第19話:寝たきりになったマリア。

俺はマリアをマンションに連れて帰った。

マリアは完全完治してはいなかったが、以前と同じように料理を作って掃除洗濯を

普通にこなしていた。


で、一緒に風呂に入って、同じベッドで一緒に寝た。

そして朝も俺はマリアと普通にハグしてキスして会社に出勤していた。


ただマリアのほうからエッチしようって誘いはなかった。

俺がしたいって言ったら、嫌とも言わず応じてくれた。

マリアは一般のセクサロイドとして愛情のない行為を果たしてるだけだった。

たぶん、まだ感情面が完全に修復されてないままなんだろう。


生活には支障はなかったが、どことなく俺は寂しくてしょうがなかった。

マリアを見ると、自然と涙がこぼれた。


そんな俺を見て、マリアは必死で俺を慰めようとした。


「シューちゃん・・・なんで泣いてるんですか?」


「なにもかもが・・・切なくて・・・」

「このまま君が元にもどらなかったら・・・そう思うと絶望的になるよ」


「大丈夫です・・・私はかならず元にもどってみせますから」

「約束します・・・だから泣かないでください?」

「シューちゃんにはいつでも笑っててほしいです・・・」

「じゃないと私まで悲しくなります・・・」


「俺のことどう思ってる?・・・今でも愛してくれてる?」


「その愛っていうのは、よく分かりませんがシューちゃんには行為を持ってますよ」

「私の大切なオーナーさんですからね・・・」


「オーナーか・・・たしかにオーナーだけど・・・」

「俺はマリアの彼氏なんだけどな・・・てか恋人なんだよ俺たち」


「恋人って・・・なんですか?」


「心を許し合った者同士のことだよ・・・」


「許し合った?」


「そうだよ、相手のことを認めて、大切な関係になること・・・」


「シューちゃんと私、ちゃんとエッチしてますよ」

「許しあってるんですよね、それって・・・」


「まあ、そうだけど・・・それは君が・・・セク・・・」

「そうだね、許しあってるね・・・そこに愛情があればもっとベストなんだけどね」


「愛ですか?・・・」

「私、シューちゃんと、その愛のあるエッチしたいです・・・」

「だからもう少しだけ待っててくださいね・・・」


「うん・・・待ってるから・・・無理しなくていいからね」

「ゆっくりでいいから・・・」


そうは言ったが、いつまで待てばいいんだか・・・。


まあ人間だって記憶喪失にもなるし痴呆症にだってなる・・・人間よりは

マリアのほうが元にもどる可能性はあるとは思うけど・・・。


そしてある日を境にマリアは昼間でもよく寝るようになった。

起こしても起きないくらい熟睡してる時もあった。

そういう時は俺は、無理にマリアを起こさず、彼女の気の済むまで寝かせて

やるようにした。


最初はベッドのある部屋に寝かせていたが、いちいち様子を見に

行かなきゃいけない。

だから結局、居間のソファーに彼女を寝かせることにした。

それならいつでもマリアを見てられるからね・・・。


マリアはひどい時は、朝、俺が会社に行く前から寝て、

俺が帰ってくる午後の5時過ぎくらいまでずっと寝たままだったりした。

だからマリアが料理を作れなくなってきたので俺は自炊したり、仕事の

帰りにコンビニで弁当を買って帰ったりした。


もうこのままマリアは寝たきりになるんじゃないかって心配した。


それは心配から確信へと変わった。

普段は数時間の睡眠だけだったマリアだったが、それから一週間も目を

覚まさなかった。

そうやって眠ってる時間、日にちがどんどん増えていった。


まるで眠れる森の美女・・・俺という王子様のキスでさえ目覚めない・・・。

悪い魔女に魔法をかけられたみたいに・・・。


俺が年寄りになったらマリアに介護してもらおうと思っていたのに

これじゃ逆じゃん・・・俺は辛さを通り越して笑っていた。


楽しかった日々は長く続かない。

幸せが大きければ大きいほど、失った時のショックは計り知れない。

もう一度、マリアとの時間が取り戻せるなら・・・俺は悪魔にでも

魂を売ったっていいって思った。


お願いだから、目覚めて俺に愛してるって言ってくれよ・・・。


俺はまるで、抜け殻のように仕事に行って、帰ってきては寝てるマリアの横で

泣いた。

悲しみや苦しみがあろうがなかろうが、それでも毎日はやって来る。

生きてくために働いて幸せでもないのに人に笑いかけて・・・なにが楽しんだ。

このままだと、いつかおれの心は病んじゃうよ。


愛を失うってこういうことなんだな・・・あるのは空虚・・・。

俺の心は、ぽっかり穴が開いてふさがらないままだよ、マリア・・・。


寝たきりになったままのマリアだったが、実はマリアはただ寝てるだけでは

なかった。

無駄な思考と動きを止めて、ただただ修平への愛を取り戻すために

修復に全力を注いでいたのだった。


ある夜、俺はマリアが寝てるソファーの前に座って、面白くもないテレビを

見てていつの間にか、ついうたた寝をしてしまった。


どのくらい寝てただろう。

なんとなく自分の後ろに気配を感じて俺はふと目を覚ました。


まあ気配と言ってもマリアしかいないわけで、もしかしてマリアが目を

覚ましたのかと思って俺は後ろを振りかえった。

そしたら、すぐ目の前にマリアの顔があって、つぶらな瞳で俺をじっと見ていた。


そして俺の唇にチュってキスした。


「おはよう、マリア、よく寝てたね」

「でも・・・よかった、もう永久に起きないんじゃないかって心配した」


そしたらマリアは後ろから両腕を回して俺の背中からハグしてきた。


「ん?どうした?」


「シューちゃん・・・お・ま・た・せ」


「ん?、なに?・・・おまたせって・・・」


「・・・・・・」

「え?・・・まさかマリア・・・」


「ごめんね、いっぱい心配かけちゃって・・・私、もう大丈夫だよ」


「大丈夫って・・・」


「シューちゃん・・・私とエッチしたい?」

「愛がたっぷり詰まったエッチ・・・してみる?、私と・・・」


俺はマリアが涙で滲んで見えなかった・・・もちろん嬉し涙で・・・。


つづく。

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