4 モブーと古代の遺跡ダンジョン

4-1 穴に落ちたモブー

「ゲーマ、あの道の脇……」


 先行するシャーロットが、馬上から指差した。俺達が進む山道は、すぐ先から二股に分かれている。その「いかにも獣道」といった埋もれかけの道を。


「木陰に穴が開いてる。あそこじゃない」

「……」


 さっと馬を飛び降りると、エミリアが駆け寄った。


「これは……最近開いた穴」


 うつ伏せになると、直径二メートルほどの穴に頭を突っ込む。


「古い匂い……。古代の」

「ここかしら」


 穴を見つめながら、シャーロットは馬の首を撫でてやっている。


「ゲーマ、あなたなにか覚えてないの? 前世の話でしょ」

「といっても、いきなり地面が崩れて地下に落ちただけだからなあ……」


 穴を見つめながら、思い出そうと努めた。でも、それは前世でもはるか昔に経験したことだ。その後のモブーとしての人生は、地味モブなりに波乱万丈だった。この穴の一件の詳細なんか、遠い記憶の彼方でしかない。


「ああ、でも思い出した。たしか道の脇に木の子の群生を見つけたんだよな。これ売ったら酒が飲めると思って道を外れた。……したらいきなり足元が崩れたんだ」

「見つけたーっ」


 俺の胸から飛び出したルナが、穴の縁、大木の根本に下り立った。


「きっとこの木の子だよね、ほら」


 地味色でほとんど地面と見分けつかない、小さな木の子が大量に群生している。


「そうそう、これ」

「貴重な木の子よ、これ。貴族の食卓にだって、めったに並ばないもの」

「今、記憶がはっきりした。これよこれ。間違いない」

「ならすでにモブーは穴に落ちてるってわけね」

「ああ、いずれモンスターに襲われる。早く助けないと、モブーが死ぬ。つまり俺も消えちまう」

「急ぎましょう。さっそく下りようよ」

「そうだな、シャーロット。……ルナ、まずお前が入れ。飛べるのは、妖精たるお前だけだし」

「直下が安全かどうか、調べるんだね」

「ああ。モブーが落ちても死ななかった程度だ。だから中の地面まで二メートルといったところだろうが、怪我したくないしな」

「いいよー。……でもその前に」

「なんだよ」

「この木の子、せっかくだから採っていこうよ。ボク、お腹すいた」

「まあいいけど」


 モブーと俺の命の危機だってのに、食い意地張ってるな、ルナ。


「んじゃあ採取して馬の振り分け鞄に入れる。木の子は俺が採る。シャーロットは馬を木にくくって、水を飲ませてやってくれ」

「うん」

「エミリアはロープを出して固定しておけ。なにかあってもここから戻れるよう、穴に垂らす」

「はい、ゲーマ様」

「時間が惜しい。みんな急いでくれ」

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