第17話:マリアの行方

朝、起きるとテーブルの上のメモに


「お世話になりました・・・お元気でシューちゃん、さようなら」


そう置き手紙を残してマリアはどこかへ行ってしまった。


「マリア・・・」

「ごめんよ、マリア・・・」


俺はマリアにヒドいことを言ったと反省した。

けど言ったことは、もう取り消せない。

あんな不安定な状態でマリアを追い出してしまった。


マリアはどこへ行ったんだ・・・。

俺は仕事があったが、とても出勤する気にはなれなくて会社を休んだ。


のんびり仕事なんかしてる場合じゃない。

マリアを探さなくちゃ・・・。


普通こういう時、行く場所ってたとえば記憶に残ってる思い出の場所とか、

そういうところに行かないか?

感傷にひたれる場所とか・・・。

なんの当てもなかったが、俺はマリアを探すことにした。


以前の彼女だったら・・・「うそだよ〜」って帰ってきそうだった。


このまま家でマリアが帰って来るのを待ってても、ラチがあかないし

帰ってこない可能性だってあるだろ?

って言うか・・・じっとなんかしてられないよ。


とりあえず俺は、及川さんと小野寺さんちに連絡してみた。

でもマリアは来てないって返事だった。


それじゃどこへ行ったんだ・・・。

中原博士はすでにお亡くなりになってるし・・・

俺の以前にお世話になってたオーナーのところへ行ったのか?

いやいや俺より魅力的な男なんていたとは思えないし・・・。


どうでもいい想像だけが俺の頭に中で錯綜していた。


そうだ・・・俺との思い出の場所と言えば・・・マリアが初めて起動した、

あのゴミ処理場とか・・・。

待てよ・・・。

まさかマリアは自分で自分の機能を止めようとしてるんじゃないだろうな?

俺にムゲにされて、悲しみのあまり世を儚んで・・・。


それは修平の取り越し苦労ってものだった。


マリアは修平が思うほど弱くはなかった・・・むしろ生きることに

執着していた。

脳を損傷していたマリアに愛という感情はまだ取り戻せていなかったが

それでも修平が自分にとって一番、大切な人だって認識はしていた。


「海は?・・・もしかして俺と行った海に行ってるかもしれない」

こういう時って、ドラマとかだと、だいたい海ってシュチュエーション

多くないか?


そう思った俺は電車とバスを乗り継いで、途中からタクシーを捕まえて

海に向かった。


「いてくれよ・・・マリア」


海に着いた俺はマリアを探した。

マリアは、かならずここに来ていると思っていた。

でも、周囲を見渡してみても、マリアの姿はなかった。

ってか人影すらなかった。


「なんだよ・・・ドラマみたいな劇的な出会いじゃないのかよ・・・」

「でも、ここでマリアと出会ったら・・・俺、泣いちゃいそうだよ・・・」


よく考えてみたら、マリアはお金を持っていないから、こんな遠いところまで

歩いて来るはずがないんだ・・・。

歩いてなんか来てたら、途中で見つけてるよ。

そんなこと考えたら分かったはずのに・・・こんなところまで来て・・・

俺ってバカだ・・・。


じゃあ、マリアはどこへ行ったんだ。

考えあぐねていたら、俺のスマホに電話がかかってきた。

小野寺さんからだった。


「あ、長尾さん・・・マリアさんうちに来てますよ」

「今、アイラと話してます・・・」


「え?さっきお宅に電話した時は来てないっておっしゃってたはずですけど」


「マリアさんが来たのは長尾さんから連絡をいただいた後です」

「私のところへ来る前に、どこかに寄っていたのかもしれませんね」


「そうですか、ご迷惑おかけします」

「たぶん、他に行くところがないから、アイラさんに会いに行ったのかもですね」

「すぐに迎えに行きますから、引き止めておいていただけますか?」


スマホを切った俺は急いで小野寺さんちに向かった。

とりあえず、マリアの行方が分かって俺はホッとした。

それにしてもマリアは小野寺さんちにお邪魔するまえにどこへ行ってたんだろう?


マリアにあったら、一番に謝ろう・・・。

でもって、絶対帰ってきてもらわないと・・・。

もし、帰らないって言われたらどうしよう・・・折れるな〜。

ってか・・・土下座してでも、逆立ちしてでも帰ってもらわないと・・・。

マリアがいない生活なんて、もう俺には耐えられないよ。


実はマリアは小野寺さんちにお邪魔する前に修平との思い出を取り戻すために、

ふたりが出会った、あのゴミ処理場に行っていたのだ。

そこで、自分がはじめて見た修平を思い出していた。


じゃ〜金も持ってないし、公共の交通機関など使えないマリアが、どうやって

ゴミ処理場まで行ったかって言うと、それはヒッチハイク。

マリアくらいの抜群のビジュアルを持った女なら手を挙げただけで、男は

誰でもゴミ処理場まで送ってくれただろう。


たしかに海は修平との思い出のひとつではあったが海へ行くと、事故に遭った

と言う嫌なことを思い出すから行きたくなかった。

それがマリアがあえて海へ行かなかった理由。


マリアが完全復活するまで、もう少し時間が必要だった。

マリア自身は自分の完治には自信がなかったが彼女の脳の中の小さな

お医者さんナノマシンたちは、マリアの脳の回復に奔走していた。


つづく。

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