。これを俺は犠牲とは言わせない。相手と自分の境界を悟った。



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