4-6 ルナの精霊芝居が大笑いだった件
座ったまま、ルナの姿を目で追った。天井すぐ下に達したルナは、そのままぷーんと前方に飛んでいく。やがて姿は闇に溶け、前方にはモブーの松明からの明かりがぼんやり見えるだけになる。
「……大丈夫かな、ルナの奴」
「平気よ」
シャーロットは、俺とエミリアの汗を拭ってくれている。洞窟の壁に体をもたせかけて、エミリアははあはあと荒い息。目を閉じている。
「ちょっとお調子者なところがあるけれど、ルナは妖精。いざというときは頼りになるわ」
「……だといいけどな」
「ほら、始まったわよ、ゲーマ」
洞窟の奥のほうから、ぼそぼそ声が聞こえてきた。
「あーあーただいま発声テスト中」
なに言ってるんだよ、あいつ。
「そこの貧乏人、余の声を聞くがよいぞよ」
「ぞよ」ってなんだよ。ルナの奴、あれでも精霊のつもりかよ。
「だ、誰だ。ひいーっ! モ、モンスターかっ」
モブーの声。えーと前世の俺、あんな情けない声だったかな。もっとイケボだったと思うけど。
「失礼なこと言わないで。ぷんぷん。ボクは地の精霊だよ……だぞよ」
「余」はどうした。もう「ボク」に戻ってるじゃん。三歩歩いたら全部忘れる系かよ。
「精霊様……ありがたやーっ」
あんな雑な演技に引っかかるなっての。そんなだから即死モブなんだぞ。
「なんだか前世のあなた、間抜けな感じね」
「……w」
たった二言で、あっさりシャーロットに見破られてて笑うわ。
「モブーよ」
「お、俺の名前、知ってるんすか」
「ボク、精霊だって言ったでしょ。だからなんでも知ってるよ。ゲーマに聞いたんじゃないからね。それにボク、妖精じゃないから」
うーむ……。
「それよりモブー、お前はこの先、どのように生きる」
「いやどのようもこのようも、俺は転生者だ。しかも即死モブ。なんとか序盤死にイベからは逃げたけど正直、これからどうしていいかわからない」
「ならばまず、この右側の道を辿れ」
妖精魔法を使い、照らしたようだ。赤い明かりが、洞窟の角の先にぼんやり浮かんだから。
「こっちか……。左に行こうと思ってたんだけど」
「右であるぞよ。その先に……天井が崩れている場所がある。そこから外に出られるぞよ」
「マジかよ。さすがは地の精霊様だ。助かる。……どうかな、この後一生、俺の守護精霊になってくんないかな」
図々しい野郎だ。
「ボクはゲーマの妖精だから」
だから「妖精」って自爆身バレしてるじゃん。
「ゲーマって誰」
「それは……その」
絶句してやがる。
「その……女神様の名前」
今頃、あのドジ女神泣いてるぞ。それか大笑いしてるかだな。
「よしわかった」
モブー、助かると知って嬉しそうだな。
「せっかくだから俺はこの赤い道を選ぶぜ」
「そうじゃ。いいか外に出たら、左に行くのじゃ」
よし言ったか。それが大事なんだわ。ルナの奴、危なっかしかったけど、なんとか役目を果たしたな。
「おうわかった。せっかくだから出たら左の道に行くぜ」
頭が痛くなってきた。
はあーっ……と溜息をつく俺の肩を、シャーロットがぽんぽん叩いた。
「まあいいでしょ。目的は達せられたし」
「まあな……」
松明の明かりがぼんやり奥に消えた頃、ルナが戻ってきた。
「どうゲーマ、ボク、有能でしょ。ねえねえゲーマ、惚れ直したでしょ」
「ああ助かった」
実際、ルナの活躍がなければモブーはここで死。当然俺もこの世から消えてしまっただろうしな。
感謝も込めて、泥だらけのルナを拭いてやった。
「頑張ってくれたんだな。泥に埋まってまで」
「ゲーマを守るように、女神様にお願いされてるしね」
「ありがとうな、ルナ。……よし、俺達も戻ろう。エミリアを休ませてやらないと」
「そうね」
懐から出した布をポーションで濡らすと、シャーロットがエミリアの額を拭った。
「エミリア、なんだかうなされてるわよ」
「急ごう。シャーロット、もうモブーにはわからない。構わないから魔法で天井をぶち破れ。そこから外に出る。洞窟を戻るより近道になるはず。外なら一直線に馬車に進めるから」
「わかった。そうする」
シャーロットが詠唱に入った。
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