4-4 中ボスドロップ

「凄い……」


 呆然と、シャーロットが呟いた。


「エミリアに、こんな魔導力が……」


 エミリアが炎の魔導を放出した結果、マルトゥとか名乗る野郎は、跡形なく消し飛んだ。それだけではない。あまりの高温に、岩石も泥も熔け、赤熱してぶすぶす煙を上げている。


「わたくしも魔道士の端くれというのに、こんな炎魔導力、見たことも聞いたこともない……」

「はあ……はあ……」


 エミリアは、肩で息をしている。額に汗がたくさん浮かび、つっとひと筋、流れている。


「ゲーマ様……守……る……」


 ふっと力が抜けると、そのまま崩折れた。なんとか抱き留めたよ。なんせ俺はほら、デブだからさ。ふんわり腹で抱き留めて、ぐったりのしかかる背中を、ゆっくり撫でてやった。


「ルナ」

「うん」


 飛んでくると、エミリアのまぶたを、手で開いた。瞳の色と瞳孔を観察している。


「平気……だと思う。少なくとも、エミリアの命には、別状ない」

「良かった」

「ねえルナ、あなた妖精でしょ。今のエミリアの技はなんなの」

「それは……わからない」


 シャーロットに向かい、首を振ってみせた。


「ボクもあんな凄いの、見たことない。エルフの使う魔導は知ってるけど、それとも……なんだか少し違う感じだし……」

「威力凄いわよ。王国トップクラスの魔道士よりずっと。洞窟が熔けちゃったじゃない。あまりの高温と威力に」

「力を全て出し切って、気を失ったんだよ。多分……普段は使えないんじゃないかな。でないとおかしいもん。毎回、魔法撃つ度に気絶してたら戦いにならないし、なんなら別の敵に殺されちゃうし」

「そうよね。あれは……なんだか最終兵器ぽい力だったわ」

「ゲ……」

「エミリアっ」


 エミリアの瞳は、ゆっくりと開いた。


「ゲーマ……様……」

「大丈夫か」

「へい……き……。でも……」


 俺の太い体に、腕を回してくる。


「もう少し……このままで……」


 瞳を閉じると、俺の胸に唇を当てた。取りようによっては、キスしてきたと言えなくもない。


「ゲーマ見てっ!」


 ルナが飛び立った。マルトゥとかいう謎の敵が熔け消えた戦闘フィールドに、一直線に向かう。


「気を付けろルナ。そこは高温だ」


 なんせまだ、地面も壁も赤熱している。天井からは熔けた金属だか岩だかが、ぽつぽつ垂れてきているし。


「冷却ぅ」


 ルナの宣言と共に、周囲を青いもやが包む。光熱の輝きは急速に消えていった。


「ほら、これだよっ」


 なにか抱え上げると、ルナが戻ってきた。俺の手に、金色のものをぽとっと落とす。


「見て、これ」

「これは……」


 シャーロットが覗き込む。


「金貨ね。ドラクマ金貨」

「それは……」


 ようやく、エミリアは体を起こした。


「それは……ヘクタドラクマ」

「エミリア、大丈夫なのか」

「生きて……いる」


 いや、そらそうだけど。


「それよりこのコインよ」


 シャーロットが、金貨をつついた。


「普通のドラクマコインに見えるけれど……」

「ヘクタドラクマコインは、特別なんだ」


 ルナが解説してくれた。


「特殊なマナを放っているからね。普通の人間にはわからないよ。たとえ……魔道士でも」

「普通のマナなら、わたくしでもわかるはずだものね」

「そうそう。これをマルトゥが落としたんだ」

「モンスタードロップってことか……」


 なんせこの世界、元々ゲームだからな。中ボスドロップがあっても不思議じゃない。


「これで、ゲーマの手には二枚集まったわけね」

「そうだよ、シャーロット。あと一枚だけは、場所がわかってるよね、ゲーマ」

「眠りドラゴンの洞窟な」

「そうそう。早く行きたいねー、ゲーマ」

「それよりまずはモブー救出だ。このままだとあいつ、この洞窟で迷ってるうちに餓死するか、落盤死だ」

「そうだね」

「立てるか、エミリア」

「はい、ゲーマ様」


 だが、立とうとしたエミリアは、膝から崩れるように座り込んでしまった。


「すみ……ませ……ん」

「まだダメね」

「あれだけの力を放ったんだもんね。……どうするゲーマ、もう少し休む?」

「いや、モブーが危ない。幸い、ルナの妖精魔法で、戦闘フィールドはもう冷えた。すぐ進もう」

「エミリアはどうするのさ」

「置いていって下さい……ゲーマ様。後で……迎えに……来て」

「いや、お前は俺の仲間だ。見捨てるなんてしない」


 腕を掴むと、首に回させた。


「しっかり掴まれ。俺が背負って進む」

「……ゲーマ……様」


 後ろ手でエミリアの腰を抱くと、そのまま立ち上がる。


「凄い……」


 シャーロットが目を見開いた。


「ゲーマあなた、見た目と違って力あるのね。戦士になれるわ」

「今でも守備的戦士だ。……てか、デブは脚の筋力だけはあるんだよ」

「そうなの」

「そりゃそうさ。二十キロもある砂袋を体に括り付けて歩いてるのも、同然だからな。ただ……動きが鈍い上に、心臓に負担が掛かって死にそうに辛いだけで」

「置いて……いって」

「誰だろうと、仲間は見捨てない。エミリア、お前は俺の大事な家族だからな」

「か……ぞく……」


 俺の首に、熱いものが落ちた。エミリアの涙だ。エミリアの息は、まだ荒い。呼吸に応じ、かわいらしい胸が背中を押すのを感じる。


「私……奴隷……」

「いや、家族だ。毎日一緒に飯食って、同じ部屋で寝てる。家族じゃなきゃなんだ」

「は……い……」


 俺の首に、頬を寄せてきた。


「ゲーマ様……優しい……」

「さあ行くぞ、シャーロット。ルナ、お前は先導役だ。鼻を利かせて、モブーの跡を追え」

「わかった」


 もう、犬じゃないよとかなんとか、愚痴は言わなかった。前に浮かんだルナが、俺とシャーロットを導く。一歩一歩、踏み締めるようにして、俺は進んだ。エミリアを背負ったまま。




●明けましておめでとうございます

現在カクヨムにて、四作品並行更新中!

本年も猫目印のWeb小説をお楽しみ下さい。

あと本作の先の展開希望とか感想、キャラへの応援等ありましたら、応援コメントにお書き下さい。どのヒロインをメインにしてほしいとかの希望もぜひ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る