第14話:マリアは物じゃない。

マリアが起き上がらないので、俺はすぐに救急車を呼んだ。

あと一応警察にも連絡してから、バイク屋にも連絡して事情を説明した。

バイクのほうはレンタルする時、車両保険に加入してたので弁償する必要は

なかった。

傷ついたバイクは、すぐに現場まで引き取りに来てくれることになった。


救急車を待ってる間、めちゃ時間が長く感じた。

その間も俺はマリアのところで彼女を抱きしめていた。


救急車より先に警察がやって来たので、事情を説明したが、ナンバープレートの

番号も分からず、保冷車のブレーキ痕もなく、目撃者もいなかったこともあって

保冷車がどこの会社のものなのかも調べようがないと言うことだった。

だから、たぶん自損事故で済まされるだろう。


警察とやりとりをしてるうちに、ようやく救急車がやってきた。

救急隊員の人に、どこかかかりつけの病院がありますか?って聞かれた。


「彼女はガイノイドなので病院じゃなくガイテック・グローバル社に運んで

ほしんですけど・・・」


「ガイノイド?」

「あ〜無理ですね・・・ロボット、アンドロイド、ガイノイドの類は物と

見なされるので人間以外は乗せられないことになってるんです」


「そ、そんなのおかしいじゃないですか?、マリアは人間と同じですよ」

「物ってなんですか・・・マリアは車や家電とかと同じ扱いなんですか?」


「なんとおっしゃられても法律で決められてますからね・・・」

「私達もガイノイドの面倒までは見られませんので・・・」

「そうじゃなくても忙しいんですから・・・」


「もういいです・・・ご足労おかけして申し訳ありませんでした」

「自分で手配します」


事務的処理をして、警察も救急車も、そそくさと帰って行った。

マリアは物扱いかよ・・・バカにしやがって・・・。


俺は急いで及川さんに連絡した。

急遽、現場まで迎えにお伺いしますって心強い返事をもらった。

小野寺さんもいっしょに連れて来るらしい。

及川さんは小野寺さんから、マリアとアイラさんの話を聞いていたようだった。


俺は思うんだけど、あの幅寄せしてきて逃げた保冷車は、俺とマリアを殺そうと思って、誰かの差し金で、狙って来た訳じゃないって・・・。


だって、俺とマリアが海に行くことも、この環境線をバイクで走ることも、

誰にも教えてないから分かるはずがないんだ。

それに俺たちを狙うんなら、こんな車を使って偶然を装ったみたいな方法は

取らないだろう?

普段の生活の中ででも狙おうと思えば、いくらでもチャンスはある。

そのほうがはるかに楽にやれるはず。


たぶんだけど、これは保冷車の運転手の個人的ねたみ・・・。

保冷車から見たらバイクの後ろに乗ってるのが女の子だって、マリアの華奢な

体つきですぐに分かるだろう。


「女なんか乗せやがって・・・」


そう思ったに違いない。

やっかみ・・・ねたみ・・・それで、ちょっとからかってやろうと思って

幅寄せした・・・でもやりすぎた。

俺が転倒する場面は、ミラーごしに確認できただろう・・・。

それで、これはマズいと思って慌てて逃げんたんだろう・・・。


でもこれは、あくまで俺の想像・・・本当は俺と・・・いやマリアが

狙われたのかもしれないし・・・。


もしマリアが狙われるとしたら原因はなんだ?

普通のガイノイドじゃないからか?・・・そんなことで誰が迷惑するんだ

そんなことで、誰の生活を脅かすんだ?


以前マリアのオーナーだったやつの仕業とか・・・まずありえない話だ。

どう考えても狙われる可能性は低いと思った。

でも、これから先は油断しないほうがいい・・・。


これは保冷車の運転手の個人的なねたみによる不可抗力・・・。

それしか考えられなかった。


そうこうしてるうちに及川さんが来てくれた。


「事故ですって?」


「はい・・・保冷車に幅寄せいされてバランンスを崩して転倒してしまって」

「俺は、このとおり大丈夫だったんんですけど、マリアが・・・」

「マリアが起きないんです、声をかけても反応がなくて・・・」


「小野寺さん、こちらに来てマリアさんを見ていただけます?」


「分かりました、見てみましょう」


そう言って小野寺さんは車から降りてきてマリアの様子を見てくれた。


「はい・・・大丈夫です・・・ちゃんと生きてますよ・・・」

「心臓も動いてますし、呼吸もしっかりしてます・・・」


「え?ガイノイドなのに?、心臓があったり、呼吸したりするんですか?」


「彼女は、普通のガイノイドとは違います」

「セクサロイドですから、人間の女性と遜色ない機能が備わってるんですよ」

「体液を身体中に潤滑するために、心臓が動いてるんです」

「それに呼吸しないと基本的に、しゃべれませんからね・・・」

「セクサロイドには、ため息も、吐息も発することができるようになってるんです」


「話はあとにしていただけます?、早急にマリアさんを会社まで運びましょう」

「車に乗せて・・・」


及川さんがスタッフに指示した。

及川さんや小野寺さんといっしょに男性スタッフが二人ほど来てくれていて、

マリアを車まで運んでくれた。


マリアを車に乗せたあとで小野寺さんが言った。


「心肺停止の心配はありませんが、もしかしたら頭を強打してる可能性が

ありますね・・・」

「ヘルメットの痛み具合から見て、側頭部を損傷しているかも・・・」

「脳自体が損傷してなければいいんですけど・・・」

「会社に帰ったら、専門分野のスタッフとチエックしてみますから、長尾さんも

いっしょに車に乗ってください」


俺はマリアのことだけが心配だった。

こんなことになるなら、家にいたほうがよかった・・・。


出かける時、マリアは、少し不安がっていた。

この事故のことを予感してたのかもしれない。


そして、もしマリアが人間だったら、もしかしたら死んでいたかもしれなかった。

助かったのはヘルメットをかぶっていたおかげとマリアの人工皮膚と内殻は

思ったより丈夫だったからだった。


俺の心は、まるで空に浮いたまま行く先を持たない風船みたいに

いつ割れても不思議じゃないくらい、辛くて悲しくて胸が苦しかった。


つづく。

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