2-4 玉座の間でドジ踏んだw

「ここが最上階か……」


 崩れかけの階段を、俺はようやく上がり切った。多少肉が落ちたとはいうものの、まだまだ太っている。ビルで言えばたかが五、六階分くらい上がっただけなのに、息が切れて死にそうだ。目の前がすうっと青くなる。貧血で倒れる寸前だろこれ。


「……ゲーマ様」


 先に着いていたエミリアが、心配そうな瞳になった。


「へ、平気だ……」


 言ってはみたものの、マジ無理。天井から落ちた石に腰掛けて俺は、周囲を調べているふりをした。汗が大量に流れ落ちる。


「ゲーマ様、これを……」


 水の入った革袋を、エミリアが渡してくれた。ごくごく。


「んはあーっ、うまい」


 思わず間抜けな声が出た。


「エミリアお前、頼りになるな」

「……」


 無言のまま革袋を受け取ると、こっくり頷く。そのまま自分でもひとくちだけ飲んだ。


「もっと飲んでいいんだぞ、エミリア。遠慮するな」

「大丈夫です、ゲーマ様……」


 背負った背嚢はいのうに、エミリアは革袋を仕舞った。


「……最上階てか、ここも屋上も同然だな」


 長年の放置で天井が半ば落ち、春の青空が覗いている。落ちかけて棚のようになった壁には鳥が巣を作っていて、春生まれの雛がぴいぴい啼いている。鳥の糞に紛れていたかなにかで種が芽吹き、芝生のようになっている一角すらあった。


「ねえねえゲーマ、あっちが玉座の間だよ、ねえねえ」


 飛び回って最上階を調べていたルナが戻ってきた。


「もう崩れてるから探すのは大変だろうけどさ。『遠見の珠』はきっとあのあたりだよ、ねえねえ」

「よし、さっそく探すか」


 座り込んだまま十分は休んでいたから「さっそく」もクソもないがな――と、心の中で自分にツッコむ。


「ほら、このあたり」

「たしかに、玉座の間って感じだな。……崩れてなかったらだけどさ」


 室内はぐちゃぐちゃに荒れていた。トロールが大棍棒で叩き壊して回ってから百年経ったくらいの崩れ方。かつては豪勢な調度品だの装飾品で飾られていたに違いないが、見る影もない。


 大小の瓦礫が床を分厚く覆っていて、そもそも歩くこと自体が難しい。少しでも気を抜くと、足首ぐきっとやっちゃいそうだ。積み木をぶん投げたような山が奥にできていて、おそらくあそこが玉座だったのだろう。


「あれか……」

「ボクもそう思うよ、ゲーマ。行ってみよう」

「……」


 エミリアが先行して、注意深く進む。歩くと埃がむわっと立つので、いがらっぽい。


「ゲーマ様、ここに……」


 エミリアは、俺の三歩ほど前に立っている。しゃがみ込むと、瓦礫の隙間を指差した。そのあたりを撫でるように、埃を払う。


 見ると石と石の間に、小さな球体が見えている。明らかに瓦礫ではない。磨きに磨いたような透明の球体。ゴルフボールくらいの大きさだ。


「きっと『遠見の珠』だよ、ゲーマ。まず間違いない」


 俺の肩に、ルナが下り立った。


「思ったより小さいんだな」

「ボクも初めて見た」

「どれ……」


 多分、俺は気が急いたんだ。


「ルートが違うっ!」


 急いで近づいたのと、エミリアが叫んだのが同時だった。そのとき足元がぐにゃっと柔らかくなり、足が瓦礫に埋まった。


「ゲーマ様っ!」


 膝まで埋まったと思った瞬間、瓦礫はさらに大きく崩壊。床を踏み抜いた俺は、下のフロアに落ちていった。五階から四階。落ちた勢いでまた床を崩して三階、そして二階、さらに下へと……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る