第18話:とりあえず帰ってみます。
俺はすぐに小野寺さんちにマリアを迎えに行った。
「こんにちは・・・」
「ああ、長尾さん・・・来てますよマリアさん」
「なにか、あったんですか?」
「長尾さんと一緒じゃないから、どうしたのかと思って・・・」
「はあ・・・ちょっと・・・僕がマリアに出てけ、なんて言っちゃったもんで」
「あはは・・・私も時々、そう思う時ありますよ」
「え?アイラさんにですか?」
「そうですよ、アイラも感情があるだけに喜怒哀楽がありますからね・・・」
「時々、駄々をこねたりするんですよ」
「あ〜それ分かります・・・」
「でしょ・・・まあ、ここじゃなんですから、ぞうぞ上がってください」
「じゃ〜お邪魔します」
「どうぞどうぞ・・・アイラもマリアさんが来てくれて喜んでますよ・・・」
小野寺さんに部屋に案内されるとマリアはアイラさんと楽しそうに話していた。
その光景を見て俺はもしかしたら、マリアは元にもどったのかと思った。
「あ、シューちゃん・・・何しに来たんですか?」
「君を迎えに来たに決まってるだろ?」
「マリア、もしかして元に戻ってる?」
「いいえ、まだ完全ではありません・・・少しづつは戻ってるみたいですけど」
「マリア、俺、君に出て行けなんてヒドいこと言って反省してるんだ」
「置き手紙にお世話になりましたって書いてあったでしょ」
「シューちゃんにはもう、私は必要ないかと思って・・・」
「ほんとにごめん・・・」
「俺が悪かった・・・バカだったよ・・・」
「つい苛立って君に八つ当たりしちゃって・・・」
「私が?・・・私がまだ必要なんですか?」
「必要に決まってるだろ?・・・マリアが必要じゃない、なんてこと
あるわけないじゃないか・・・」
「俺が悪かったから・・・な?、機嫌直して帰ってきてくれ・・・お願いだから」
「シューちゃん・・・私が完全に元どおりにならない限りシューちゃんの
ところへは戻れないです」
「きっと、また同じことを繰り返しますよ」
「それでもいいから・・・君がそばにいてくれないと俺は何も手につかないよ」
「君のいない毎日なんて考えられない・・・」
「それに俺のところを出て行ったら、行くところないだろ?
他にどこへ行こうって言うんだ」
「小野寺さんちだってご迷惑だし・・・行くところなんてないだろ?」
「元どおりになるまでって言ったって、そんなのいつのことになるか
分かんないじゃん?・・・」
だから俺と一緒に帰って、ちゃんと治るまで養生すればいいじゃないか?」
「それに、もう出て行けなんて二度と言わないよ・・・」
「マリアさん・・・長尾さんもああ、おっしゃってることだし、帰って
あげたらどうかな?」
「まあ、私のところはいつまでいてくれてもいいんだけど・・・」
「でも、やっぱり長尾さんのところに帰ったほうがいいと僕も思うな」
「分かりました小野寺さん・・・たしかに私、小野寺さんちにご迷惑おかけ
してますよね」
どうしても帰ってきてほしいって泣きついてる人がいるみたいですから
とりあえず私、帰ってみますね」
「ああ・・・よかったマリア・・・帰らないって意地はったらどうしよう
かって思ってたんだ・・・」
「でももし俺がマリアを迎えに来なかったら、どうするつもりだったの?」
「迎えに来てくれたでしょ?」
「そうだけど、いつまで待つつもりだった?」
「シューちゃんが迎えにきてくれるまでです」
「さようならなんて書き置きしましたけど、本当は私シューちゃんが迎えに
来てくれるって信じてましたから・・・」
「え?・・・まじで?」
「もしかして、出て行ったのは俺を困らせようと思ってのこと?」
「出てったのは本気じゃなかったってことか?」
「じゃ〜もし、ほんとに俺が迎えに来なかったら?」
「一週間待ってシューちゃんが迎えに来なかった時は待つのは諦めた
と思います」
「街へ出て、スケベそう〜なおじさん捕まえて後についていこうと思ってました」
「あ・・・あはは・・・本気でおじさんを逆ナンするつもりだったんだ」
「いやいや、冗談だろ?・・・って言うか、そんな冗談言えるまでもとに
戻ってきてるんだ」
「冗談じゃありません・・・」
「え?、まじ本気だったの?」
「・・・冗談です・・・」
「どっちなんだよ・・・」
「でも本気でも冗談でもスケベそうなおじさんに、ついていくのは
やめたほうがいいと思うよ、
どうせついていくなら俺にしといたほうが正解だと思うけど・・・」
「シューちゃんもスケベそうな・・・スケベな人だからついて行って
みてもいいかもですね・・・」
「ああ・・・そうだね・・・スケベは余計だけどね」
「そういうことなので小野寺さん、アイラさん・・・マリアを連れて帰ります」
「お世話おかけしました」
「小野寺さん、アイラさんお邪魔しました」
「またシューちゃんに追い出された時は、ご迷惑をおかけするかもしれませんから
よろしくお願いします」
「まあ、なるべくならうちへ、来ないで済むことを願ってるよ」
そんな訳で、人騒がせしたマリア失踪はなんとか、彼女が帰ってくれるって
ことで一件落着した。
「俺もさ・・・昔、家を飛び出したことあるんだ・・・その時のことを
思い出したよ」
「そうなんですか?・・・」
「俺は友達のところに転がり込んでさ・・・もう少しで捜索願が出るところ
だったんだけど、俺のことを心配した友達が俺の家に知らせて・・・
でもって、おふくろが迎えに来たよ」
「おふくろ?・・・ってなんですか?」
「ああ・・・おふくろってのは、お母さんのことだよ・・・母親、ママとも言うね」
「シューちゃんを産んでくれた人ですね」
「まあ、そうだね」
「いいですね・・・そういう人がいて・・・」
「あ、ごめん・・・マリアには家族がいなかったんだ・・・」
「いいんです・・・気にしてませんから」
「私も子供の頃の記憶ありますけど、きっと、それって中原博士の
お嬢さんの記憶だと思います」
「中原博士には女の子のお子様がいらっしゃったみたいですけど
幼い時お亡くなりになったそうです」
でも、お嬢さんの記憶だけは、AIに移植してたみたいですね・・・」
「そうなんだ・・・それで君の脳に?・・・」
「そうみたいです」
「まあ、私は誰かから産まれた訳じゃないですからね・・・
子供の頃の記憶なんて、本当ならあるはずないんです・・・」
「ところでシューちゃんのお母さん・・・お元気なんですか?」
「それがね・・・おふくろは三年前に天国へ行っちゃったんだ・・・」
「え?お亡くなりになったんですか?」
「人間には寿命ってもんがあるからね・・・病気もね」
「おふくろは病気で亡くなったんだ・・・」
「だからマリアも早く病気を治さなくちゃ・・・」
「私は病気じゃありません」
「そうだけど・・・じゃ〜なんて言うの?・・・故障?」
「そういう言い方は嫌いです」
「じゃ〜なに?・・・怪我でいいのか?」
「怪我?・・・怪我は怪我ですけど・・・じゃ〜それでいいです」
「私、がんばりますからね、絶対治してみせますから」
俺はマリアに優しく微笑んだ。
小野寺さんちから帰る頃、もう陽は暮れかかっていて空は黄昏に染まっていた。
このあたりの通りは「トワイライトアヴェニュー」って言うんだそうだ。
もう時期は終わっていたけど、通りは桜の並木路になっていて
満開になったら桜のトンネルができて、それは見事らしい・・・。
俺はなんとなくマリアと手をつないで、この素敵な通りを歩いて帰りたかった
から、バスには乗らなかった。
マリアと手をつないで、ラブラブな気分を味わいたかった。
久しぶりに長く歩いたけど、意外に思ったより早くマンションについた。
とにかくマリアが帰ってくれさえすればそれでいい。
俺は二度とマリアに冷たい態度をとることはしないと誓った。
もっと包容力を持たないと・・・。
俺は心を広く持って時間をかけて暖かくマリアを見守ることにした。
たとえこの先、マリアが元どおりの彼女に戻らなくても・・・。
つづく。
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