最後のダイヤモンドダスト

world is snow@低浮上の極み

第1話 幼馴染との再会

 私たち家族は乗ってきた宇宙船を降りた。


 宇宙船の外には、地球の大地が荒涼と広がっていた。

 船が着陸した場所は冬のようだった。しかも時刻は真夜中近い。冷え切った風が私の髪を揺らした。


 振り返ると、父母が並んで私の後を歩いてきていた。

 二人とも浮かない顔をしている。


 私たちは今日、地球に引っ越してきた。

 そう、地球だ。人類が初めて誕生した星。そして今、全ての惑星の中で一番栄えている大都会。


 自然豊かなアルザスという星に住んでいた私たちは、今日からいきなり世界で一番の大都会で暮らすことになったのだ。


 うまくやっていけるだろうか。

 吐いた息が白く濁って、地球の見知らぬ夜に吸い込まれていった。


 そのとき、不意に聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。

「おーい! フランセス!」

 声のした方を振り返ると、黒いダウンコートに青いマフラーという出立ちの少年が、手を振りながらこっちに走ってくるところだった。


「オゼル!」

 私も彼に呼び返し、大きく手を振った。


 現れたのは幼馴染のオゼルだった。彼は数週間前にアルザスを出た宇宙船で、すでに地球に到着していた。

 彼もまた、故郷を離れて地球で暮らすことになった一人だ。


 オゼルは私の前で立ち止まると、はあはあと息をついた。彼は言った。

「久しぶり。来るのが遅いから心配したよ。最終便で来たんだね」


「そうなの」

 私は答えて、佇む宇宙船を見上げた。


 さっき私たちが降りてきたこの船が、惑星アルザスと地球を往来する最後の宇宙船だった。

 そしてもう二度と、アルザスに宇宙船は来ない。


 それを考えると、キュッと胸が縮むように感じた。


 私は空を見上げた。地球から見上げた夜空には、アルザスの夜空に見える星座は一つもなかった。

 故郷から遠く離れた星にいるのだという実感が、心に刺さる。


 気づけばオゼルも私の隣で星を見上げていた。その顔は穏やかだが、少し寂しげでもあった。


「あそこに大きな逆三角形が見えるの、分かる?」

 彼は夜空を指さした。彼の指した方向では、ひときわ明るい星が3つ寄り集まって、空に大きな逆三角形を描いていた。


「もしかして、あれが冬の大三角?」

 私は尋ねる。


 オゼルはそうだよ、と頷いて続けた。

「そして、逆三角形の右上の星がベテルギウス」


 私はベテルギウスと呼ばれた星を黙って見上げた。

 その名前を聞くだけで懐かしくて、悲しい気持ちが押し寄せた。


 アルザスは、ベテルギウスを周回する惑星だ。

 いや、惑星だったというべきだろう。

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