5-5 エミリアの下着セット

「下着かあ……」


 シャーロットは、ほっと息を吐いた。


「……かわいいものね。女子なら着たいわよね確かに。わかるわ、エミリア」

「ゲーマ様に……見てもらう」

「あら……」


 呆れたように、シャーロットが俺を見る。


「どうするゲーマ。三十セットもあるけれど」

「そうだな……」


 考えた。下着姿を見せてもらうのは、なんか悪い気がする。といって、エミリアは俺に見てもらいたがっている。少しならいいだろ。下着だから着付けに時間は掛からないし。


「なら適当に。……頼む」

「そうね」


 下着が詰まったパッケージを、シャーロットがていねいに開いた。


「まあ……かわいい」


 溜息をついている。


「これならわたくしも欲しいわ」

「今度お前のも買いに行こう」

「いいけれど……」


 口に手を当てて、くすくす笑っている。


「わたくしはあなたに下着姿なんて見せないわよ」

「そんなの期待してないから安心しろ」

「それはそれで……なんだか複雑な気持ちになるわ」

「お前がかわいくなるなら協力するって話だよ」

「はいはい。……ほらエミリア、下着なら自分で選べるでしょ。良さそうなのを着てみせて」

「はい……」


 きれいに詰められた下着セットの上を、エミリアの指は何度も往復した。意を決したように、ひとつを取り上げる。


「これ……」


 シャーロットがドレスを脱がしてやると、エミリアは胸の下着を脱ぎ捨てた。


「おっと!」


 手を広げて、シャーロットが俺の前に立つ。


「見ちゃダメよ、ゲーマ。いくらあなたの奴隷とは言っても、女の子でしょ」

「そうだな」


 ちっ……。思わず腹の中で毒づいた。辛い二周目をさせられてるんだ。少しくらい役得あってもいいじゃんなあ。今生の俺の目標、「楽で儲かって女付きの第二周」だからな。


 まあ……当然というか、腕を広げたシャーロットの向こうで、ちらちら肌色の物体が見え隠れするのを眺めるしかなかった。


「ぬへへーっ」


 気味の悪い声をまた上げて、ルナが俺の顔を覗き込む。


「ねえねえゲーマ、エミリアの裸、見てみたい? ねえねえ」

「余計なお世話だわ、アホ」


 指でぴんと弾いてやると、カトンボのようにぷーんと落ちた。


「……」


 無言のまま、エミリアがシャーロットの前に立った。


「ゲーマ様……」


 ぬおーっ! 思わず目が血走った。こ、これは……。


 前々世風に言えば、ハーフカップっていうのか、これ。前々世は童貞のまま死んだから実際に見たことはないが(泣)


 とにかくブラのカップは胸を全部覆うことなく、半分程度しかない。しかも左右からぎゅっと寄せて上げるタイプ。しかもエミリアの胸は天下一品……というか天下無双レベル。


 しかもショーツがまた小さくて、脇はほぼ紐も同然。しかも前を覆う布はどえらく布量を節約した……というかケチったというか、とにかく必要最小限だ。


 しかもこのブラとショーツが黒。これまた細い糸を使っているようで、窓からの陽光を受けてきらきら輝いている。


 ――などと「しかも」を多用した感想が次々頭に浮かぶ。


 手を後ろ手に組んだエミリアは、恥ずかしそうに横を向いている。


「エミリアったら、なにもこんなぎりぎりの下着選ばなければいいのに」


 呆れたように、シャーロットが首を傾げた。


「ほら、なにか言ってあげなさいよ、ゲーマ」


 溜息をついている。


「う、美しい……」


 きれいだでもかわいいでもない。これはもう、まっすぐ「美」。エロとかそういう次元を飛び越えて、神々しいまでの輝きがある。


「……」


 黙ったまま、エミリアは後ろを向いた。


 こ、こっちもか……。


ブラは細いから、背中はほぼ裸も同じ。ショーツの上にもかわいいお尻がはみ出している。肌が白いから、また黒下着が似合うんだわ。


 恥ずかしそうに横を向いていたエミリアの瞳が、わずかに開いた。


「どう……でしょうか……ゲーマ……様」

「お前、人間じゃないだろ。こんなに……きれいな……」

「エミリアはエルフでしょ」

「エルフだよ」


 シャーロットとルナが同時にツッコんできた。


「もう一枚……着る」


 しゃがみ込むと、もうひとセット手に取る。


「仕方ないわねえ……」


 シャーロットがまた手を広げた。


「好きなだけ着るといいわ。考えたら奴隷のあなたは、かわいい服とか下着とか、着たことないんだものね。女子として気分が上がるのは当然だわ」


 ごそごそ……。


 すとんと足元に落ちた黒ショーツとブラでさえ、神々しく見えた。今度の下着はどうやら白のようだ。身に着けて、なにやら形を整えている。


「これ……」


 シャーロットの脇に出てきたエミリアは、また恥ずかしそうに手を後ろに組んだ。


「かわいい……」


 いやマジだ。


 今度のは、白の複雑なレース模様の下着。といってもセパレートではなく、上から下まで覆う一体型。といってずとんと落ちるタイプではなく、胸やウエストに密着して体を締め付けている。つまりこれは、ボディースーツの類だな。


 細い肩紐で吊られた形。脚の付け根と胸まわりには、かわいらしいフリルが細く施されている。


「一体型は、スタイル良くないと似合わないのよねー」


 シャーロットが呟いた。


「エミリアなら、どこに出しても恥ずかしくないわ。わたくしの自慢の妹みたい」

「いやお前のが妹だろ。エミリアはエルフだぞ。多分だけど、年齢ははるかに上だ」


 見た目にはエミリアのが若くは見えるけどな。でも胸が大きい分の大人補正があるから、プラマイで考えると、シャーロットと同じくらいの印象にはなる。


「けけっ。……どうゲーマ」


 ルナが耳元で囁く。


「今晩、この下着で添い寝してもらったどう、ねえねえ」

「うるさい、カトンボ」


 そんな事態になったら、自分を制御できる自信がない。


「夜は夜着があるだろ。今回、夜着だって作ってもらってるからな」

「もう満足した、エミリア」

「……」


 シャーロットの問いに、静かに首を振る。


「あと……一枚だけ」

「いいわよ。好きなだけ楽しみなさい」


 諦めたような口調だ。


「ゲーマも楽しそうだし、ふたりが楽しいなら、邪魔する気はないわ」


 はあそうすか。


 エミリアが手に取ったのはまた、白い下着のようだ。ボリューム感からしてスーツとかじゃなく、これもセパレートだな。


 エミリアの手が動き、上下が装着される。


「えっ……」


 横目で見ていたシャーロットが、思わず……といった感じで声を出した。


「いいのそれ、ゲーマに見せても」

「……いい」


 前に出てきた。


「えっ……」

「えっ……」


 今度は俺とルナが同時に絶句する番だった。だってそうだろ。これも布地少なめのブラとショーツだったんだけど、なんだか透けてるんだわ。すごく薄い生地だからだ。胸の先が、薄桃色に透けている。それに脚の付け根の形も。かわいらしいレース模様が、全体に施されている。


「……」

「……」

「……」


 俺達三人が黙っていると、横を向いていたエミリアの瞳が、またすっと開いた。


「どう……でしょうか……」


 諦めたかのように前を向く。


「その……」


 喉がからからだ。


「か……かわいいよ。……その」


 それしか言葉が出てこない。


 実際かわいい。普通はセクシーだとかエロいとかいう感想になると思うが、エミリアが神々しすぎて、そういう方向になぜか行かない。


「あの服屋ったら……」


 シャーロットが腕を組んだ。


「いくら下着三十セットもたくさんとはいっても、こんな限界の奴、入れるなんて……」


 呆れている。


「でもこれ……かわいいもん」


 エミリアが、ちらと俺を見る。


「かわいいよ、エミリア」

「……」


 俺に褒められると、顔から肩、胸から腹まで、エミリアの肌が赤く染まった。脚を合わせるようにして、もじもじ動いている。


「いいねー、エミリア」


 ようやく正気を取り戻したらしいルナが、ぷーんと飛んでいった。


「こんなかわいい下着と服だったら、ボクのも期待できるよ。そうでしょ、ゲーマ」

「……」

「そうでしょ、ゲーマ」


 睨まれた。


「そ、そうだな」


 悪い悪い。ついエミリアに吸い寄せられてたからさ。


 でもどうやら、ルナは気分を害したらしい。次々に服や下着を身に纏うと、俺の顔の前で見せつけてきた。「かわいい」ってエミリアより多く言ってやらないと、満足しないのよ。俺はもう、その午後、かわいい連呼ロボットになってたわ。

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