第4話:それが人間だって証拠でしょ?

マリアと過ごすようになって一週間経っていた。

俺は会社へ行き、マリアは家にいて、掃除や洗濯を甲斐甲斐しくしていた。


俺は会社に出かける前に、かならずマリアとハグとキスをしていて、

それが、ジンクスになっていた。

朝、マリアとハグしてキスして家をでないと、出先でなにか悪いことに

遭遇するような気がした。


会社から帰ってきた時も、かならずハグとキスは忘れなかった。

マリアのハグとキスは俺のお守りになっていた。


そしてマリアの料理はプロ並みの腕で超美味かった。


「今夜はシューちゃんの好きなポトフ作りますからね、

あとスクランブルエッグ添えて・・・」


「めちゃ助かるわ・・・今まで自炊したり、カップラーメンばかり食ってたし、

あとはコンビニ弁当だったり外食だったり・・・俺、けっこう食のバランス

悪かったからな・・・」


「半年間は私がいますから、大丈夫ですよ」


「あのさ、マリア・・・ひとつ聞いていい?」


「なんでしょう?」


「君、今まで何人くらいの人のところにお世話になって来たの?」


「ん〜どうでしょう・・・はっきりとは把握してないんです」

「たぶんですけど、5人くらいじゃないでしょうか?」


「え?たぶんって・・・覚えてないの?」

「それに5人って、そんなもんなの?」


「あのね・・・私、全員は記憶してないんです」


「どういうこと?」


「たとえば、私をモノみたいに扱った人とか、私が嫌いになった人とか

とにかく思い出したくないこととか、嫌なことは・・・私の頭の中から

全部削除しちゃいますから・・・だから覚えてないの?」


「そうか・・・それでマリアは明るいって言うかポジティブなんだ」


「ポジティブ?」


「だって、嫌なことや悲しかったことは全部忘れてるんだろ?」

「楽しかったことしか記憶にないんだよね・・・」

「だから、心が汚れてない分明るいんだ・・・」

「だったら、たぶんお世話になった人は少なくても10人はいたと思うな・・・」


「どうしてですか?」


「まあ、だいたい半分くらいの人は、どうしようもないクズだったって

思うから・・・」


「あはは・・・おもしろ〜い・・・あはは・・・」

「シューちゃん、すご〜い・・・それ当たってるかも〜」


(あ〜マリアはテンション上がるとタメグチになるんだ・・・)


「でさ・・・その中にマリアを買い取ろうって言った人いなかったの?」


「私を買うって言っても、高級住宅一軒くらいの値段しますよ・・・」

「注文すれば買えないこともないと思いますけど、そんな高額払うより

レンタルしたほうがお安いでしょ」

「それに飽きちゃったら返品すればいいですし、次のガイノイドレンタルすれば

いいでしょ」

「一度買っちゃうと、飽きても壊れない限り破棄できないですよ・・・」


「会社の方も、私を売却するよりレンタルしたほうが、長い目で見たら得だって

思ってるんじゃないですか?」

「ガイノイドにそんな大金払ってまで買おうって人は、よっぽど物好きです」

「普通はアンドロイドやガイノイドはレンタルですよ」


「冷静に言うね・・・」


(そうなのか・・・じゃ〜俺は物好きってことになるのか?)

(俺、今本気でマリアが欲しいって思ってるし・・・)


「よく分かった、ありがとう・・・」


「それから、できたら俺のことは記憶からは消さないでほしいな・・・」


「ん〜・・・今のところは大丈夫かも・・・」


「今のところってなんだよ?」


「・・・大丈夫だよ・・・そんな、顔しない・・・」

「シューちゃんいい人だもん・・・私の記憶から消そうと思ってもきっと

消えないと思いますよ」


「そうかな・・・いい人か・・・でも俺は聖人君子でもなければ清廉潔白な

男でもないよ」

「クチに出せないようなことだって考えてるし、人を恨んだり、憎んだりもするし

ウソもいっぱいつくしさ・・・心に闇だって抱えてるし汚れてるし・・・」


「いっぱい並べましたけど、そんなふうに自分を卑下しちゃだめだよ・・・」

「もしそうだって思っても、それは自分だけじゃないでしょ、心がクリアな人

なんていないと思うけどな・・・」

「それが人間だって証拠でしょ?」


「そりゃ人の心って複雑で時には感情任せで人を平気で傷つけたりする時も

あるけど、それって持って生まれた性格に反映してるでしょ」


「シューちゃんって、そういう性格の人じゃないって私には分かるよ・・」

「いろんな人、見てきたからね」


「世の中、不条理なこといっぱいあるけど自分のことをちゃんと分かってて

正直に生きてたら、それで充分だと思うんだけど・・・」


「って、私・・・シューちゃんに偉そうなこと言ってるね・・・ごめんね」

「だからオーナーさんに嫌われるのかな・・・」


「いや・・・謝らななくていいよ・・・マリアの言ってることはちゃんと

的を得てるよ」


「そんなこと、いいじゃないですか・・・シューちゃんは私に優しく接してくれる」

「私はそれだけでシューちゃんのところに来てよかったって思ってますよ」


「だからね・・・したいって思ったら言ってくださいね」


「え?何を?」


「セックスですよ、セックス・・・」


「あ〜そこへ持っていくのか・・・」


つづく。


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