第2話 メッセージ

 空で瞬くベテルギウスを見つめていると、意識が数週間前、まだ惑星アルザスにいた頃に遡っていった。


 私が住んでいた地方も、季節は真冬だった。

 毎日軽々と零度を下回る気候には、心底うんざりさせられていた。降り積もった雪が道をすぐに塞いでしまうので、小道には四六時中、除雪ユニットが徘徊していた。


 そんなある日の夜、スマホに一通のメッセージが届いた。オゼルからだった。

『明日の朝、日の出の時間にアメル山のてっぺんに行こう』

 これだけ。短い文章だった。


「アメル山のてっぺん?」

 意外なメッセージに、私は思わず独りで呟いた。


 窓の外に目をやると、標高700mくらいのスレンダーな山が、白い雪の衣装をまとって立っているのが見える。

 それがアメル山だ。


 私はこのお誘いを受けるかどうか、大いに迷った。理由はいくつかある。


 さっき見た天気予報によると、明日は今季最強クラスの寒波が襲来するらしい。

 それに日の出の時間に山頂にいようと思ったら、一体どれだけ早起きしなければならないのか。

 と、行きたくない理由はすぐに思いついた。


 誘ってきたのが、オゼル以外だったら断っていただろう。

 でも、彼と過ごす時間はとても好きだった。よく本を読んでいるからか彼は物知りで、いつも面白い話を聞かせてくれた。


 私はスマホを睨んだ。行きたい気持ちと行きたくない気持ちが、激しくせめぎ合った。


「ああ、もう」

 私は優柔不断な自分に苛立ちながら、とにかくメッセージに返信した。

『お誘いありがとう。すごく行きたいんだけど、まずはお母さんとお父さんに行っていいか訊いてみないと』


 メッセージが送信されたのを確認すると、私はスマホを置き、両親がいるリビングに向かった。


 この時点で私は、父母がなんと言うかだいたい想像がついていた。

『真っ暗な雪山を歩くなんて危ないでしょう。やめておきなさい』


 私は実質、彼からの誘いを断ったも同然だった。

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