第11話:婚姻届みたいなもの。
俺の口座にきっかり5000万振り込まれていた。
なので、次の土曜日、俺はふたたび及川さんに連絡した。
会社を休んでるかと思ったら、及川さんはしっかり仕事をしていた。
そして、ふたたび俺のマンションを訪ねてくれることになった。
その日の朝方、玄関のチャイムが鳴った。
及川さんだ・・・。
俺はちょうどトイレに入っていたので、玄関にはマリアが出た。
「いらっしゃいませ〜」
「及川さん・・・おはようございます・・・」
「どうぞ・・・お入りになってください」
「おはようございます、マリアさん・・・ご機嫌うるわしゅう」
「はい、ご機嫌潤ってます」
「どうぞ、あおあがりください」
「ではでは、お邪魔します〜」
そう言って及川さんは前回と同じく、居間のソファーに座った。
マリアがいきなり飛びついてきて、俺はマリアを抱いたまま後ろに
ずっこけた、そのソファーだ・・・。
嬉しかったのは分かるけど・・・ソファごとずっこけた後、続きがあるんだ・・・
起き上がろうとする俺の顔にマリアはぶちゅぶちゅキスをしてきた。
マリアはまじで嬉しかったんだな・・・。
でもって、まだ続きがあって、マリアはそのまま下だけ脱いで俺にまたがってきた。
そんなことされたら、やめろよ!!なんて言えないわけで・・・。
俺はやっぱり1分持たなかった。
でもマリアは超、超嬉しかったんだろうな。
ま、そのエピソードは横に置いといて・・・。
トイレから出た俺は、さっそくお及川さんに挨拶してマリア購入の話を切り出した。
「ローンはやめてキャッシュにします」
「俺一人の力じゃ払えそうにないので・・・5000万は俺の親父に借りました」
「おやま・・・お父様、セレブでいらっしゃるんですね」
ってことで俺は親父との話を及川さんにした。
「なるほどです〜」
って納得してくれたみたいで、さっそく契約書を出してくれた。
この紙切れにサインして・・・5000万払えばそれでマリアは誰はばかることなく
俺のパートナーになるのか・・・。
「それからマリアさんは2年に一度のメンテナンスが義務付けられておりますので
お守りくださいますように・・・」
「あとメンテのほうも当社で行いますが・・・町工場に持ち込まれるようなことは
おススメいたしかねます」
「たまにいらっしゃるんですよ・・そういう方も・・・節約のために」
「そのくらい、ケチるなって言いたいですけどね・・・」
「そういうところにメンテを頼むとマリアさんがマリアさんじゃなくなって
帰ってくる可能性大ですからね、やめておいてくださいね」
「闇業者が横行してますから・・・騙されないようになさってください」
「ああ・・・なんか車みたいですね・・・」
「あ、ごめん、マリア・・・君を車と同じに見ちゃった・・・」
「車よりずっと役に立ちますよ、私・・・車は走るだけでしょ」
「まあ、多少荷物積めますけどね・・・」
「でも私は家事手伝い全般・・・話し相手にだってなりますし・・・
エッチだって・・・」
「分かった、分かった・・・そうだね・・・はは」
「ちょっと意味合いが違うけど・・・まあいいや」
「ガイノイドは車より繊細ですからね・・・ちゃんとメンテすれば
長くパートナーになってくれると思いますよ・・・長尾様がお年寄りになっても
マリアさんは、いつまでも若々しく元気でいてくれると思います」
「たしかに・・・ちゃんと及川さんの言われたことを守ります」
「ではご成約成立です・・・これにてマリアさんは当社の管理から離れたことに
なりましたので・・・」
「どうもありがとうございました」
「今後はマリアさんとの、麗しい生活をお楽しみくださいませませ・・・」
「では、お邪魔いたしました」
「わざわざご足労願っていろいろお世話になりました・・・」
俺はふかぶかとお辞儀をした。
「2年後、マリアさんのメンテの時に、またお邪魔いたしますので、よろしく
お願いいたします」
「ちなみにそのメンテって金額いくらかかるんでしょう?」
「そうですね、メンテ具合にもよりますが、約10万円前後ご用意いただければ
よろしいかと思います」
「はあ、分かりました」
「では、今度こそ失礼・・・」
そう言って及川さんは、事務的笑顔を振りまいて帰って行った。
「シューちゃん・・・ほんとに、ほんとにこれでよかったの?」
「いいに決まってんじゃん・・・」
「それとも契約破棄しようか?」
「ヤダ・・・そう言うドキッとするようなこと、普通に言わない・・・
いじわるなんだから・・・」
「冗談だって・・・契約破棄なんてありえないからね・・・」
「でもさ・・・この契約書・・・これって俺たちの婚姻届みたいなもんだよな」
「こんいんとどけ?・・・ってなに?」
「人間が夫婦になったって証みたいなもんだよ」
「私とシューちゃん、夫婦になるの?」
「厳密に言うと人間とガイノイドの結婚は法律じゃ、まだ認められてない
けどな・・・」
「そのうち、そういう偏見も隔たりも、なくなっていくんじゃないかな」
「もう人間だから、ガイノイドだからって言ってる時代は終わりにしなきゃな」
「でもいいじゃん・・・本人同士がよければさ・・・」
「マリア、これからもよろしくね・・・」
「こちらこそ・・・シューちゃん・・・涙が溢れるくらい大好きだよ」
「ほら、また泣く・・・」
つづく。
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