第2話:君の名前はマリア。


ゴミ処理場から帰る途中、借りた軽四を会社に返して、ガイノイドと一緒に

バスに乗ってマンションへ帰ることにした。


ん、だけどスケスケのベビードール着た女をバスに乗せる訳にはいかない。

俺はTシャツだけだし・・・他に着せるものないし・・・


「さすがにそのスケスケ具合じゃ俺だって目のやり場に困るわ・・・」


なんとかならないかなって思ってたら彼女は自分の小ぶりのトランクから、

なにやら取り出した。


「なにそれ・・・?」


「メイド服」

「ああ・・ポスターの写真で着てた、あれ?」


で、彼女は俺の目の前でベビードールを脱ぎ始めた。


「おいおい・・・なにやってんの?」

「こんな人が、けっこういるところで着替えちゃまずいだろ?」


「え?ダメなんですか?」


「ダメに決まってるよ・・・いくらガイノイドでも人前でスッポンポンになったら

猥褻物陳列罪で捕まるよ」

「待て待て・・・どこか着替えができそうなところ探すから・・・」

「お、そうだ・・・今日は会社休みだし・・・誰もいないからそこで

着替えるか・・・」


そう言って俺は彼女を会社の更衣室に連れて行った。

ベビードールからメイド服に着替えた彼女はポスターまんまの

可愛い彼女だった。


「ベビードールもいいけど、メイド服もいいな」


「そうですか?・・・気に入っていただけて嬉しいです」


「メイドカフェみたいだな・・・」


「メイドカフェ?・・・ってなに!?」


「さ〜て・・・バスに乗ってマンションへ帰ろう・・・」


「ねえ・・メイドカフェって?」


「君みたいにメイドの衣装着た子が接客してくれる店のことだよ」


「あ〜そうなんですね」


「分かってないだろ?・・・」


そんなやり取りをしながら、しばらくバス停でバスを待ってると時刻通り

バスがやって来た。


「キョロキョロしない・・・バス来たよ・・・早く乗ろう」


「だって、いろんなものが珍しいんですもん」

「私、あまり外に出してもらったことなくて・・・


「家の中の仕事が多かったんだな・・・って? 」

「君さ・・・俺以外のところにもレンタルされてたの?」


彼女はそうだというふうに両手で丸をした。


「私が中原博士って人に預けられる前の話ですけどね」


「ふ〜ん・・・そうなんだ」

「君、ほんとにガイノイドなの?・・・なんかさ、ずいぶん人間らしい

んだけど・・・」


「ガイノイドですよ・・・」


「なんか調子狂うんだよな・・・思ってたイメージと違うから・・・」


「え?どんなイメージだったんですか?」


「ゴミ処理場でも言ったけど、なんかこう・・・もっとさ、アンドロイドとか

ガイノイドって動きが、なんかぎこちなくて言葉も事務的で・・・喜怒哀楽も

なくて、冷静で落ち着き払ってて、もっと冷たい感じ?」


「すっごいイメージ悪いじゃないですか?」

「それって先入観でしょ・・・そういうのどこかで見たんじゃないんですか?

私をなんだと思ってるんです?・・・機械じゃないんですよ、私」


(え?中身は機械じゃないのかよ・・・)


「そうだけどさ・・・悪かったよ・・・ガイノイドなんてはじめてだからさ」


「すぐに慣れますよ・・・」


「どうも態度が馴れ馴れしいんだよな・・・」


そうこうしてるうちに俺のマンション近くのバス停にバスが到着した。

俺たちはバスを降りて、歩いて俺のマンションへ帰った。


バスの乗客は、あの男性はメイドさんを連れてどこへ行くんだろうって

思っただろうな。


「俺の棟はFの二階・・・階段上がってすぐだから・・・」

俺は部屋のドアを開けて彼女を招き入れた。


「お邪魔しまっす・・・」


「はい、上がって・・・誰もいないから・・・」

「そこの安物のソファにでも座っててよ」


俺は台所に行って、冷蔵庫の中から飲み物を出して飲みながら言った。


「君は・・・飲み物は飲まないんだよね・・・」


「飲もうと思えば飲めますけど・・・」


「え?・・・食ったり飲んだりできるの?」


「一応、排泄機能もちゃんと付いてるんですよ」


「そんなもの必要なの?」


「セクサロイドですからね・・・状況によっては必要になってくるんです」

「お酒の相手したり・・・口移ししたり・・・セックスしたり、そのほかにも

SMが趣味だったりする人もいますし・・・いろんな趣味趣向の人が

いますからね・・・世の中には・・・」


「だから全面的に対応できるようになってるんです」


「へ〜なるほどね・・・どんなシュチュエーションにも対応できるように

なってるって訳なんだね」


「ん〜じゃあ、何か飲む?」


「あ、今はいいです・・・」


「さてと・・・なんだったっけ?・・・」

「そうそう、俺の生年月日と名前だよな」


「はい、どうぞ・・・」


「19○○年・・・2月22日・・・猫の日」

「俺の名前は長尾 修平ながお しゅうへい

「しゅうへいね・・・」


「はい・・・インプットしました」

「今日から、シュウヘイさん・・・もしくはシューちゃんって呼びますから」

「シュウヘイさんとシューちゃんどっちがいいですか?」


「じゃ〜シューちゃんで・・・」


「分かりましたシューちゃん」


「はい、次は私の名前ね・・・」


「ああ君の名前か・・・・なんも考えてなかったし・・・」

「昔の元カノの名前つけても呼ぶたびに思い出して嫌だしな・・・」


「今日は3月25日か・・・なにかあったっけ?」


そこで俺はネットで調べてみた。


「あ〜今日は受胎告知の日って出てきた・・・そうか・・・マリア様か・・・

じゃ〜マリア・・・君の名前はマリア・・・でどうかな?」


「ちょうど君が俺のところに来た初日だし・・・」


「分かりました・・・インプットします」

「今日から、私はシューちゃんのマリア・・・ナガオ・マリアです。

可愛がってくださいね」


「ってことで支度しますね」


「え?なに支度って・・・飯でも作ってくれるの?」


「なに、言ってるんです・・・セックスですよ、セックス」


「そのために私を引き取ったんでしょ」

「ノルマ果たさないとモニターさん失格ですよ」


「ま、まじで言ってる?」


つづく。


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