第13話:マリアの予感。
マリアが海を見たいっていうので、ふたりで海を見にいくことにした。
その日、空は綺麗に晴れていてバイクで走るにはベストだった。
「ねえ、シューちゃん・・・オートバイ?の免許持ってるの?」
「持ってるよ・・・中型だけどな」
「無免許だったら、バイクで海を見に行こうなんて言わないだろ?」
「車より先にバイクの免許取ったね・・・」
「なに?俺とバイクで海へ行くの不安?、そうなの?」
「そうじゃないけど・・・なんとなく・・・」
「なに?なんとなくって・・・」
「う〜ん・・・いい・・・聞いてみただけ・・・」
「変なの・・・」
実はこの時、マリアは予感って言うか、よくないことが起きる予兆を
感じていたみたいだった。
バイク屋さんでバイクをレンタルして、海を見に行く。
バイク屋さんまでバスで行って、125ccのスクーターと、あと俺とマリアの
ヘルメットを借りた。
そこから30キロほど走って海へ・・・。
季節は四月・・・暑くもなく寒くもなく、まさにバイクの季節と言えた。
俺の子供の頃には砂浜を持った海は、すでにほとんどなくなっていた。
埋め立てや工場団地の開発で砂浜は、コンクリートの岸壁に変わっていた。
今は人口の海、
それでも、わずかに砂浜はまだ残ってた。
人口的だけど、そこは市民のためにキャンプ場があったりビーチバレーなんかも
できるようになっていた。
砂浜まではバイクで入ってはいけないようになっているので、駐車場にバイクを
止めて、俺たちは仲良く手をつないで海へ向かった。
マリアは海を見る前に、晴れ渡った空を見て言った。
「なんだか、こんなにゆっくり空を眺めたのっていつからなのかな?」
「そうだね、都心にいるとつい忙しくて空なんか見ない日もあるもんな・・・」
「そういう時間持った方がいいね・・・」
「そうだな・・・時には自分の時間を止めてみるのもいいかもな」
「あ・・・俺はマリアと一緒だから、ふたりの時間かな」
「エッチしてる時は、ふたりの時間は止まってるよ」
「そうか・・・そうだな」
そして、ふたりで砂浜に出た。
そこからキラキラ光る海と・・・果てしない水平線が見えた。
遠くにどこかの国のタンカーと蜃気楼に揺れる島影・・・。
気持ちいい海風・・・。
「うみだ〜シューちゃん、海だよ」
「そうだね・・・俺は、何度も来てるけど、いつ来ても海はいいな」
「なにがどうってわけじゃないけど、海を見てるだけで心が洗われていくような
気がするよ・・・ 」
「広くて大きくて、青くて・・・あそこにプカプカ浮かんでみたい・・・」
「沈んじゃうんじゃないか?」
「そうかもね・・・ 海に入ったこともないからね」
「もし、沈んじゃったらそのままマーメイドになっちゃお・・・」
「海になんか入っちゃったらアソコから海水が入ってこないか?」
「なに言ってるの・・・こんなロマンチックな風景の中にいて・・・」
「あのね・・・私のアソコって穴がぽっかり開いてるわけじゃないからね」
「ちゃんと締まってます・・・そんなガバガバじゃないです、失礼な」
「ごめん・・・怒らなくても・・・ちょっとした素朴な疑問だよ」
「疑問にデリカシーがありません、もう」
「悪かったよ・・・さあ・・・海見たら、帰ろうか・・・」
「そうですね、夕日が沈むまで、ここでボ〜ッとしてたいですけど・・・
帰りますか?」
「帰る途中でさ・・・セルフだけど、美味いうどん屋があるんだ・・・
そこに寄ってうどん食って帰えろう 」
「うん・・・もうちょっとだけ海見てていい?」
「いいよ・・・好きなだけ・・・」
そう言って俺はマリアを引き寄せた。
そしてどちらからともなく、チュッってキスした。
でもって、帰りにセルフのうどん屋に寄って、うどんを食べたんだけど、
マリアは美味しい、美味しいってめちゃ喜んでくれた。
でも、前から思ってたんだけど、人間じゃないマリアに味覚なんか
あるのかなって・・・その疑問はおっけ〜だろ?。
「マリア・・・美味しいって・・・味覚っていうか、味が分かるのか?」
「分かるよ・・・ちゃんと味覚あるもん・・・そうじゃないと料理作れない
でしょ 」
「あ、なるほど・・・理屈だな・・・」
そんなだから、マリアは本当は人間なんじゃないかって思えてしょうがなかった。
「さ〜て飯も食ったし・・・帰るか」
俺たちは、またバイクに乗って我が家に向かった。
うどん屋の駐車場を出てから環状線を走ってると、背後からでかい保冷車が
近ずいて来るのがバックミラーから見えた。
まあ、そういう光景は、日常普通に見るんだけど・・・。
俺は保冷車がそのまま、俺たちの横を追い越してくれるもんだと思っていた。
そしたら、なんと幅寄せしてきたんだ。
保冷車の後部が俺の右手のアクセルグリップの端っこにぶつかった。
俺は側道に追いやられて、バランスを崩してそのままクラッシュした。
バイクごと転倒したので、俺はなにが起きたかすぐには把握できなかった。
かろうじて、バイクを起こして保冷車を見たが保冷車は止まることなく
そのまま俺たちを放置して逃げて行ってしまっていて、ナンバーを確認する
暇もなかった。
そんなことより俺はすぐにマリアのことを一瞬で思った。
俺のことなんかより彼女のことが、マリアが一番に気がかりだった。
マリアは側道のガードレールのところまで飛んでいて、気を失ってるのか
起き上がって来る気配がなかった。
俺は一気に血の気が引いた。
「マリア・・・マリア〜・・・大丈夫か?マリア?」
すぐにマリアのところに駆け寄って声をかけたが、なんの返事も反応もなかった。
見るとヘルメットの側面が擦れてひどく痛んでいた。
つづく。
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