第5話 冬の朝日とダイヤモンド

 話しているうちに、ケーブルカーはすぐに山頂近くの終着駅に着いた。

 暖房の効いた車内から出ると、夜明け前という時間帯と雪と標高の相乗効果で、体が凍りそうなほど冷たい空気が私たちを迎えた。


「寒っ」

 と私は、ついつい本音を漏らす。


 しかしオゼルは気に留めていないようだ。それどころか、少し嬉しそうに見える。

「今日は風が全く吹いていない。ツイてるよ、僕たち」

 と彼は言った。


 もしこの状況で風まで吹いていたら、二人とも体中の水分が凍っていたに違いない。


 日の出まで数分あったので、私たちは動いて体を温めがてら、ゆっくり朝日を楽しめそうな場所を探した。


「こことか、いいんじゃないかな」

 オゼルが指差したところには、2人並んで腰掛けられそうな倒木があった。二人でそこに座って、朝日を待った。


 その時はすぐに訪れた。

 私は東の空を見てあっと声を上げた。


 そこには眩しい太陽が、悠然と昇っていた。温かい光がアメル山に降り注いだ。

 しかし私の目は別のものに惹きつけられていた。


 周囲の空気が、輝く細かい光の粒でいっぱいに満たされていたのだ。


「ああ、良かった。今日なら見られると思ってたんだ!」

 オゼルは嬉しそうに手のひらを空に向けた。その手にうっすらと白い光の粒が落ちる。

「ダイヤモンドダストっていうんだよ。快晴の寒い朝、空気が程よく湿ってて風がないときにしか見られない、珍しい現象だ」

 彼は私に説明した。


 しかし私は「うん」と短い返事をしただけだった。

 周りの景色に心底見惚れていて、話すどころではなかったのだ。


 生きたスノードームの中にいるようだった。

 キラキラ光る空気。昇ったばかりの暖かい太陽。

 夜明けを喜ぶ木々や草花が、白い氷を身に纏って輝いている。


 名も知らない白い小鳥が、枝に止まって朝の歌を歌い始めた。

 耳を澄ますと小鳥の歌の伴奏に、サラサラという小さな音が聞こえた。

 ダイヤモンドダストが地面に舞い落ちることで立てる、天使の囁きだ。


 寒さなんてすっかり忘れていた。

 心にあるのはただ幸せな気持ちだけだった。


 私はこの景色を一生忘れないだろう。


「今日はこれを見せたかったんだ」

 オゼルは少し照れくさそうに言った。


「ありがとう」

 私は微笑む。それから

「また来たいね。次のダイヤモンドダストが見られる日に」

 と言った。


「もう次の回のこと考えてるの? 気が早いな」

 オゼルは笑った。

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