第9話:感情に特化したガイノイド。
次の日の朝、俺はさっそく及川さんに連絡した。
要件を話すと、ちょっと驚いてたようだったが、「対応はできます」って
ことで、昼から俺んちに来てくれることになった。
なので、俺は会社を休んだ。
そして昼過ぎに及川さんがやってきた。
でも来たのは及川さんだけじゃなかった。
「こんにちは、わざわざご足労願ってすいません」
俺の横にはマリアもいた。
「こんにちは長尾様・・・いかがですか?」
「そちらのガイノイド、お気に召していただけてます?」
「はあ・・・それはもう・・・」
「あ、紹介しておきますね・・・」
こちら小野寺さんと言ってうちの技術開発部の方です 」
「あなたにお話があるとかで、ご一緒させてほしいと言うことでして・・・」
小野寺と呼ばれた人は俺より年上らしく、痩せていて
髪も無造作にもじゃもじゃで、もっさりしていて横溝小説に出てくる金田一耕助ってこういう感じのキャラなんだろうなって思わせるような人だった。
「小野寺です・・・私の話は後でいいので、そちらのご用件をお先にどうぞ・・・
話を進めてください」
「玄関先ではなんですから、どうぞ上にお上りください」
及川さんと小野寺さんを居間まで案内してソファにかけてもらった。
「ではさっそくですが、ガイノイドを購入なさりたいとか?」
「今、お宅にレンタルしてるガイノイドを引き取りたいと言うことで
よろしいですか?」
及川玲子さんは、ずれたメガネを上げながらそう言った。
「そうです・・・それは大丈夫なんですよね?」
「一応レンタルが基本ですが、購入することもできます」
「ほとんど、レンタル希望の方が多いですけど・・・」
「もちろんキャッシュでの購入も可能ですが、高額ですからローンという形に
なると思いますが・・・ 」
「ちなみに、ガイノイドって・・・ああマリアはいくら・・・」
「この子、マリアって言うんです」
「ああ・・・マリアさん、こんにちは・・・いいお名前ね・・・」
「こんにちは、ありがとうございます」
「で・・・この子・・・マリアはいくらいするものなんですか?」
「そうですね・・・お客様にお貸ししてるガイノイド、マリアさんは
新品ではありませんから、はしたを省いて、出血大サービスして5,000万ジャスト
と言ったところでしょうか・・・ 」
「5,000万?・・・・まじですか? 」
「いい家が建つし、ランボルギーニ買えるじゃん・・・」
「キャッシュでもローンでもどちらでも・・・ローンですと」
「5000万として 35年ローンですから、毎月の返済額は約15万円程度で
しょうか・・・」
「だいたいの年収が700万程度、ないと苦しいかもですね」
「毎月そんなにいるんですか・・・」
「本来はレンタル商品ですからね・・・」
「それだけコストがかかってると思っていただければ・・・」
「まあ、このマンションは親父の持ち物だし、他に借金もないし・・・
がんばればなんとかなるかなって思うんですけど・・・」
横で静かに聞いていたマリアが言った。
「シューちゃん・・・私、5000万もするの?・・・」
すっごい負担じゃないですか?・・・」
「やっぱりやめたほうがいいんじゃないですか?」
「君がそんなこと言ってどうすんだよ?」
「俺は君と別れたくないからな・・・」
「マリアが誰かのところへ行っちゃうなんて考えただけでパニックに
なっちゃうよ・・・」
「ローンが無理って言うなら、他に方法が・・・ひとつ希望があることはあるんだ」
「難しいかもしれないけど・・・」
「及川さん、少し猶予いただいてもいいですか?」
「けっこうですよ、まだ長尾様のところにレンタルしてから日にちも経って
いないので、次の方の予約も入ってませんし・・・ 」
「よかった・・・なるべく早急にお返事さしあげますから・・・」
「ではよりよいお返事をお待ちしております・・・」
「小野寺さん、お待たせ・・・長尾様にお話があるんでしょ、どうぞ」
「小野寺さん?っておっしゃいました?」
「俺にどんな話でしょう?」
「はい・・・あ、及川さんは先に帰ってもらってていいですか?」
「少し話が長くなると思うので、お待たせするのもなんですから、話すことを
話したら、私もすぐに会社に帰りますから・・・」
「分かりました・・・では長尾様、失礼します」
そう言って及川さんは先に帰って行った。
「じゃあ、小野寺さん俺に話って・・・」
「長尾さん、うちのガイノイド、お買いになるんですね」
「そうですね、できればそうしたいと思ってますけど・・・」
「そうですか・・・」
「実は、話というのは、長尾さんの横にいらっしゃるマリアさんについてですけど」
「私は、ここにいていいの?」
「あ〜いいですよ、君のことだし、一緒に聞いてもらえば・・・」
「実はこの子は、マリアさんは普通のガイノイドとは違うんです」
「え?、それはまた・・・どういうことでしょう?」
「私は技術開発部に所属していて、もっぱらガイノイドの感情部分を担当
してるんです」
「で、ようやくの自分の思い通りの技術開発に成功したので、その研究成果を、
起用してもらおうと会社に企画申請したんですが、アンドロイドやガイノイドには
不必要な機能だからって採用されなかったんです・・・」
「私は悔しくてね、ガイノイドにとってよりよい機能が提供できると自信が
あったんですけど・・・」
「で、会社が乗り気じゃないんなら、会社には内緒で自分の技術をガイノイドの
AIに追加してやろうと思ったんです・・・」
「本当は、そんな勝手なこと許されないんですけど・・・」
「でもせっかくの画期的機能ですからね、捨ててしまうのはもったいないでしょ・・・」
「で、その画期的機能を持ったのが、この子なんです」
「私?」
「そう、君は特別なんだよ・・・他のガイノイドとは違うんだ」
マリアは不思議そうに小野寺さんの話を聞いていた。
「この子は他のアンドロイドと違って感受性が強いはずです」
「最初の頃は感情をコントロールするのに時間がかかったと思いますが
長尾さんのところに来る頃には、ちょうどベストな状態になってたはずです」
「どうです?、この子と一緒にいて実に人間的でしょ?」
「マリアさんは感情面において非常に特化してるんです」
「その感情表現は、ほぼ人間に近いって言っていいでしょう・・・」
「この件は誰にも言わずに私の胸の内だけにしまっておこうと思ったんですが」
「この子のマリアさんの完全なオーナーになってくれるって言う、あなたにだけは
知っておいてほしかったんです」
「この子は、世界でふたりしかいないガイノイドなんですよ」
「それで分かりました・・・それでですね・・・マリアがまじで人間的
なのは・・・」
「俺のところに来て感情を抑えられなくて、もう三回は泣いてます・・・」
「なんで、マリアはガイノイドなのにすぐに泣くのかって不思議に思ってた
んですけど、そういうことだったんですね 」
「より人間に近いんだ・・・マリアは」
「ガイノイドだと思って、無慈悲に扱うと、傷つくんです・・・だから大切に
してあげてください・・・」
「はい・・・大切にします・・・俺のためにも、小野寺さんのためにも・・・
マリアのためにも・・・」
「ちなみにさっき、世界でふたりしかいないっておっしゃいましたけど・・・」
「あはは・・・実はうちにもいるんですよ、アイラって言うガイノイド」
「アイラも感情機能に特化してるのでよく泣きますよ・・・」
「小野寺さん・・・できたらこれを機会に、情報共有していただけませんか?」
「俺、ガイノイドのこと何も知らなくて・・・」
「ああ・・・いいですよ」
それ以来、俺にマリアとアイラさんを通じて共通の友人ができることになった。
だから小野寺さんとは一生涯に渡ってお世話になることになる。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます