ep-3 春の告白
「さて……」
「……」
俺が口を開くと、エミリアは体を硬くした。
エミリアと俺は、屋外ベンチに並んで座っていた。
屋敷の前庭。金貸し業務の見栄えのために、前庭だけはきちんと整えられている。見事に刈り込まれた低木の花に蝶が遊び、春特有の優しい風が草の香りを運んできている。
「そう緊張するな」
安心させるため、俺は微笑んでみせた。
「シャーロットとフローレンスは裏庭だ。ルナも連れてな。なんたってほら、フローレンスが張り切ってるからさ。あそこでハーブを育てたいって。薬効とか魔法効果のある奴を」
「……はい」
「裏庭は荒れ放題だ。なんたって俺が憑依転生する前のゲーマは、自分の屋敷や暮らしなんてどうでもいいと思ってたらしいからな。金貸し業務に必要な前庭から屋敷の前面、あと取引する応接だけ、きれいに維持して」
金貸し悪役貴族のデブだ。どえらく自堕落な野郎だろうと思っていたが、転生してみると金のことしか考えていない、修行僧のような男だとわかった。特に……ヘクタドラクマコイン収集だけしか頭にない、な。
「今日は話してもらうぞ。もうお前の体も魂も癒えた」
「……」
黙って、こっくり頷いた。
「今で……ないと……駄目ですか」
「俺達はこれから、眠りドラゴンの洞窟に向かう。ヘクタドラクマコイン入手のために。その前に、リスク要因ははっきりさせておきたい」
「そう……ですよね」
エミリアの手を取った。上下から両手で包むようにして。
「いずれ俺を殺す運命だと、お前は言っていたな。あれはどういうことなんだ」
「……」
エミリアの手は温かい。俺に手を取られても、嫌がって逃げるでもない。むしろ俺の手を、自分でもきゅっと握ってくる。痛くないように、優しく。
「言葉……どおりです」
「誰かに命じられているのか」
「……」
無言のまま、首を振る。
「ならお前の意志でか」
「……」
まだ黙っている。
「俺がお前を金で買ったとかか。困窮した両親から。それで両親が亡くなったとか」
「……」
「それで俺を恨んでいるのか、親の仇と」
「エルフの里を襲い、私の親を虐殺したのは……魔王。ゲーマ様じゃない」
「ならどうして俺――」
「でもエルフの里を壊滅させたのは、私」
「……」
エミリアの瞳から、涙がぽつんと落ちた。
「私が……殺した。数え切れないほどのエルフ……同族を」
「なにか理由があるのか」
「……」
答えは返ってこない。
「それはそれとして、俺を殺す運命って奴はどうなんだ」
「それは……」
手に力が入った。痛いほどに。
「里と同じ……。私の……力が暴走する。いつか絶対に」
真剣な瞳で、俺を見つめる。睨むように。ふたつのきれいな瞳からは、透明な涙が次々に落ち、陽光に輝く。
「……説明してくれるな、全部」
「……」
頷くと、エミリアは話し始めた。エルフの里が全滅した経緯を。そして俺と出会ったきっかけを。
それは驚くべき話だった。つまり……。
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